389 改善指導
◆ サキュバスポリス・ローレイ支部 ◆
曰く、この状態で片付いていると、目を泳がせながら言い張っている。
曰く、この状態で綺麗に使っていると、私の顔を直視出来ずに言い張っている。
曰く、この状態で何も問題ないのだと、ほぼ全員が青ざめた顔で言い張っている。
「――――んなわけあるかァーー!!」
『ぴぃぃ……!! 軍団長殿、どうかお許しをぉ……!!』
『くぅ~ん…… (すまん、許してくれ……)』
食事をした後の食器は溜まりっぱなし! 勤務中に破れちゃったストッキングやらなにやらがゴミ箱にすら入れられず放置されっぱなし! 他にも買い物に行った時に貰ってきた紙袋とか商品のラッピングとかがそのまんま! ヘルハウンド達のオモチャも出しっぱなし! まだ配属からちょっとしか経過してないのにこのざま! んもぉぉぉ~~許せない!! 唯一褒められるところがあるとするなら、ティスティス様から頂いた武装関係だけはキッチリと整理整頓されてメンテナンスも行われてるってところ!
「現在パトロール中の部隊を除いて全員訓練場に集合。今すぐ、今すぐ! 集合!!」
『システムメッセージ:魔界軍団長の権能を発動し、パトロール中以外のサキュバスポリス全員を集合させますか? 理不尽、無意味な命令はマイナス評価に繋がる可能性があります』
この集合が理不尽で無意味だったら一生発動出来ないわ!! さっさと!! 発動!! しなさい!!
『システムメッセージ:パトロール中以外のサキュバスポリスに【全員集合】を発動しました』
『ひっ……!? ぜ、全員集合であります!! 大至急、大至急であります!』
『ワゥ、ワオォォーーン!! (お前達、早く集まれ! 軍団長殿が地獄の業火よりも燃え盛っている!)』
今日あのままログアウトしなくて良かった。本当に、本当に良かった。そうじゃなかったらこの問題が『なんかサキュバスポリス支部から異臭が~』って感じで表に出て、サキュバスポリスの信用を失うところだった。こういうちょっとしたところから信用が失われて、予算を出すのにも疑問を投げられて、どんどんルールが厳しくされて苦しくなるんだ。そうなると鬱憤が溜まったサキュバスポリスさんが暴走したり、更に酷い事件が起こったり……。本当に初期段階で見つけられて良かった。
『何事ッスかぁ!?』
『黙って整列するのであります!』
『あ、ヤバ……絶対怒られちゃう……♡』
『怒られることに興奮するんじゃないです変態ッ! 変態ッ!!』
『ワウゥゥ~ン (ボール持ってきちゃった)』
『置いてくるのであります!!』
頭が痛い……。戦闘力と正義感は強いのに、生活能力がだらしなさ過ぎる……。うっ、その点私も人のこと言える立場じゃないかも。掃除も料理も洗濯も、最近じゃトレーニングメニューだって他者に任せっきりだし。どうしよう、自分のことを見つめ直してみたらちょっと怒れる自信がなくなって来たかも……。
『パトロール部隊以外全員、集合致しました! 軍団長殿!』
いや、ここは上に立つものとして言っておかないと! 私はこっちの世界ではちゃんと整理整頓してるし、他所様に迷惑をかけるような恥ずかしい行為はしてないもんっ!
