458 挑戦状
15時、約束通り魔神殿に現れた時子ちゃんの家探しってことで、バビロニクスの行政を担当してる宮殿跡地、バビロニクス中央行政所に行って物件を確認しに行ったんだけど、都合よく魔導ミシンとか製図台が揃ってるって家は存在しなかった。その時『なんだ、ガッカリ』と私が口走ったのが悪かったのか、行政所の職員さん達が急に血相を変えて会議が始まっちゃって……。結局、時子ちゃんが希望した製図台とか諸々を各所からかき集めて、一等地にある家をプレゼントしてくれるってことに決まったみたい。
その後はどん太と模擬戦をしてる様子を見せてあげたり、私が絶対勝てないおにーちゃんとティアちゃんとかいう超ヤバい従者との差を見せてあげたりしたら、時子ちゃんは『どんな服で戦ったら映えるか、邪魔にならないか、頑張って作ってみます!』って元気よく素材の買い出しに出かけてった。ちょっとした目標が出来たみたいで何より何より……。
私もなんやかんやしてるうちに、いつの間にか18時を超えて暗くなり始めていた。この前リアちゃんは自信満々に周期間違えてたけど、今日は赤い満月の日だ。魔の力が強くなり、レアモンスターとかが出やすくなる日……。バビロン様曰く、エクリティス様の影響を受けている者はもちろんだけど、ヘルミナ様の影響を受けている存在も強化されるとか。かくいう私もステータス上昇していたりMP消費量が減っていたりと恩恵を受けている。
「リンネ様~? お月さま、綺麗ですね~!」
「私死んでも良いわ」
「えっ!? 死んじゃ嫌です~!!」
「そういう意味じゃなかったのね。大丈夫、死なないから」
『わう~?』
『(*´∀`*)』
どうやら今のはプロポーズの暗喩ではなかったらしい。純粋にお月さまが綺麗だと発言するティアちゃん、う~ん……可愛いね。いつまでも品行方正ないい子でいて欲しい。カーミラさんの悪癖であるロリポップちゅぱちゅぱとか、絶対真似しないで欲しい。あの人見た目こそ大変にお上品でお嬢様な本物の大貴族なのに、吸血になるととにかくその……。お上品さがなくなるのよ……。無意識にそうなるみたいだし、ヘルミナ様曰く『エクリティスもそうだった』って言ってたから仕方ないんだろうけど。
『905まで、あ、上がりましたわ……』
『リンネちゃん、905まで行った……。教えて貰った奴、ほとんど無理だった……』
『ししょう、905まで、いきましたよ~! ナンナイアにむかってま~す!』
ペルちゃん達はレベル905まで上がったらしい。今はどうやら三人ともナンナイア王国に居るらしい……ユキノちゃんだけほぼ変換なしで送ってくるのは、メッセージで送るのにどの漢字が正しいのかわからないからだろうね。読み書き補助の機能でスキル枠を消費してしまうのさえも嫌って封印したことから、その本気度は尋常じゃないことがわかるね。
ペルちゃん達だけじゃなく、お昼寝さん達も無慈悲ドレイクに何十回も勝利してるみたい。なんでそんなのがわかるかって、魔神殿に設置してる呪物露店の利用者にお昼寝さん達が頻繁に訪れてるからだね。この様子だと、無慈悲ドレイク一式とアビスヴィオダ一式、レーナちゃん辺りは機械王と海の王者とナタリアを分解したキメラ装備にしたかな? わざわざ呪物化した生体機械装備を組み合わせて改造してるんだろうなあ……。
「ペルちゃん達が最後の壁を超えたって。じゃあ、私の装備が完成したら戻ろうか」
「はいっ! まだまだ安定には程遠いですね、頑張りましょうっ!」
『ガウッ!!』
『(`・ω・´)b』
それじゃあ、残るは私の装備だけだね。今やっているなんやかんやの正体、それはね……このダンジョンの攻略なんだ。41戦3勝、38敗……。その3勝も直近の連続ではなく、運が良くて勝てたとか、私以外が全滅して勝てたとか、その殆どが辛勝……ギリギリの勝利。レベル971になった今でも、このダンジョンは到底安定勝利とは程遠い。
【満月の女王:NO MERCY MODE】(推奨:レベル999)
・入場条件【満月の女王】の正体を知ること
