411 Memory of Eldorado part3
エルドリードの王は黄金から万物を生み出すことが出来る力を持つという。古代よりエルドリードの王はこの力を民のために使い、永久凍土のエルドリードを豊かな国にすべく支えてきた。
黄金から生み出される品々は莫大な量だった。微量の金から大量の食料が、布が、木が、ありとあらゆるものを生み出すことが出来た。エルドリードと国交を結んでいた国々は不思議だっただろう、自国の僅かな金貨を差し出すだけでありとあらゆるものが手に入るのだから。最初こそエルドリードは値段を知らぬ愚かな国家として嘲笑われていたが、エルドリードから物を買うことは出来ても売ることが出来ない。長く、断続的に、自国の金貨がエルドリードに貪り尽くされる。次第に周辺国家は金貨がなくなり、エルドリードから何も買えなくなってしまった。銀や宝石を代わりに提示しても断られ、エルドリードに頼り切っていた小国が崩壊してしまうこともあった。
――――エルドリードはこの世全ての金が集まる国、黄金郷である。
いつしかエルドリードは全ての国の金貨を集め尽くし、その全てを己が国の金貨として作り替えた。金貨はエルドリード以外が持つことを赦されぬ貨幣。周辺国家は金貨の代わりに銀の貨幣を使い始め、それが徐々に大陸全土へと広まり、今現在も我々が使っている――――
「シルバー。金貨を持てぬ弱き国達が生み出した、傷の舐め合いの象徴。弱小国家の証だ」
「…………」
「なるほど。銀貨ならば確かに、金から全てを生み出すエルドリードには必要のないもの。しかしそれは同時に、エルドリードに屈した証でもあるということですか」
「エルドリードは天上の存在となった。周辺国家は指を咥えてエルドリードの繁栄を見ているだけ。このままお互いに干渉しなければ、これ以上傷口は広がらない。金を失ったという汚点だけが残るだけで済む」
「でも、どちらかが動いたんですよね。そうじゃなきゃ……」
「ああ、エルドリードが動いたんだ」
エルドリードは何千年、何万年と続いていけるだけの金を手に入れた。しかしエルドリードの王の欲望は留まることを知らず、大陸だけでなく世界中の金を欲するようになった。それと同時に、周辺国家が使い始めたシルバーに異常なまでの憎悪を向けるようになった。エルドリードの王は遂にシルバーをこの世から消し去る為に、莫大な金を消費してある存在を作り出した。
黄金の女王に祝福されし銀色の涙。エルドリードの王はその存在にそう名前をつけた。銀に触れれば忽ち銀を僅かな量の金に変え、この世からシルバーを抹消せんと世に解き放とうとした。このままでは世界から銀すらも消える、銀を消されれば次の貨幣も気に入らなくなるのは目に見えている。別の金属も消されてしまうと、大陸中に危機が訪れた。
「エルドリードは銀色の涙を世に放つことが出来なかった。それはそれは激しい戦争だった、俺も当時――だめだ。思い出せん、どこかには所属していた軍人なんだ。そしてこの地へやって来た、だが自分が何処の誰なのかを思い出せない。この金の勲章だけが、俺が軍人だったと教えてくれる唯一の証明なんだ」
「なるほど……」
『作り話にしてはよく出来ています。出来すぎている。矛盾する発言が何一つありません。シルバーがそのような過程で生み出されたものだということは、初めて知りましたが』
「まずはここまでだ。そっちの知っている事も話してくれ」
「いいえまだ。黄金の女王の正体を」
「…………わかった、それを話したらそっちの番だ」
『本当に自分が何者なのか知りたくてたまらないようですね。冷静な方です、忍耐強く辛抱強い』
黄金の女王は察しの通り、当時このエルドリードを統治していた王。名を、ゴルディア・エルドリード。金からあらゆるものを生み出す森羅万生なる術が使える。戦闘能力は非常に高く、現在動けるメンバーを総動員しても勝利は絶望的だという。
黄金の女王の目的はこの世全ての金を手中に収めること。再び黄金郷を元の時間軸に蘇らせ、今度こそこの世から銀を消滅させ、黄金郷がこの世を支配することを夢見ている。
「…………待ってください、矛盾があります」
私、ここでようやく気がついちゃいました。当時のエルドリード金貨はここに全てあったはずなのに、どうして現代の私達の時代に流出しているのか。これは大きな矛盾だよね? ここに全てあるはずなのに、漏れ出してるんだもん。
「金貨が」
「漏れ出している」
「あ、はい。それが気になって」
『確かに、言われてみればそうですねえ……。うっかりしていました』
「簡単だ。俺達の中に世界に時の神も黄金の女王も感知不可能な程の小さな穴を空け、子分に金をばら撒かせている奴がいる。外の人間をこの地に導く為の呪いをかけてからな」
「えっ」
「信じられませんね。私にすら出来ない芸当です。本当にそのような方がいらっしゃるのですか?」
「ああ、いる。少しうるさい奴でな、それに派手で困る」
うるさくて、派手で困る奴が、金貨を呪って外の世界にばら撒いてるってこと……? そんなことが出来る人がいるの……?
