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451 開眼

 ヒュリエルとの一戦を終えて、全員を呼び戻したり千代ちゃんを生き返らせたりして、暫くボーッと一人で考えていたことがある。


「――えっと、はい。エス(・・)と呼んでください」

「わぁ~! 今日からヒュリエルは、ヒュリエスですよっ! リンネ様、いいですよねっ!」

「ん……。うん、良いんじゃない……?」

「ヒュリは珍しいので、私もエスと呼びます!」

『わう~っ (エスちゃん!)』

『小さくなったからヒュリエルからヒュリエスとは……』

「えると、えすは、大きいと小さいという意味で御座いますか?」

「そう、エルは大きい! エスは、小さいです! 食べ物のサイズで、そう覚えました!」

「ゼオお姉ちゃんはご飯のことだけはよく覚えるよね……」


 ヒュリエル改めヒュリエスは、メルティスが送り込んできた爆弾。使い捨ての特攻兵器に近い存在。つまり失ってもなんら問題のない、むしろ扱うのが面倒だから丁度いいし処分しようと投げてきた……ゴミ(・・)

 ヒュリエスの話は興味深いものだった。メルティスの直属の天使はそもそも虫が植え付けられておらず、完全にメルティスを狂信しているらしい。対して、メルティスが他の神々を殺して奪った天使達は少なからず反感を抱いていて、これを完全に制御するために虫を植え付けられている、という話だった。虫は寄生主を長い時間をかけて洗脳するもので、最終的には完全に意識を書き換えられてしまうという恐ろしいもの。ヒュリエスは瀕死の重傷を負った時に虫の活動が停止、疑問をいだいていた頃の状態を維持して洗脳が半端に終わってしまった。思考することに制限はかかるが、まだギリギリ自我がある状態だったということ。ヒュリエスの黄金の女王に感謝の言葉を伝えたいという行動は、虫の洗脳への抵抗による行動。自分を維持しようとする行動だったと考えられる。

 考えが脱線した。メルティスはこのヒュリエスの怪しい行動を感知、新たに虫を植え付けるわけにも行かず、虫がいつ復帰するかもわからない不発弾の処理に悩んだ。その結果が放棄、どうなってもいいし、最悪どっかで起爆すれば御の字と思ってわざと天界から送り出した。


「――リンネ、今戻った。作戦は成功したぞ! 少し危ない場面もあったが、概ね問題なかった」

『(*´∀`)b』

「……そう。少し、危ない場面があったの。マリちゃん達が無事で、良かった」

「リンネ……?」

「お姉ちゃんってば、この子と戦ってからずーっとこうなの! マリにゃんからも何か言ってください!」

「この子? ああ、念話では聞いていた。この子がそうなのか」

「はい、ヒュリエスと申します。エスと呼んでください」

「よろしく、マリアンヌだ。マリでいい。こちらはフリオニール、誰からもオニーチャンとも呼ばれている」

『(*´∀`*)!』

「よろしくお願いします、マリさん。オニーチャンサン」


挿絵(By みてみん)


 おにーちゃんとマリちゃんが居たら、何か変わっただろうか。いや、変わらない。恐らくあっという間に瓦解、押し潰されて数秒ももたないで負けていた。あの時の一撃、あの超高速の一振り、別次元の斬撃……。このままでいいのだろうか。


「……全員、集まったね」


 そう考え続けて、辿り着いた答えがある。この考えを皆に伝えなければならない……。


「ヒュリエスの前の姿、熾天使ヒュリエルとの一戦を終えて、私が考えていたことを皆に伝えたいの」

「そ、それは、エスも聞いても大丈夫でしょうか……」

「エスもここで聞いて。もう貴方は私の従者、迎え入れたからには最後まで一緒よ。貴方が私から離れない限り」

「は、はい」


 もしかしたら今の関係が崩れて、終わってしまうかもしれない。それでも、伝えようと思う。


「――――はっきり言って、メルティスに勝つどころか、メギドに勝つことすら無理だと思う」

「えっ……」

『…………』

『むうっ……』

「メルティスはヒュリエスを、捨てても良いと思って野放しにした。いわば、戦力外……戦力として見なしていない……ゴミも同然のように、捨てた」

「お姉ちゃん、それは……」

「ティアちゃんと千代ちゃん以外、そのゴミも同然のような兵器に、負けた。これは紛れもない事実。私達はメルティスの戦力外のゴミにすら苦戦している。そんな私が、私達が、メルティスに勝てると思う? それは無理、髪の毛一本さえ毟れず消し炭にされる。私達はメルティスという暴風に立ち向かおうとしている蝋燭の火、簡単に消える。消される」


 全員の顔色が変わった。でもこれは、紛れもない事実。今の私達ではメルティスに勝つどころか、有象無象にすらなれずに消えていくだけの塵に過ぎない。


「バビロン様は私に言った。真っ暗闇を怖ず怖ずと彷徨っていた子羊が、獲物を探してギラギラと目を輝かせてる狼ぐらいにはなったと。当然魔界軍団長になると思っていたと。これが、メルティスの尖兵にも満たない使い捨ての駒にすら苦戦するこの私が、バビロン様の望んでいる魔界軍団長の姿? 違う、バビロン様はきっと、メルティスの絶対的な脅威となり、メルティスの首を落とすような魔界軍団長を望んでいるはず」

