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393 アップグレード

◆ リュース・街の広場 ◆


 ローレイの西の岩場はたま~にプレイヤーが通る、バビロニクスはアークトゥルスを入れるには狭い、ローレイの修練場は魔神殿の地下だから利用しにくい、加賀利は修練中の人が沢山いるし割と人気スポットだから使えない、生命研究所とヴァハールに行くのは論外、じゃあどこに行けば誰にも迷惑を掛けずに模擬戦闘が出来るか、消去法で辿り着いたのがリュースだったのよね。


『なるほど、確かに興味深いですね』

『私には貴方の使っているこの魔術の方が興味深いがね』

『このようなつまらない魔術よりも、リンネさん達の戦闘のほうが参考になりますよ』

『(;´∀`)』

 

 リュースと言えばおにーちゃんの故郷、おにーちゃんの故郷といえば吸血鬼の館、吸血鬼の館といえばカーミラさん! はい、ここで起きていることはカーミラさんに筒抜けでした。リュースの外で模擬戦闘をしようと思った途端に『あら偶然ですね』なんてカーミラさんが転移して来てエンカウント。偶然で会える場所でもなければタイミングでもないからね? 完全に狙って転移して来たでしょお茶目さん……。


『マリアンヌが【アルテナアップグレード】を開始、アルテナがレベル9になりました』

「リンネと模擬戦闘を開始してから凄い成長度合いだ。レベル3からレベル9まで上がってしまった」

『成長限界には達しないのかい?』

「まだまだ、ここから何十倍も成長出来るはずだ」

『扱うことが不可能とされていた生体金属を、更に強力な微細生体金属で統率し複数の強力な魔晶石によって管理することで、使用者に徐々に馴染ませて性能を上げて成長する。我々吸血鬼の槍や鎧の性質にそっくりですねぇ……』

「我の攻撃傾向に合わせて成長し、行動をサポートしてくれる。着用していて苦しくなく動きやすい、むしろ着ていない時の体が怠く感じる程だ。今のところ見た目の恥ずかしさ以外は何も問題がない」


 ええ? なんで私がここまで一言も発してないかって? 今の戦いがギリギリ過ぎて息が上がってるんだよ。マリちゃんとの模擬戦闘は今までなら100回やっても100回全部勝てる自信があったけど、アルテナレベル9になったマリちゃんとの次の模擬戦は正直、勝率2割ぐらいじゃないかな。2割切ってるかも。

 強い。さっきまでは叡智の結晶だぁ~なんてからかってたけど、もうそんな事を言う余裕が全くない。油断したら死ぬ、ちょっと隙を見せたら死ぬ、確実に仕留められる。今のところ13戦13勝してるけども次は本当にわからない。なんせマリちゃんに有効な手が殆どないんだから。


「……よし、いいよ。これで最後にしよう」

「わかった。今度こそ負けない」

『では14戦目を開始しましょう。皆さんも上位者の戦いを見て理解を拒まず、何をしているのかを理解する努力をして下さい。それが皆さんの糧に繋がります』

『私も参考にさせて貰おう』

『全員、この戦いを目に焼き付けておくように!』

『はいっ!』

『( `・∀・´)ノ』


 ちなみにリュースの自警団の面々が集まって私達の模擬戦を見学してるから、外側に被害が及ばないようにカーミラさんが本気で魔術の防壁を展開しているから、私が中暗黒球体を放っても問題はない。本当に問題なのは発動を絶対に許してくれないマリちゃんの戦闘スタイルの方。私が発動出来る余裕がある魔術はカーススピア、ピアリス、串刺公(ヴラド)だけ。他のは絶対に間に合わない。使うのは自殺行為と同じ。


『では、始めて下さい』

『満月の女王カーミラが【プチヒヨコッコボム】を発動』

『ピヨッ!』

『システムメッセージ:模擬戦を開始します』


 この気が抜けるヒヨコの鳴き声みたいな爆発が戦闘開始の合図。何のためにこんな魔術を――余計なことを考える暇は、ない!


「穿て! カーススピア!」

『【カーススピア】を発動、MISS……。対象が存在しません』


 これに当たってくれるマリちゃんが懐かしいよ!! 今では残像の残像ぐらいに当たるのが精一杯だわ!! でも撃たないと突っ込んできて戦局不利になるんだもん、しかたないじゃん!!


『マリアンヌが【エアステップ】を発動、【ジェットピンボール】を発動』

『モードチェンジ【魔神の大鎌】完了』


 避けて空中に逃げられた、空中に魔力の足場を生成してそれを踏み台に跳躍、更に次々と足場を生成して空中を超高速で跳ね回るジェットピンボール。これを発動されると神速対応があったとしても対応し切れない。空中を超高速機動で動き回るマリちゃんを捕捉するのは絶望的になる。こうなったら魔神の大鎌に切り替えて範囲攻撃で狩るか、ピアリスや串刺公(ヴラド)で牽制しつつ動きが鈍ったのを魔神真空波で叩き落とすしかない。ただ困ったことにジェットピンボールの速度が、さっきより速い!!


