457 変わる日常、31日目の昼
いやー今日で一学期終わり、明日から夏休みっていうタイミングだよ? 学校なんてほぼ授業なしで終わる、学校のお友達と夏休み前に会える最後の日だよ? それなのに病欠が三人も居るんですよ。しかも全員理由が『熱が出たので休みます』って、私のパクリじゃーん!! グループメッセージで何してるのか確認したら、当然のように『今レベル800超えたところですわ!』って返ってきたよ。ははは、お熱が高いですね……。バビオン熱が……。
「――夏休み中の課題等は御座いません。近年は気温が40度を超える日も多く、体調には十分注意なさってお過ごしください……。では、これにて解散となります」
「わーー終わったーー!! キモ譲二、レベリング行こ~」
「え、今日は金策って……」
「金策とレベリングは一緒にやれってかえで様が言ってただろ」
「そういうところが、譲二さんが弱いところから抜け出せないポイントですよね~」
「あ、リンちゃん帰るの~? ちょっとお喋りして行かな~い?」
「ん~……。いいよ。最近どう、何か新しいスイーツとか」
「あるある~! えっとね、近くに超高級かき氷を始めたとこあるんだよ~!」
「へえ~……」
クラスの子達とも仲良くなれた。未だに誰が誰なのかうろ覚えなところがあるけど、明るい金髪で日焼けした小麦肌の子が魅力的なスイーツ通の"園咲時子ちゃん"はしっかり覚えた。この子に美味しいスイーツの話を聞けば、私が知らない不思議なスイーツの話が聞ける。生きたスイーツペディアなのだ。
「――バビオンでもスイーツいっぱい売ってるっしょ~? なんか~バビオン内で売られてる商品とリアルで売られてる商品のコラボとか、あるんだって~」
「この近くで購入できるものなのかな?」
「うんうん~! ニャオンで売り出すって聞いたし! うちも夏休み中に行くんだ~……あ、その店の情報グルメで送っとくね~!」
「いつもありがと~。今度真弓と食べに行ってみるね」
「うっは~! まゆちゃんとラブラブだよね~! ねえねえ、き、き、きす、きすとか、し、した!?」
「うん、したよ~……それ以上はナイショ」
「うっはぁ~~!! ん~~!! ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛~~!!」
相変わらず面白い子だわ。あ、悶絶しながらもグループメッセージで店舗情報送ってきてくれた。あ、ゴスロリ社のグループ会社なんだ! 隣のブースがゴスロリ社の店舗なんだ……。メルヘンエリアみたいな感じで、似た店舗がまとまる予定なのね~……これは必ず行かないと。
「あ!! そうだ! リンちゃん、レベル300からってレベル上がりやすいって本当?!」
「いや、そんなことは全然ないけど。レベル299と300だと要求倍ぐらいに跳ね上がるよ」
「え~~っ!! でもでも、すごい勢いで上がってたよね!?」
「それ相応の相手を倒しまくれば、かな」
「そっか~。うちは可愛いお洋服とか作れれば良いから、レベルは~って思ってたけど……」
「無難にやるなら、ストーリー進めてラッシュに行って~じゃないかな?」
「ん、わかった~! うちはゆっくりやる~っ! 戦闘苦手だし、でもラッシュ得意だし!」
「得意なこと、好きなことを続けて上達させるのが楽しいよ。私はとても敵わないような相手に挑み続けるのが好きだし、戦うのが得意なだけ」
「うんうん~! うちとリンちゃんは得意分野違うし、違うので楽しむよ~! 戦うだけが楽しいゲームじゃないもんね!」
「そうだね……そうだ、家とか要る? ハウジングとか楽しいよ、家具作ってるプレイヤーとかもいるし」
「家!? え、えっ!?」
「うん、家。お友達と共同で使ってもいいし、自分の趣味にのめり込むための専用にしてもいいし。バビロニクスとかに寄付しまくったせいで、空き家を何件か無料で貰える権利とかあるんだけど、余ってるんだよね」
「家、家が余ってる……? 家が余ってるって何……?」
せっかく仲良くなったんだし、なにかプレゼントぐらい贈りたいよね。余り物で悪いけど、新規開発地区に建った家に誰も住まないからって寄付の対価として渡された、バビロニクスのお家をプレゼントしちゃお。大きすぎず小さくもない家だから、共同ハウスとして使ってもちょうどいいと思うんだよね。
