408 深刻な状況
サリーちゃんのスペシャルなお薬の効果が尋常ではない。正直これは耐えきれずにログアウトを決意する人もいるだろうなってレベル。さっきシステム警告文が大量に出てきて『これ以上のプレイ続行は精神やバイタルに異常を引き起こす可能性があり、それを理解し同意しなければプレイできません』って、もう無限に増殖して表示され続けるホラーゲームに成り果ててた。最初は正常な文章だったのに、無視してたら段々と増えて血で書きなぐったような文章になって、増殖スピードも秒間何十個ってレベルで増えて、いや~トラウマになりそう。次からは絶対あの薬を飲まないようにしよう……。
『本当だ、ユーリにそっくりだ……』
『なんだか、懐かしい匂いがする……! 師匠、師匠ーー!! お客さんから懐かしい匂いがするーー!!』
『初対面の人の匂いを嗅いで大声でそんなことを言ってはダメ。失礼でしょう』
『あっ! ごめんなさい、ラーラさん? リーリに名前そっくり!!』
『いいよ、大丈夫。きっと同じ、遠く血の繋がった家族の匂いだからだと思う』
『リーリの、家族……?』
今ラーラさんとリーリちゃんが大事な話をしてて、ペルちゃんとレーナちゃんも色々と喋ってるんだろうけど、ペルちゃん達の声は完全に聞き取れなくなっちゃった。しかも見えている姿がね、更に酷くなった。ペルちゃんとゼルヴァさんを見分けることは不可能だけど、ゼルヴァさんは声が聞こえる。レーナちゃんは真っ白な仮面を付けた軍服の狙撃手になっちゃったし、デロナちゃんは蠢く肉塊、ゼオちゃんは面影はあるけど男性化してるし、どん太は紺色の魔狼になっちゃった。一番最悪なのがラーラさんとリーリちゃんで、どっちも殺戮の神の姿。どっちがどっちなのか本気でわからない。声まで似てると来た。
唯一の癒しがティアちゃんだね。氷の国の女王様って感じ、透き通った薄水色のドレスに、長い銀の髪が綺麗で、赤い瞳を見てると――――
『システム:黄金郷へ』
『システム:黄金の涙は何色だったか』
『システム:思い出せない』
『システム:黄金郷へ』
『システム:約束の地へ』
『システム:黄金郷へ』
『システム:我らに今一度』
『システム:我らの時間を』
『システム:祝福を』
『システム:取り戻さん』
『システム:黄金郷へ』
あ、マズい。意識を飛ばされる。ティアちゃんは癒し要素だけど、赤い瞳を見たら意識が飛ぶ。時間が数分ぐらい吹っ飛ぶ。これだけは気をつけなきゃならない。しかもログが毎回これで埋め尽くされてとてつもなく不気味。今回私は、全く役に立ちそうにないなあ。ラーラさんを説得してキャラバンに数日滞在して貰って、それから移動でも良い気がする……。
『――そう! 北へ北へ、雪を抜けた向こう側、緑豊かで暖かな地がラーラ達の故郷なんだ!』
『わあ~~……!! 師匠、師匠~~……』
『リーリが選びなさい。自分のことは自分で決める、それが私達の約束でしょう』
『私はすぐにでも出発する、リンネさん達が一緒なら、今日中に到着できる!』
『行きたいっ!! 今日、すぐっ!!』
『システム:クエスト進行【ラーラとリーリの故郷へ】が発生しました』
ああ、はい。説得は不可能でしょうね、ペルちゃんとレーナちゃんが何かを身振り手振りで伝えてるのはわかるんだけど、何を言ってるんだろ……。
『すぐに会いたい、すぐに出発する! 足手まといになるなら、やっぱり置いていく!』
「ああ~~行きます、行きましょう」
「リンネさん、行く言ってます! どんちゃっちゃ、ご飯は大丈夫ですか? 私は元気いっぱいです!」
『ガウッ! (我が飢餓は満たされり、何時如何なる場合でも我は持てる全ての力を奮おう)』
