387 成長を感じる
◆ 魔狼獄・暗黒空間・オブザーバーモード ◆
どん太の獄攻略に付き合ってる内に、とある選択肢が増えてたことに気がついた。全ての獄で自分の従者だけを挑戦させて自分は完全に傍観者になって見守るだけのオブザーバーモードという新モード。これを利用した場合は自分は獄の特殊能力を得ることは出来ないけれども、『片方がキャリー行為をしたから獄の報酬なし!』みたいな判定を受けること無く、敵のステータスも獄に一人で挑戦した時と同じ状態だから邪魔しないように隠れてるよりよっぽど迷惑にならない。この設定にはどん太もご満悦よ。
攻略の方はと言うと、前回既に攻略済みの獄に関しては全く問題にすらなってなくて、私が勝手にこれはきついかなーって思ってた技と心についても簡単にクリアしてくれてた。特に技のほうの攻略方法が私の想像を遥かに超えていて、分身三回行動でそれぞれ別々のスキルを出し続ければどん太だけで永遠にスキルリンクし続けられるんじゃないかってぐらい続いて軽々とクリアしていた。あれはモッチリーヌちゃんに自慢していいと思う。ついでに魔の獄に関してはもうね、古代語読める系インテリワンコになったどん太にはお散歩コースみたいなもんだったね。正直私もコントロールを用いて古代神術陣を砂とか石とかで無言で作る練習しようって思ったね。アレは騙し討ちに便利だわ。
『ガウゥゥウウ……』
『グルゥゥウウ……』
ところで今は何が起きてるかって? うーん、最強魔狼頂上決戦……ってところかな? 真・魔狼神ゼロス対挑戦者のどん太みたいな状況。これも私は手出し禁止って言われたからオブザーバーモードで見てるんだけど、比較するものが存在しない暗黒空間での戦いなのもあってサイズ感がわからないから、傍から見れば大きいワンちゃんの喧嘩にしか見えないんだよね……頑張れ~どん太~。
『ガァアア!!!』
『真・ゼロス(Lv,????)が【魔狼身弾】を発動』
睨み合いの状態を先に脱したのはゼロス、前だったら速すぎて見えない~とか驚いてリアクションしてたかもしれないけど、このぐらいの速度なら既に何度も見てるし相手も出来る。むしろ問題なのはゼロスのほうじゃなくって……。
『どん太が【地獄魔狼身弾】を発動』
どん太の方の魔狼身弾の方がよっぽど問題よ。なんせ神速対応まで積んでるのに一瞬一瞬の動作が見えない場面がある。これでもしも正直に魔狼身弾で攻撃じゃなくて急に別の攻撃に移られたら、その瞬間がわからずに攻撃を受けることになる。ゼロスも確かに強そうだけど、私の目にはどん太の方が格が数段上に見える。速さも、力も。
『どん太が【斬滅】を発動』
『どん太が【斬滅】を発動』
『ガウァアアア!!!?』
それに技術的な面が、特に圧倒的。突如分身体が左右に分かれてそれぞれが右前足と左前足を振りかぶって斬滅の構え、正面からはどん太が突進、判断するには一瞬しか時間がない。右か、左か、それとも正面を対処すべきか。ここで後退は愚行、中途半端に対処するわけにもいかない。
『ワォオオオオオオーーン!!』
『真・ゼロス(Lv,????)が攻撃をキャンセル、【魔狼咆哮撃】を発動しました』
残念、それは中途半端。
『『ワォオオオオオーーン!!』』
『どん太が攻撃をキャンセル、【魔狼咆哮撃】を発動』
『どん太が攻撃をキャンセル、【魔狼咆哮撃】を発動』
纏めて三体を相手にしようと欲張ったのがとにかく悪手。仮に真ゼロス一匹だけでどん太の分身による二重咆哮を潰せるならまだしも、見たところほぼ同格ぐらいとなれば……。
『相殺! 真・ゼロス(Lv,????)の【魔狼咆哮撃】を打ち消しました!』
『クリティカル! 真・ゼロス(Lv,????)に3,550Mダメージを与えました。【気絶】が状態異常免疫により【怯み】状態に抑えられました』
せいぜいどん太の咆哮撃を片方潰すのが関の山。当然ややずらして発動したもう一発を消すことが出来ずに片方を受けることになる。状態異常免疫、確率無効じゃなくて確率で受けるはずだった状態異常のレベルを下げる能力かな? それでも怯んで、それも足を止めてるならどん太の突進を最悪の形で受けることになるよね。
『どん太が【分身】を解除しました』
お? ここで分身を引っ込める意図がわからない……追撃用に走らせるべきなんじゃないの?
