429 ぶっちぎりでイカれた女・19
『ギャギャギャギャ、ギャァアアアア!!!』
「……効かねえ、効かねえんだよトカゲ野郎!! おらおらおらおらぁ!!」
『ギャッ!!?』
「こっちは、なあ! 魔王様!! 印の!! すっげえ加護が!! 付いてんだよ!!」
「メタルウォール!!」
『ガァァアア!!』
間違いなく、ああ間違いなくこいつらは、烏合の衆のハズだった。さっきまでは間違いなく烏合の衆、連携もクソもない、ただ自分の力を相手にぶつけるだけで技術も何もない。そんな連中だった。俺の部隊の練度と比べたらあまりにもお粗末で涙が出る程酷いものだった。
「囲まれんな、一匹一匹確実にぶっ殺せる場面を作っていこうぜ」
「ワイヤーセット、行くぜ!! アンクルショット!!」
『ガァァウウウ!!』
「足にワイヤーが絡まって転けたやつをぶっ殺せ! タタッチョ、首を落とせ!!」
「しゃーおらぁああ!! ギロチン、バスターーッ!!」
『ガギャ――――…………』
連携が、取れている。各々が持ち味を活かし、最大限のパフォーマンスを発揮しようと努力している。正直練度と言ったらまだまだだ。だが、こいつらはもう烏合の衆とは呼べない。明確な目標を持ち、己に自信を抱いた、勇敢な戦闘集団だ。
俺達と異界人の最大の差は、死を恐れないことだ。俺達はどうしても死んだら終わり、高位の神官が戦場にいるなどありえない、いたとしても信心深くない俺なんか生き返ることは出来ないだろうと、死を恐れる傾向が強い。だが、こいつらは……違う。
『ギャアアアアン!!』
「タタッチョ!!」
「くっそ、がぁ……!!」
「レミ、タタッチョが潰された! でも相打ちだ!!」
「今行きます!! いと慈悲深き地獄の女神よ、この者の死をお断りくださいませ! へーラ・リザレクション!!」
「……っしゃあ! 助かった、礼を言うぜ! 頼む、バフ回してくれ!!」
「――レインフォースエナジー!!」
「――リジェネーション!!」
死を恐れず、無謀な攻撃であっても敵を殺せるなら迷わずそれを選択する。そして驚くことに、こいつらは……失礼だが、リンネ達から比べれば下の中、下の上と言ったところ。まだまだ弱い、リンネ達には遠く及ばない程の実力の異界人ということだ。中よりも上、上に限りなく近い異界人となると、更に凄まじい活躍を見せている。
「――左翼が展開しようとしている、やらせるな!! 砲撃、術撃用意!! 叩いて潰せ!!」
「焼き尽くせ、ナパームレイン!!」
「焼け果て、絶滅せよ、絶滅焼夷弾」
「オーレギナル、フィルエ。アニェール、クレムナル、セフェア!!」
リンネの指令が飛べば、それに応えるように砲撃手と魔術師によって生み出される凶悪な死の雨が降り注ぐ。突撃に振り切った者は防御が甘い、左翼突破を狙った龍達が一網打尽に、逆に左翼をぶち抜かれて崩れるキッカケを作ってしまった。
正直俺の眼ではまだ、左翼が展開しようとしていたとは気が付かなかった。何を見ている? 何が見えている? この女は異常だ、ハッキリ言ってイカれている。初めは指揮能力が俺並にある女か……程度に考えていた。だが違う、そうではないとハッキリと感じたのは、黄金の女王と時の神の目論見を見事に当てた辺りからだ。その前となると、偽物の親友を暴いた辺りから異常さを感じていたが、ここまでイカれているとは思わなかった。いやむしろ、まだ俺はこの女の狂気の片鱗しか見ていないのではないか? 底が知れない、何が見えているのかわからない、ただその視線の先に確実に勝利が見えているのだけは理解できる。
「あっちの毒は効かねえ、こっちの攻撃はバンバン通る! なんか悪いな、ズルしてるみたいで、よっ!!」
『ガギャァ、アアア……!!』
「出過ぎるな! カバーしきれなくなる!!」
「華胥の夢の戦い方、見様見真似でやってるが、結構行けるな!!」
「伏せろ!!」
むっ……!! 毒が効かないと理解した一部の龍が、地面や城壁を投げつけての質量攻撃に切り替えたか!! どうする、これは対策がないぞ!!
