447 驚きの休日
気持ちのいい朝だった。最近寝る時間が遅くなってたのもあって、しっかりとした睡眠が出来たのは久しぶりだった。今日は真弓とお出かけだから朝食と運動はかなり軽めに、朝の支度もゆっくりと終えて、お出かけ用にって決めておいた服も乱れなく。今日は7月11日、天気予報によれば快晴の予報で雨は降らないらしい。暑くなるから熱中症予防と紫外線対策はキッチリとしておいた。
いざ外に出てみると、なるほど暑くなる予報は間違いないだろうと実感できる暑さ。一応日傘も持っていくことにして、さて出発しようと玄関から道路の方を見下ろすと、何やら大きな荷物を運び入れているトラックが目に入った。
「ここに誰か引っ越してくるのかな……?」
確かこのマンションの6階は空室なんだよね。7階がいつもお掃除からお料理まで何でもやってくれる家政婦さんの一家が住んでて、5階から下は……うーん、真弓の仕事関連の人ってのはわかるんだけど、そう言えば面識ないかも。まあ、誰が来ても私には関係ないだろうし、いいか! 出会ったら挨拶ぐらいする関係で良いよね。
「――燐音さ~ん!」
「あ、ちゃんと起きて来たんだ。偉い」
「なんとか、起きられましたわっ!!」
マンションから出たら、ちょうど真弓が乗ってる車が到着して降りて出てきた。今日は白い服に青いスカートと非常にシンプルだけど、隠しきれないお嬢様のオーラが体中からむんむん発せられてる。これで一般人は無理があるでしょって言いたいけど、本人は一般人になりきってるつもり満々なんだろうなあ~……。なんて愛らしいドヤ顔、ゆるふわ縦ロールと服のことを褒めて欲しいのね。わかりやすいなあ~。
「今日の縦ロールはいつもよりゆるふわで可愛いね、服もシンプルで好き~」
「まあまあ、本当ですの!? 嬉しいっ!! さあどうぞお乗りになって? お外は暑くて歩きたくないですもの!」
「あ、じゃあ、おねがいしまーす……」
ううっ……! 真弓は良かれと思って車に案内してくれるんだけど、この高級車に乗るっていう行為がなかなか苦手なんだよね……。車に乗るのが苦手なわけじゃないんだけど、汚したり傷つけたりしたらどうしようって考えばっかりになっちゃって、緊張して乗っていられないのよね~……。まあ、乗るんですけど……。
「どうぞ燐音様、足元にお気をつけて」
「あ、ありがと、ござ、ます……!」
「よいっしょ! 乗りましたわ、出して頂戴な」
「はい、お嬢様。では出発致します」
「燐音さん、夏休み中にどこかへ行く用事はありまして?」
「ん~? ないよ?」
「七瀬財閥で管理しているリゾート地がありますの! もちろん、VRダイブシステムも用意されていますから、ログインの件も問題ありませんわっ! 一緒にどうかしらと思って」
「わ~……。私なんかが行っても良いところなの?」
「もちろんですわ! 浄化されて管理された海岸、屋内プール施設、キャンプ、バーベキュー、他にもレクリエーション施設がありますわ!」
「おお~~……」
わ~それは凄い、行きたいけど~……お金の面とか大丈夫かな、仕送り分で足りるかな……。なんせ真弓に買って貰っちゃった水着だけでも15万円、他にもアクセサリーとか小物を諸々合わせて40万円、真弓の『ちょっとお金が必要かもしれませんわね』の"ちょっと"が、私とかけ離れてる可能性が高いからね……。
「あの、一応……。ギルドメンバーさんにも、招待状を出そうと思っていますの……」
「あ、オフ会……ってやつ?」
「あっ! そうですわ、オフ会に招待という形にすればいいのですわね!」
