425 時を超えし黄金郷・2
吹雪と瘴気が混じる城の前、高位の神官によって作られた安全地帯に守られた臨時拠点に、猛烈な勢いで吹雪を突っ切ってそれらは現れた。
『ワウッ!! (来た!)』
『ガウゥウウウ!!』
『やはり正気ではないか――』
「待って、撃たないで!」
『しかし!』
「お願い」
兵士の死体を集め一度帰還したヨハンさん達も、万が一に備えてここにいる。狂い狼達に銃口を向けるヨハンさんの前に立ち、私は狼達を信じて攻撃を遮った。きっと、きっと何か、何かを感じ取ってくれるはず。彼らは、彼女は完全に狂い果ててなんていないはずだと。もしもダメだったなら、私が、私達が食い殺されるのであれば、撃ってくれて構わない。
『ガウゥゥアアアア!!』
『ワウウッ!!』
『お母さん……? お母さん!!』
『ガァァアア……! グゥゥウウ……!!』
『きゃあ!!』
「撃たないで」
『戦力を失うわけにはいかない!』
「お願い、信じて。きっと、魂の奥底で繋がってるはず」
『魂など!!』
「ありまする。此方が保証致しまする」
『…………』
ヨハンさんの心の中は複雑なんだと思う。魂があるのであれば、目には見えない繋がりがあるのであれば、自分の部隊の人達が呼びかけに応じてくれてもいいはずだと。どうして自分の部隊の誰も、姿形を取られただけで消えてしまったのだと。恐らく無意識な、自分でも理解出来ていない苛立ち。あの時、突入の時、部隊の人達の姿をした人狼を何人も撃った。心を殺しているつもりでも、殺しきれていない人の心が傷ついて、悲鳴を上げているんだと思う。
『グルゥゥゥウウ……!!』
『お母さん、お母さん私だよ、リーリだよ、この中に居るんでしょ?! どこかわからないの、ねえ、ねえ……お母さん!!』
『ユーリ!!』
『ガァ……グウゥゥ……!!』
「――――やめて、やめてください……。私達が戦うべき相手は、違うはずです……っ!」
「ティア、ちゃん……」
ティアちゃんが、泣いてる……?
『ガウ……ッ……!』
『グルルウウ……!!』
「病気で倒れている皆さんの為に、皆さんを守るために危険を顧みず勇敢に立ち向かっている人達の為に、皆さんは立ち上がったんじゃないんですか……っ!! 銀の狼は、仲間を見捨てたりなんかしないって、言ってたじゃないですか!! 人々を傷つけ、争い、暴力を振るう獣とは違う、そう言っていたじゃないですか!!」
『ガァ、グゥ……!!』
『クゥーン……! グゥ……、ガアァアア!!』
「うっ……!!」
「ティアちゃん!!」
「皆さんは、立派にエルドリードを守って来ました……。これからティア達は、皆さんの代わりに、悪い奴をやっつけに行きます……! だから、だから力を貸してください……!! このまま腕を食いちぎられても、私は皆さんの力を借りられるまで、説得出来るまで、何度だって……!!」
『ガァアアアア!!』
…………止まった。狼達が、大人しくなった。もしかして、この狼が……。
『お母さ……ん……?』
『ユーリ……』
『グウウゥゥ……』
「…………ティアは、とっても未熟です。それでも、皆さんが愛して守り抜いてきたこのエルドリードを、最悪の形で失いたくない。いつかきっと、黄金郷を……。笑顔溢れる黄金郷を、復活させてみせます。だから、力を貸してください。ティアの力だけじゃ、きっと、何も出来ないから……。だから……」
『…………ガウッ!!』
『は、はいっ……!!』
『グウウゥウ……! ガウッ!!』
『え、えっと、はい、はいっ!!』
『私も、認める。きっと今度の金の狼は、心のなかに金の狼が居る。大事なのは、外見じゃない』
『…………ワウッ』
何を、話しているんだろう……。恐らく言語理解スキルがあっても多分理解出来ない、通じ合う何か。内容まではわからない、でもこれはきっと、頭で理解することじゃない。心で理解するものなんだ。
『――承認、リーリがティアラの王位継承を認めました』
『――承認、波動のラーラがティアラの王位継承を認めました』
『――承認、銀の狼ユーリがティアラの王位継承を認めました』
『…………』
「あ、あっ!」
『――ティアラの持つ【未完の黄金郷】が【(W)銀に祝福された黄金郷】になりました。おめでとうございます! ワールドアイテムです!』
