428 ぶっちぎりでイカれた女・18
「解析が完了した。どうやら時の暴走の術式はクロノスと未だ紐づいているようだ。ただしクロノスをこの場で処理してはダメだ、術式に衝突させて対消滅させなければならない」
「やっぱり、ファーブニルはどうやっても撃退しなければならないのね」
「ああ、一応クロノスのどの部位をぶつければ対消滅を引き起こすかは割り出している。この場に集まる魔術師と魔界技師全員の意見は、このクロノスのコアに破壊命令を出してぶつければ、術式とコアが対消滅を起こすと割り出している」
「空間が崩壊すればより強力な現代の世界、現代の世界の一つとして吸収されてこの世から消えます。この空間は私達の記憶の中にのみ残り、物体は何も存在しなかったことになる。ただの雪原に戻ります」
『ユーリ達は』
『お母さん達は……』
「リンネ様……」
「何も残らないなら、残された私達が作れば良い。現代に戻ったらここに、立派な慰霊碑を作って弔いましょう」
『…………それが、良いと思う。ユーリ達は、私達に託した。リーリも、乗り越えなければならない』
『はい……。はい……っ!』
「そのためには、勝たなきゃ。去っていった人達のために。無念にも病に倒れていった人達のために」
ごめんなさい、今私凄く格好つけたセリフを吐いてると思うんですが、実際は『ああ良かった、お腹がギリギリだった、間に合ってよかった』とか、そんなことばっかりが頭の中を埋め尽くしてます。これからはこんなに長時間のログインはしないようにしよう、やるとしても体調をね……。これ要望出そうかな~……? 流石に今ログインしても大丈夫かとか、戻ってこられるかとか、そういうのがわからないとリアルの体調の都合ってあるじゃない? ねえ??
「リンネちゃ~ん。こっちは全パーティメンバーが決まったよ~」
「野良からも強え奴がチラホラ居たからな、初参加だが混ざって貰ってるぜ」
「情報伝達も、専用の掲示板見て貰って伝わってる~」
「こちらもバビロンガーエックスの修理と改造が完了しました。カースドコスモスメタルなんて見たことない希少な素材を沢山、本当にありがとうございます!」
「皆さん本当にありがとうございます~! 修理も間に合って良かったです! じゃあ、全員準備が出来たなら……」
『最終決戦に向けて、また一言頼む』
「ひえ~……」
そうだよね、やっぱりそうなるんだよね。じゃあこのまま出発しようかって、そうはならないのよ。全員の視線がこっちに向いてるぅ……! さっきは勢いで言えそうだったけど、休憩して一息ついてほっと安心した後の気が抜けたこの状態だと、やっぱりプルプルして緊張するのよね! まあそれなら今度は手短に済ませて勢いよく行こう!
『総員、静粛に! 軍団長が作戦の説明を行う!! 各班に分かれ、整列せよ!!』
「城の外班~。ここに並んで~横は揃わなくていいからとりあえず列になっといて~」
「中庭突入班、整列してま~す!!」
「左翼パーティ、お昼寝とアイギスチーム、いまーす」
「右翼パーティ、ペルセウスとクーガーチーム、揃いましてよ!」
「内城、レーナとヨハンチーム、全員いる~」
「地下突入の高菜、ヴァルフリートチーム、揃ってます!」
「フリオニール班、総員整列完了。発言代行は我、マリアンヌだ」
『(*´ω`*)』
よし、全員揃ってるね……。恐らくこのゲームの運営のことだから、最初の作戦に失敗してしまったら、なんらかのペナルティが発生すると思う。それこそ現代の時間軸に一気に時間が吹っ飛ぶとか、タイムリミットが縮むとか……。とにかく、失敗したら甚大な被害が発生すると思う。ここでファーブニルは確実に仕留める、そのためには全員の協力が必要……よしっ!
『ブレインストームが発動、【大拡声】が使用できます』
もう大声を出そうって構えただけで発動出来るようになってるじゃん、凄くない? ブレインストーム君優秀すぎない?? ありがと……。
「これより、邪龍ファーブニルの撃退作戦を開始します。敵はファーブニルが生み出した毒龍が主力、毒を無効化する能力を持った無属性の龍種も確認されています。数はおよそ四千、その中でも強力な龍種が四体、ファーブニルを強化する結界を守護する龍が存在しています」
わあ、さっき突入する前は結構ガヤガヤヒソヒソって声が聞こえたのに、何で今度は誰もヒソヒソお喋りしたりしてくれないの~?! そんなに私の発言に聞き入らなくていいから、もうちょっと軽く構えててよ~……!! なんでなのよ~!
「まず、城の外部まで出てきている龍を第一部隊に任命された全員で相手をします。掃討に成功した場合は再出現、増援に備えて待機。決して!! 中庭に踏み込まないでください!! 第一部隊の皆さんが身につけている銀装備、耐性では中庭の瘴気に耐えることが出来ません! もし、中庭まで攻撃を正確に届けることが出来る、支援が可能な人は外から支援しても構いません!」
うう、緊張する……。とにかく噛まないように、目の前にいるのは皆どん太だと思って、私を見てるんじゃなくてこのどん太達は『ご飯まだかな~』とか『お腹減ったな~』って思ってるだけ……! よし、行ける行ける。どん太、皆はどん太、全員どん太……!