・入場条件【満月の女王】の招待を受けること
・チャレンジコンテンツ
・ダンジョン入場時に解除可能な全ての状態が解除される
・慈悲はない
・4人まで入場可能
・召喚等による人数増加不可
・1日に何度でも挑戦可能
・さあ、心ゆくまで戦いましょう。私の秘密の全てをお見せ致します――――
「残り1勝、何としても……」
「はいっ!!」
『ワウッ!!』
『(´・ω・`)』
残るは足装備だけ。行こう……最後の一勝を掴み取りに。
◆ ◆ ◆
『解除可能な全ての状態が解除されました』
『【ちびケルベロスの応援】は解除されませんでした』
『【魔界死霊帝王の重圧】は解除されませんでした』
『【魔主魔狼隆盛】は解除されませんでした』
『【我が君主への誓い】は解除されませんでした』
『【黄金女王降臨】は解除されませんでした』
――――来るッ!!
『満月の女王が専用古代魔術【キリエ・エレイソン】を発動しました』
『フリオニールが【守護の誓い】を発動、全員を庇う状態に――――破壊! フリオニールが全員を庇い999Mダメージを受けました。HPゲージブレイク!』
『素晴らしい。あなた方のために用意した特別な祝福を、こうも容易く受け止めきれるとは……。きっとあなた方は、私が全力を出しても良い存在。私か、あなた方のどちらかは……この世から消えなければならない…………』
『――――満月の女王が顕現します!!』
何度も、何度も即死しては諦めずに挑んだ……! 42戦目、これで終わらせる……!!
「『…………月は二つも必要ないのですから』」
『ッ!?』
盤外戦術まで組み込まねば、満月の女王には勝つことは出来ない。一瞬の隙も見出すことが出来ない。心の弱い方が負ける。私はもう……弱いからと、敵わないからと、諦めるつもりはない。
『ティアラが【黄金魔槍驟雨】を発動』
『満月の女王が【神姫魔槍驟雨】を発動』
ティアちゃんとカーミラさんのこのスキルの威力は同等。正面からぶつかれば相殺となり、次の手を打つ必要がある……。前までの私ならそう考えて次の手を用意していた。私がなんとかしなければという、自己中心的な考えで皆を信じきれていなかった。それこそが、大きな間違い。私がこれまで使ってきた戦法を破壊し、弱い私の戦い方を否定する。これが強くなることへの第一歩だった。
『ティアラが【黄金回廊】を発動、【黄金魔槍驟雨】が転移しました』
『何を……!?』
『フリオニールが【完全なる守護の誓い】を発動、全ての攻撃を無効化しました!』
『リンネ、次は受けられない!』
「…………主よ、我らを憐れみ給え。我らが罪を受け入れ給え」
『専用古代神術【ミゼレーレ・ノービス】を発動、地獄の四姉妹が慈悲を与えます』
私は皆を、バビロン様達すらも頼らなさ過ぎた。自分で全部なんとかしようって抱え込むのは、誰も信頼していないのと一緒なんだ。それはどん太達やバビロン様達に、とても失礼なことだったんだ。だから私が編み出した古代神術は、他者の力を借りるというもの。バビロン様達、地獄の四姉妹に慈悲を授かるというもの。
『【黄金回廊】から【黄金魔槍驟雨】が出現します』
「我が苦しみ、怒りよ――ッ!!」
『満月の女王が【グレーターテレポーテーション】を発動、失敗! 魔界死霊帝王からは逃げられない!』
『頭上!? それにこれは?!』
『【慈悲効果・速度上昇】どん太が【魔狼強襲】を発動』
『【慈悲効果・威力強化】フリオニールが【英雄の栄光】を発動、超強烈な光が満月の女王を襲います!』
『【慈悲効果・コスト削減】ティアラがワールドスキル【銀に祝福された黄金郷】を発動、領域が【黄金郷】になりました』
満月の女王カーミラを撃退するには、私の力だけでは到底及ばない。だから私は皆を頼ることにした。この時代の、孤高の存在である満月の女王カーミラに私が勝てる唯一の力は、皆と団結するということ。今の時代のカーミラさんは一人ぼっちじゃないから通用しない攻撃かもしれない。でもこの時代のカーミラになら、通用する……!!