『超魔神銃、掃射ッ!! 撃てッ!!』
『もう撃ってる!!』
『ふやぁ~』
『女王陛下!! それはミサイルのボタンだからだめぇ!!』
『ふぇ~……』
やるなぁ、あのデカブツ……! それに前より破壊力が増しているな……。あのイカれた軍団長が信仰している、いや狂信しているらしい絶対的な存在らしいが、あんなに緩くてフワッとした見た目なのだろうか。まさか、な。神、か……。自称金の神にはしょっちゅう会っていたが、本物の神はどんな存在なんだろうな。
『装填!』
「マーヤちゃん、あの希少鉱石でバンバン銃弾作って良いって!」
「よし来た、この世で最も希少で高価な銃弾! 作ってやろうじゃないの~!」
あれは、カースドコスモスメタル……。あれを銃弾に利用しているのか、途轍もなく高価な消耗品だな……。ゴールドが若干ゲッソリしているのは、あれを量産するのにかなり酷使させられたのだろうな。対してカースドコスモスメタルを生み出していたティアラ、新しい黄金の女王は疲労の気配すら見せていない。それどころか前よりも……。イカレ女の従者は全員規格外なのか? 唯一まともそうなのは、あの赤い騎士と龍将と……眼のやりどころに困る青髪の女か。それでも十分に強いようだが。
――――カァン……!
『何……!?』
『…………』
『ギャ、ガ――……』
「全軍通達!! アンチダイブトラップを展開!! 影を伝って奇襲する敵あり!!」
「にゃんにゃうにゃ~……!!」
『わふっ!』
「わかった、私も注意するねどん太」
『わうっ!!』
この密集した軍団の中、影を伝ってここまで奇襲を仕掛けに来た龍がいたのか……! こんな術を使う龍、今までみたことがない……!! いるのか、こんなドラゴンが! この世に!!
そして前言撤回、赤い騎士は只者ではない。振り返りもせず、奇襲で現れた瞬間には左手だけを動かして攻撃を盾で受けていた。その瞬間に一瞬だけ、剣を持った女が見えた……。幻覚などではない、間違いなく見えた。その剣を持った女が、暗殺者の首を一撃で刎ね飛ばしたのを確かに見た。だが瞬き一つの間にそれは見えなくなっていた……。恐らくあれが、赤い騎士の特殊能力。剣の乙女を召喚する能力を持っているのだろう……。超速度で繰り出される、ほぼ不可視の攻撃。恐ろしいなんてものじゃない。
「ナーイス、おにーちゃん」
『(*´ω`*)』
「かなりの数が潜ってます! バンバン引っかかります!」
「わっち、体が鈍ってしか、かか、たないから。ひひ、引っかかったの、借りる、ね? ね?」
「いいよ~つくねちゃん。上席者としての力を存分に振るって頂戴~」
「わあ~スベスベ~。中は柔らかいんですか~? 硬いんですか~?」
「確かめたら良いんじゃない?」
「そうですね~! 敵さんですから、確かめて良いんですね~! えいっ! あ、柔らか~い。焼いたら美味しいでしょうか?」
「ちょっと紫色が気持ち悪くて食べない方がいい気がするなあ~」
「舐めやがってトカゲ以下の!! ドラゴンの面汚しがァ!! 土竜野郎ッ!! 汚え手で、リンネちゃんに触ろうとしやがってッ!! クソッ!! クソッ!! 苛つくんだよ、ドラゴンらしくない戦い方がァ!! 恥を、知れェ!! 残り少ない脳みそに、後悔と恥を詰め込んでぶっ潰れろォ!!」
「あ~ストレス溜まってるね~。つくねちゃん……」
…………こいつらも、イカれてやがる。
「師匠!? ねえ師匠師匠!?」
『うるっさいねえ! あんたはジッとしてるってことが出来ないのかい!?』
「わたくしもあれ、やりたいですわ! ぱしゅ~んってしたいですわ!!」
『暴れると調子が良くなる龍の娘と、暴れると消耗するあんたじゃ、どっちが対処するべきかそれぐらいわかるだろう!?』
「暴れないとストレスが溜まりますのっ!!」
「じゃあ筋肉を殴ると良いです。ボッコボコにしたほうが良いです」
「クーガーさんを!? いけませんわ、大事な任務がありますもの!」
『なんでそれは理解できるのにジッとしてられないんだい!!』
『すまん……。すまん……』
『あんたもその図体でうじうじしてるんじゃないよ!! みっともない!!』
『オ、オーレリアちゃん、あ』
「シャーーッ!!」
『無策で話しかけるバカが居るかい!? だーーここにいるだけで疲れるよ、全くもってなんだいあんたらは!!』
なんだ、頭が痛くなってきたな……。本当にこれで、守護龍が倒せるのだろうか……。
「よう、食うか?」
『は……?』
「こっちに来てから、あんたが何かを食ったのを見たことがねえ。俺がかなりの量の飯を作って配ってるのに、だ」
『こんな時に食えるわけないだろ、第一なんだこの白いのは? 食い物なのか?』
何を考えてるんだ、このスキンヘッドの大男は……。こいつもバカなのか?