「その方が自然だと思うけど、大丈夫? 高すぎて誰も来られないとか、ない?」
「それは大丈夫ですわ! 宿泊費から施設利用費まで無料で提供しようと思っていましたから!」
「それはそれで大丈夫なの……?」
「少しは取ったほうがいいかしら……」
「一般的な金額より安いぐらいにしたほうが良いと思うよ。無料だと萎縮しちゃう気がする、逆にお金を出して貰ったら、一応お金を払ってるんだから楽しもうって気になると思うけど」
「遠方のメンバーさんは、移動費も支給するつもりで……」
「それも、8割負担とか。2割は出して貰うって形にしたら、気分的に違うと思うけど」
「なるほどなるほど、燐音さんに相談して正解でしたわね……!」
オフ会、かあ~。リゾート地でオフ会……。宿泊施設にはVRダイブシステムまで完備されたリゾート地でのオフ会……。世間一般的なオフ会よりも、死ぬほど豪華なものになる気がするけど……。夏の思い出作りとしては良いかもしれないね。
「というか、そんなリゾート地あったんだ。聞いたことなかったよ」
「今年から遂にオープンしますの! プロジェクト自体は前々から進んでいたのですけれど、やはり海の浄化が難しくって。今回遂に安全性を確保出来ましたから、招待という形に」
「それなら、テスターとして招いたら? 少しの参加費用で、利用感とかをちょろっと提出して貰うことで協力したって気にさせたら、相手もそこまで遠慮したりはしないと思う」
「まあ! それが良いですわね! それを採用しますわっ!」
「ところでペルちゃんが七瀬財閥の~ってバレちゃうけど、それはいいの?」
「え? わたくしがそうだと知らない人がいますの?」
「あ、そうですね。知らないほうがおかしいですね」
「そうでしょう? どうやってもバレるなら、逆に堂々とバラしたほうが余計な詮索をされませんもの! それに知ったところで、どうこう出来る相手なんていませんもの、ね?」
「ソ、ソウデスネー……!」
うんうん、ペルセウスが真弓だって知らない人のほうがおかしいよね。案外わかってない人もいそうだけど……もってぃとか。リアル身バレなんて気にしてる人、そもそもこのご時世にほとんど居ないだろうし。
「お嬢様、そろそろ到着致します」
「あら、もう到着なのね! じゃあまずは、夏のお洋服から見に行きませんこと? ナナセリゾートで着る服選びですわ~っ!」
「うん、色々見て回ろうね。服から見に行こ~っ」
さてさて、真弓とお決まりのおでかけスポットみたいになってきたニャオンモールに到着だ~。やっぱり実物を手に取ってのお買い物は、ネットショッピングでは得られない言い表すのが難しい快感があるよね。楽しくってついつい時間を忘れちゃうのが玉に瑕だけど、日頃のつまらない悩みとかがぜーんぶ吹っ飛ぶ気がして楽しいの!
「――――燐音さん! この服なんてどう? こっちが良いかしら? これも? これは?」
「待って待って真弓、そんなに一気に取っても合うか合わないか問題があるんだから……!」
「燐音さんにはちょっと小さいかしら? あ、これが良いですわ~っ! 燐音さんに白いワンピース、絶対に似合いますわ~っ! ねえ、ここからここまでくださいな」
「こ、ここ、ここから、ここまで、御座いますか!?」
「そう、全部。この住所に送って頂戴な」
前言撤回、真弓とのお買い物は別の意味で悩みが発生する。真弓のショッピングと私のショッピングに、絶望的な乖離があるわ。真弓はとりあえず買うっていうのが快感なタイプだ……!!
