444 ログイン27日目 ~冴えている日~
『――――相談があるのじゃ』
どうしよう、イベントさんが居る。今日は何もイベント起こさないようにって思ってたのに、ログインしてバビロニクスのギルドホテルのロビーに出た途端これなんだけど。駄目よ、今日は駄目なの。私は明日真弓とお出かけするの、ごめんなさい見なかったことにして……。
『こ、これ! 無視するでない!!』
「無理、無理です。今日は大人しくする日って決めたんです」
『ちょっとだけじゃから! それにリンネ以外にも聞いて回っておるから!』
「ちょっとだけなら……」
おかしい、どうしてこうなるの。どうして、えきどにゃ様が初手で居るのよ。何でこういう時に限ってうちの従者は誰も居ないのよ! うおぉわああ~~全員おうごんきょーカッコカリに居るじゃ~~ん!! マリちゃんがテレポーター作ったのかな!? 絶対何か作ってる、ハウジング中! 見に行きたいよう、行きたいよう……。
『うむ、では手短に話そう! 実はのう――――』
全然ちょっとどころの話ではなかったえきどにゃ様の話は、いつの間にかテーブルの上に紅茶が出たりお菓子が並んだりそれが空っぽになるまで続いて、結局私は新しいイベント開始のフラグを踏んでしまいました。
今話をした内容を簡単にまとめると、カーミラさんが持ち帰った情報によってメギドが率いる"静寂の導き"なる組織がヨハンさんの故郷、デリランド魔導帝国に転がり込む為にデリランドの南にある小国、ナンナイア王国を攻め滅ぼそうとしているらしい。
カーミラさんが使者となってナンナイア王国に同盟、援護を申し出たもののナンナイア側はこれを拒否。自分達だけでその程度押し返せる、大国の力は借りないとかなり強気に出てこられたのだそう。そして今日の昼過ぎにメギド軍――面倒だから静寂のなんちゃらはメギド軍って呼ぶ――とナンナイアが衝突、ナンナイア側が見事に防衛に成功したもののかなり疲弊。メギド軍は態勢を立て直して第二次侵攻に向けて準備中なのだそう。
バビロン様はこれを機に旧カナンの制圧作戦を実行することを決断。今日の夜から出来れば明日の夜までに旧カナン殲滅及びヴァハール解放を目指すんだって。メギド軍が帰る場所をなくしちゃおうって狙いもあるみたいね。話は戻るけど、ナンナイアは恐らくこの時第二次侵攻を受けることになり、かなり厳しい状況まで追い詰められると予想されてる。バビロン様の見立てでは第二次侵攻は耐えられるものの、第三次侵攻には耐えられないと見てる。なのでこの第二次侵攻後、ナンナイア側と再度交渉を持ちかけようって流れみたい。
そしてここからやっと本題。えきどにゃ様が何でこんなに悩んでいるか……それはカナン制圧後が問題らしくって、カナン跡地は地獄の四神姉妹によって塗り替えられて"ヘーラヘイム"って名前になるらしいんだけど、このヘーラヘイムは隣国の偉大なる鋼鉄との国交を行う為に開発したいんだって。それをどういう形にすれば良いかが悩みどころらしくて、バビロン様の配下NPCが色んなプレイヤーに意見を聞き回っているのが今のこの状況らしい。
『脳みそが金属で出来とると言われておるドワーフと、全く情報のないダークエルフの住む国と国交をと言われても、何も思いつかないのじゃ! それにあの馬鹿デカい壁、完全に国交断固拒否の構えじゃ!』
「ん~……」
「確かに困りましたわね~」
「ね~。僕も話聞いたんだけどさ、ぴーんと来るものがないんだよね」
「近寄ったら即攻撃、話なんぞ聞かねえって連中らしいな」
そして長話をしていたらいつの間にかペルちゃんも居るし、お昼寝さんがお菓子の追加を持ってくるし、ハッゲさんは新しいお茶を淹れてくれてるし……。ごめんねペルちゃん、そんな目で見ないで。イベントが、イベントの方から私のところに来たんだもん……。嘘じゃないもん……。私悪くないもん!! あ、そうだ!!
「イベントの方からこっちに来ればいいんじゃないですか?」
『は? なんじゃって?』
「な、なんて?」
「あ、悪い、溢しちまった」
「え、いえ、別に大丈夫……な、なんですって?」
「こっちから行って駄目なら、向こうから来て貰えばいいんですよ。ね?」
「ね、じゃないけど」
「俺に向けてのね、じゃないよな?」
『妾でもない、ぜったいちがう』
「リンネさんの脳みその中身をちょっと出して貰えませんこと?」
「え、脳みそ出したら私死んじゃうから出せないです……」
「ティアちゃんみたいなこと言わないでくださいましっ!?」
近寄れないなら向こうから近寄って来るように仕向ければいいのよ、こっちがどれだけ押しても駄目なら向こうから出てこさせれば良い。これから自由に開発していい場所なら、そしてえきどにゃ様が一部を担当出来るなら簡単なことよ、きっと!