「気を張り詰めるのはまだ早えって言ってんだよ。今から緊張して不安になっててどうする? それとこれは肉まんだ、ちゃんとしたドラゴンのいいとこの肉を使ってるから安心して食え」
『…………いらん』
『じゃあミーが貰いマース。いっただきバイバーイ!』
『は? お前、ゴールド……!!』
『あ、これベリーベリーナイス!! まだありますプリーズ??』
「おう、食え。さっき随分頑張ってた分食っとけ」
『オー! グッドグッド、オー! アメイジングッ!!』
なんでこの状況下で飯が食えるんだ……。俺の、俺の肉まんだったのに……。ドラゴンの肉を使った料理か、皇帝陛下でも滅多に召し上がることが出来ない貴重なものを、本当に使っているのか……? このドラゴンたちの肉じゃ、ないようだな。色が全然違う、香りも良い。クソ、集中できない! 無性に腹が減ってきたし、腹が立ってきた!!
『くれ』
「ほらよ」
『…………感謝する』
「まだ感謝は早え。お前さんは冷静なようでせっかち過ぎる。食ってから、美味かったら感謝してくれ」
確かに、俺は焦っているのかもしれない。思い返せば焦ってばかりだ、何をそんなに慌てて――――は? は?!
『美味い……』
「良かったな! もっとあるからとりあえずお前らでこれ食っとけ」
『感謝、する……』
「おう、ありがとよ!」
何をこんなに、意地を張って、気を張って、無駄に焦っていたんだ俺は……。バカなのは俺の方だ、美味い……。こんなに美味いものがこの世にあったのか? いや、あの男ならきっと、こんなのは序の口といった様子だった。
『ゴールド……』
『なーんですかー? ミーのはあーげませーんよー?』
『もっと美味いものを食うまで、死ねんぞ』
『…………ぶっ。ヨハーンからそんな言葉が出るとは、オーノー!! 予想してませーんでーした!!』
「つくねさん、とりあえずこいつに爆弾を巻き付けてやったぞ」
「上出来上出来、それじゃあ~……おっっっらぁああ!! 返すぜこの土竜ァ!!」
おー龍娘、さっきの暗殺龍を丸めて蹴り飛ばしやがった。敵陣のど真ん中、良い狙いだな……。ん? 爆、弾……?
「起爆」
『――――ガァァアアオオオーー!!』
『ギャアオォォオオオーーン!!』
『ギャギャギャギャギャ!!』
『ガアアアアアアーー!!』
前前前言撤回。眼のやりどころに困る青髪の女も、やっぱりイカれてる。敵に爆弾を巻き付けて蹴り飛ばして、敵陣のど真ん中で起爆なんて何を考えてるんだ……? 人間のやることじゃない、狂ってやがる。
「ふぅーースッキリしたァ!!」
「やはり、リンネに処刑法を聞いて正解だったな」
「よーし、じゃあ次の爆弾作るかーー!! わっちのスキルで……捕まえたァ!!」
『ゲギャアア!?』
もう考えるだけ無駄だ。俺はその時に備えて肉まんを食う。生きて、生き残って、もっと美味い料理を食う。いちいち規格外の連中に思考を割いていられないんだ。
『ヨハーン、生きる意味は、見つかりまーした……か?』
――――ああ……。そうだ、そうか……。俺は、生きる意味を見失っていたんだった……。部隊の仲間は全員死に、俺だけが生き残った。その意味がわからず、その意味を求めて、見失って焦っていたんだ。
『生きるために生きる、飯を食うために生きる。それだけで十分だ、生きる意味なんて重要じゃない』
『そーですか……。ラーストいっただーきー!!』
『貴様!!』
最後の一個を食い損ねた……! いやだが、この悔しさが俺の力になる。おのれゴールド、次はない。次に最後の一個、最後の一口を掻っ攫うのは俺だ。その為に俺は生き残るぞ、その為に俺はお前を生かすぞ。それでいい、人生なんてそれで十分だ。それで良かったんだ。
「派手にッ!! ぶっ飛べ!!」
「…………起爆、今」
「わあ~こんがり焼けた匂いが美味しそうです~」
「あれは、やめておいた方が良いんじゃないかな~」
「え~? でもユキノは状態異常効きませんから、チャレンジする価値があると思います~」
「うん、どうしてもって言うなら止めはしないよユキノさん……」
「どうしても、です~」
なんだ、気づけば随分と城の外の敵が減ってるじゃないか。よし、そろそろ移動がかかる頃だな? ゆっくり、合図を待とうじゃないか。それまでこのイカれた連中のぶっ飛んだ行動を見て暇を潰すのもやぶさかでない。これでいい、これで良かったんだな。こんな、簡単なことで良かったんだ。