「まずは皆さん、初めまして! 名前だけで顔を知らない人が多いと思いますが、私が魔界軍団長のリンネです。突然の訪問になってしまったのはお詫びします……が!!」
『ぴぃ……!』
『わぅ……』
「支部内の受付窓口以外、なんですかあの散らかりっぱなしの状態は!! ゴミも、衣類も、オモチャも、使い終わった食器も!! ぜーーんぶ散らかりっぱなし!! 使ったら使いっぱなし!! ここはゴミ箱でしたか? ゴミ処分場か何かですか!? ニーニャさん、ここはなんですか!!」
『サ、サキュバス、ポリス……ローレイ支部で……あります……』
「胸を張って言えますか? あの状態で!」
『無い胸は張れないであります……』
『ワ、ワウ…… (ニーニャ、絶対そういう意味じゃないぞ……)』
『はっ……!? い、いえ! 恥ずかしくて、言えないであります……!』
ニーニャさん胸気にし過ぎて明後日の回答するのは可愛いけど、今そういう場面じゃないよ! 可愛いね! 違う、今私怒ってるの!!
「今日の今日でこの状態、ローレイとバビロニクスの治安を守る任務を与えてくださったバビロン様やティスティス様の顔に、泥を塗る行為です!」
『うっ……』
『……た、確かに』
『わうぅん…… (僕たち、また魔界に帰されちゃう……?)』
『くぅーん…… (しかたないよ、悪いことしちゃったもん)』
「今回の件で罰則や謹慎などは与えませんが、バビロン様にはキッチリと報告します。それとニーニャさん。今回の状態に一応危機感を抱いていたのであれば、それはハッキリと注意しないといけません! それから、今後このようなことが二度と起きないように各部隊で話し合い、対策案を出してください。この決定に反論のある方は居ますか!」
『あ、ありません。これからは、しっかりその場で注意するのであります……』
『きゅぅん…… (ないです……)』
『だひ、第一機動部隊、深くはんしぇい致しておりましゅ! 異論あひ、ありません!』
『第二機動部隊、弁明の余地もありません! 深く反省致します!』
『第三機動部隊、ほ、本当に申し訳なく……お、思っております……はぁ……♡』
「ないのであれば、各班ごとに集合して話し合ってください! 私が対策案を出しても、自分たちが自分たちの問題行動に気が付かなければ意味がありませんから、何が悪かったのかをしっかりと認識して改善してください!!」
『『『はっ!!』』』
『はぁっ……♡』
あのね、第三機動部隊だけ何か目つきがおかしいんだよね。あの部隊だけ皆目がとろ~んとしてるんだけど、うわっ目が合っちゃった……。目を逸らしておこう……。近寄らないでおこう……。本能があの部隊は危険だって言ってる。
「ニーニャさんは私とお話し合いをしましょうね」
『ぴぃっ……は、はいぃ……!』
ここはニーニャさんをとっ捕まえて、第三機動部隊からの視線の盾にしよう。あの部隊から飛んでくる熱視線がちょっと、いやかなり怖い。すごく怖い。
「……なんでこんなに全員が全員だらしないんですか。正義感はすごく強いのに」
『サキュバスは元から、堕落を誘い、欲望を掻き立てる種族であります……。故に自分たちも堕落しやすく、目先の欲望を満たすことに走りがちな者が多いのであります……』
「それでよく正義感が強くなったね……?」
『野盗、山賊、奴隷狩り……。若い芽を摘む連中は我々の求める存在を潰してしまう敵でありました。故に、これらの悪党を狩ることが我々の求める存在を保護する活動でありまして、それがいつしか悪党を狩ることの方に強い使命感を持つようになったのであります!』
「あ~……。なるほどね」
『誰かを無理やり堕落させて嫌がられるよりも、誰かを守って憧れと感謝の気持ちを向けられながらお互いに満たされる方が、その、あの……えっとっ……』
「いやいや、納得納得。ありがとう、ニーニャさん」
『いえ! お役に立てて光栄でありますっ!』
なるほどね、サキュバスがどうしてこんなに正義感が強いのかって、そういう経緯があったから『悪党は許さない!』ってなってるのね。それにしても皆、色っぽかったり嗜虐心をくすぐる容姿だったり、保護欲を掻き立てられるような容姿だったり、思わず跪きたくなるような方も居たり……。サキュバスって言っても容姿はそれぞれ全然違うんだね~。全員ノーチェさんみたいに胸がすごく大きいわけじゃないんだ。むしろノーチェさんがこの中でも断然トップだわ……。ノーチェさんが特別だったのね。
『第一機動部隊、かんひょ、完了ひました!!』
『第二機動部隊も完了致しました!』
『第三機動部隊も、いっぱい案が出ましたわ……イッパイ……♡』
『全員整列! 代表は軍団長殿に改善案を発表するのであります!』
おお、早い。やっぱり各部隊の中にはこのままじゃマズいって思ってたサキュバスさんも沢山いたんだろうね。だって誰もが何が問題なのかわかってない状態だったら、まず改善案どころか問題箇所がわからないから話し合いすら進まないはずだもん。わかってるなら最初からやりなさいって言いたいけど、サキュバスさん達の種族柄の特性というか、仕方ない部分も――――いや、ダメダメ。ちょっと甘やかしたらすぐゴミだらけになるのは目に見えてるもん!
