369 ジャンクケイヴスクラップ作戦・9
◆ シャウタ・最下層 ◆
『シャウタ国内のみみみみみみ皆様へご連絡致しししししします。ます。先程の警報は、誤報、になりますすすすす。ご迷惑を、お掛け、しししししまししした。現在、復旧作業中、ですすすすすす。今暫くそのままお待ち頂きますすすよう、ご理解とご協りりりりいししししししりょく、ご協力を――――』
虚飾の王を破壊して、広場に攻め込んできた雑魚を迎え撃って拾うものを拾い終わった辺りで、この放送が流れ始めた。この放送後に現れる敵にはエリートが全然含まれてないし、挙げ句数もかなり少なくなった。どうやら復旧作業というのは先程の戦闘で減ったモンスターを再生産する作業らしく、それが終わるまでは暫くマップが落ち着いちゃうよってことらしい。まあ多分、ドロップ品収集の時間ってことなんだろうけどね。じゃあ拾い終わったし『さあ帰ろうか』となったんだけど、そうは行かないぞとばかりに私達からちょっとだけ離れた広場の隅のほうに変なポータルが突如として現れた。
「…………これじゃ転送先が丸わかりじゃないのか?」
「マリちゃんの言う通り、転送先がバレバレだね。これは行き先に括り付けられてるポータル名が避難シェルター、そこに転送されるポータルだね」
「随分と雑なテレポーターで誘ってきてますねっ!」
『すまない、どういう意味だろうか?』
「ヴァルフリートさん、これは罠である可能性が非常に高いということです。それもトラップとしては非常に雑な方法という意味ですね」
あからさまな罠。もうあからさま過ぎて逆に罠じゃないんじゃないかと疑うレベル。何のためにこんな見え見えのテレポーターを出してきたのかサッパリわからないし、興味はあるけど入ろうとは全然思えない。
『探る?』
『転移先がわかるなら、分身を飛ばせば見える』
「え、そんな事できるんだ……」
『怪盗の基本』
『罠は本体で踏むべからず』
「ほえ~……危険じゃない? 絶対?」
『『大丈夫』』
イルちゃんとエルちゃんが分身を飛ばして安全に偵察出来るなら、任せちゃおうかな……。
「じゃあお願い!」
『任せて』
『双子座のイルが【分身】【憑依】を発動』
『双子座のエルが【シックスセンス】【感覚共有】を発動』
『双子座のイルの分身がポータルを起動します』
さて、あからさまな罠ポータルの先には何があるのかな~……。どうせ避難シェルターとか嘘ついて、そこで機械兵がずらーーーーーーーっと並んでて『you are an idiot! :D:D:D HAHAHAHAHA!!! :D:D:D』って感じで蜂の巣にされるんでしょ? 見え見えなんだよね。
『古びた機械に囲まれた部屋、人がいる、助けを求めてる』
「人ォ!?」
『武器は持ってない、痩せてる。長命種の人間だと思う、天族じゃない。中年男性、顔はイケてない』
え、人がいるの!? ま、まあ……最後の方はかなりいらない情報だったけど、それを伝えられるぐらいには余裕があるってことね。しかし人、人かあ……。
『非常警報で、こーるどすりーぷ? から目覚めたって。ここから出られそうだからなんとかって言ってるけど、よく意味がわからない』
「ん~~……!!! あ~~~~……!!! わかった、とりあえず行って会ってみたい」
「行くのか? まだ罠ではないと確定していないだろう」
「敵意があるなら誘い込むなんてことはせずシェルターから機械兵を送り込んでくるだろうし、今の話からしてさっきの警報でコールドスリープから目覚めた人なんだよね。ここから出られそうってことは、この機械兵をどうにか出来ない人がそこにいるってことだと思うんだよね」
『なるほど。つまり弱いということだな!』
『違うだろうクーガー。鉄の兵士が減った今なら援護があればどうにかなる人物が助けを求めているということだ』
『そうとも言うな!』
