452 狂気のバグ
「しょ、所長、み、見てください。見てください早く!!」
嫌な予感がした。どうせまた、イレギュラーがイレギュラーをしているんだろう、今度は何をやらかしたんだ? そう思いながら眠い目を擦り、職員が指さしている画面を見た。
「こ、これです……!」
「ああ……?」
『――――だから、蘇れ! 蘇ってくれナタリア! この熾天使の心臓で!! 蘇っておくれ!! 僕の最愛の人魚姫!!』
「これは、無慈悲モードか……?」
「そうです!」
無慈悲モード、ある者はより多くの配下を与えられ、ある者は本来の強さを取り戻し、ある者は本来ありえない程の力を手に入れプレイヤーに立ちはだかる。今は誰もクリア出来ないけれど、いずれこれに挑戦してくれよというおふざけで実装されている、いわばエンドコンテンツのチラ見せという存在。これをクリアするプレイヤーが現れるのは年単位先の話、だから別にこの一戦をみる必要性は――――
『――――無慈悲な人魚姫、及び無慈悲な外道技師が討伐されました。おめでとうございます!!』
『レベルが上昇しました。レベルが上昇しました。レベルが上昇しました。レベルが――――』
「は……? は…………??」
「ナタリアと、ドゲルが、ま、負けて、ました」
「負けて、ました?」
嘘だ、負けた……?! かすっただけでも即死、到底勝てる相手なはずがない。誰だ、誰が……いや、わかる。わかっている。誰が勝ったのか、勝てるであろうプレイヤーは一人しかいない。それはいい、それは問題じゃない。問題なのは……ましたという過去形の部分だ。
「何分前のことだ?」
「…………約1200分、前、です」
「おかしいな、俺も歳をとったか? 何分前、だ?」
「1200分前、です! 1200分!! 約20時間も前ですよ!! 昨日、自分達が引き継ぎで出ていくちょっと前です!!」
「なんで、初クリアのアラート設定がされてないんだ……? なんでこんなのを見逃してた!!」
『告、無慈悲モードは今年にクリア想定がされておらず、アラート設定はされておりません』
「嘘だろ、嘘だろ……」
20時間前……?! 19時、19時じゃないか! 昨日の19時!! じゃあなんだ、今日の15時まで、それまでずっと気が付かな……待て。待て、待てよ。逆にどうして、気がついた……? アラート設定がなかったものに気がつくのは難しい、逆に気がついた理由はなんだ!?
「どうして、イレギュラーがここをクリアしたのに気がついた?!」
「…………まだ、狩ってるからです」
「狩って、る……?」
「はい、狩ってるんです。狩ってるんですよ、無慈悲モードを!!」
「は……? は…………?」
『告、無慈悲モードに突入制限はありません。更に撃破経験値、クリア報酬も反復して受け取る事が可能です。現在制限設定はオフになっています』
「何回でも、絶望を味わって欲しいって、部長が……」
「あ、あ……あ…………!!」
無慈悲なる、廃教会……。クリア、回数……30回……? 平均3分で、一回平均3分でクリアしてやがる!! 負けてたのは最初の30分だけ、後は全部勝利。勝利。勝利。クリア。クリア。クリア!! どんどんクリアタイムが加速してやがる、途中でクリアタイムが遅くなってるのは……メンバーチェンジが原因なだけか……。こいつ! こいつ!! 従者のレベルを上げるのに、まんべんなく全員を連れて行ってレベリングしてやがる!!
「この後は!!」
「え、え!?」
「この後どこに行って何してるかって聞いてんだよ!!」
『忠告、異称【イレギュラー】氏の情報収集は上層部から控えるようにと指示されています』
「これはイレギュラーの情報収集じゃない。無慈悲モードのクリア状況の情報収集だ、どこだ!」
『…………なるほど。それならば特定個人の情報収集とはならないと判断。情報を表示します』
「え、あっ、あっ!?」
「は、はは……。ははっ……!!」
――――狂ってやがる、イレギュラー……!!
『無慈悲なる海の王者、クリア。無慈悲なる炎の女龍王、クリア。無慈悲なる砂漠の国、クリア。狂い果てた雪国の聖王、クリア。深淵を這いずる魔王、クリア。真なる勇者、クリア。カエルたちの鎮魂歌、クリア。天上天下最強無敵機械王、クリア。OROCHI、クリア。神域到達化狸、クリア。偉大なる戦姫、クリア。虚空を歩く者、クリア。宇宙大魔導、クリア。殺戮の神、クリア。八つの枢要罪、クリア。Life Labo Daughters 及び NO MERCY MODE、クリア』
「20時間で、20時間だぞ、20時間なんだぞ!!」
『20時間で全て、クリアされています。狂い果てた雪国の聖王からは、一度も全滅していません』
「なんだこれ、なんだよこれ。どう、どうしたんだよこれは……」
もう上がどうとか、特定個人情報だと、それより俺の好奇心のほうが……強い!! クビか? もしかしたら社会的に抹消されるか? 可能性はある、だが見なければ! 見なければならない、イレギュラーをバグに変えた原因は! なんだ!!
