398 異常なんだよ
この私を所持する者は、世界を変える力を持ったと同義である。しかし、我がマスターは多くを望まない。全ての富を独占することも可能だというのにそれをせず、もっと非道な搾取が出来るにも拘らずそれもせず。幾多の勝利に酔い痴れることなく、たった一度の敗北や失敗に慚愧に堪えぬと忸怩たる思いを示す。
「――私に望め。さすれば世界を与えん」
『あ゛ぁ゛!? 何処の誰か知らないけど、お前なんかに与えられた世界に何の価値があるわけ!? 手に入れるにしても自分で手に入れるし、っていうかいきなり話しかけないでくれる!? 今忙しいんだよねぇ!!』
甘言に流されず、己の力で成してこそと考える。此度のマスターはこれまでの弱き者達とは異なる、底が知れぬ……天井が見えぬ、それが恐ろしいとすら思える。知ることとは恐怖である。私は此度のマスターを知ることが恐ろしい……。
私の知る人間とは……甘言に流され、与えられた力に酔い、力を手にして驕り高ぶり、更なる力を欲して他者に騙され、無念と悔恨の泥に沈んでいく……誰しもが心の内に堕落を抱えている弱き生き物だと認識している。何故、どうして、此度のマスターに対して幾多の疑問が浮かび、それを知る間もなく次の疑問が浮かび、結局疑問が尽きることはない。
「――世界を変えたいとは思わないのか?」
『うっるさいなぁ!? 世界は常に変化し続けてるんだよ、変わってないと思ってるその思考が古いんだよね! 世界が変わってないと思ってる奴がさ、変わり続けてる世界を変えようとするって愚劣極まる行為だと思うんだけど? まず自分が変わるべきだと思うけどね! 反省したら二度と話しかけてくるな!! あ、待ってよペルちゃ~ん!! 髪の毛乾かしてあげるからぁ~!』
私が、愚劣……? 完璧であり、最高傑作である私が……? 古い…………? 私は、古いのか……? 変わるべき……。私が? 完璧で、最高傑作である私が、変わるべき古い存在……?
「――私は完璧であり、最高傑作であり、常に最先端である。変わるべき要素はない。よって、古き愚劣な変わるべき存在という言葉は不適切である。撤回を要求する」
『しっつこいなぁ!? もしかしてお前……ああそういうことか! 完璧ならそもそもロストさせないし、最高傑作ならどんな装備でも意図的に作り出せるはずなのにランダムでしか出来ないし、常に最先端のくせに古い時代のアバターばっかりで新しい世代のが出ないって言われてるし、私の発言は何も間違ってないと思うけど? 撤回しないし、変わるべきは! お前の方!! あ、ごめんごめんなんか緊急クエストみたいなの発生しちゃっててさ』
か、わる、かわらない、私は最高、私は完璧、私が、私の、私を、私は、私に、私、わたし、わ、たし、は――――。
◆ ◆ ◆
『エマージェンシーアラート:【パーフェクトキューブLv.MAX】が信じる世界が消滅し、機能を停止しました。エクストラキューブから詳細を確認して下さい』
「あ、ペルちゃんごめん本当に待って! パーフェクトキューブが死んだっぽいんだけど!」
「いいですわよ~。わたくしより大事なことがい~っぱいありますものね~」
「ペルちゃんより大事じゃないからぶん投げとくね! ごめんね!」
「あらやだ、本当にぶん投げて、ワールドアイテムよりもわたくしを……?!」
パーフェクトキューブがさっきからなんかうるさいなぁ~と思ってたら、急に機能停止しちゃった! でもペルちゃんが珍しく物凄く拗ねちゃったから、もうそれどころじゃないんだな、これが! エクストラキューブは、ぽいーっと!
