381 わかりやすい
◆ 加賀利城・修練場へ向かう道中 ◆
零姫おばあちゃまが現実を見ようと起きてきたのでユキノさんを預けて、私は一回バビロニクスに行って起きてたデロナちゃんとティアちゃんを拾って、今度はローレイに戻って精神統一してた組を全員拾ったけど、おにーちゃんとマリちゃんは新しいオモチャに白熱してたから置いてきた。じゃあ加賀利に一旦行ってみようってことで向かおうとしたら、ついでになんかヴァルフリートさんもついてきた。謎。ユキノさんの修行の件を話したら興味を示して見てみたいって。
「お姉ちゃんがまた新しい女の子を……う゛ぅ゛~~……」
「喉鳴らして怒らないの。今回ばっかりは私は悪くないもん」
「同郷の方でしたら、そちらでもお知り合いということで御座いますか?」
「ううん、知らない。異界人同士は皆が皆知り合いってわけじゃないんだよ~。私とペルちゃんは特別なだけ」
「なるほど、同じ加賀利の出身でも接点がなければ知らぬ者同士、それがたまたま旅先で出会うようなものですか?」
「あ、そうだね。そんな感じ!」
『しかし、異界人にも様々な者がいるのだな……。戦う気のない新人を狩ろうとするとは、許せんな』
「初心者狩りなんて言葉があるぐらいには、横行してる行為ではあるんだよね。そういう連中を駆除してる、初狩り狩りっていう対抗勢力もいるけどね」
『リンネ殿は、そのショガリガリ……? は、しないのだろうか?』
「ん~。私としてはちょっと懲らしめたいところはあるけど、私の姿を認識した時点で普通はやらないからね。あの時はもう魔神殿から出るかどうかって時に『今だ!』って声が聞こえて振り返ったら、その現場を目撃しちゃったってだけで」
「獲物を狩る前に大声で叫ぶ狩りの下手な猫みたいですねっ!」
「確かに」
『なんらかの対策は必要ではあるが、対策をしたら場所を変えるだけという現状か……』
ユキノさんが居る修練場に向かう道中で皆にも大体の内容を話したけど、やっぱり初心者狩りを野放しにしてる現状って非常に良くないことだと思う。ユキノさんみたいに凄くセンスの良い人が居たとしても、初心者狩りでアイテムを奪われたとかそういう経験をしちゃうと途端につまらなくなったりやる気が無くなったりして、最悪そのまま引退ってこともありえるわけだし。これはどうにかしなきゃいけない問題だよね……。
『システムアラート:倉庫のシルバーキャパシティが100%を超過しました。金庫への転送へ切り替えます』
「…………うわ、うわ。嘘でしょ?!」
『どうしたのだ?』
「お姉ちゃんは今世界の声が表示される板を見てるので、何か事件が起きたということですっ!」
「さっきキューブ設置して来たんだけど、もう倉庫のキャパシティを越えて、金庫に送金されるようになってる……」
「リンネさん! 好きなものが沢山買えます、素晴らしいです!」
「ゼオお姉ちゃんはご飯買って欲しいんだよね~」
「お腹が空いちゃったんですねっ! ティアもちょっと、お腹空きました……えへっ」
「そ、そんなことないです。いつもお腹ぺこぺこじゃない、デロナがいじわるを言います!」
『情報表示:ゼオは現在【空腹】です』
『情報表示:ティアラは現在【やや空腹】です』
おおーっと、これは割と全員お腹が空いてる状態なのでは? ん~そうだ、ユキノさんに差し入れを持っていくがてら、加賀利の城下町かどこかで何か買って行こうっか? 中央通りに美味しそうなお店が沢山並んでたし、加賀利城の敷地内もいつでも宴会が出来るようなぐらい出店があるんだよね。確か向こうに――――見なかったことにしよう。
『丁度正面に、大柄な男が何かを作っている店があるようだな』
「パパ上……」
「父上……」
「見なかったことにしよう」
「それがよいでしょう。あからさまで御座います」
『姫千代殿の父なのか……!?』
『……?! 待て、待ってくれ! おーーーーい!!!!』
絶対これ、零姫おばあちゃまか私を修練場から誘い出そうっていう位置で出店開いてるもん。いつもは揚げ物とか煮物多いのに、わざわざ煙が出やすい焼き物用の鉄板を用意してガンガンお肉焼いてるし、絶対話がしたいけど、急に『話がある』って切り出すのも……って思ってここで構えてるやつだよ。だって剛烈さんは百姫お義母さんに言われないと私に声掛けてこないもん!!!