「じゃあ今日帰ったら1チャンネルのバビロニクスの魔神殿にいるから、受け取りに来てね」
「え、う、うん! でも、何もお返し出来ないし……」
「ん~じゃあ、ゴスロリ社に負けないぐらい超可愛いゴスロリアバ作って欲しいな~。そのうち、いつかで構わないから」
「わ、わかった……! う、うちが、あの魔王様が着る、アバターを……? む、無理……? ううん、期待されてる、き、期待に応えなきゃ……!」
「あ、15時ぐらいだけど、大丈夫?」
「う、うん! 絶対行く!!」
「ええ、良いなぁ……。俺も欲し――」
「くたばれ譲二、お前の発言権は認められない」
「空気読んでくださる?」
「更に空気読めないクソ譲二に、いつの間にかクラスチェンジしてんじゃん!」
まあ私も見込みがない子にこんなプレゼントを渡したりはしない。時子ちゃんは間違いなく、デザイン系の才能がある。それにラッシュのソロでのチャレンジモードもクリア出来るぐらい、メガリスアーマーの操縦が上手い。そういった方面の器用さに特化した子だと睨んでる。この子はそこらにいる有象無象と一緒に埋もれてて良い人材じゃない……。私が埋もれた人材を発掘しないとね。
「そういえば、三上さんも転生先に困ってたよね。もうそろそろ200超えるんだっけ」
「え、あ、は、はいっ!!」
「バビロニクスの1チャンネルでうろうろしてれば、ヨハンって軍服を着たお兄さんが居るから、その人に弟子入りしてみると良いかもね。特殊なレベリング方式のクラスになる代わりに、センスさえあれば一気に400相当まで行けるかもしれないよ」
「本当ですか!?」
「本当に強くなりたければオススメするけど、覚悟もなしに話し掛けたら後悔するかも。途中挫折をしたりすると、二度とそのクラスには就けないペナルティが発生すると思うけど」
「ちょっと、考えてみます……」
「水無月さんは、魔術職だっけ。三上さんといつも一緒にやってるなら、そろそろだよね」
「え? えっ!? は、はい!?」
「生命研究所にね、キューティーンっていう可愛い女の子がいるんだけど、その子がど派手な魔術が使える大魔術師でね、頑張って弟子入りすれば強くなれると思うよ。ああ、これも特殊レベリング職で、条件とかは一緒だと思う」
「キューティーン……。生命研究所、もうそろそろ行けると思うので、行ってみます!」
この二人もかなり見込みがある二人。いつも学校で聞き耳を立ててると、この二人だけ他のメンバーよりも立ち回りの考え方とか、火力の出し方とか、レベリングの貪欲さで優れている。なんでも、初期のどん太に何回もキルされてたりとか、私にもPK仕掛けて負けたりとかしてたらしいんだけど、残念ながら覚えてないのよね。強かったりインパクトがあれば覚えてるんだけど、この特殊レベリング職で一つ上に行ったら、私の記憶に残るようなプレイヤーになるかも。
「お、俺も、転生先のおすすめとか……」
「…………?」
「あ、リンちゃんのこの顔はね~! えーっと、誰? って顔だよ!」
「まあ、そういうこった。そもそも譲二はレベリングサボりすぎ、死にすぎでレベル差あるし、まだ先だけどな」
「そういえばリンちゃん、まゆちゃん達って、今日なんで休みなの~?」
「お熱がね、あるんだってさ」
「熱……? あっ! なるほど、めっちゃ張り切ってる感じっしょ!」
「お、凄い。よくわかったね」
「どういう会話……?」
「譲二って本当空気読めないよね?」
「そういうところが、デス数に繋がってるんだと思いますよ~?」
「いやそれは……」
時子ちゃんは容姿に反して頭の回転が早いというか、物分りが良いんだよね。三上さんと水無月さんもわかる方……正直、このダメ男に付き合ってるのは可哀想。かなりの足かせだと思う。でも切り捨てられないんだろうな、腐れ縁ってやつなのかな。私にはよくわからないや……。
「さて、帰って軽く運動してからバビオンやろうかな……。じゃあ、15時――」
「え! リンちゃん運動するんだ、何するの?!」
「ん、ウェイトトレーニングかな。自宅にあるの」