『ワウッ!!』
『ッガッァウゥ!!』
『どん太が【分身】を召喚しました』
『どん太が【魔狼流星】を発動』
『どん太が【魔狼流星】を発動』
『ガァアアッッ!?』
――――凄い。ちょっと感動、本体は突進中だから分身を追い抜いてる。ここから分身を走らせて追いつかせるより、一度解除して自分の周囲に再召喚したほうが早い上に意表を突けると思って解除したんだ。どこでこんな極悪な攻撃方法を学習したんだろう? あれかな、天下一でエリスさんが幻影を上手く使って相手を翻弄してたのを見て参考にした感じかな?
『クリティカル! 真・ゼロス(Lv,????)が4,890Mダメージを受けました』
『2COMBO! スキルリンク! 真・ゼロス(Lv,????)に【地獄流星】が炸裂、5,125Mダメージを受けました』
『3COMBO! スキルリンク! 真・ゼロス(Lv,????)に【地獄流星群】が炸裂、6,504Mダメージを受けました。【失神】状態になりました』
『どん太が特殊能力【チャンスメイカー】を獲得しました』
『どん太が【滅殺修羅魔狼拳】を発動』
『4COMBO! スキルリンク! オーバーキル! 真・ゼロス(Lv,????)に【地獄魔狼流星拳】が炸裂、29,999Mダメージを与え、撃破しました』
お~凄い。ボスに対してはオーバーキルの表示初めて見た、多分これ最後の一撃だけでゼロスのHP全部吹っ飛んだんじゃないの? やっぱりどん太の方がだいぶ格上だったみたいだね~。いやぁ、強くなった。強くなったよどん太ぁ……今すぐ撫でてあげたいんだけど、残念ながらオブザーバーモードは不可視の傍観者状態だから接触も伝言も何も出来ないんだよね。
『…………わふっ』
な~にが『この程度じゃ自慢にもならないよ』だ、聞こえてるんだぞ~。格好つけちゃってぇ~……ほら、早く終わって出ておいでよ。どん太ほら、出現したポータルの方だよ~。おいでおいでおいで~……?? あれ?
『くぅ~ん……』
ちょっと『どこに行けば良いのかな……』じゃないよ、締まらないなぁ~!! 格好つけて秒でこれよ! ほらこっち! 私のいる方! あーーそっちじゃない、そっちじゃないんだよ逆方向だよどん太ァ!! 後ろ! うーーしーーろーー!! おのれオブザーバーモードめ、でも仕方ないよね……私が同行してるだけでなんかの拍子にバフ入ったらどん太拗ねるし……あ、気がついた! そう、こっちだよ! ほらおいでーー!!
『きゅぅ~ん……』
一回見たでしょぉ!? 今、こっち見たでしょぉ!? 迷子でパニックになってりゃこんなもんかなぁ!? あ、今度は確実に見た。耳と尻尾がぴーんと立った! よしよし、ポータルは移動出来る場所だって何回も使ってるから覚えたもんね。偉いぞぉ~どん太~……!!
『どん太が【魔狼獄】を完全クリアしました』
『どん太が神技【活殺魔狼拳】を獲得しました』
『どん太の成長抑制状態が解除されます』
『どん太が【魔狼獄】を退出します。お疲れ様でした』
おお、ついにどん太が神技を……。これで残るは、マリちゃんかぁ~……。マリちゃんは『考えがある』らしいから、その考えが実現したら挑戦するってことで。あの子もまた、負けず嫌いだからね~。
◆ ◆ ◆
獄を出てきてからログをチラッと見返してたら、間に挟まってて見逃し掛けてたログ『どん太の成長抑制状態』ってのがあって、おや? これはなんだろうな~と思った途端にこの疑問の答えを出された。
『どん太が余剰経験値によりレベル97に上昇しました』
『どん太が――――』
『どん太が余剰経験値によりレベル100に上昇しました。超越しましょう!』
従者は獄を卒業しないと、経験に対して肉体がついていかない状態に陥ってレベルが上がりにくくなるっていう独自の面倒なシステムを積んでたみたい。さらっとそのことについてもチュートリアルに追加したから、見返したかったらUIからチュートリアルにアクセスして確認してねって出てるし。自分のシステムも把握しきってないのに、従者にも独自のシステムがあって大変だ~……。ん? 超越しましょう……?