『【ワールドアナウンス】:プレイヤー【リンネ】の従者【ティアラ・エルドリード】が、新たなるワールドアイテム保持者となりました!』
『消え、る……』
「あ、あっ……!」
「狼達が……」
『お母さん……? 待って、待って!! リーリはまだ、全然話し足りないの、置いて行かないで! もっと話を――』
『ガウッ!!』
『リーリ、ユーリはずっと、これからずっとリーリを見守ってくれる。笑顔で見送って、あげて……』
――――まるで、役目を終えたとばかりに。初めから存在していなかったとばかりに、狼達は吹雪と共に消えていった。轟々と吹き荒ぶ吹雪の中、狼の遠吠えと共に。
彼らは、ユーリさん達は、銀の狼の誇り高い精神だけの存在に成り果てても、エルドリードに人々を近づけないよう、何年も、何十年も、何百年も守り続けていたのかもしれない。例え狂い果ててでも、自分たちの愛したエルドリードを守る為に。そして再び黄金郷を、蘇らせる為に。
「…………復活は、させませんのね」
「眠らせてあげよう、もう十分彼らは戦ったんだから。新しい時代は、私達が切り開く」
『これが……。絆か、魂の……認めたくないが、そうなのだろうな……』
「んっ……。リンネ、銀の装備いっぱい、集まった。初心者に装備配ってた時の、お礼って。みんな返してくれた。やれる……?」
「レーナさん……。やりましょう、やります……! ティアちゃん……?」
「リンネ様……。昔、ずっと昔、この力を使えることを、隠していました。黄金の女王様と同じ力を持っていたら、絶対の力……唯一自分だけの力と言っていた女王様を、怒らせてしまうと、思ったから……」
思い、出してる……? ティアちゃんが、昔のことを……。
「ティアは、これからも、リンネ様の…………」
「ティアちゃんはこれからも私のティアちゃんだよ、絶対に。私の大事な、大好きなティアちゃん。ずっと」
「…………はい。はい……っ!!」
「少し、嫉妬してしまいますねえ……。ふふふ……」
どこまで思い出したのかわからない。いつかきっと、辛いことも嫌なことも、何もかも思い出す時がやってくる。その時は必ず、全てを伝えて全てを受け止めよう。
「私がティアちゃんの黄金郷になる。私だけじゃない、皆も、どん太だって……。皆で黄金郷を作ろう。ティアちゃんのいる場所が、常に黄金郷であるように、私がティアちゃんを支えるから」
「……っ!! はい、ティアはリンネ様の隣が、お側が、黄金郷です……!!」
『ティアラが【(W)銀に祝福された黄金郷】を装備しました……。秘められた力が解放されます!!』
『ティアラのクラスがユニークジョブ【銀に祝福された黄金の女王】に変更されました』
『ティアラの隠しスキル【金錬術】の封印が解かれました』
『ティアラが特殊能力【千変万化】を獲得しました』
『ティアラの全てのスキルが変更されました』
『ティアラの持つ装備が一部変更・強化されました』
『ティアラのスペシャル装備枠が4枠増加しました』
ああ……。綺麗だ……。あの時見た、氷の国の女王様のようなティアちゃんは、この姿だったんだ……。ゴッドゴールドが知っているティアちゃんはきっと、この姿だけだったから……。
「金色さんっ! 金貨の呪いを、解いてください!」
『お、オーウ……。むっ! イエス、マイクィーン!!』
「黄金よ、悪しき祓う力を、しかして呪われし銀に姿を変えよ!! 相反する力を秘めし悪を祓う呪われし銀となってください!!」
冷静に考えてそんな無茶な素材は無理だと思うんだけど私、ティアちゃん……。流石にそれは厳しいんじゃないかなぁ……。銀のほうはほら、銀装備でなんとかするから……。
『ティアラが【金錬術】を発動、【エルドリード金貨】を【カースドコスモスメタル】に変化させました』
「やりましたっ!! 出来ましたよ、リンネ様~~!!」
「ええ、おお……? 嘘でしょ……」
「リンネ様~……」
「……!! 偉いっ! ティアちゃん素晴らしい、いい子!! 最高っ!!」
「わああ~~!! リンネ様の撫で撫で、大好きです~~!!」
「此方もして貰いたい……。此方も……ぐぐぐぐ……」
『わうっ (痩せた?)』
「うぐっ……」
千代ちゃんごめんね、もうちょっと痩せたらね! 今はこんなイカれたヘンテコ素材を作り出したティアちゃんを撫で撫でするので忙しいから!!