「自宅にあるの!? 学校にもあるよ? 一緒に、どう!?」
「時子ちゃんもやるんだ? 意外、細いからそういうのはしない方だと思ってた」
「細いのコンプレックスなんだ~……。リンちゃん、結構鍛えてるよね……?」
「うーん、どうだろう。この腕につけてる端末に色々指示されてやってるし、他の人のは参考にしてないから、どのぐらいやってるかってよくわかってないかな」
「え! それ、と、トレーニャン!? 本体は猫ちゃんのお耳が生えてるロボットのやつ!?」
「え……? あ、そういえばなんか生えてたかも? 有名なの?」
「最新鋭の、すっごい予約待ちで、たかーーい奴だよ!?」
「…………そ、そうなんだ?」
これ、トレーニャンって言うの……? 確かに、今日の体調とかに合わせて色んなトレーニングを提案してくれて、健康管理までしっかりやってくれる超高性能なロボットだとは思ってたけど、そんなに凄い奴だったんだね……。真弓に今度、改めてしっかりお礼をしないと……。
「トレーニャンに話しかけるとね、えっと、あれこれ教えてくれるの! はーいトレーニャンって言えば起動すると思うよ!」
「へえ~……。はーいトレーニャン?」
『何でもお申し付けください。可能な限りお力になります』
「わ、起動した。初めてこの機能使ったかも」
「すっご~……! えっと、細いのがコンプレックスなんだけど、どうしたらかえで様みたいな綺麗な筋肉がつくか、教えて欲しいですっ!」
『質問対象者に腕部の装置の画面を向けてください……。スキャン要求、情報をお手元のスマートフォン型端末へお送りします。スキャン実行と情報転送に同意しますか?』
「あ、はいっ!」
『同意確認、スキャン実行中…………完了。端末に転送したアンケートにご協力ください』
「えっと、いつも食べてるご飯……? ご飯は、スイーツ食べたいから抜いてて……」
うーん、時子さん……。スイーツのためにご飯抜くのが原因だと思うなあ~私は……。それにしてもこの端末、こんなにハイテクなものだったのね。私だけじゃなくて外部の人も簡易スキャンが出来るなんて、なかなか凄いテクノロジーだわ……。
『食生活改善を提案。食事抜きでのトレーニングは筋肉を消耗するだけであり、トレーニング効果はむしろマイナスとなります。トレーニングはしっかりとした食事から、健康で美しいボディを手に入れるにはまずは食べましょう。こちらの食事内容を提案します』
「え……。えっ!? これを、こんなに!? ほとんどお肉、お肉、お野菜、お野菜、デザートもパンもお米もないよ?! リンちゃんいつもこんな食生活なの!?」
「うん? うーん、確かにこんな感じかも。お米はもうちょっと食べてるかな?」
「燐音さんって、こんなご飯を毎日食べてるんですね~……」
「わ~……。好きなもの食べて、お菓子食べてバビオンやって~の私とは、全然……」
「燐音さんのストイックさは、バビオンだけじゃないんですね……」
「そんなに食事の内容、変かな? これ、今日の朝食だけど……」
『朝食の情報を呼び出します。撮影された写真も転送します』
「今日の朝ごはんは、麦ご飯に焼き鮭、味噌汁に、ゆで卵とブロッコリーとアボカドのサラダ……。え、焼き鮭って、もしかして本物ですか!? 合成じゃないの!?」
「え、うん」
え、焼き鮭って合成とか天然とかあるの? いつも出された物を食べてるだけだから、特に何か考えて食べてるわけじゃないんだけど……。このトレーニングロボットが提案したご飯を家政婦さんに送って、それを家政婦さんが作ってくれてるだけで~……って言ったら、私が何もしてないのバレちゃう!! あ、これは黙っておこ……。
「う、うち、スイーツやめるっ!!」
「やめないで。お願い、食べた分動けばいいの。だからやめないで? ね?」
「え、あ、あっ、やめない……」
「そう、やめない。いい子ね、時子ちゃん」
「は、はい……。時子は、いい子です……?」
時子ちゃんがスイーツやめたら、私が楽しみにしてるスイーツ情報が入ってこないでしょうが!! なんとかスイーツをやめさせない説得は上手く行った、よかった……スイーツ愛好家が一人消えてしまうところだった。窮地は脱した。あ、そうだ!