「ペルちゃん」
「やは、わややや、顔、顔が、近いでしゅわ……!」
「おおう……。わ、我は先に……い、いや、物陰から……見てよう……」
「明日のお出かけまでに絶対終わらせるから。ラーラさんだけ拉致ってテレポチケで各地に同行して貰って、朝の7時までに終わらせるから。絶対に、ペルちゃんとの約束の時間までに終わらせる。終わらなかったら、そこで諦める。その時はすべての責任を私が取るから。約束する」
「…………そんなに、ラーラさんが大事ですの?」
「ラーラさんは故郷に帰りたい、そこに妹さんが居ると思ってる。でも実際は恐らく、故郷は滅んでる可能性が高い。妹さんの子孫であるリーリちゃんに会わせずに向かわせたら、全てに絶望して復讐の化身となって殺戮の神になる可能性が高いの」
「そ、それなら先に、そうと言ってくだされば! わたくしだって、こんなに……んにゅ……」
「だから、ちょっとだけ時間をちょうだい? ね?」
「わかりましたわ、絶対ですわよ? それと……わたくしも、時間までに終わるように協力しますわ!」
「ありがとう、大好きペルちゃん」
「だい……!? あ……!? 先程投げたキューブ、動いていましてよ……?」
「え?」
いまエクストラキューブどころじゃないんだな、これが! いやなんかモゾモゾうるさいからちょっと相手してやるか……。え、本当だ。なんかモゾモゾ動いてる……。
「え、ちょっとキモい……。ミミッくんに食べて貰おう……」
『【ミミッくん】を取り出します』
『キュッ?』
「ミミッくん、あれパクっと食べて。ちょっと触りたくない、キモい」
『キ゛ュ゛エ゛……』
「あからさまに嫌がっていませんこと?」
「なんか変な赤いニョロニョロが隙間から出て来てるし、触りたくないんだもん……」
おねが~いミミッくん、触りたくないから食べてよ~……。
『【ミミッくん】が【イレギュラーキューブ】を取り込みました』
『…………』
「…………」
「た、食べた」
「リンネ、今のそれ、食べさせて大丈夫だったのか……?」
「いや、うん、どうだろ……。でも触りたくなかったし……」
「わかる。我もあれを触れと言われたら無理だ」
『【ミミッくん】が【イレギュラーキューブ】を消化しました。設置していたパーフェクトキューブがスクラップになり、全ての術式が消滅しました』
『パーフェクトキューブがイレギュラー化しませんでした』
わ゛っ゛。パーフェクトキューブが、完全に死んだっぽいんだけど!? え、大丈夫かなこれ、大丈夫じゃないよね。スクラップになったって言ってるし、あ~あ……。金策道具が死んじゃった~……。あ~~……。
「パーフェクトキューブ、スクラップになったって……」
「なん、だと……!? せめて、中身の解析がしたかったのに……!!」
「あら、ミミッくんの様子が、変でしてよ……?」
『【ミミッくん】が【(W)キューブミミック】に進化しました! おめでとうございます、ワールドアイテムです!』
「宝箱が、キューブの見た目に変わりましたわよ?」
「キューブミミック、だって……。ワールドアイテム……」
「あらまあ!」
『キュッ!』
ミミッくんが、キューブミミックになっちゃった……。イレギュラー化しなかったって、もしかしてさっきのエクストラキューブを放置してたらパーフェクトキューブとくっついて、自由意志かなにかを獲得して暴れまわるモンスターにでもなってた……? わあ、ミミッくんナイス完食! 勇気を出して食べたの本当偉いっ!