確かに今は復旧作業中で敵が少ない、この状態ならここから抜けられるかもしれないって思って一か八かポータルを出して助けが来てくれることに賭けた……ってことなのかも。これは、うーん……イベントだろうし、行ってみようか。
「私が代表で行ってみる。ポータルが使えなくなる可能性を鑑みてリアちゃん、マリちゃん、護衛としておにーちゃんと、千代ちゃんと――」
『俺も行こう。龍族を見て顔色を変える連中だったら話にならんだろう?』
「…………確かに! じゃあヴァルフリートさんと」
『俺も行くか!』
「クーガーさんはこっちに残って皆の指揮をお願いしたいかなーーー」
『確かに俺しかいないな! よし、任せてくれ!』
なんだろう、クーガーさんで大丈夫かなー……。何かあったらサリーちゃんがなんとかしてくれないかな……。
「じゃあリアちゃん、マリちゃん、おにーちゃん、千代ちゃん、ヴァルフリートさんと私、それとイルちゃんで行こうっか。イルちゃんはエルちゃんの伝言役ってことで」
『ん、わかった。エルはこっちに残るね』
『(*´∀`*)b』
「わかりましたっ!」
「ああ、退路確保だな。任せてくれ」
「御意」
とりあえずこのメンバーで大丈夫かな、万が一何かあった時にこのメンバーなら……大体なんとかなるよね! よし、行って会ってみようか寝起きの顔がイケてないシャウタ中年に!
「出発するよ、他全員は周囲の警戒を引き続きお願いね」
『ああ! 無事に帰ってこいよ!』
『クーガーが暴走しないか見張ってるわね~♡』
「お願いしますサリーちゃん……本当に……」
『お願いされちゃ~う♡』
「あ、そうだ。イルちゃん私の名前は相手に伝えた? 容姿とか」
『伝えてないって言ってる』
「ありがと~。皆はとりあえず何があっても喋らないでね、まだ友好な相手かわからないから」
良かった、サリーちゃんがクーガーさんの首輪になってくれるから安心して行けるわ。まったく、クーガーさんって特に問題行動も少ないパワーが強すぎる人だと思ってたのに、意外と問題児だったわ……。あ、そうだ。
「千代ちゃん」
「むっ?」
「さっきの、格好良かったよ」
「…………ん゛!!」
千代ちゃんの尻尾が扇風機になってしまったんだけど、これ大丈夫かな。あっちで鎮まるかな……。
◆ シャウタ・最下層避難シェルター ◆
『――――おお、貴方が代表の方ですかな!』
『いや、俺ではない。彼女だ』
『おおっとこれは失礼、初めまして。リメン・ハイネアと申します、リメンとお呼びください』
シェルターの内壁は金属製、天井は意外と高くて1.5グスタフはあるヴァルフリートさんでも余裕がある。照明が切れている場所はない、白色の照明が結構明るい。古ぼけている機械というのは、奥にあるカプセルベッドのような装置のことかな、あれがコールドスリープ装置だと思う。複数あって何台か見える、全部に電源が入ってるのかランプが点灯していて正常に稼働しているように見える。他にも何か機械があってそれも動いてるね……。ということは、複数人いる。この人だけじゃない。
「初めましてリメンさん。レーナです。貴方お一人ですか?」
『……? あ、ええ、よろしくおねがいしますレーナさん。実は私の他に数名、おりましてな。全員を代表して、私だけがここにおります』
「そうだったんですね。救援を呼ぶのにポータルを出したのは勇気が必要だったでしょう」
『ええ、そうですね。A-1区の広場で大規模戦闘が発生と警報が鳴ったのですが、それが誤報、復旧作業に入るとあったので、もしや救援が来たのではないかと思いまして』
「過去にも警報がなったことが?」
『ありましたが、すぐに排除完了と流れるだけでした……。今回はそうではない、つまり兵士達が負けたという意味だと確信致しまして、はい』
嘘は言ってなさそう。なるほどね、今までも警報がなったことがあって、今までと違う内容だったから今回こそはと確信したわけね。でもなんでここに避難してるわけ? この国の人じゃないの?
