432 ぶっちぎりでイカれた女・22
「サイレントフィールド!」
「ゴールドプロテクションッ!」
『デロナが【サイレントフィールド】を発動、周囲に遮音結界が広がります』
『ティアラが【金錬術:ゴールドプロテクション】を発動、ティアラが許可しない者からの干渉を遮断します』
『PROTECT! 【ゴールドプロテクション】が干渉を遮断しました』
各班の再編成を進めていて、私がずっと感じていた違和感が更に大きなものになってきた。この話を外部に漏らすわけにはいかないので、デロナちゃんとティアラちゃんに二重で結界を張って貰い、全員で会議をすることにした。
「ドラゴンらしく、ない?」
「はい、つくねちゃんが怒っていたドラゴンらしくない戦い方というのが、ずっと気になっていて」
「い、一部には、ビビリのもいいいいるんじゃ、ないの……?」
「ヴァルフリートさんやヴァハール王のように知的なドラゴンは非常に稀、むしろ知性が働けば無謀な侵略、リスクの高い行動は避けるはず。それこそヴァハール王はチャンスが来るまで待ち続け、そのチャンスを確実なものにするために様々な手を尽くした。ファーブニルはせっかく転がり込んできたチャンスの扱いが、雑なんです」
『言われてみれば確かに歪だ。奇襲と制圧はドラゴンらしい強硬手段、そのくせ防衛に回れば堅実な戦い方を取る。まるで真逆、多重人格者のような奴だ』
『普段はビビってひっそりとしてるのに、戦闘になりゃブチギレて手がつけられない狂戦士ってのは昔からいるもんさ』
ファーブニルの戦い方に違和感を感じる。これまで相手にして来たドラゴンのどれとも異なる、力と頭脳の使い方が極端なタイプのリーダー。黄金の女王が逃げ出し、時の神クロノスが機能不全、私達も消耗したベストなタイミングでの力任せの強襲。その後は防衛の為に自身の領域を拡大、死体から眷属を生み出し城を防衛させ、守護龍を四箇所に配置して自身を強化、攻略困難な要塞へと作り替えた。
「本当にファーブニルは、一匹だけですか?」
『なんだって?』
『間違いないよ、一匹だけだった』
『(;´∀`)』
「ええ、間違いなく一匹でしたよリンネさん」
「間違いなく一匹、単独でしたわ!」
「頭が二つあった、なんてことは?」
『いや、一つだった。対峙したのはものの数秒だが、間違いなく頭は一つだ』
『双頭の龍種なんているのかい?』
『ああ、ヴァハール神龍王国に双頭の龍闘士がいる。双頭の龍は実在する。だがファーブニルは間違いなく一つ頭、双頭ではない』
『実在するのか……』
「確かに言われてみればおかしいよねえ。それに龍って複雑な術を使うのが困難じゃなかったのかい? ほら、つくねちゃんのところのラージウスくん。かなりの期間修行をして術が使えるようになった、特殊なタイプなんだろう? そんなドラゴンが世の中に何体もいるのかい?」
『確かに異常だ。これほどまでに複雑、かつ同時にいくつもの術と陣を発動出来る龍種など考えにくい。龍の持つ魔力は純度と量が凄まじい。それらを繊細に使用するのは非常に困難を極める。特に巨大な龍種ともなればそれは顕著だ』
そもそもファーブニルが単体でこれらの作戦を立案、実行出来るものだろうか。言語能力が高く、割と頭が良い方とされるレッドドラゴンの長、女帝ドレイクも怒り狂っていたとは言え、ローレイに攻め込んで来た時は勢い任せで作戦などなかった。
ファーブニルは違う……何十年何百年と機会を待ち、隠れて疫病で苦しめ、チャンスを窺っていた。でも突如としてドラゴンらしい力押しに切り替え、またしても突如ドラゴンらしくない堅実な作戦に切り替え防衛に回っている。しかしファーブニルは一匹だけ、多頭の龍種ではない。頭脳は一つだけ……。なにか、見落としている気がする。
「そもそも、カーミラさんがファーブニルの様子を既に探りに一度忍び込んでいましてよ? 敵将はファーブニルのみ、付き従う守護龍は四匹、強力な結界に守られていると報告を頂いたのではなくって?」
『違和感は感じるが、龍種は元から気分屋な面もある。その時の気分一つで、作戦の良し悪しが大きく差が出るのではないか?』
「リンネも、勢いの時多い~」
「確かに私も勢いの時が多いですし、作戦の良し悪しの幅が大きいのはあります。でも、思考に一貫性はあるほうだと思ってます」
「一貫性がある……? あるかな……? あるかも……」
「いや、ないやろ!」
「リンネさん、確かに玉座の間にはファーブニルのみ。強烈な瘴気を放ち、眷属を生み出す術を行使していました。この目で確かに見たのですから、間違いなく」
カーミラさんの目は凄まじい力を持っている。暗闇の中でも、隠れた存在でも、能力さえも見抜く力を持っているはず。そのカーミラさんが確認したのだから間違いない情報、それに玉座の間を襲撃された時にカーミラさんはファーブニルを目撃している。複数いるはずがない……。私の、考え過ぎ……?
