436 ジャアクナルモノ・4
龍種の魔術とは非常に大雑把、かつ威力がデタラメなものが多い。人間の使う魔術を使うには龍種の魔力は強力過ぎるため、構成や発動が非常に困難を極める。故に独自に作り出した龍言語を用いて構成と発動の簡素化、威力は発動する龍が魔力を込めれば込めただけ跳ね上がる凶悪な龍魔術を使用する。
では、龍種が人間の魔術を使えるとしたらどうか? 並外れた器用さと繊細さ、気が遠くなる程の訓練を重ねた末、自身の持つ魔力を完全に制御し、完璧に操作出来るとしたらどうか?
『ファーブニルが【クアドラプルマジック・ディレイマジッククアドラプル】を発動スタンバイ』
非常に燃費が良い人間の魔術を容易に操り、更に純粋で絶大な威力の古代神術も難なく発動する。更にこれらを複数同時に発動して合成、手数と威力と汎用性、どの面でも優れている強力な複合魔術を発動出来るということ。ファーブニルが強力なのは手数の多さだけではない。この魔術を発動したら次はどうするか、相手がどう対処するかを予想して次の行動に移っている。
私達の中でこの強力な攻撃を妨害するのに、誰かが突っ込まなければならない。全員で突っ込んでも良い、でもそれは二の矢を撃たれるだけ。二の矢を撃たせないにはどうするか。それを考えて行動しなければならない。
『【金色斬滅驟雨】を発動』
『ファーブニルが行動をキャンセルし、【クアドラプルプロティシルド】を発動、攻撃を無効化しました』
『なかなかの威力の斬撃、しかしッ!! 我が拳、既にッ!!』
『邪龍ファーブニルが【一極・波動衝撃剛拳】を発動、衝撃波が一極集中で襲いかかります』
これまでのドラゴンと格が違う。戦闘技量がずば抜けている。驕り高ぶり尊大な態度を取るのはドラゴンらしい、しかし自分の弱さを理解している。四連魔術で遅延四連魔術を準備し、十六連魔術という凶悪な攻撃を見せて誰かの行動を誘発する。これが間に合えば大きなアドバンテージ、間に合わなかったとしたら突出した一人を狩り取るために準備していた格闘スキルで確実に攻撃を与えることが出来る。頭が良い、雑なように見えて戦闘の全体をコントロールしている。
でも、読めているのは大きな流れだけで、その流れを破壊するような異常行動には対応が出来ない。
「開け、黄金の扉」
『【金錬術・黄金回廊】を発動、特定の箇所に黄金回廊が開きます』
『PROTECT! 黄金回廊への干渉を防ぎました』
『なん……!?』
「釣られたのは、お前の方だ」
私は元から攻撃をするつもりも、受けるつもりもなかった。だから攻撃が派手で威力もそこそこで無視できない金色斬滅驟雨を選んだ。これはティアちゃんのカオスランサーストームの強化版と、私の魔神斬滅波が合体した綺羅びやかな黄金の輝きを放つ斬撃を飛ばすスキル。いわば、目眩まし。本当の目的はファーブニルの強攻撃を誘い、黄金回廊を開いて後方へ退却すること。黄金回廊は超短距離にも繋ぐことが出来る……当然、この玉座の間の入り口にも。
『黄金回廊を閉じます』
『MISS……。ファーブニルの攻撃対象が存在しません』
一人討ち取った、確信の一撃だったはず。当然大振り、空振ったからには後隙が大きい。この隙を見逃してくれるような戦士は、今この玉座の間には誰も居ない。当然誰にも赦されない、致命的な後隙!!