「それじゃ、皆の案を聞かせて貰える?」
『第一機動部隊から順番に発表するのであります!』
『はひぃい……!! だ、第一機動部隊は、せ、い……清掃時間を決めて、一斉清掃をするのはど、どうかなぁ~って……』
『第二機動部隊!』
『はっ!! 第二機動部隊からは、まず全員にゴミ分別ルールの徹底周知を行い、備品等の収納箱を設置して使用終了時に都度収納、ゴミ等を発見した際は率先してゴミ拾いを行うのはどうかと意見が上がりました!』
『第三機動部隊!』
『はぁい、第三機動部隊は~……。いっそ、清掃職員を雇ってはどうかしらと、意見がぁ~……』
あ、これは間違いない。この問題の主原因は第三機動部隊だわ。まず自分たちでやるって意見じゃなくて誰かにやって貰おうっていう辺り、一番堕落してらっしゃる思考してるもん。
「ところでゴミ散らかしてるの第三機動部隊じゃないよね?」
『…………』
『…………かも?』
『だ、第二部隊の子達だって、ちょっとぐらい……』
『第二機動部隊は武装点検、メンテナンスが担当です!』
「あ、だからあそこだけ綺麗だったんだ。ふ~ん」
『あっ……♡ あっ……♡ 虫けらを見るような目ぇ……♡』
よし、ニーニャさんに最初に与える任務、決まったわ。
「機動部隊総隊長ニュックスニーニャは、第三機動部隊に対して生活改善の徹底指導を。今後、第三機動部隊の清掃・整頓担当区域が、第二機動部隊の清掃・整頓担当区域よりも明らかに汚い場合、バビロン様に相談して第三機動部隊には罰則を与える可能性もあると覚悟してください。第一機動部隊も今後称賛出来るような模範行動を」
『は、はいっ! 徹底指導するのでありますっ!!』
『お掃除、苦手なのよぉ~……』
『今後の行動にちゅなげますっ!!』
やっぱり部隊毎に案を出させて正解だったわ。問題のある部隊が一発でわかったもんね。後はさっき上がった改善案を踏まえつつ、今後どうしていくかを決めて環境改善に繋げていこう。
『システムメッセージ:ニュックスニーニャの好感度が大幅に上昇しました』
『システムメッセージ:サキュバスポリス全員からの信頼度が大幅に上昇しました。魔界名声値が5万加算されました』
『システムメッセージ:ヘルハウンドポリス全頭からの信頼度が大幅に上昇しました。魔界名声値が1万加算されました』
お、おお……。こういうシステムもあるんだ……。これは他のNPCも何かしらの問題を抱えてたり、悩みがあったりする可能性もあるなあ~。今までそういうのには無頓着だったけど、魔界軍団長として問題解決をするのも、今後必要になってくるのかも。今回はいい経験になったね!
「それでは、改善案を纏めて今後の規則として追加する内容を決めて行きましょう」