「後でいっぱい撫でてあげるね、ティアちゃん! 捧げよ!!」
『【★暗銀の髪飾り】と【偽銀の人狼】と【カースドコスモスメタル】が共鳴する――――』
ヤバいこれ、共鳴するの……!? このペースで共鳴しまくってたら、イカれた性能の装備が何個出来上がるかわからないよ……? ええ、これ配布するの、ヤバいことになるかも……。う、うわぁ、大丈夫かなぁ……!? でももう今更止まらないよ!!
「私の左側に死体! 右に銀装備! どんどん重ねてどんどん持ってって! ティアちゃんは私の後ろからバンバン素材頂戴!」
「は、はいっ! 頑張りますっ!!」
『オーウ!! ハードなワークデス、ねっ!!』
「ぶつくさ言わずにじゃんじゃん解呪!」
『こわーいッ!!』
やってやる、やってやるぞーーっ!! ちょっと息が臭いだけの寝腐ってたドラゴンなんかに、簡単にこっちの努力を踏みにじられてたまるか!! あ、そういえばこれ、特殊素材だからカースドアニメイトフェティッシュも出来るんだ。何個かやってみよ……。うわ、成功率低そう……。あ、壊れた。あ、これは成功した。お、ステ上がらないけど成長型の特殊スキルがある。適当に配っちゃえ!!
『――――【□■麗銀、喰らう者】が完成しました! おめでとうございます!』
「ユキノちゃんこれ着けといて! この部位まだないでしょ!」
「ええ~? 良いんですか~? ありがとうございます~!」
『――――【□銀雪の守護】が完成しました! おめでとうございます!』
「つくねちゃーーん!!」
「え、え、わっち……?! と、特殊……!?」
『――――【■死、銀の装い】が完成しました! おめでとうございます!』
「はいこれペルちゃん、次!」
「あわ、ちょちょちょ、投げないでくださいまし!? 特殊装備ですの!?」
『――――【■冥き銀の祝福】が完成しました! おめでとうございます!』
「あ~これは、これはレーナちゃん! 特殊装備枠空いてる!?」
「空いてる~。え? うそ、特殊装備? えっ?」
これはもう成功率とか言ってないで、特殊装備空いてる人はバンバン装備配っちゃえ! 元になった装備次第で結構性能ばらつくけど、自分の性能と合ってなかったら交換会とかして貰えばいいし、配れ配れー!!
「大声出したい!!」
『ブレインストームが発動、【大拡声】が使用可能です』
「特殊装備枠空いてる人~~!! 性能保証なしで作るから、偽銀の人狼の死体と銀装備、持ってきて~~!!」
やっちゃえ、今日は大盤振る舞いよ!! なんか強化には素材がもの凄く重かった気がするけど、知らん知らん! 緊急事態、緊急事態なんだからね!!