「カーミラさん、あの……失礼かもしれないんですけど、いいですか……?」
「はい、なんですかリンネさん」
「カーミラさんでさえも、本気で隠れられたら発見出来ない存在は、この世に存在しますか?」
「いいえ、そのような存在は…………」
「やっぱりそうですよね。ごめんなさい、失礼致しました」
やっぱり私の考え過ぎだ、この黄金郷のイベントは隠された内容が多いから警戒し過ぎてたのかもしれない。ファーブニルがこのエリアのラスボス、それを倒したら勝ち! 緊急クエストにだって【黄金郷を蝕む邪悪なる者を撃破せよ】って書いてあるし…………。いや、待って。邪悪なる者を撃破せよ……? 邪龍ファーブニルって判明してるのに、わざわざ遠回しな表現……。
「…………います。最上位の神々を除けば、数名」
『何……!?』
「カーミラさんの目を誤魔化せる程の方が、いらっしゃいますの!?」
『(;´∀`)!?』
「隠者のタミラ、大怪盗アルセーヌ、人類種の裏切り者オルヴィス、死の商人パーニェイナ。この四名に本気で隠れられたら、私でも発見することは不可能でしょう」
『タミラ、アルセーヌは既に故人デース。この世に既にいない者は、見つけられないでしょう、ねっ!』
「パーニェイナと、オルヴィスがここにいる可能性は……?」
「パーニェイナは居ないでしょう。黄金郷の金は怨念が籠もっていそうで触りたくないと言っていましたから。オルヴィスは……」
『オルヴィス、オルヴィスだと!!』
うわ、ヴァルフリートさんが珍しく声を荒らげてる……。一体どうしたの、もしかしてなんだけど知り合いだったりする……?
『破滅の魔女、漆黒の光、死の聖女、天使喰らいの狂人、あの残虐非道な、あのオルヴィスか!!』
「…………そのオルヴィスで、間違いないでしょう。それらの賤称を持つ者は、オルヴィスしかいません」
『我が故郷ヴァハール神龍王国は、オルヴィスの率いる軍勢によってあの穴蔵へと逃げ込むこととなった。我はオルヴィスと戦い、命を落としたのだ……!!』
「まさか、未だに生きているとは考えにくい」
「何を、した人、なんですか……?」
今、このオルヴィスなる人物の昔話を聞いている場合じゃないかもしれない。それでも、私はこのオルヴィスなる人物のことを知っておかねばならない気がする。とてもじゃないけれど、嫌な予感がする……!
「オルヴィスは表向きは大聖女、救済の化身と呼ばれた女性です。古き時代にカナン神王国にて聖言教と呼ばれる、今のメルティス教に匹敵する程の巨大宗教組織で聖女と呼ばれていたのがオルヴィスです。強く、優しく、美しく、慈悲深い。表向きはまさに大聖女、しかし裏では教祖メギドの障害となる者を情け容赦なく葬り、撃滅し、教祖メギドに全てを捧げることを生き甲斐とした狂信者として活動していました。教祖メギドこそが彼女の全て。メギドが望めば天使ですら喰らい、神ですら殺しかねない危険な女性です」
「わあ~リンネそっくり~」
「メギドをバビロン様、聖言教を魔神教に変えたらそのままリンネさんですわね!」
「え、でも私は自分で考えて、バビロン様のためを思って、私がしたいからやってることだから」
「しかしメギドは大昔にドワーフの国、偉大なる金属によって滅ぼされています。姉妹国であったシャウタ、メロウの仇討ちという形で国ごと滅ぼされています。その時オルヴィスもまた、メギドと共に戦死したと…………」
「メギド…………?」
メギド……? メギド、メギド、聞いたことがある。いやどこかで見たことがある。本当に一瞬だったけど、間違いなくどこかで……。思い出せ思い出せ、これは非常に重要な情報だよ! これが何かに繋がっていたら、これに気が付かないまま通り過ぎたら今回の二の舞いになる! 思い出せーー……ッ!! 何日か前だ、突然それを見たはず。覚えてるってことは記憶に強く焼き付いた出来事…………ああああ!!
