465 ぶっちぎりでイカれ過ぎた女・5
俺の結界を破った術師がどんな奴かと来てみれば、こんなガキだとは思ってもみなかった。
恐らく破壊工作に優れているだけの、実戦に向かない後方要員。仲間から逸れている今が好機と先手を取るも、これまた悪魔のガキに邪魔をされて消すに至らなかった。それから何度も攻防を繰り広げることとなり、俺ともあろうものが苦戦を強いられてしまった。しかし悪魔のガキは戦闘が不利と見たのかいつの間にか姿をくらまし、俺は魔術師のガキと一対一になった。
勝てる。簡単に、いとも容易くねじ伏せられる。メギドの死の術によって与えられた力で増大した俺の魔力は、このガキを始末するには大きすぎるほどだと…………そう思っていた。
このガキが突如として、謎の詠唱による魔術行使を始めるまでは。
「地の底より出づる星の脈動よ、紅蓮の大蛇となりて」
『にゃ~ご~にゃ~ご~にゃおにゃおにゃ~お~』
あまりにも、ふざけている。こんなことがあって良いはずがない。こんな馬鹿げたことが起きて良いはずがない。最初は俺の倍のスピードで魔術を用意できるだけだと思っていた。しかし徐々に差が広がり始めた……。俺が一手用意するまでに向こうは三手、次は更に一手増やして四手、次は五手、六手……。手も足も出なくなり始めていたのだ……。
『はい! そっちが一つの魔術を用意する間に、私は九つの魔術を用意しました! 当然ですが、威力も負けてないと思いますよ?』
「舐めるな、ガキが……!」
『また火ですか? 火以外使わないんですか? はぁ~……もう飽きてきました』
火の神である俺が、こんなガキに……舐められている!! 俺を馬鹿にしているとしか思えないふざけた詠唱も、魔力に任せた雑な威力の術も、攻撃を受けるはずがないと思っているあのふてぶてしい態度も、何もかもが癪に障る!! だがその驕りを待っていた、この術を完成させさえすれば!!
「何もかもを焼き尽くせ!! ガキが、あの世で後悔してももう遅い!! 地獄を這う炎の大蛇!!」
『もう飽きたって、言ったんですよ』
地獄を這う炎の大蛇、召喚魔術に近いこの術の真に恐ろしいところは、究極の火術燦爛たる旧火神の火術を何度も連続で発動するというところだ! この術自体の威力が低いからと甘く見たな、しかしもう遅い!! 骨すら焼き尽くして塵すら残さん!!
「アグニールよ、イフリナス」
『存在する虚無の黒猫』
「スフィ……ア……を…………」
アグニール……? どこへ、消えた……? 今こいつは、何をした……? 転移魔術は、否、使えない。ここはいかなる方法でも脱出不可能な領域と化した混沌の世界、テレポートもデジョンも、時空系魔術は一切使えないはず……。一瞬で消えた、何が起きた? 何故、アグニールは……??
『あれ~? どうして消えちゃったんでしょうね? 不思議ですね~? 術師が未熟だったのかな~?』
「…………貴様」
『はあ……。今まで戦った神に等しい術師の中で、貴方が一番弱いです。残念です。ガッカリです。ところで知ってますか? 猫って獲物で遊ぶ癖があるんですよ。でも飽きちゃったら最後は食べちゃうんです。私言いましたよね、飽きちゃったって』
なんだ、このプレッシャーは……。まさか、この俺が、怯えているとでも言うのか……? こんな、まだ成人もしていないであろう少女に、十数年しか生きていないであろうガキに、未熟でふざけた詠唱しか出来ない魔術師に……!!
『エスちゃんなんてとっくに飽き飽きして、他の子のところに遊びに行っちゃいましたし。私もその子が気になるのでお前の相手はおしまいです。だからさようなら、雑魚雑魚弱火男』
「ざ……こ……」
急に、周囲に、魔力が膨れ上がっている……!! これは、何だ? 何だこれは? 目……? 目か……? おびただしい数の目が、瓦礫の隙間から、屋根の上から、ありとあらゆる場所から俺を……!!
『あ、そうそう。今までの攻撃、外していたわけじゃないですよ? 溜めてたんです、飽きたらすぐ終わらせられるように。メギドなんかに付いたのがそもそもの間違いでしたね。見る目なさ過ぎです』
「あ……! ああ、ああああ!!」
『存在する虚無の黒猫、お前の虚無を証明せよ。にゃおにゃお、にゃおにゃーにゃーにゃむ』
猫が、穴に変わって……!? 穴が、穴が……!! ああ、ああああ!! ああああああああああああ!!
◆ ◆ ◆
『あらあら、随分無様ですわね~! それがわたくしと同じ、貴族の娘の戦う姿ですの~? ヒメチヨさんから何の見込みもないと言われていましたけれど、本当に何の見込みもありませんのね~!!』
なぜ、わたくしが、このような……。
『俺にはわかるよ。お前はメギドという主人を尊敬なんてしていない。ただ虐殺が出来れば良いだけの大量殺人鬼だ。俺の主人も虐殺のプロフェッショナルなんて言われているが、お前なんかとは違う。お前の剣は、殺しを目的とした虐殺者の剣だ』
「だ、まりなさい……!!」
『ええっ!? フリオニールさんの声初めて聞いたかも』
『ん、超スーパーレア』
『虐殺者は虐殺者らしく、その血に汚れた剣で黙らせたらどうだ? これまでそうして来たように、いつも通り、首を刎ねて黙らせてみろ!!』
お前達に、わたくしの何がわかる……!! メギド様は私をあの狭く苦しい世界から、貴族の陰鬱な世界から救ってくれた!! わたくしは、メギド様を愛している……!! 尊敬、している……!!
「っ……ああぁあああああああああ!!」
『まだ暗黒騎士出せるの~!?』
『全く、懲りねえなぁ』
『劣化コピーとは言え、強いから面倒くさいよ~』
『此方が斬り伏せましょう』
『ヒメチヨちゃんは万が一の為にお休みしててね~。僕達の出番なくなっちゃうからさ~』
気に入らない! 気に入らない! 気に入らない!! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!! ゴルゴラ王国を滅ぼした時と同じように、お前達のような薄汚い悪魔は、この世から消し去ってやる!! この世には本当に美しいものだけが残れば良いの!!
「わたくしの邪魔を、するなぁああああ!!」
『レイジは大丈夫かねえ』
『さあて、どうかな~』
『ん、来る。気合を入れるべき』
皆殺しにしてやる、命乞いをさせて這いつくばらせて、泣き叫ぶ顔面に剣を突き刺してやる!! あは、ははは!! あっはははは!! あーーっはははははは!!
『何かが侵食してるみたいですっ!』
『うわ、何だこの、瘴気!?』
『虐殺者の奥の手というわけか』
『此方の出番に御座いますね』
『そうみたい』
コロシテ、ヤル……。オル、ヴィス、ニ、モラッタ、キマイラノ、チカラ、ツカワセテ、モラウ……!!