『マリアンヌが【バレットストーム】を発動、エアステップに跳ね返り跳弾が発生!』

「うっ……!?」


 そしてこのジェットピンボールはがむしゃらに跳ね回ってるわけじゃないのがヤバい。アルテナによって射線補助を受けた正確な射撃コースで、生成したエアステップに銃弾を跳ね返らせて、私の認識能力の限界を超えた攻撃を当てようとしてくる。無数に跳ね返る銃弾、攻撃されるタイミングが掴めない跳弾、捕捉できないマリちゃん、全てがストレスでしかない!! 現状打開の一手が必要!!


『刻印【串刺公(ヴラド)】を発動、MISS……。対象が存在しません』

「あ!?」


 マリちゃんがこっちに向かってくる!? さっきまで回避に専念してて、こんな行動はして来なかったのに!! マズい、跳弾がこっちに来る!!


「身を守れ私、抵抗せよ!!」

『自身のみを対象に【防御の号令+2】【抵抗+2】を発動』

『マリアンヌから9.1Mダメージを受けました』

「ぐっ……」

『マリアンヌが【アクセラレーションキック】を発動』


 私の攻撃タイミングに合わせてエアステップを解除して、待機させ続けてた跳弾を解放して銃弾を牽制に使って本体の攻撃で仕留める気だ、鎌を振るのに重要な右腕を狙って撃ってきた! 右腕を動かすには厳しいダメージ、でも攻撃できないわけじゃない! 銃弾を受けてからキックを受けるまでのこの空白の時間! 私が行動を挟むには十分隙がある!!


「まだ奥の手が、残ってるんだよ!!」

『魔手変形【魔狼斬滅】を発動』


 こんなこともあろうかと、切り札になる()は残してたんだよ! 右がダメでも私には左がある!!


「リンネなら何かはあると思ったんだ」

『マリアンヌが【エアステップ】を発動、マリアンヌの【アクセラレーションキック】がエアステップに炸裂!』

「はあ!?」

『MISS……。【魔狼斬滅】の範囲に攻撃対象が存在しません』


 は、えっ、嘘。足場を作って蹴り飛ばして、とんぼ返りで逃げられた……!? か、完全に、空振った……!!


『マリアンヌから4.2Mダメージを受けました』

「うあ、ぐっ、う……!!」

『マリアンヌが【エアステップ】【クイックドローショット】を発動、【アクセラレーションキック】を発動』

『マリアンヌから2.4Mダメージを受けました』


 まだ跳弾が残ってた、時間差で当ててくるのは予想外だった……。しかも移動しながら速射で追撃、これはもうかなり厳しい……。私のほぼ真上から、まるで死刑執行人の振り上げた首狩り斧みたいな超高速の蹴りが飛んでくる……。こっちは片膝を突いて蹲って死を待つばかりのような状態。私の奥の手を潰して最後の一撃を決めに来ている。勝利を確信している――――この瞬間が、勝率2割あるかどうかの賭けなのよ!!


「……ピアリス・クルス・スペアル・ナチュラ」

「なん……!?」

『古代神術【ピアリス・クルス・スペアル・ナチュラ】を発動、自身に1.1Mの無属性ダメージを与えました。【古代の呪い】は抵抗により無効化されました』

「がっ……はっ……!!」

『クリティカル! マリアンヌに13.2Mの無属性ダメージを与えました。【古代の呪い】状態になりました』

「ぐっ……あっ……!?」


 当たったァ……! まさか私からピアリスが生えてくるとは思うまいよ、膝を突いて蹲ってるのは死を待ってるんじゃない。ピアリスの魔術陣を見せない為に、自分の土手っ腹を貫いて上にいるマリちゃんをぶっ刺す為に、こうやって蹲ってたんだよ……。私と同じように、MP統合管理型になったマリちゃんは、あ、後は、古代の呪いのスリップダメージで、死ぬ、だけ……。