『そ、それで、向こうから……とは?』
「あーあ、聞いちゃうんだ。僕知らないよ、頑張ってねえきどにゃ様」
「リンネさんに話しかけた時点で最初からお終いですわ!」
「簡単ですよ、簡単簡単。向こうが興味を出すものをずらーっと並べておけばいいんですよ。とりあえず第二カナンが隣接してるほうですし、そっちをまずは一気に殲滅して解放しましょうよ」
「それは誰が殲滅しに行くんだ……」
「え? あ~……」
そっか、誰が殲滅しに行くのか考えてなかったなあ~……。ゴリアテさん達がバビロンガーエックスでドッカンバッタンやれば終わったりしない? あ、そうだそうだ!
「あっ! そういえば、飛空艇ってそろそろ改修終わるんですよね?」
「嘘でしょ、まさか……」
「初陣負けちゃったんで、次は勝ちたいですよね。ねっ!」
飛空艇シンギュラリティ号が改修終わる頃だよね! 携わってる人達もそろそろ本気で活躍する飛空艇が見たいだろうし、ちょうどいい機会だから出せばいいと思う。そうすれば私が不在でも戦力足りるよね! 空から圧倒的な大質量で攻撃すれば、カナンの残党なんてあっという間に片付くはず!
「シンギュラリティ号から爆撃して、カナン殲滅しちゃいましょう! 手っ取り早く片付きますよ!」
『ちょ、ちょ、ちょっちょ、バビロン様に報告してくる……のじゃっ!』
我ながら完璧なプランだわ……。これで私は出撃しなくても大きな戦果を残せるし、おにーちゃんはシンギュラリティ号でリベンジが出来るし、シンギュラリティ号の改修性能のテストも出来るし……あっ! そうだ!
「あ、そうだ」
「もうやめて」
「まだありますの!?」
「ぐっ……。飲んでる最中は、げほっ……やめてくれ……」
「カナンって海の近くですし」
ついでだからアレもやっちゃおう! カナンの立地を見た時から一度やってみたいと思ってたんだよね、この作戦!
「第一カナンの方は海上から魔術師さん達に攻撃して貰って、カナンを大津波で沈めちゃいましょう! 第二はヴァハールさん達が地下にいて危ないですからね、第一は津波攻めがいいですね」
「わあ……。わあ……」
「不死にダメージがなかったとしても大混乱になると思うので、それに乗じて攻め込めば防衛も何もないでしょうからね。やっちゃえばいいと思います!」
『そ、それも伝えてくるのじゃあ……!!』
「陸海空全面からの攻撃、敵将は遠征先で不在、立て直せるはずないです! やっぱり攻め込む時は相手の判断力を極限まで低下させるのが一番! 防衛っていうのは余裕があればあるほど有利になりますからね、初手から余裕なしにしちゃえばいいんです! それにどうせカナンは更地にして全部立て直しなんですから、徹底的に攻撃して更地にしたほうが楽です」
これで私がいなくてもカナン制圧は楽に成功しそうですね……。あ、ハッゲさんの淹れてくれた紅茶おいしい。クッキーも食べちゃお~。わ、このいちごムースみたいなのが乗っかってるクッキー美味しい! 一通り全部食べちゃお、えへへ……いただきまーす。
『――リンネ~! そういえばドワーフ達が興味を持ちそうなものって、なんじゃ!?』
「お酒とかじゃないんですか? ローラちゃんとかねーさん辺りを中心に、毎日グレイトメタルから見える場所で宴会させてたら向こうから来ますよ、多分」
「ダークエルフにはそれはどうなんですの……?」
「ああ! そうだ、ドワーフが酒好きなのは間違いねえ。ガトランタで実況解説をやってたドワーフが大の酒飲み、旧友も酒が死ぬほど好きって言ってたな。ただし祖国では酒造向きの作物がなくてマズイ酒ばかりで嫌になるとか言ってたぜ」
「ほら、決まりですよ決まり。珍しいお酒ずらーっと並べて、毎日楽しそうにしてたら来ますよ多分」
「それで本当に来ますの……? 絶対罠にしか見えませんわ……」
「一人ぐらい好奇心に負けるでしょ。その一人が最高の思いをして帰ってきたら、もうそこから崩れますよきっと。向こうから勝手に崩れたなら、話も聞いて貰えるんじゃないですかね」
『の、のじゃ……っ!』
あっ! 約束まで残り1時間ちょっとしかない! ペルちゃんが来てから2時間って、あっという間に終わりじゃん! 流石に皆のところに顔を見せないのはマズイだろうし、あ~バビロン様に会いたい……。いや、今は多分忙しいよね。今度にしよ~っと! バビロン様にお祈りだけにして、ペルちゃんとおうごんきょーカッコカリに行って、今日はそれで終わりにしようかな?
「ペルちゃん、後でおうごんきょー行こっ! 様子だけみて今日終わりにしたーい」
「え、ええ、はい、そうですわね……? そうね!」
クッキー全部一通り食べたら行こうっと、やっぱりこのいちごムースのヤツが一番好き! 私もしかしていちごが大好きなのかな? 結構いちご系のスイーツ食べてる気がする、これは新発見かも……。今度リアルでもいちご系のスイーツ見かけたら違うのも一緒に頼んで食べ比べてみよう。いちごのほうが美味しいって感じたら、きっとそうってことだよねっ! そうだっ! 明日ペルちゃんとはんぶんこすれば良いんだ、そうしよ~っ! 楽しみが増えちゃった、明日のお出かけが待ち遠しいな~……。