「お昼ごはん、そういえば真弓の分もって間違えて持って来ちゃったんだった。時子ちゃん、食べてみる?」
「ひぇえ!? いいんですかぁ!?」
「うん、余しても食べきれないから。今日熱で休むって言われたの、作ってからだったから……。なのに癖で持って来ちゃったんだよね。じゃあ、学校のトレーニング施設行く前に食堂で食べちゃおうっか?」
「へ、あ、はいっ! 頂きますっ!!」
「私らも、ついでだから食堂で食べてから帰ろ~?」
「夏休み前でもやってんのか?」
「知らないんですか? この学園の食堂は、夏季休暇中も部活動生の為に昼と夜やってるんですよ~?」
「へえ~そうなんか。じゃあ俺も食って帰ろう」
「お、俺も、行く……あ、課金し過ぎて金ないんだった……」
「バカじゃないの譲二!? 仕方ないから今日だけ特別に、この三上様が奢ってあげる! 感謝しなさいバカ譲二!」
「え、じゃあ、やっぱ食わない……」
「なんなの、本当にムカつくんですけど!?」
クラスの子達、こんなに愉快な子達ばっかりなんだったら、もっと早くからお喋りすればよかったなあ~……。いや、前の私じゃ無理だったね。人と目を合わせられない、真弓の背中に隠れて怯えてたあの頃の私じゃ……。変わったのかな、私……ん? グループメッセージだ、真弓からだ。
『レベル850から全然上がりませんわ!? どうやってここから上げますの!?』
ああ、最後の壁にぶつかったか~。まあ私が"最後の壁"なんて勝手に呼んでるだけなんだけどね。ペタなんて膨大な桁の経験値が貰えるから、真なる勇者周回だけで行けるかって言うと……ぶち当たるんだよね、最後の壁に。1レベル辺り1000ペタ要求とか言う狂った経験値の壁にね。ソルラーラーの経験値は50ペタだから、急に全然足りなくなるのよ。30秒周回してても全く足りないから、オルヴィス狩りに切り替えたのよね。
『再現モードのオルヴィスを狩ってたよ。適正帯だと思うから、頑張って』
『ええ!? わ、わかりましたわ!?』
まあまあ、頑張って頂戴ね真弓ちゃん。私は今、健全なアオハルライフを楽しんでるところだから……。どうしても行き詰まったら、手を貸してあげようっかな? 私とどん太だけでも狩れるし、ここまで来たらパワーレベリングでも……それは、真弓達が納得しないからないか。
「リンちゃん、レベル950超えてるんだよね? ど、どのぐらい、強いか、見てみたいんだけど……!」
「ん、レベル100以上離れてると経験値貰えないけど、大丈夫? 15時からはまだ準備にも早いから、ちょっとぐらい大丈夫だよ」
「え、俺も」
「帰れバカ譲二!! 三上様の飯が食えない、空気が読めないバカ!! 大嫌い!!」
「あ~あ、三上さんこんなに怒らせて……」
「本当お前、ちょっとこっち来いよ」
「え、あ、ちょ」
「ん~何が良いかな~……。あ、うちの従者との模擬戦とか見てみる? 何かのボス行くより、わかりやすくて良いかも」
「いいの!? 見たい見たいっ!!」
「トキちゃんは、こういう時に『報酬欲しいし、せっかくだからボスぅ~』って言わないから、燐音さんに好かれるのかな……?」
「純粋にどれだけ強いか見たいんでしょうね~」
そうと決まればご飯を食べた後ちょっと休憩して、それから軽く運動してシャワー借りて帰って、15時の約束に暇してる従者を誰か連れていけば完璧ね。でもせっかくだから、何かボス倒して報酬あげたほうが良いかな? あ、そういうのは『最後まで面倒を見るって決めたら最後まで』だったよね! 時子ちゃんを900オーバーまで面倒見れる自信ないし、そういうのは無し! 家をあげるのは~……ほら、未来の職人の卵に、落ち着いた工房を与える投資ってことで、ね……?
「じゃ、まずはご飯行こっか!」
「ご馳走になりま~っす! えっへへ~!」
「譲二さん、待たないんですか~?」
「もういい、嫌い!」
三上さんは、この一学期中にあの人と結構喧嘩してるなあ~……。今回も早いこと仲直り出来ると良いね? まあ私はあの人に関わりたくはないから、見守ってるだけにするけどね。ろくな男じゃないし……。あれに時間を使うぐらいなら、時子ちゃんとスイーツトークしてる方がいいもん。もっと良い時間の使い方は、真弓と一緒に過ごすことだけどね。あ~あ、一学期の最後に真弓とゆっくりおしゃべりしたかったな~……。