「中庭には第二部隊が突入、ここが激戦区域となることが予想されます! バビロンガーエックスの支援攻撃を上手く活用し、龍種に混ざる強力なエリートモンスターに注意して戦闘をしてください! 味方を巻き込まないよう戦うのは非常に難しいと思われます。一人だけが突出しないよう、可能な限り複数人で相手にぶつかってください!」
わんわんわわ~ん……。わんわん、わわ~~ん……。ああああ、声がぷるぷるして来たような気がする……。やっぱり、私の奥底に眠る陰の気配が……頑張れ、頑張るのよ私! どん太相手にぷるぷるしちゃダメ!! どん太にはしっかりはっきり、大きな声でわかりやすく!!
「突破可能と判断したら内城、左翼と右翼の塔へ第三部隊と特殊部隊が突入、突入のタイミングは私が見定めます! 内部での激しい抵抗を掻い潜りつつ、事前に編成された特殊部隊は各守護龍撃破のため、攻撃を開始してください! 最も過酷な戦闘になるのはフリオニール班、もしも早々にリタイアしてしまった場合は、内城か地下攻略班が緊急対応に来てください! その箇所の撃退は、代わりに最終決戦パーティが突入します!!」
『ここまでで、自分がどう動けばいいか理解できていない者はいるか!!』
『居るならハッキリ言いな、後から誰かに聞くのが最も恥と思え!!』
「ぼ、僕って、内城……? 中庭……?」
「もってぃさんは中庭から内城まで全ての戦闘に参加してください!」
「あ、は、はいっ!!」
『他にわからない奴はいるか!』
「外にもし増援が出て、思った以上に多くてキツイ時はどうすればいいですかーっ!!」
「中庭までズルズルと後退、出来るだけ時間を稼いでください!」
「中庭が、突破出来ない時は……!?」
「その時はバビロンガーエックスで強硬手段に出る。覚悟してくれ」
いいね……脳死せずに、不安なことはどんどん聞いて欲しい。言い出しづらいよね、でもそれを口にすることもまた成長に繋がるんだから、ばんばん口に出して答えを見つけるべき。
「少しでも疑問に感じたこと、不安に感じたことは口に出して聞いてください! その疑問や不安は、実戦の最中に牙を剥いて襲いかかってきます! 心の中に敵を残さないで!!」
「補給役は、戦闘に向かない人はどう立ち回るべきですか!?」
『魔術師部隊の近くに陣取れ。邪魔にならないよう、盾が持てるなら魔術師を代わりに庇う等やれることはあるはずだ』
「凶悪なモンスターを後一撃で倒せる場面で、味方を巻き込みそうな時は……」
『迷わず撃ちな、戦場じゃ恐れた方の負けさ!!』
「攻撃も可能な支援職です! 攻撃にできる限り参加すべきでしょうか!」
「自分の攻撃力と皆の攻撃力を比べて、劣るようなら支援に集中してください。攻撃に気を取られて支援が疎かになっては、結果として全体の攻撃力を下げ生存能力の低下に繋がります」
『他にあるか!』
静まり返った。これで大体の質問は、なくなったかな……?
「――――この作戦に失敗したら、どうなりますか?」
なるほど、一番聞かれたくなかった質問だわ。確かにこれは全員の心の中に存在する最も大きな敵だね。これを残したまま敵地に赴くのはなかなかに辛いところ。しかし、これを完全に撃退するのは非常に難しい。
「全員、良く聞いてください」
でもこの問題に関して、私なりに出した答えがある。それでよければ、この場で答えよう。
「邪龍ファーブニルは、600年弱も黄金の女王と時の神クロノスに恐れを抱いて隠れていた、臆病者です!! その恐れていた黄金の女王は? 時の神クロノスは? そしてその配下である二万を超える兵士達は、誰が倒しましたか??」
『俺達だ』
『私達だよ!』
『ミー達デース!!』
「わたくし達ですわ!!」
「主力不在、疲弊状態を奇襲して勝った気になっている卑怯者!! 引き篭もって猛毒の呪いを撒き散らすしか能のない汚物!! 600年も隠れ続け、いざ勝てそうな相手だけになったらのこのこと出てきて強者面をする臆病者に、私達が負けるはずがありません!! それに我々は今、邪龍とその配下に対抗しうる銀の装備で武装し、打倒邪龍を掲げここに立っている。恐れるな!! 600年間ぬるま湯に浸かった邪龍に地獄をみせてやろう!!」
『ワォォオオオオオオーーン!!』
『我が妹の、一族の無念を晴らす!!』
『全ての元凶に、決着をつけます!!』
「新たな黄金郷の為に……っ!!」
「我が友、ティアのために、黄金郷の為に!!」
「恥知らずの邪龍を、ボッコボコにしてやるんですっ!!」
『寝ぼけたトカゲに、誰を相手にしてるのか思い知らせてやりな!!』
「総員、戦闘態勢!! 邪龍ファーブニルを、そしてその配下を、一匹残らず――――」
負けない。600年間引き篭もり、漁夫の利を得ようとするような卑怯者に、臆病者なんかに、私達は負けない。絶対に、負けない!!
「一匹残らず、撃滅せよ!! 情け容赦なく、塵一つこの世に残すな!!」
『突撃せよ!! 突撃せよ!! 剣を敵の心臓に突き立てろ!! 斧で首を切り落とせ!! 脳髄を銃弾で穿け!! 一切の情けは無用!!』
「突撃ーーっ!!」
「突撃、突撃!!」
『エリアメッセージ:魔界軍団長の【軍団鼓舞】により、暫くの間全ての能力が劇的に向上します』
『エリアメッセージ:邪龍ファーブニルの配下が応戦を開始!!』
新たな黄金郷に、私達の時代に、お前達の居場所はこれっぽっちも、猫の額程も……ないッ!!