『【(W)キューブミミック】に命名することが出来ます』
「名前、また付けられるんだ……。ミミッくんで良くない?」
「ミミックのキューブですし、ミミッキュんですわね!」
「あ、それで。ミミッキュんっと……」
『【(W)キューブミミック】を【ミミッキュん】と命名しました。不完全にも拘らず完璧だと主張していたパーフェクトキューブよりも、より完璧になろうと努力し続ける新モデルです! 以降はパーフェクトキューブに代わって【ミミッキューブ】を設置することが出来ます』
「パーフェクトキューブの性能を引き継いでるのかな……? うわ、ええ?」
【(W)ミミッキューブ】(ワールドアイテム・世界と共に変わる力)
・このアイテムは変化し続ける
・【(W)ミミッキュん】のサブ効果、メインアイテムは別で使用出来る
・【対価】利用料を設定することが出来る。対価はそれぞれ自由に設定できる
・【努力】追加でチップを支払うことで一部の成功率や品質等が向上する
・【自動】回収した対価は自動で収集され、自由に納付先を決定することが出来る
・【設置】ミミッキューブを設置するとキューブから代理ミミッキュんが顔を出して活動を開始し、マスター以外が動かすことが出来ない。250時間設置可能で、設置満了後はミミッキューブに閉じこもる。再度活動をお願いすれば再び顔を出す。任意のタイミングでインベントリに戻るよう指示すれば、どこからでも戻すことも出来る
・【補填】アイテムが食べられてしまった場合、【ざんねんで賞】が貰える
・【連続】指定回数分を一気に実行してくれる
・【平等】誰にでも平等に接する。ただし、やられたらやり返すという意味で平等
・【大食】お腹いっぱいになることはない。いっぱい食べる
・【覚醒】極極極稀にとてもやる気を出す。大チャンス!
・【呪】譲渡不可、所有権を手放した際は旅に出てしまい、ワールドのランダムな場所に再出現する
・【呪】30日間相手をしなかった場合、所有権を失う
【効果】
・【お料理】食材系アイテムを投入することにより、指定したジャンルの高級料理アイテムへ変換出来る。ジャンルは選べるが品物までは選べない。チップを与えると味付けや量などを調整してくれる。たまに食べられる。
・【資材】各種資材系アイテムを投入することにより、指定した資材系アイテムへ変換出来る。チップを与えるとレアリティが上昇しやすくなる。たまに食べられる。
・【武装】装備を投入することにより、指定したジャンル、もしくは極稀にランダムでアーティファクト等に変換する。チップを与えると強化されて排出される可能性が高くなり、レアリティも上昇する。強化値に限界はない。たまに食べられる。
・【幸運】ざんねんで賞を投入すると食べられてしまうか、アップグレードキットが排出される。選択式のものも排出される可能性がある
【特殊サービス】
・【初期化】投入したアイテムを分離したり初期化したり出来る。ちょちょいのちょいなので、食べたりしないよ?
・【気分強化】投入した装備に合った強化を施すが、振れ幅が大きく、気分次第では食べられてしまう
・【わらしべ】投入したアイテムをランダムなレアリティのアイテムに変更する。目指せ、わらしべ長者! 食べたりしないって
・【リサイクル】投入した専用希少素材を別の種類の専用希少素材にランダムで変更する。たまに増える。極稀に食べられる
・【おしゃれさん】投入したアバターを別のアバターにランダムで変更して貰えるけど、極稀に食べられる。ジャンルを指定すると結構食われる。2着以上入れるとレアリティが上がる!
・【カードデル】投入したカードを別のカードにランダムで変更してくれる、たまに食べられる
・【ドロー】投入したアイテムからカードを外す。消滅しない。解除不能なアイテムはベシっと叩かれて戻される
・【チェンジ】投入したアップグレードキットを別のアップグレードキットにランダムで変更、極稀に選択箱にしてくれる。たまに食べられる
・【ダビング】投入したアイテムと同じ価値のアイテム投入することで精巧なレプリカを複製することが出来る。やや食べられがち
――――キュッ!
ワールドアイテムマスター【リンネ】・重量なし
前より明らかに性能が上がってる……。追加投資をするとレアリティが上がる可能性が高まったり、数が増えたり、より良いアイテムが貰えるようになるんだ……。
「元々はキューブから出たアイテムに食われて存在を失うとは……」
「もしかして、皆さんが利用し過ぎて異常を起こしていましたの?」
「そうみたい。経験値みたいなのが一定値溜まって、今まさに暴れだす~って状態だったみたい?」
「あの小さなキューブの方が本体でしたの?」
「多分? パーフェクトキューブが殻で、エクストラキューブが中身だったのかな~。どうなんだろう?」
「リンネ、今頃パーフェクトキューブがなくなって大騒ぎになっているんじゃないか?」
「あっ!」
「確かにそうですわね! さ、早く着替えて設置に行きませんと!」
確かに、パーフェクトキューブがスクラップになっちゃったから大騒ぎになってそう! 早くミミッキューブを設置しに行かないと……。前より見た目が可愛いから、人気者になりそう! キューブをパカッと開いてちょこんと顔を出してるのが可愛いんだ~。どれ、行こう行こう。値段は~……前と一緒で良いっか~!