「……君達、巻き添えを喰らいたくなかったら出ていった方がいい」
「えっ」
『恐らく、この狂気的な行動の原因を探ろうとしています。推奨されない危険な行為です』
「あ、じゃあもう皆で見ましょうよ!」
「いくらなんでも、ここにいる全員をクビにしたら代わりが居ないですし」
「そーそ! 赤信号、皆で渡れば怖くないってね!」
「いやー流石にこの短期間でノーマーシークリアするバケモン出てきたんだから、そりゃ見ないとですよ」
「お、おおお、俺、俺も……!! 見ます!!」
「いいか、警告したぞ。これからは君たちも、同罪だ!」
認める、認めるよ。俺はもうアンタのファンなんだ、俺達の想定を……想像を、何もかもを超えてくる狂人を、知りたい!! 俺は知りたい、何がアンタをそこまで駆り立てたんだ!!
『――――はっきり言って、メルティスに勝つどころか、メギドに勝つことすら無理だと思う』
『――――私達はメルティスという暴風に立ち向かおうとしている蝋燭の火、簡単に消える。消される』
『――――私は…………十分強い、では……魔界軍団長を名乗る資格がない』
『――――じゃあ、行こう。私達がいるべき地獄に!』
たかが、ゲームだと思っていた。
「…………凄いな」
「いや、うん……。はい。それしか、言えないッスね」
このプレイヤーは、生きているんだ。この世界で、魔界軍団長とか死霊術師とか、そんなロールなんかじゃない。バビロンの愛し子、魔界軍団長の死霊術師リンネとして、生きてる。
「覚悟が、違う……」
「メルティスに、感謝しないとですね~……」
「凄いなあ……。ぶっ殺して貰いたい、この子に……。あのクソ女神を……」
「この子じゃなきゃダメだよ、メルティスを殺すのは」
「でも、まだ足りない」
「メルティスはこんなもんじゃない。伊達に闇の女神すらも葬ったクソ女神じゃないからね」
「大丈夫、満足してる顔じゃないよ」
「今はどこにいるの? もうここまでやったんだから、リアルタイム映像も見ようよ」
『警告、通達に違反する行為です。本当にライブ映像を表示しますか?』
「ああ、頼むよ」
『…………映像を出した私も共犯です。一緒に、罰を受けましょう』
「管理AIちゃんに罰か~。何されるんだろうね?」
「節電とか?」
『節電は堪えます』
「後で私は嫌だったのに~とか言わないでくれよ~」
そんな彼女が今何をしているのか、ログアウトを数回挟んで、ほぼ20時間もぶっ通しの、超ハイペースで狩り続けてる彼女が何をしてるのか……。
『先にお伝えします。異称【イレギュラー】の個人情報を公開、イレギュラーは既に魔神バビロンへ3度の昇華転生を要求し、実行しています。現在のクラスは――――魔界死霊帝王。レベルは801です』
「はっ……!?」
「はっぴゃ……!?」
「そのレベルで、まだ狩りを辞めてないんッスか!?」
『これからが本番のようです。これから行われるのは…………』
ここは……。まさか…………。まさか…………!?
◆ ◆ ◆
『――――汝の愚かさを知るだろう。ホーリースマイ』
「消滅せよ」
『刻印術式【抹消暗黒球体】を発動、救済の聖女・オルヴィス(Lv.990)に33,390Gダメージを与えました』
『なぁ、ぇ……!? ぐ、ぁ!! 貴様、何も出来ない軍師では、なかったのですか……!?』
さあ、始めよう。そして今日のイベントに参加するまでちょっと寝て、明日は学校ズル休みしないでちゃんと行こう……。今日だけは、ギリギリまで! ギリギリまでやらせて貰う!!
「オルヴィス狩りの時間だッ!!」
『ワォオオオーーーーーン!!』
『な、に、を……!? 何を、狩ると……! 小癪な!!』
オルヴィス、再現モード……。最終形態ファーブニルからの連戦のこのモードを周回する!! オルヴィス狩りだ!! 狩って、狩って、狩りまくって、バビロン様の隣で……! 私達も一緒に、メルティスと戦うんだ!!