『わう……』

「お姉ちゃんは、でも、十分、強いです……」

「カーミラさんを、満月の女王と比べてもまだそう言える? 私は、強い?」

「あう……」

「リンネ殿、でも、リンネ殿はリンネ殿の強さが……」

「…………弱い、です。頭脳は、そうじゃないかも、しれないです、けれど」

「ゼオちゃんの言う通り、弱い。カーミラさんの力を一時的に借りて、それを返した途端に全身に激痛が走るほど私は弱い。そして、そんなカーミラさんでも勝てない相手は存在する。これまでは運良く勝てる相手だっただけ、本当に運が良かっただけ。ある日突然、私よりも頭脳明晰で、カーミラさんよりも強力な相手が現れたら? 勝てない、負ける。私の敗北は魔界軍団長の敗北、魔界というものそのものの敗北に等しい。私は…………十分強い、では……魔界軍団長を名乗る資格がない」


 静寂、沈黙。明らかに意気消沈、まるでお通夜。私が珍しくネガティブな考えを吐き出したことへの困惑、パニックに近いだろう。だが、これは私が魔界軍団長を辞めるとか、そういう話ではない。


「私は目を瞑るのを、辞めようと思う」

『きゅぅ~ん…… (どういう、こと?)』

「それは、どういう意味ですか……?」

『…………』

『見たまえ、あれは……良い目だ……』

「リンネ様……っ!」


 この話は、私が真の魔界軍団長になるという話だ。勘違いしないで欲しい。私は誰も想像できない程、誰も予想できない程、誰もが私を魔界軍団長の死霊術師リンネであると認めさせるつもりでこの話をしているのだ。


「今まで目を瞑って、見ないふりをして来たものに向き合う時が来たんだ。強大な相手にいつか追いつこうなんて甘い考えは、この瞬間に捨てる! 目標なんてない、ただひたすらに上を目指す。強さを追い求める。もう一撃で負けたりなんてしないように! 私に戦力外だと引っ込められて、悔しいと思わなかったか! どん太、どう? 悔しかった? 一撃で、使い物にならないと引っ込められたのは!」

『ガウウウウ!! (悔しいよ! でも、弱かったから……!)』

「私に魔術的に追いつけない、完全に追い越せないリアちゃんは? 悔しい? 障害となる何もかもを、自分の魔術で木っ端微塵に打ち砕きたいとは思わない? 国を追われ、無力にも死んだあの森をもう忘れたか!!」

「…………ッ! 私だって、私だって……!!」

「いつまで喋らないつもりなの、フリオニール! もう遊びでは済まない、メルティスは確実に力を取り戻しているよ! ルテオラの次が見たいのか!!」

『…………そんなのが、みたいわけないじゃないか』


 私は本気だぞ、私は……バビロン様に可愛がられる子供で終わりたくない。バビロン様の隣に、皆で並びたい……!!


「千代ちゃん」

「……はい」

「不満を食欲に変えるのはもうやめて。その不満は私に伝えて、吐き出して。私達は、そういう関係でしょ?」

「…………はいっ」

「マリちゃん、その次元で満足するつもりは、ないよね?」

「当たり前だ」

「ゼオちゃん、デロナちゃん……。私は出来れば、二人には争いのないところで、静かに幸せに暮らして欲しかった。これに返事をしたら、もう引き返せない。生命研究所に戻るつもりは――――」

「ない!」

「ないよっ!!」

「ふふっ……。ヴァルフリートさん、私は今日から人の道を外れます。まだ、従者で居ますか?」

『その瞳の先の世界を見ずに逃げたなら、俺は今日この日から龍ではなくトカゲになるだろう』

「わかりました……。ティアちゃん、待ってて。すぐに追い越す(・・・・)から」

「はい……はいっ!!」

「エス、これから貴方に見せる世界は酷く残酷なものになる。仲間殺しをすることになる。もう救いようがない同志達を、その手にかける覚悟はある?」

「悪魔になることを受け入れた時に、もう覚悟は出来ています。せめて痛みのないよう、この手で終わらせます。それがエスに出来る、エスに赦された弔いの機です」


 わかった……。そっか……。誰も、逃げないのね。私から離れる子は、いないのね。


「…………全員、目が覚めたようね。じゃあ、行こう。私達がいるべき地獄に!」


 もう目を瞑るのはやめよう。見ないふりをして来た地獄に、無慈悲な世界に、残酷なまでに凶悪な場所へ!!



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本作をご覧頂き誠にありがとうございます
 宜しくお願いします!
ガイド役の天使を殴り倒したら、死霊術師になりました ~裏イベントを最速で引き当てた結果、世界が終焉を迎えるそうです~Amazon版
アース・スターノベル様より出版させて頂いております!
― 新着の感想 ―
[良い点] おにーちゃんがしゃべった! 十分おかしい生き方してたけどさらにいくのか...意識から他の人とは違うし他のプレイヤーと差が開いていくのかな。華胥の夢の人達はなんだかんだで頑張りまくって少しは…
[良い点] ※これはゲームです。 どんだけ負けず嫌いなんだw いいぞもっとやれ!
[良い点] 運営が(AIが?)用意したマジもんのボス級とタメ張ろうとするのもヤバいけど、それ自体はゲームシステム的に「できちゃう」から、まぁ…… でもゲーム登録して1ヶ月未満でそこまでガンギマリする…
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