◆ ◆ ◆
「――――主任、パーフェクトキューブって最終的にどうなるか覚えてるッスか?」
パーフェクトキューブ、あれは恐ろしい時限爆弾だ。人の欲望を取り込み、エネルギーを蓄積し、殻を破ってマスターに忍び寄りその者を堕落させ、欲望の化身として傀儡化して世界を混乱に陥れる。最後にはマスターを食い殺して自由意志を手に入れ、欲望の神として降臨する。
「ああ、最後には大勢の者を破滅させる欲望の神として降臨する。投入ペースが非常に早かったからな、もうそろそろ自由意志を手に入れる頃じゃないか?」
「そうッスね、もうレベルマックスになってるみたいッス」
「束の間の大富豪生活は楽しかっただろうな。これから世界を破滅させるかもしれない存在を生み出した元凶として責任を問われ、その責任を果たすべく欲望の神に立ち向かうことになる。さて、レイドイベントの告知を打つ準備をするか」
自由意志を手に入れ、イレギュラーキューブと化した中身がパーフェクトキューブを取り込んだその時こそ、世界が変わる時だ。人の欲望の成れの果て、自分たちが生み出した怪物に恐れ慄くがいい……!
「別解答があるの知ってるッスか?」
「は? そんなのないだろ」
「いやあるッスよ。イレギュラー化の兆候に気がついていた場合、シャウタの中枢部にキューブ制御装置ってのがあるッス。これをキューブに使用するとちょっと不便になるッスけど、イレギュラー化は絶対しなくなるッス」
「まさか手に入れてたのか!?」
「手に入れてないッスね」
「ではイレギュラーがイレギュラーに食われるのは時間の問題ということだな」
「そうッスね~。食われてるッスね~」
さっきから何が言いたいんだ? ニヤニヤしやがって、おちょくってるのか?
「実はまだ解答があるんッスよね~」
「何?!」
まだ解答がある? そんなの知らないぞ!
「他に4パターン、イレギュラーキューブがパーフェクトキューブに到達する前に完全破壊するパターンがあるんッスよ」
「破壊したのか?!」
「いや、してないッス」
「じゃあなんだ!」
「キューブからしか排出されないウルトラエピックのアイテム3種、通称三種の宝具がイレギュラーキューブを取り込むっていう残りのパターンがあるッス。子の親殺しって奴ッスね~。ちなみにイレギュラーちゃん、一個持ってるッス」
「…………おいおいおいおいおい」
「おいおいおいおいおい、なんッスよね~」
まさか、嘘だろう? レイドイベント発生無し……? やったのか、その別解答とやらを!? なんでそんなことを思いついちゃうんだよ、イレギュラーは!!
「これッスね」
「ミミックキューブ……だと……!?」
「ミミッキュんって名前らしいッスよ~。可愛いッスね~」
「こいつがレイドボスになる可能性は!?」
「ほぼないッス。いっぱいご飯を貰える場所へマスターに案内して貰えて、そのことに大喜びして懐くッス。よほど厳しい対価にして利用者激減にでもならないと、好感度は鰻登りッスね」
「対価上げろ! イレギュラー! 対価上げろ!!」
「今まで通りの対価に設定しちゃったみたいッスね。しかもミミッキュんは従者のフリオニールにプレゼントするみたいッスね~」
「あああああああぁぁぁあああああーー!!」
またイレギュラーがイレギュラーをイレギュラーしてる!! まただ! どうしてなんだ! イレギュラーだからか! イレギュラーってなんだ……? もう今日帰りたい。さっきまで格好つけて『世界の破滅を~』とか思ってたのクソダサい、もうやだ。おうちかえる。
「はい、コーヒーでもどうぞッス」
「あ、ああ……。ああ……」
コーヒーおいちい……。