「隙あり、ですねえ~……! 奥義ッ……!」
「その首、貰い受ける!! 奥義!!」
「覚悟せえ!! 奥義の使い所や!!」
『な……めるなあああああああああああ!!』
『ファーブニルが【邪龍咆哮撃】【クアドラプルマジック・プロティシルド】を発動』
『カーミラが【ムーンライトカーテン】を解除しました』
『つくねが【フルチャージ・超龍砲】を発動、Destroy! ファーブニルの攻撃・防御を全て破壊しました!』
『――――?!』
ここに入る時、お前のブレスを打ち消したのが誰か忘れたか。それも無理はない、なんせずっとこの瞬間のためにカーミラさんがつくねちゃんを隠していたのだから。つくねちゃんの破壊力の前に、生半可な範囲攻撃と防御を選んだのは大きな間違いよ。
『姫千代が【葬滅斬】を構えました』
『氷華のユキノが【縮地】【奥義:燕返し】を構えました』
『逢魔のレイジが【奥義:牡丹】を構えました』
誰かは止めなければならない。しかし全員を止めようとすれば間違いなく能力は不足する。痛手を背負うことになるけれど、最低でも誰か……死の影が揺らめくレイジさんか、真っ直ぐに首を叩き落さんとする千代か、それとも正体不明の恐怖心を植え付けてきたユキノさんか……。
『【金色斬滅驟雨】を発動』
「ッ! 死の雷よ、重なりて跳ねよ」
『三日月の姫君・カーミラが【ダブルマジック・アビスライトニング】を発動』
『くあああああっ!!』
『ファーブニルが【波動衝撃剛拳】を発動、衝撃波が襲いかかります』
広範囲の衝撃波、一極していればまだ可能性があっただろうに、カーミラさんまで気がついて追撃したこちらの攻撃に、その覚悟のない拳が通用するはずがないでしょうが!!
『相殺! ファーブニルの攻撃が打ち消されました』
『……ッ! ……ッ!!』
いいや、この程度で英雄フリオニールともあろうものが死ぬ寸前、ボロボロになるほど苦戦するはずがない。ファーブニルはこの程度ではない、この程度が最強の龍種なはずがない。
「つくねちゃん、激震!」
「フライ」
『三日月の姫君・カーミラが【飛翔】状態になりました』
『【浮遊】を発動します』
「ええ!? ああっ!!」
『つくねが【超、大激震!】を発動』
幸い前に出た全員が接地状態、まだ間に合う。申し訳ないけれど、転けて貰う!
『――――かっはははは!! はあああああああああッ!!』
『ファーブニルが奥義【邪龍深淵衝撃踏襲】を発動!』
「むっ……!」
「あらっ!」
「なんや……!?」
「トラクタービーム!」
『三日月の姫君・カーミラが【トラクタービーム】を発動、姫千代・ユキノ・レイジが引き寄せられます』
『相殺! つくねの攻撃が打ち消されました』
打つ手なしと見せかけて、まだ強烈な衝撃波攻撃を残してた! 面白い、二の矢どころか本命の三の矢を確実に決めるために腹芸まで出来るのね、この熟成肉は! しかし寸のところで攻撃をかわした。守護結界の強化が剥がれて能力が減衰してなかったら、まず間違いなく今の攻撃はつくねちゃんだけでは防げなかった。トラクタービームで前に出た三人を強制的に引き上げて回収した、これでまたにらめっこの形に戻ったわけね。
『なんだと……!?』
「戦況がふりだしに戻りました、ね」
「なんやあいつ、余裕ないフリなんかしよってからに!」
「なかなか、油断なりませぬ」
「もうちょっとでサクッと出来たのに~……」
完全にふりだしに戻ったわけでもない。相手にこちらの攻撃能力を知られた、逆にこちらも相手のどの攻撃をどれで防ぎきれるかがわかった。お互いに二の矢を持ち、現状を打開出来る強力なスキルを持っている。あれが奥義だというなら、恐らくそれを超える神技も持っているはず。懐に温めたまま抱えて死んで貰うか、出させた上でそれを超えるしかない。
――――よし、攻撃の手を変えよう。
「穿て、カーススピア」
『【カーススピア】を発動、ファーブニルに500Kダメージを与えました』
『なんだ……? その、無様な魔術は! ははははははっ!!』
あれ…………なんだ、簡単に当たっちゃった。脅威なしの攻撃は避けるのも面倒だって? バリアかペネトレイトでも張ってるかと思ったら何もなしなんだ。警戒して損した、じゃあ二の矢は要らないじゃない。バリア、ペネトレイトがあると思っての波状攻撃だったのに……。
「なんだ……ガッカリした」
『それはこちらのセリフだ、このような無様な術』
『刻印【串刺公】を発動、ファーブニルに450,400Kダメージを与えました』
『無詠唱!? ガアアァァァアアアア!?』
足元から突如攻撃されることに対応出来ないなら、もうこれで終わらせてやろう。ティアちゃんの機動力に左手の刻印、これで串刺しにする。