「待って、真弓にじっくり選んで貰ったものが欲しいの。全部は嫌」
「あっ……! ご、ごめんなさい、ちょっとじっくり選び直しますわね?」
「か、かしこまり、ました……」
今日は真弓が暴走しないように手綱をしっかり握っておかないと……。ああ~、私もゲーム内だと皆に『うわ、買いすぎ買いすぎ』って思われてるのかな~……。人の振り見て我が振り直せって言うけど、私も気をつけないとなあ~……。
「さっき見かけた、いちごパフェも食べに行きたいですわね……」
「いちごパフェは逃げないから、お洋服に集中して」
「いちごパフェでしたら、この階の下にありま――」
「あ! エステサロンの予約時間は間に合うかしら、後2時間ありますわね! 大丈夫でしたわ!」
「え、ええ……」
――――この後結局、真弓が色んな服の私が見たいってことで大量に購入することになった。あと、エステサロンで真弓は爆睡して、寝起きにステーキを食べ、その後平気な顔でチョコレートパフェも平らげた。私はいちごパフェの、"いちごパ"ぐらいまでしか入らなかった。残りは真弓が食べた……。私と真弓はもしかしたら、別の生き物なのかもしれない。多分そう、きっとそう。真弓は"お嬢様"っていう種類の生物なんだと思う。
◆ ◆ ◆
真弓は今日一日のお出かけに満足して帰っていった……。もう夜が近い夕暮れ時、夜ご飯にってお土産として渡された和牛サンドの入った箱を片手に帰宅……。帰宅……したかったんだけど……。
――――私の部屋の前に、誰か居るぅぅ……!!
いや、セキュリティ面としてまず部外者はこのマンションに入れない。つまりここの住人、7階の家政婦さん一家じゃないから1から6階の誰か、その誰かが私の部屋の前に居るということ。本来なら7階の家政婦さん一家か、他の階の人のところに逃げ込むべきなんだろうけど……。遠目に見てもなんか小さい子なんだよね。それにあの服……き、気になる……。
「…………あ」
「あっ」
向こうがこっちに気がついた、こっち来る! あ、あっ! 可愛い、ゴスロリ! えええ私服でゴスロリ着てるのこの子!? あれ、ちょっと待って、いやまさか、うん……!?
「リンネだ」
「あ、あれ、もしかして、あの……。レーナ、ちゃん……?!」
「んっ! ユリア・シャルノフ。6階に引っ越してきました。お仕事の都合、それに前の家が、浸水しちゃってダメ。くさい、集中できない」
「あ、え、えっと、七瀬燐音、です! よ、よろしくおねがいしますっ!」
「ナナセ……? んっ! よろしく、それで、相談」
「は、はい!?」
やっぱりレーナちゃんだ!! 本名は、ユリア・シャルノフって言うんだ……。日本人離れしてると思ったけど、やっぱりそうだったんだ! それで、相談って……?
「鍵、閉じ込めちゃった」
「えっ」
「電話も、閉じ込めちゃった。オートロック、慣れない……」
「えっ!!」
か、鍵と、電話を……。閉じ込めちゃったんですかぁ!? それでどうしよう~ってウロウロしてたってこと……?!
「7階の方は……」
「今日、不在。出かけてるみたい。他も、不在。大変困って、泣きそうだった」
「な、泣かないで……。うんうん、今ちょっと電話してみるから、ちょっと待っててください!」
「んっ……ありがとっ!!」
そっかぁ……。鍵閉じ込めかあ……。私も最初の頃は何回かやっちゃったなぁ、その都度7階の家政婦さんに開けてもらってたわ。生体認証装置の鍵にして貰ってからは、もう閉じ込めようがないから問題なくなったけど。
「もしもし、真弓? うん、ちょっとお願いがあって……」
――――この後無事に真弓が予備の鍵を手配してくれてレーナちゃんはお部屋に入れた。ついでに明日には生体認証装置の鍵に換えてくれるって。
ちなみに真弓もレーナちゃんが居たことに凄く驚いてた。名前は知ってて、メールとかメッセージでやり取りをしてたにはしてたらしいけど、まさかその相手がレーナちゃんだとは思っても居なかったって。数奇な出会いもあるものだね~……。今日は疲れたから、バビオンは軽めにこなして終わりにしよう~っと……!