「メギド、墓の王メギド!! 終焉を齎す破局をぶっ放して来た魔術師!!」
「…………」
「それは、現実の時間軸で、出会ったのですか……?」
「そう、この前ゼオちゃん達の故郷に行く途中で偶然出会して戦闘になったんだけど、圧倒的に不利だから逃げ出してきたの! いた、いたよ、メギド!!」
「墓の王という名まで知っているとなると、本当にあのメギドが、蘇った……。まさか……。あれ程の存在を蘇らせられるとしたら……!!」
『オルヴィスは、生きているのか……!! おのれ……!!』
「ヴァルくん~落ち着いて~? 怒るとお肉が硬くなっちゃうよ~?」
『…………ユキノ嬢、心配してくれるところがだな……』
じゃあ、何千分の一か、何万分の一かわからないけど、一応カーミラさんが感知不可能な相手がここにいる可能性はゼロではないってことだ! オルヴィス本人がいないにしても、オルヴィスの弟子とか子孫とかがいる可能性はあるってこと……。逆に、逆に考え――――。
「オルヴィスは、ヴァハール神龍王国を壊滅に追いやり、カナン神王国はシャウタとメロウを滅ぼした報復でドワーフの国、グレイトメタルに滅ぼされたんですよね」
『ああ、そうだ。そうなるはずだ』
「その通りです、リンネさん」
「オルヴィスは生きている可能性が非常に高い、その時の戦で命を落とさず生き延びた可能性が非常に高いということですよね」
「そう、なります。メギドが復活しているということは、そういうことでしょう」
まずい、今私の頭の中で、最悪のシナリオが急に、バラバラだったシナリオが急に、点と点だったものが線で結ばれていく……! 嘘だ、こんな、間違ってて欲しい。誰かに否定して貰わなければ、おかしくなりそう……!!
「オルヴィスは、シャウタの位置を、知っている」
「…………リンネさん?」
「シャウタに攻め込んだ目的は、パーフェクトキューブの奪取。恐らくメギドが欲しがったため、メギドに献上するため。しかしこれは失敗した。そして自身は壊滅的被害に遭い、数年か数十年かわかりませんが、歴史上から姿を消すことになる。しかし、いなくなったわけではない。何処かに身を隠した」
「リンネさん、もしかして、私達、研究所のこと……!」
「力をある程度取り戻した頃、オルヴィスは活動を再開。自身の全てであるメギドを復活させるために東奔西走、その中でパーフェクトキューブの存在を思い出すに至ったはず。しかしシャウタ跡地を探しても辿り着けない、そこにはゼオちゃん達の研究所が存在し隠されていたから。でも位置だけは間違いなく把握している、近づく手段が欲しい……」
「それで、デロナ、だったの……? あ、あ……そうだ、気持ち悪い、白いふわふわは……」
「デロナちゃんが出会ったのは天使じゃない。人類種の裏切り者オルヴィスだとしたら、そしてオルヴィスが未だに戦闘兵が徘徊しているシャウタに入るよりも、破壊された研究所に残されたモンスターと人間の融合実験の結果を見つけ、持ち帰ったとしたら……」
「まさか、メルティシアにあったキマイラ研究所は……。思えば、あれこそメルティスらしくない施設だ。オルヴィスが身を隠していた場所は……」
「メルティス教。メルティス教を自身の力を取り戻す巣として、搾取する装置として長年操り貪り続けていたとしたら、メルティス教がここまで極端に腐敗したのも、キマイラも、天使喰らいも、何もかも……」
このゲームのストーリーで、永遠に引っかかり続けていた違和感。たどり着かない黒幕の正体。もしこのオルヴィスが全ての黒幕だとしたら、オルヴィスが持っているであろう情報の全てが、違和感の全てに結びつく……。メルティス教がオルヴィスの餌場、力を吸い上げるための装置だとしたら……。