「トリプルマキシマイズマジック。我が父よ、その力を示せ」
『三日月の姫君・カーミラが【トリプルマキシマイズマジック・串刺公の蹂躙】を発動』
『刻印【串刺公】を発動、スキルリンク! ファーブニルに合計3,657,779Kダメージを与えました』
『ファーブニルが【飛翔】を発動』
『姫千代が【神雷脚】を発動』
『氷華のユキノが【縮地】を発動』
『逢魔のレイジが【闇雲】を発動』
『つくねが飛び上がり【全身全霊・爆滅の炎槌】を発動スタンバイ!』
『くぁあああ……!! おのれええええ!! どこだッ!!』
「ダーリ・トゥム・ダーリ――――」
「ダーリ・トゥム・ダーリ。終焉は斯くして記されるであろう――――」
飛び上がった時の土埃に紛れて四人が消えた。ファーブニルが見つけられたのは右手側の私と、左手側のカーミラさんだけ。挟み撃ちの形、それも用意しているのは強力などちらも古代神術、暗黒球体。
明らかにファーブニルから余裕が消えた。本来ならば既に誰かしらを倒せているはずの計算、しかし誰も倒せていない上に、四人が行方不明で二人は確実に殺しに来ている強力な古代神術を用意している。絶体絶命、着地すれば再度防ぎ難い足元や腹への集中砲火。それへの対策へ注力すれば、次こそは近接戦闘職の強烈な斬撃を受けることになる。対応が急に、苦しくなった。
『斯くなる上は……ッ!!』
『ファーブニルが神技【邪龍冥毒汚染】を発動!』
『ブレインストーム発動、【超解析】が発動』
やっぱり使ってきた神技を……! 支配している領域全てを、汎ゆる病毒、精神汚染や肉体の崩壊を引き起こす災厄空間へと変えて汚染する、超広範囲の領域破壊攻撃……。金銀財宝すらも腐り朽ち果ててしまう故に、黄金郷を手に入れる意味がなくなる最終手段……!! それほどまでに本気、財宝と自らの命を天秤にかけ、自らの命を選択した行動!! この神技への、対策は……!
「(リンネさん、これはもう……!)」
「(大丈夫、まだ……あります。出来立てほやほやの、切り札が!)」
「無よ、顕現せよ。お前の存在を私が認める」
『神器【存在する無】の効果を発動。3分間、周囲の領域を【無】に固定します』
『30秒間、強制的に【無】状態になります』
『MISS……。ファーブニルが支配している領域が存在しません。【邪龍冥毒汚染】に失敗しました』
『…………ァア!?』
私も切り札、発動!! 特殊装備『存在する無』の効果、周囲の領域を【無】に固定する代わりに、自分自身が反動で【無】状態になる神器……。これは、ティアちゃんの後継として作り出された子、ワンと呼ばれていた子の死体から作り出された装備。持ってきてくれたのは実はティアちゃんで『この子もお願いします』って……。魂がなくて蘇らせることが出来なかったから、ティアちゃんの望み通りにして出来たのが、この無。
『HPが1になり、回復しない状態になりました』
『MPが1になり、回復しない状態になりました』
『職ポイントが0になり、回復しない状態になりました』
『全てのスキルが使用不可状態になりました』
『強制行動不能状態に陥りました』
『五感が遮断されます』
ただ反動がさ、ここまで凄まじいとは思わなかったんだよね!! 30秒間も絶体絶命の状態、しかも行動不能で五感を遮断、ログまで表示されないとは思わないじゃない!? 一瞬だけわかったのは、周囲の領域が色も何もない真っ黒な世界になって、もうそこからは音も感触も視界も、何もかもがシャットアウトよ!
『(リンネ様~! つくね様が、どっか~んって! ファーブニルの背中にどっか~んしましたよ!!)』
『(あ、リンネ様をカーミラ様が守ってくれてます! 安心ですっ! 無の空間に足場も用意してくれてます~っ!)』
『(姫千代様とユキノ様とレイジ様が、足場をぴょんぴょんって、そしてしゃきーんって、ばしゅーんって、凄いですっ!!)』
え、あ、感覚は消えてもティアちゃんの声が、直接脳に伝わってくるんだけど……! 第六感、超感覚で繋がってるってやつ? 30秒間、どうしようどうしようって不安で押し潰されそうだったけど、ティアちゃんのほのぼの実況が、私の不安を癒やしてくれる……!!
『(ファーブニルが暴れてます~っ! でも、つくね様が、がおーって、ばーんってしてます!)』
『(姫千代様が奥義って言ってます! ユキノ様も、レイジ様も奥義だそうですっ!)』
『(がんばれ~っ! あ、ティアも頑張らないと……! リンネ様、早く早く~っ!!)』
がおー、ばーんは多分ね、超龍砲かな。剣士組は今度こそ奥義を繰り出したのね、見える……。私にもティアちゃんが見ている世界が、戦況が……! すごく、ゆるくてふわっとしたコミカルな絵面で!!