「そろそろ戻ってくるはずだ」
「待ってても来ないのですか?」
「ああ、遊び好きでな。それも困っている点だ。会わせても良いが……」
『話しましょう』
「わかりました、お話します。私の知る限りの情報には、なりますが……」
「話がわかるお嬢さんだ、こいつもこのぐらい話が通じればな」
なるほどね、その人に会いたいなら知ってる情報を話せと。今度はこっちの情報を伝える番だね。えっと、まずは何から話そうかな……。
「えっと、まずここに来る原因になったのは、エルドリード金貨の破片を飲み込んでしまったのが原因なんです」
「なるほどな、途轍もない幻覚作用に苛まれただろう」
「はい、私の知り合いが色々な姿に見えました……」
「あいつが呪った金貨は黄金の女王から奪ったものだ。黄金の女王が好きに金貨を変化出来ないよう、ロックをかけてここから廃棄した。幻覚作用以外に害はない……ただし、黄金の女王以外にこの金貨を加工出来る力を持つものが居た場合、自在に変化させられるようになってしまった。それが副作用だな」
あ、副作用の方をずっと利用してたんだ……! 本来は幻覚作用によってここに導かれるように呪われてたコインだったんだぁ……!!
「その幻覚の中に、貴方の姿になった人がいました。アイギスさんの姿になった人も」
「だが、幻覚だけで名前までわかるはずがない。何故だ? 何故名前まで知っている?」
「アイギスさんの、お弟子さんから名前を聞きました。お弟子さんの名前は、ゼルヴァです。アイギスさんの力を受け継ぐお弟子さんが、アイギスさんの姿に見えたんです」
「はあ~。こいつに弟子がねえ……」
「…………居る。居たよ、居た。そうさ、居た……。思い出してきたよ……痛たた……!」
「嘘だろう? 一日は寝たきりになる量だぞ?」
「少し前から起きてたさ、まだ頭が痛い……」
『全然気が付きませんでしたね……。凄まじい耐性ですね……』
うわあ、アイギスさん起きてたんだ……。それにしてはずーっと大人しく聞いてましたね、最初は即座に殺す殺すって興奮してたのに。
「ゼルヴァ、あのちんちくりん、まだ生きてたのかい。ははっ! 元気でやってるのかい?」
「この前、天下一決定戦なる身体能力を同程度に制限した決闘で戦いました」
「ほ~。強かっただろう?」
「はい、強かったです。でも勝ちました」
「あ゛?」
「あっ」
『そこは嘘でも、負けましたと……』
あ、やば、怒らせたかも……。
「今度会ったらただじゃ置かないぞ、ゼルヴァ……」
「し、身体能力に、制限があったので……。不利だったと思います……。す、凄くその、あの」
「言い訳は聞きたくないね。なるほど、身体能力を同程度に引き下げたらあんたのほうが強いってことは、能力はあんたのほうが上ってことだ。私は強いやつが大好きだからねえ、ゼルヴァに勝ったのが本当なんだったら信用するよ」
「その勝った負けたの話よりも、だ。俺はどうなんだ? 俺の話が聞きたい」
アイギスさんはセーフだった……。私じゃなくてゼルヴァさんに対する怒りだったのね、ふぅ~……。ああ、それよりこの人の話だよね。
「貴方は、継承者といいますか、銃を授けられた女の子が貴方の姿になっていました」
「名前は? 名前が聞きたい」
「名前は、ごめんなさい……。ですが、魔弾の射手。そう呼ばれていました。銃を受け継いだ女の子は、銃に名前をザミエルと付けました」
「…………魔弾の、射手。俺は……」
『何か思い出しそうな顔ですね……。記憶の深いところから何かを引き上げているようです』
思い出すかな……。名前もわからないのに、その情報だけで……。
「――――デリランド魔導帝国を知っているか?」
「え、あ、聞いたことがあるような……」
「デリランド魔導帝国第七小隊所属狙撃手、魔弾の射手のヨハン。ああ、思い出したさ、俺は確かにここで、この地で……死んだはずの人間だ」