――――ぐぅぅぅぅ…………。
「あ、違う、これは違います。私じゃない思います!」
「ゼオお姉ちゃんのお腹でーす!」
「ゼオちゃんのお腹がぐうぐう言いました!」
「あう、あう」
「仕方ない、ちょっと戻ろう……」
「仕方ありませぬ、話し相手になりましょう……」
『おお、戻ってきた! 戻ってきた!!!』
ゼオちゃんの可愛さに免じて、パパ上のお話を聞いて差し上げましょう……。
『…………げ、元気でやっているか? 千代』
「見ての通り元気でございます」
『おお、そうか! そうか……腹が減っているだろう! 丁度いい感じに焼き上がるところなんだ、食っていかないか』
「お、お腹、すいてないもん、です……」
「ずーっとぐうぐう言ってるよ! 今日に限ってなんで諦めが悪いの!」
「修行で、ちょっと、我慢覚えましたから……成長、した褒めて貰いたい思って……」
「ああ、なるほどね。ゼオちゃん、何でも我慢すれば良いわけじゃないんだよ。食べる時は食べる、我慢する時はする! きっちり切り替えられるようにならないとね!」
「わあ……!! じゃあ、食べます! 剛烈、いっぱいください!!!」
『あ、あいよっ!!』
うーん健気、そしてこの食欲解放からの切り替えの早さ。ああ、ゼオちゃんのお腹にお肉が吸い込まれていく音が聞こえる……!! はぴえはぴえ顔が、可愛いね……。で、千代ちゃんも塩対応しようと頑張ってるけどお肉から目が離せないね。君も、我慢し切れないタイプだね……。
「千代ちゃんの尻尾は正直だよね」
「!? これは、違う、違うのです!」
「千代! 美味しい、美味しいです! んっ、んっ♡」
「はっ……!!?」
ほら、なくなっちゃうよ? どうするの?
「父上! 此方の分も欲しいです!」
『お、おうっ……!!』
「じゃ、皆座って食べよっか。ユキノさんは、逆にこっちに呼んじゃおっか」
「そうしたほうがいいかも知れないですね……あ、お野菜いらないです」
『野菜も美味しいぞ?』
「おいしくないです」
これはもう、ここで一回食べてから行くしかないね。結構掛かっちゃうし、多分零姫おばあちゃまがそのうち嗅ぎつけて修練場から出てくるだろうし、遅かれ早かれの問題になると思うから……ユキノさんに個人チャットを入れてこっちに来て貰おうかな。なーんだか手伝ってるのか邪魔してるのか、これじゃどっちなんだかわからないね~。
『で、その……なんだ……』
「あ、食べた後でいいですか?」
『うぐっ……』
パパ上の話は食べた後ね、だって絶対面倒事を抱えてます。何か問題がありますってオーラ出てるもん。これ絶対百姫さんか八百ちゃん絡みだと思うんだよね、だってあの2人が居た時はこんな様子じゃなかったもん……そういえばパパ上は過去に隠し事をしてた人だったわ、意外と隠し事が上手いタイプなの忘れてたわ。は~、それにしても……。
「ん~……ん~……♡」
「お肉が焼けるの見てるだけで幸せそうね」
「食べるともっと、嬉しいです!」
平和だ……。とっても平和だぁ……。