391 土曜日どうでしょう
◆ 私立鹿鳴寺学園【1-1教室】 ◆
「土曜日だるいよね~」
「だる~い、バビオンしてたいわ」
「雨で休校続いたから、仕方ないよ……」
「もうちょっとで夏休みだし、一学期終わりまでに足りない授業やらないと先生達もヤバいんでしょ~」
「御機嫌よう~! 燐音さん、メッセージ見ましてよ!」
「あ、おはよう真弓。大丈夫? 仕事忙しくない?」
「全然! 全く問題ありませんわ!」
重だるい土曜日の学校も、真弓が来た途端にふわっと軽くなるというもの。さっきまではもう帰りたいと思ってたけど、帰ったら真弓はお仕事になっちゃうから電話すると邪魔になっちゃって話せないし、ゲーム内でしか話す機会がなくなっちゃうから……。学校でならいっぱい真弓とお喋りが出来るし、帰りたくなくなっちゃった。
「どこ行く? にゃおん?」
「にゃおん……? どうして急に猫ちゃんになりましたの……? わたくし、心臓が……」
「NYAONモールのことだけど。急に猫にはならないでしょ、リアちゃんじゃあるまいし」
「そ、そうですわよね! そうですわね、そうね……そうよね……しっかりしなきゃ……」
さては真弓、遅い時間までレベリングしてたね~? お昼寝さん達、レベルが上がってきて装備強化とか見直しとか、機械系特効装備とかで揃えたりとかで中層狩り、下層狩りって移ったのもあって、効率が出るようになって楽しくなったのか狩り時間伸びてるみたいだし。それに今日華胥の夢のメンバーだけが確認できる掲示板を見てみたら、魔神兵さん達と合同で最下層狩りに挑戦するって告知も出てたしね。気合入ってるんだろうなあ~。
「で、にゃおん?」
「にゃおんがいいでしゅわ!!」
「じゃあにゃおん見て回ろうね~」
「明日NYAON行くんですか? 俺もい……っ!!?」
「……すぞ、譲二……」
「……!?」
「あ、かえでさんも御機嫌よう! 昨日はお世話になりましたわ!」
「ご、ご機嫌、よう……。今日、最下層、頑張ろうね」
「ええ! 頑張りましょうね! 獄はどうでしたの? 上手く行きまして?」
「う、ん。い、行けた。神技も、オッケー。結構大変なの、あ、ああ、あったけど」
「それは良かったですわ~!! おめでとうございます!」
「お~獄卒業おめでとう~!」
「あ、ありが、と、ございます」
いやいや、かえでちゃんとは普通に喋れるのかい。かえでちゃん、昨日は途中で獄に来てたんだ。レベリングは終わったのかな? 多分、まだだよね? 前に出来なかったから改めて終わらせに来たのかな? これで最下層も楽に……あ、そうだ!
「最下層、ボス出るから気をつけてね」
「はっ?」
「えっ?」
「あ、言ってなかったごめん……!」
「え、ちょっと詳しく……」
「ボス……!? ボス出ますの!?」
「うん、皆パーフェクトキューブに夢中だったから、言いそびれちゃった」
そういえばボスの話してなかったわ。最下層狩りってことはボスも出てくる可能性大だし、注意喚起しておかないと……。
「私が戦ったのは強欲と虚飾で、多分8種類のボスがいると思う。それぞれモチーフになってるのが八つの枢要罪で、他の6種類は見たことないからどの程度強いかわからないけど、強欲っていうのが一応……蜘蛛型らしいんだけど、どうみてもあの……ゴ、ゴキ……にしか……見えないから。G型が手下で、これが出てきたら強欲の王が出現してる可能性があると思うよ。こいつは常時透明で――」
「ま、待ってくださいまし!? 情報が大洪水ですわ!?」
「最下層、む、難しいの……?」
「下層までとは毛色の異なる敵が多いかも? 特徴、書き出そうか?」
「是非お願いしますわ……! それと、出来れば華胥の夢の掲示板に……!」
「ゴ、ゴキ……。別の意味で、こ、怖い、かも……」
マリちゃん曰くあれはゴキじゃなくて蜘蛛らしいんだけど、どうみてもゴキなんだよね……。とりあえず私が経験した内容をざっと書き出して、皆に役立ててもらおう!
「……こんな感じ? 赤タフが凄い危険なやつだから、これは出し惜しみせずに全力で叩いたほうがいいよ。いざって時に瞬間火力出せる人を置いておいた方がいいと思う」
「これは、恐ろしい場所ですわね……最下層……」
「ここで狩りが出来る、き、きが、しない……」
「敵を集めるルートはイルエルちゃん達が完璧にマスターしてるから、イルエルちゃんから教わるといいかも」
「わかりましたわ!」
「ウニさんに、が、頑張ってもらお……」
ウニさん、あの高速で転がる巨大なウニ……シュールだよね。でも意外と攻撃方法が多彩で、テクニックも必要なのが面白いところ。攻撃方法は単純だけど、やってることが思いの外複雑っていう。あれもあれで楽しそう。
「ペルちゃんは獄終わった?」
「ええ、終わりましたわ! 古代語はちょっと難しいですけれど、あの、ひゃ……」
なんで急に顔赤くして喋れなくなるのかな~~?? 今日のペルちゃん変だよ~。
「神技まで取れたんだ」
「とれました……ですわ……!」
「かえでちゃんは、従者も皆行けた?」
「い、行けた。ラージウスが意外と鈍くさくて、体が大変だった」
「体だけに」
「…………ぐ、ふっ……! 燐音さん唐突に、酷いですわ……!!」
「うわ、しまった! 言っちゃった!!」
しまった、ローラちゃんが感染った……!! 今のがバビオンじゃなくてよかったね皆、今のがバビオンだったら空間凍結が発生していたところだったよ?
「カ、カジノで、通りすがりにダジャレ言ってく、ピンク髪のバニーガール並の……」
「ごめん、忘れて~。お願い~」
「なかなか、忘れられなさそう……」
「これは忘れられません、わ……ふっ、ふっ……」
「忘れられないと、い、いい言えば、昨日ラージウス達が、く、食われそうで怖いってプレイヤーに、会った……。レベルは、全然低かったけど、ふ、雰囲気で怯んだの、初めて見た」
いやそれ、まさか……。ユキノさんでは……?? ああ、ああ……! 出会ってしまったんだぁ……!!
「食われなかった……?」
「や、やっぱり、知り合い……」
「ユキノさん、でしょ?」
「ああ~ん!! 燐音さんにまた新しい女の人の気配がしますわ~!!」
「そ、そう。燐音さん、師匠だって、言ってたから……ほ、本当かなって」
「師匠!? 弟子をとりましたの!?」
「いやいや、初心者狩りに巻き込まれちゃったのを助けたんだ。話すと長くなるんだけど、それもあってサキュポリ配備された経緯があったりして、どこから話そうかな~~」
いや~……。真弓とかえでちゃんがいる学園生活、話すことが沢山あって楽しいなあ~。周りでもバビオントークで盛り上がってるプレイヤーも沢山いるし、は~……毎日楽しい!
「――おはようございます。ホームルームを開始しますから、席に戻ってください」
あれ、もうこんな時間? まだ早いじゃん、早く来すぎなんだよね。こっちはまだお喋りしたい内容が沢山あるっていうのに、もう~……。まあ仕方ないっか、切り替えてお勉強モードに戻ろうっと。