「なるほど。重ねて質問ばかりで申し訳ないのですが、なぜこのシェルターに? シャウタ国民を守る兵士達じゃないんですか? 表の奴らは」
『それが、奴らは急に見境なく我々を攻撃するようになってしまったのです……。原因はわかりません、ですが当時この鋼鉄の地下王国は食糧難に瀕しており、食糧を独占しようとした上級国民が下級国民である我々を間引こうとし、結果的に失敗してしまったのではないかと……私の仲間の一人が推測しております、ええ』
ふ~ん……。つまりその推測が正しいなら、上級国民が機械兵に『口減らしするから下級国民殺してね~』って指示を出そうとしたけど失敗して、結局国民全員をぶっ殺す機械になっちゃったってことかな。国民を守るために国民を排除するって状態になってるわけか! なんともまあ~……。
「それはなんとも……」
『なんとも、ええ……はい……』
「あ、そうそう、これも聞きたかったんです。どうして地下にこれだけの国を?」
『それは地上が瘴気で覆われていて活動出来ないからです。とてもではありませんが人間の生きていられる環境ではありませんから』
「ん~…………ん? でも、私達と一緒に地上に出たいからここに呼び込んだんですよね?」
『ええ、貴方達は外から来た、つまり外はもう瘴気が発生していないということでしょう? 安全な場所から来たはずだ、我々もその安全になった地上に出てみたいのです』
「あ~なるほど……ん~困りましたね……」
ふんふん、大昔の地上は瘴気に覆われてて住めなかったから地下に国を作ったってことね。だから地下にこんなにバカでかい国が出来てるのか~なるほどなるほど…………。
『何か、問題が……?』
「ええ、残念ながら、私達はたまたまこのシャウタと繋がった大穴を調査せよとの王命を受け、ここに来ただけなんですよね。なのでご期待を裏切るようで申し訳ないのですが、私達と一緒に来ても機械兵が居ないだけの地下の国には変わりないです」
『そんな! 地上から来たのではないのですか!?』
「それに私達の戦力はこれだけです。とても全員を守りきる保証は出来ません。見ての通り私もこの通りか弱い調査員でして、簡単な魔術しか使えぬ半端者です。彼らの護衛がなければミンチになっていますし……』
『まさか! 古代神術が使える貴方がか弱いなどと、ご冗談を!』
「おや、先程の鉄の人馬との戦闘、やはり見ていましたよね?」
『あ、ええ……。実は見ていました、その時貴方は古代神術を使っていたではありませんか! それに人数ももっと居たはずです!』
ああ…………ああ、やっぱりだ。こいつは嘘つきだ。
「警報があってコールドスリープから目覚めたと言っていましたよね」
『ええ、そうです! それからの戦闘を私は――――』
「私は警報があった後に古代神術を使っていない」
『え……』
「全員戦闘準備、退路確保は」
「出来ている。すでに掌握した」
『な、何を!?』
こいつは私を騙そうとしてる。おかしいと思えるポイントが多々あったけど、今確信に至った。こいつは敵だ。私達に害を与えようとしている。
「見ていたのはもっと前からだ、私がここに来てから古代神術を使ったのは4回。それもだいぶ時間が経つ! 何より貴方は私がレーナと名乗った時に一瞬『あれ?』という顔をした、本当の名前を知っているくせに話を合わせた。わざとらしい嘘つきの臭いがプンプンする!」
『くっ……!?』
「逃がすな!」
『姫千代が手加減状態で【神雷脚】を発動、リメン?(Lv,250)に552Mダメージを与えました』
『ぐぁ……!! ズール、隔壁を降ろせ!! アレを奪われてたまるか!! なんとしても逃げ切れ!』
『【エリアアラーム】最下層避難シェルターの隔壁が起動しました』
奥にいる奴が何かを持ってる! それを持ち出すために私達を利用しようとしたのか!
「奥の奴を逃がすな! 全員捕まえて洗い浚い白状させる!!」
「ある意味、罠だったな」
「ある意味罠でしたねっ!」
『壁が降りてきているぞ!』
『(;´∀`)』
「破壊してでも突破!」
こいつらはここで起きた何かしらの事を知っているはず、絶対に捕まえて白状させる! 私達を騙して利用しようとした罪は重いってこと、思い知らせてやる!