『【無】の状態から脱しました』
「やった……!」
「ファーブニル、討ち取ったりッ!!」
「心臓~~!! 心臓心臓、活きの良い心臓貰いま~すっ!!」
「か、勝ったんかいな……! アカン、鳥肌立って――」
いやああああ一番良いところ見逃してるぅうう!! ぎゃあああああーー!! あ、ここだ。絶対ここで来る。私ならここで殺る。
『特殊な金錬術【魔力再生】【能力再生】【能力再生】【反動消滅】を発動、MPを完全に回復。職ポイントを40回復。クールタイム中のスキルが解除されました』
『――――汝の愚かさを知るだろう。ホーリースマイトッ!!』
ほら来た、馬鹿め。
『救済の聖女・オルヴィスから999,999Kダメージを受け、全て吸収しました』
「なんや、こいつ!? どっから……!?」
「心臓だけ貰いました~! 後で食べますっ!」
「さて、ここからで御座いますね」
『不死者の分際で、今の一撃を……? 確実に、死にかけていたはず……』
「それだけ目玉がいっぱいあって、全部節穴とはね」
『ふっ、強がっても無駄です。既に手札は丸見え、今の一撃で倒せないのであれば手を変えれば良いだけのこと。それに全員が切り札を使い果たして、まさかこの私に……勝てるとでも?』
そうね、切り札を切ってたら勝てないだろうね。確かに戦況チェッカーで見てみれば、つくねちゃんとレイジさんとユキノさんは究極スキルと神技を切った。金錬術も結構使って残り使える金が40枚とちょいしかない。
『【アンデッド憑依】を解除します』
『おや、降参ですか? 貴方が一番強いのに、その力を手放しては少しの抵抗も出来ずに死んでしまいますよ? 手数が増えれば良いというものでは……』
――――バリッ……。バリッ……。バリッ……。
『…………ふざけているのか、カーミラ…………ッ!!』
「うちのどん太は躾が良いし賢いから、そんなに吠えないのよ」
『何の、話を……!』
「弱い犬ほどよく吠えるって言うでしょ。随分吠えるなあって」
『良いでしょう。そんなに死にたいのであれば、望み通り――――』
「――――これは失礼、いつもは……。ちゅるっ……んっ……。もっと丹念に、味わって舐めるのですが。急いでいましたので」
「今度お詫びします」
「約束ですよ」
さて、今切り札が出来た。ヴァルフリートさんにこいつの特徴を聞いていてよかった。獲物を前に舌舐めずりをするタイプ、これから殺す相手を気持ちよく殺すためにお喋りをしたがる狂人。
まず最初の一発は奇襲だと読んだのがドンピシャ、この挨拶代わりの一撃を耐えたらお喋りをさせて時間を稼ぐ。あくまで向こうが優位、こちらが負けそうな雰囲気を醸しつつとにかく時間を稼ぐこと。さあ、ここまでは上手く行った。ここまでは。
『お前たちに今度など、訪れるはずがないではありませんか……。今食べた飴が、まさか切り札とでも? ふっ、ふふっ……!』
「ええ、そうです。飴を舐めると気分が良くなるので……。ふふ、ふふ……」
『――――三日月の姫君が、満月の女王の力を取り戻します』
『ふふっ……。その姿を取り戻したとしても、私に到底及ばないことは理解出来ているでしょう? 貴方と私には、絶望的な差があるのですから』
『そうですねえ……。まず、最悪の相性と言って良いでしょう。勝てる見込みはゼロに等しい、それは理解しています』
『ならばそれがどれだけの差か、周りの者に教えて差し上げましょう。さあ、これから惨たらしく死ぬ準備は出来まし――』
『――――ですので、その絶望的な差とやらを埋めさせて頂きます』
緊張してきた。大丈夫、やれる。信じる心が大事、信じる、心が!!
「……私に、力を!!」
『貴方の、力となりましょう』
『まさ――』
『【アンデッド憑依】を発動、最上位アンデッド憑依! 【ジャアクナルモノ】状態になり、全てのステータスが驚異的に激増します!』
ああ……。やった……。ああ、やった。やってやろう。やろう。
「――――さっきまでのお喋りは? 余裕と自信に満ち溢れた嘲笑は? これから惨たらしく死ぬ準備は…………オーケー?」