「とりあえずどん太、お疲れ様。凄かったね~強くなったし頭良くなったし、偉いね~~」
『わふっ♡ あうあうあうあうあうっ (もっと~~!)』
「顎下わしゃわしゃされるの好きね~」
『わふっ……わふっ…… (ん~……すき……)』
あ、げっ! 要求素材についに出てきた、超越者の証! 【地獄は~ど♡】の報酬からたま~に出てくる奴で、未だに1枚しか持ってないんだよね、これ……。どうしよう、いやどうしようもないんだけど、わかってるんだけど……1枚しかないんだよ!? わかる? このアイテムの希少性。
「どん太~。更なるパワーを手に入れるためのステップアップ、しようか」
『わんっ!!! (する!)』
「これ。これ使うんだけど、すっごく貴重なアイテムなんだけど」
『わう? (食べれるの?)』
「食べ物以外ほぼ無価値勢だったね君。ごめんね」
『わうっ??』
そうだね、わからないね。どん太にとってご飯以外はほぼ価値のない物だもんね……。
『わう、わんっ!! (食べ物より、ご主人とみんな、もっとだいじ!)』
「…………」
『きゅぅ~ん……?』
「偉いねええええ!! 良い子だねぇお前は、可愛いねえ~~!!」
『わふっ♡ わふっ♡ (くすぐったい!)』
どん太が食べ物よりも私達を大事と言ってくれるなんて、偉いぞ~~どん太~~……!! 帰ったら美味しいおやつ皆には内緒で食べさせてあげよっと……!
「じゃあ、超越するか~!」
『わんっ! (よろしくっ!)』
じゃあ超越コマンド選んで、どん太のステップアップをしちゃおうっか~!! 今回も選択肢が出てきて私に選択が委ねられるのかな? ど~れ、何が表示されるでしょうか~っと……?
【◆◆◆天狼】(聖属性・天使系・大型)
・天使の翼を――
あ、論外。はい次。
【■魔狼神】(闇属性・悪魔型・大型)
・魔狼の頂きに君臨する王を超えた存在――――
さっき倒したやつと同じなのはちょっとショボい気がするんで次。
【□ワーグ・オブ・デス】(闇属性・悪魔系・大型)
・死の魔狼として覚醒し、あらゆる生命の命を狩りとる新たな魔界の恐怖の一つとなる
これ偽バビロンの使ってた形態の一つかな? う~ん、まあ保留で。次もあるから……あ、次で最後か。
【■□魔狩魔狼】(闇属性・悪魔系・大型)
・条件開放【アンロック】
┣魔界侵食度に1,000以上の空き
┣コントロール
┣分身系スキル
┣高度な魔狼拳スキル
┗獄単独制覇
・己の力を示し、変幻自在の魔手を手に入れた魔界の狩猟者
・己の分身を多種多様な形に変化させることが可能であり、その戦闘スタイルは千変万化である
・自らの両足を変化させることも可能であり、たかが魔狼と侮った者は思わぬ一撃に命を落とすことになるだろう
・以降、天狼系に転身することは不可能になる
あ、そっか。そういえば私の左手も魔狼形態みたいなの取れるし、逆に魔狼が魔手と同じ能力を手に入れることは別に不思議じゃないのか。やあ~これ、どん太のおかげで全員獄単独制覇して貰わなきゃならなくなったわ。他の子も絶対このタイプのやつあるよね……にゃ王様は次で何かしらあるとして、とりあえず……。
「どん太、私の左手みたいなやつをさ、使えるようになってみたい?」
『わうんっ! (なりた~い!)』
「お~尻尾をぶんぶんしないの、埃っぽくなるわ。げほっ……」
『きゅぅ~ん…… (ごめんなさ~い……)』
「土埃、う、げほっ……! 上、上に行きながら……」
せっかく今から超越するっていうのに、なんてことをするのかな君は。い~や埃っぽい、ここ使ってる人居たらごめんなさい、出てきたらメッチャ埃っぽいと思います……。上に行ったら一回叱――いや、むしろ今の今まで我慢してたのを偉いと褒めるべき……? まあ、まあまあ今日は頑張ったから叱るのはしないで褒めてあげようね。じゃ、ちょっと上に行こうか?