390 希望を胸に
◆ 自室 ◆
バビロニクス側のサキュポリ本部も確認しに行ったらローレイほどは荒れてなかったけど、それでも汚いには汚い環境だったので大至急清掃と再発防止のルールを決めて、これからは綺麗で清潔な皆の憧れになるようなサキュバスポリスさんになって貰うように指導して終わったところで、ギルドホテルに帰還してログアウトした。そうしたら急激に今日一日の疲労が睡魔に変わって襲いかかってきて、これはさっさと寝ちゃおうと思って布団の中に入ったのだけども……。
「…………真弓、邪魔しちゃ悪いかな?」
なんとな~く真弓のことが気になったから、真弓宛てにメッセージを送っておくことに。明日は登校日だけど明後日は日曜日で学校が休みだし、せっかくだからどこかにお出かけしたいな。おやすみのメッセージを入れるついでに、お出かけのお誘いのメッセージを送っておこう。
「……これでよし、今度は前に行ってないお店とか見て回りたいなあ~」
前にショッピングモールに行った時は回りきれなかったお店もいっぱいあるし、夏に向けて水着とかも見に行きたいな~。去年は真弓の財閥が管理してるプライベートビーチで関係者が集まってバーベキューとかウォーターアトラクションだとかあったんだけど、あの時は混ざりたいって思わなかったから……。今年はせっかくだし、そういうのも思いっきり楽しみたいよね! 私はなりたい私になっていい、なんでも自由に体験していいんだから。
もし日曜日に一緒に行くなら、どこから見に行こうかな~。最初から水着見に行ったらはしゃぎすぎちゃいそうだし、大人しく出来る内に映画とか見る? それとも前は行かなかった射撃体験施設とか? 銃もちょっと撃ってみたいんだよね~。レーナちゃんが扱ってるのとはまた違うけど、どういう感じなのか気になっちゃって……。後は、そうだなぁ~……。後……は……。クレープも、食べたい、し…………。
◆ ◆ ◆
あの女はヤバすぎる、最上位危険人物だ……。つみれが可愛いから撫でたい、抱っこしたいって言うから恐る恐る渡したら『可愛いぃぃ~~』って言いながら涎垂らしやがった。つみれが猛抵抗してわっちの胸に飛び移ってきたから事なきを得たが、次からは絶対渡さない。絶対だ。
話してみれば悪い奴じゃないんだが、ただラージウスやガリャルドにつみれ、それにつみれとシンクロ中のわっちのことまで、顔中にびっしりと『食べちゃいたい』って書いてある表情で見つめてくるあの顔だけはヤバい。
「はぁ~…………あっ」
机の上に報告書が置いてあるな……。これは、あの犯罪者がどこで何やってるかの調査報告書か。どれ、内容は……? 冨永有虎はバビオン運営のライバル企業、ジョニーエンターテイメント社が引き取ったのか。確か金に物を言わせて犯罪スレスレの行為を配信して注目を集める、迷惑系配信者が多いところだったか。これはバビロンオンラインで新規アカウントでも作って、迷惑行為でも――いや? もしかしたら既にやってる可能性があるな? 掲示板で話題になっていた有虎の復帰時期と、リンネちゃんが問題視していた初心者狩りが活発になった時期、妙に合っている……。何かしら繋がりがありそうだな……。
「村井、どうせ起きてるだろ。入ってこい」
「は、はいっ!!」
これは調べておく必要があるな。この初心者狩り連中、もしかしたら一昔前に流行ったゲームシステムの隙を突いてゲームを崩壊させて、その影響で変動した株で荒稼ぎしてた連中と一緒か? アレのせいでわっちの昔やっていたオンラインゲームも潰れたんだ、もしも同じ連中なら容赦しない。
「ジョニー社が妙な動きをしてないか調査しろ。出入りしてる奴らの顔と所属も押さえておけ」
「はいっ!!」
「わっちの予想では恐らく潰し屋だ。お前はお前の視点で調べてみろ」
「りょ、了解しましたっ!!」
こっちは肉食系ふわふわ女のせいで大変だっていうのに、面倒事ばっかり増えやがって……。まあでも、意外と面白い奴だったな……。今度はつみれ達を連れて行かないで、個人的に喋ってみるか。流石にわっち一人だけなら食欲旺盛なあの顔は見せないだろ……。
◆ ◆ ◆
ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!! 燐音さんからぁ!! 7月9日にデートのお誘いが来ていますわぁ!!
「スケジュールは……。大事な用事はありませんわね! 全部キャンセルですわ!! 7月9日のスケジュールは全部燐音さん、燐音さん、燐音さん燐音さん燐音さんですわ! 全部燐音さんで埋まりましたわ~~!!」
朝から晩までぜ~んぶ予定が燐音さんと一緒!! 早く結婚式を上げたいですわ……。婚姻届もまだでしたわね! 早く出さないと。でも燐音さんが良いよって言ってくれないと、あっ、プロポーズも結婚指輪もまだですわね! 日曜日に見に行きませんと。
「…………言えるかしら」
でもいざとなったらわたくし、燐音さんのお顔を見るだけで動けなくなりそうですわね……。結婚のけの字すら口から出せるかどうか……。ううん、今度こそ一歩わたくしから踏み出しますのよ! 頑張れ、わたくし! 睡魔に負けて眠るまで燐音さんに正式にプロポーズをするシミュレーションをしておきませんと……。
「…………」
…………これ、絶対眠れないですわ! いけない、ドキドキして……。はわわわ…………!!
◆ ◆ ◆
今日はとっても楽しかった~。リンネさん、すっごく優しくて強くていい人でした~。あんなに素敵な人と最初にお友達になれたのは、とても幸運です~! それに、リンネさんのお友達のつくねさんも可愛らしくって素敵で、隠していましたが少し気が強いところも愛らしかったです~! つくねさんとはお友達になれましたが、従者の方々には怖がられてしまいました……。何か悪いことをしてしまったでしょうか……。
「はぁ……」
それにしても、こちらの世界は真っ暗でうんざりします。ずーっとバビロンオンラインの世界で暮らしていたい。あ、でもこれからは視覚情報伝達デバイス【オラクル】を使えば、こちらの世界の景色も見ることが出来るようになるのでしたね。ん~~……。でも、お外は怖いです。突然何らかのトラブルで急にデバイスが故障して何も見えなくなったら、その場から一歩も動けなくなってしまいそうです。
「学校……」
入学してから一度も行っていない学校も、行ってみたいような怖いような……。夢乃の目が見えないのが異常だと虐めて来る人が居たら、どうしましょう……。でもでも、リンネさんやつくねさんのような素敵な方もいらっしゃるかもしれませんし……。
「…………何事もまず、挑戦することが大切。お師匠様が言っていましたね……!」
まだやってもいない、起きてもいないことを恐れていてはダメですよね! お師匠様がよく『まずは挑戦』と言っていたとおり、学校に行くのもまずは挑戦ですっ! 一日ずーっと居なくても良いんです、少しの時間だけでも行ってみるのが大事ですよね!
「で、でも、明日すぐにというわけには……。来週、からでも……そう、来週! 来週にしましょう」
来週の月曜日、来週の月曜日を夢乃の初登校の日にしましょう! そうと決まれば、今日はいっぱい遊んで疲れましたし、寝ちゃいます。明日もリンネさんかつくねちゃんに会えるかな~楽しみ~……。