やっぱり『明日にしないか』って感じの交渉をしてくれてたのかな。でもこの感じだとクエスト失敗になるか、破棄みたいな形になりそうだから行くしかない。今はターラッシュの南側、どん太にデロナちゃんとリーリちゃんを乗せてもらって、他は全員高速移動出来るから……。多分、全力で走ればルテオラを超えるぐらいなら行けるはず……ん? 軍服の、レーナちゃんだったよねこの姿は。なにか持ってるみたいだけど、何を見せて貰ってるんだろ。コンパス? 羅針盤? 凄い古ぼけたコンパスみたいなのを見せられて何か言われてるんだけど、何を言ってるのかな。
「このコンパスで、目的地の方向わかる、言ってます! デロナ以外みんな速い、リンネさんも影に入れば大丈夫! 急いで行きましょう、すぐ行く言ってます!」
「あ~。わかった、うんうん。ゼルヴァさん今度機会があればゆっくりお茶を……お菓子も持ってきますから……」
『随分古く珍しい言葉を使うね、面白い。師匠が歌っていた古い子守唄のようだ』
「すみません、今ちょっと変なもの食べちゃって、幻覚とか幻視とか、話してる言葉も滅茶苦茶みたいで……」
『エルドリード語ね。水乾き、木朽ち、火消え、土痩せようとも、金の輝きは失われず。金が涙を流す時、祝福されし銀色の涙は黄金郷を再び取り戻すであろう。エルドリードで最も有名な曲らしい、どれだけ絶望的な状態であっても、一筋の希望があれば再び立ち上がれるという教えなのだとか』
「エルドリード語……」
エルドリード語なんてものがあるんだ、今その言葉を喋ってるから誰にも話が通じないのね。スタートがちょっと違うけど五行説みたいな歌があるのね、さっきからティアちゃんの目を見ると流れるログと関連がありそうだけど、断片的過ぎてよくわからないなあ……。
『リンネさん、置いていくぞっ!!』
『リーリ達、先行っちゃうよ~!!』
「あ、待って待って、今行くから~。それでは、また! ありがとうございました」
『気をつけて。リーリは辛い現実をみることになるだろう、ここに戻れるかどうかは……。あの子次第か』
ゼルヴァさんは、リーリちゃんとラーラさんの故郷がどうなってるのか知ってるんだ……。真実を言葉で伝えてこのキャラバンに囲い込むよりも、現実を見せてそこからどうするかっていうリーリちゃんの選択、そこからの成長が見たいのかな。可愛い弟子だろうに、あえてついて行かずに見守ることを選択するって、ゼルヴァさんも相当辛いよね……。
『リンネ様、ティアはここに居ます。参りましょう、ティアはここに居ます』
「あっ……っとと、うん。じゃあ、皆を追いかけてくれる?」
『はい、リンネ様。参りましょう、ティアは参ります。リンネ様の側に居ます』
『ん……?』
ティアちゃんが待っててくれた~。良かった、これで皆に追いつけるね。ティアちゃんの影に潜って追い掛けて貰えば、間に合うよね!
『システム:【シャドウダイブ】を発動、【UNKNOWN】の影に移動します……』
『参りましょう』
『うん、お願いね~。どん太達もう見えなくなっちゃったね~』
『ティアはリンネ様の側に居ます。ずっと一緒です。大好きです。取り戻しましょう』
『待てっ!! リンネさん、あなたは今誰と――』
うん……? ゼルヴァさん、どうしたの……? えっ……まさか……!!
『システム:【強制行動不能】状態に陥りました』
『システム:クエスト【ラーラとリーリの故郷へ】を離脱、クエスト失敗!』
『システム:アブダクション【UNKNOWN】発生』
まさか、これは……ティアちゃんじゃ、ない……!? どうしよう、どうする、どうすれば……!?
『――――参りましょう、黄金郷へ。我らの祝福を再び、今一度取り戻すために。いざ、約束の地へ』
『(た、助け――――)』