『アンデッドではありませんね。死んだと思いこんでいるだけで実際には死んでいない、壮絶な経験をしたのでしょう』
「ああ、私も思い出して来たよ。大戦の爪痕、死の黄金鳥ジュイルーンの呪いを受けて死を悟ったんだ。その時オリビエに全部装備を渡してさ、使える方をちんちくりんに使わせろってくれてやったんだ。銀の手と金の手、魔槍と魔剣をくれてさ、でも盾だけは渡せなかった……。それで――――気がつけばここに倒れてた」
「俺もだ。あの時、悍ましい魔物と戦闘になって、相打ちだったはずだ。最後は毒が体に回って、なぜかここで目が覚めた」
「一度死んだはず、ですか……」
「部隊の奴らも居るはずだ、恐らく外で黒い靄の人になっている奴らの中に、俺の部隊の人間が居るはずだ……! なんで今まで気が付かなかったんだ、そうだ、きっと――」
どうして他の人は闇人間になったのに、アイギスさんや魔弾の射手ことヨハンさんは姿が変わらなかったんだろう。記憶も一部だけしか失っていない、中途半端な記憶喪失。
思えばこっちに来た時、私も闇人間になる兆候はなかった。これは恐らく黄金蝕の影響で体に黄金が混ざっていたから。カーミラさんは黄金蝕前に戦闘をして力を失い、黄金蝕の状態になってからは意識もはっきりして力もある程度取り戻した……ああ、ああ!!
「黄金……。黄金……!」
「リンネさん、どうしました?」
「ど、どうしたんだ、急に」
「どうした、黄金がなんだ……!?」
「黄金が、黄金が共通点です。ヨハンさんは黄金の勲章、黄金細工の銃。アイギスさんも黄金装飾の鎧に盾。私は呪われたエルドリード金貨、カーミラさんも同じく金貨を取り入れてから力を取り戻した。黄金の女王は、黄金と名の付くもの全てを取り上げているんです。でも魂と同化しているような、その人を象徴するような黄金は取り上げられない。だから強い結びつきのある黄金を持つアイギスさんとヨハンさんは、支配出来なかったんです」
「しかし、それでは記憶まで取られたことの説明が出来ないぞ」
「まさか……」
「黄金時代の記憶」
「はっ……。なるほど、最も輝いてた時代の記憶だけ、すっぽりとないわけだ」
「その人を象徴する黄金の武具によって存在を証明されたから、姿だけは残った。しかし黄金時代の記憶は奪われた、もしくは封印されたということですか」
「キッカケがあれば取り戻せたから、封印が正しいかもしれないですね」
これなら、アイギスさんとヨハンさんが姿を取られず記憶だけを封じられたのに説明がつく。この世界では黄金が鍵なんだ。それじゃあつまり、この空間に穴を開けて金貨を呪って外にばら撒いている人も、黄金にまつわる人なはず。
「この仮説が正しければ、先程の金貨を呪ってばら撒いている人も、黄金に纏わる何かがあるはず。そうですよね?」
「…………向こうから要請があった。迎えに行こう」
「行きましょう。興味があります」
「その前に、このボトルを持ってくれ。重要なんだ」
「え? あ、はい」
さあ、金貨をばら撒いている人も黄金に関係しているはず。この大きな容器が何の意味があるのかはわからないけど、私の仮説が正しければ……ん?
「あれは……」
「ああ、あれが金貨を呪い、外の世界にばら撒いている奴だ」
え? あ、凄いどうしよう、滅茶苦茶嫌な予感がする。私多分、こいつのこと知ってる……!!
「オッオー? ンッマァ~~可愛らしいお客さんデスねぇ~~! 新しい住人デスかぁ~?」
「ゴ、ゴッドゴールド……」
「オーマイガーッ! ミーの名前を知ってるナイスバディガーーッル!! 素敵なユーの名前、教えてプリーズ??」
あああああ……!! 合ってる、合ってる、合ってるよぉぉ……!! うわああ、コイツが、コイツがそうなのかぁ……!! 黄金に纏わるどころか、黄金そのものじゃん、やだぁ~~!!