『夜が……!? お前は、お前達は、いったい――――』
「魔神の力を、思い知れッ!! 魔界死霊帝王拳!!』
『【慈悲効果・範囲強化】左腕を変化させ、【粉砕する左腕】を発動、魔神の左腕が全てを粉砕する!!』
私達が41回の戦いの末に辿り着いた、最大最強の速攻策。何度も意表を突き、逃げに追い込み、それを私の常時発動スキル【魔界死霊帝王の重圧】で囚える。上部後方はティアちゃんの黄金回廊から放たれた黄金魔槍驟雨、目を潰され気配も掴めないどん太の近接攻撃、そして私の巨大化した左腕から繰り出される超範囲のバビロニストパンチ――――受け取ってください……貴方を超えるために編み出した、私達の42回目の挑戦状を!!
◆ ◆ ◆
「…………捧げよ」
『【★★★死霊術師のスティレットヒール+12】【満月の女王】【□魔神のエッセンス】が共鳴します……』
『【□■月の女神の玉歩】が完成しました! おめでとうございます!』
「ああ、これで……」
これで、やっと……。
『【月の女神の愛撫】【月の女神の抱擁】【月の女神の矜持】【月の女神の玉歩】が共鳴し、【月の女神の慈愛】セット効果が発動します』
『【月の女神の慈愛】【Babylolita】【魔手+50】【魔界死霊帝王の指輪】【三姉妹の絆】【狂騒静謐英雄の誓い】が共鳴しましたが、力の解放には至りませんでした』
――――最後の一個を残して、全部揃った。
「リンネ様、もう一つ……ですね?」
「うん、まだもう一つ足りない」
『…………行こうか』
『わんっ!! (行こう!!)』
「行こう」
もう一つ何が足りないか、私にはわかってる。それを誰が持っていて、どうすれば手に入れられるのかも。それを手に入れられるであろう機会は、恐らく今夜……。赤い満月の夜、間違いなく今夜やってくる。
『――リンネちゃ~ん? ナンナイアに集合出来る~?』
『行きます。お昼寝さん達も、準備できたんですね?』
『うん、やれるだけはやった。時間いっぱいまで、僕達の限界までやったよ~……。だから、一緒に僕達も行かせてね』
『はい、もちろんです! むしろ私の方こそ、ご一緒させてくださいね。よろしくお願いします』
『うん! 絶対だよ~? 絶対、一緒にやろうね!』
レーナちゃんに聞いた話、お昼寝さん達はちょっと前まで腐って潰れそうになってたらしい。親鳥から餌を貰うのが当たり前で、巣から飛び立とうとしない雛鳥のようになってしまっていたと。それが今こうして、私と一緒に行きたいって何の憂いも迷いもなく言ってくるってことは……。大丈夫、お昼寝さん達も無事に飛び立ったってこと。一緒にメルティスの顔面を、粉砕しに行きましょうねっ!! 皆でっ!!
『ティアラが【黄金回廊】を開きました』
「えっへへ~。ギルドポータルさんより早く開いちゃいました!」
「お、ティアちゃん気が利く~。いい子いい子っ!」
「えっへへへぇ~♡」
さあ、行こう。決戦の地……ナンナイアへ。