「あっ――――ああああ!!」

「なああ!?」

『マリアンヌが【フルスロットルパンチ】を発動、クリティカル! 2.5Mダメージを受け死亡しました』

『マリアンヌが古代の呪いのスリップダメージで死亡しました』


 や……ああ……。最後の最後で、根性見せてきた、わぁ…………。これは完全に予想外、仕留め損なった私の負けだわ……。


『システムメッセージ:模擬戦終了、回復可能な全ての状態が完全に回復します』

『相打ちですか。最後は引き分けですね、素晴らしい攻防でした』

『発動を見られては回避されるから、自分で魔術陣を隠して自分ごと槍で貫くとはね。発想が狂ってないかい?』

『(;´∀`)……』

『最後の攻撃は参考にしないように』

『実行には、到底移せない攻撃かと……』

「我をなんとしてでも殺すという、リンネの最後の闘志、凄まじい執念を見た……」

「……いや、私が先に死んだから私の負け。マリちゃんの執念の勝利だよ」


 古代の呪いは視覚、聴覚、嗅覚、平衡感覚などなど様々な感覚に極度の異常が発生して、更に相手のHPとMPの割合に応じたスリップダメージも与える超強力な状態異常。自分の能力に頼らず、状態異常任せにして勝ちを確信した私の驕りが招いた敗北だわ。誰がなんと言おうとも私の負け。


「しかし……」

「納得できないなら、今度は私を完膚なきまでに叩きのめせる圧倒的な実力で叩き潰せるようになって。少なくとも私は、これを引き分けとは思ってない。古代の呪いに甘え、目前の勝利に舌舐めずりした私の負け」

「…………そう、か。そうか……。そうか……。勝ったのか、我は……我が……リンネに……」


 ぐぅぅ……。ぐぅぅぅううううう~~!! ぐぁあああ~~~!! マリちゃんに負けた、負けたぁああ!! このままじゃダメ、強化できるものを徹底的に強化しないと!! ユキノさんの師匠~とか天狗になって、魔界軍団長~とか偉くなった気になってサキュポリさんに生活指導とかしてる場合じゃない!!


『あら、素敵な目。敗者の目ではありませんねぇ……』

『まるで復讐を誓った狼の目だ、恐ろしいな』

『マリアンヌさん? 貴方、恐ろしい狼の闘志に火を灯してしまいましたね』

『((((;゜Д゜))))』

「そ、そんなことを言われても、我はいっぱいいっぱいで……。全力を出すのに必死で……」


 もはや皆が追いつくまで~とか、アークトゥルスは卑怯だとかオーバースペックだとかね、言ってられないのよ。使えるものは全部使う、やる。やると決めたらやる……!


「おにーちゃん! あ、違うアークトゥルス! それとアルテナマリちゃん! あと千代ちゃんも緊急招集して、地獄は~どに行く! 行くったら行く! カーミラさん長々と付き合ってくれてありがとう! 今度ティアちゃんと一緒にゆっくりお茶しようね!」

『(*´∀`*)!!』

「わ、我も一緒にいいのか?」

『…………あら。それはもう、じっくりたっぷりゆっくりがっちり、お茶をしましょう』

「そういえばティアちゃんの新しい服見た?」

『…………いいえ?』

「今凄い可愛――」

『満月の女王カーミラが【ターゲットテレポーテーション】を発動しました』

『急用を思い出しましたので。では皆様、今後も鍛錬に励んで下さい』


 そうか、カーミラさんもやると決めたらやる女性なんだね、私と一緒だね。


「マリちゃんはレベル10に出来ない!? アルテナ!!」

「あ、ああ。やってみよう」

『マリアンヌが【アルテナアップグレード】を開始、アルテナがレベル10になりました。【緊急硬化】が使用可能になりました』

「緊急時の防御性能が上昇したようだ。常時発動は出来ないが、ナノメタルの構造を変化させて硬化することで攻撃を無効化する機能が追加された」

「大変結構! アークトゥルスはマージキャノンを好きなだけ撃てるから、喜びなさい!」

『(っ’ヮ’c)!!』


 じゃあ、行こうか……。ローレイに戻ったら千代ちゃんに念話飛ばして、死体安置所に強制回収して再召喚して無理やりお取り寄せしよう。そうしよう。やると決めたらやるんだ。


【アルテナ】

 学習する生きた戦闘補助システム。マリアンヌの戦闘をサポートし、射撃面と体術面のどちらも強力なサポートをしてくれる。

 アルテナはマリアンヌの戦闘に最適な形状を追求した結果『まず一案目として』今の形状になったが、女性的な部分も武器になるという副次効果が判断した為、他の形状になるメリットがないとして他の案を即座に放棄した。マスクは悪臭や有害な空気による攻撃を防ぐ効果がある。

 マリアンヌの体への負担を軽減し、運動性能を格段に飛躍させるさせる外付けの筋肉や外骨格にような働きもし、射撃能力の強化、弾道計算、攻撃タイミングのコントロールも行う。更に体術面では人間には到底不可能な空中高速移動、急な動作変更も可能としている。

 マリアンヌからすれば唯一の欠点は『見た目が恥ずかしいこと』なのだが、それが武器になると判断されているためどうにもならない。

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