「最近になって、天使喰らいがパタリとなくなった。その代わり、地脈から原初のマナを吸い尽くされ捨てられた場所が何箇所かある。急に情勢が変わったことに焦って、これまで育ててきたものを焦って収穫しているのでは? だとしたら、オルヴィスは……」
「思えば人狼の死体から龍種に作り変えられたこれらの龍も、強力な龍種であるファーブニルの体組織を移植して作り出された……キマイラ……?」
「クーガーさん、適当な龍の死体を持ってきてくれ。龍化ではなく人体への移植によるキマイラ化なら、ベースとなった死体の痕跡が残っているはず。我が解剖する。あのキマイラ研究所にあったデータは我も目を通したから覚えている。この説が正しければ、我々は大変な相手と対峙していることになるぞ」
『な、なんだか大変なことになってるみたいだな、わかった! とりあえず一匹持ってくるぞ!』
だとしたら、ファーブニルの近くにカーミラさんが見つけられない協力者が、もう一つの頭脳があるとしたら、この極端な行動にも説明が付く……。付いてしまう。
「メルティスの動向の異変を感知出来たのも、オルヴィス程の実力者なら感知していてもおかしくはありません。まさかまだ生きていたとは、微塵も考えておりませんでした……」
「まだ決まったわけじゃない、ただこのオルヴィスなる人物が生きていて、私の想像の通りに動いていたとしたら、あまりにも辻褄が合う。都合が良すぎる話として、外れていて欲しいというのが本音ですが……」
『こいつでいいか! シールドドラゴンって奴らしい!』
「解剖する。苦手な奴はこっちを見ない方がいい」
『システム:情報の一部をマイルドな表現に切り替えました』
あ、シールドドラゴンが解剖されてる様子が、デフォルメ化されて可愛らしい描写に差し替えられてる……。リアルな世界観に、急にコミカルな映像が流れてるから違和感が半端じゃない……!! でもまあ、解剖の様子なんてリアルに見せられてたらトラウマものだしね。これがいい、これがベスト……。
「ドラゴン、おめめがばってん印になってる」
「ああ~。プレイエリア外ですって見えないようになってるねえ~」
「本当か? ああ、俺は料理の為にその表現オフにしてるから見えるのか。見ないほうが良いぜ」
「ほんまやなあ、ちょっと刺激強すぎるで」
「18歳以下はそもそも切り替え出来ませんわ!」
「私は大人のお姉さんだから見え」
「見ないほうが良いぜ」
「ハッゲが言うなら、見ない~。こわい~」
「…………キマイラだ。人体に龍種の体組織を移植し、魔術で急激に侵食を促進、回復と成長を驚異的な速度で繰り返して人為的に作られた、メルティシアのキマイラと同じ作られ方をしている」
最悪だ。最悪の想像が当たった。当たってしまった。
「ファーブニルの他に、頭がもう一つある。それはカーミラさんの目をもってしても発見することが出来ず、高度な魔術を操り、キマイラを作り出す知識を持ち、この空間に行き来することが出来る程の能力を持つ人物。その人物が居ない間にファーブニルが行動を起こした為に焦ってここにやって来て、ファーブニルには到底思いつかないような防衛術を展開し、裏から全てを操ろうとしている人物がここに、いる……!」
「人類種の裏切り者、オルヴィス……! まず間違いなく、ええ、そうでしょう……」
『オルヴィス……!!』
『システム:シークレットワールドクエスト【人類種の裏切り者・オルヴィスを撃滅せよ】が発生しました』
居る。確実に、この黄金郷に……玉座の間に。私達の前に一度も姿を現さず、暗躍し続けていた黒幕が。メルティスよりも邪悪な存在かもしれない、真の敵が……!
「これまでのどんな敵よりも厳しい戦闘になると思う。それでも、これ以上こいつの好きにさせてはならない。これが最初で最後のチャンスになるかもしれない。必ず、必ず仕留める!」





