番外編 彼女が如何に怪物か
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昨日管理AIから齎された情報にはその時勤務中だった全員が驚かされた。なんせあのジャンクケイヴシャウタで大規模なレベリングをしようと画策しているプレイヤー達が居るのだ。厳密に言うと大規模なレベリングをしようとしているプレイヤーと、プレイヤー達が正しいだろうか。そのプレイヤーの名前を見た瞬間誰もが『ああ、だろうな』と納得することになった。ここで働く全員から【イレギュラー】と呼ばれる少女。表示されているプレイヤー名は当然【リンネ】だった。
「こんなところで狩りになるんですかね?」
「ならんだろ、レベル差ありすぎるし」
「邪魔なの多すぎるしなあ」
「あれ、なんか多くないですか?」
「ん? あれ……?」
当日、ほぼ時間通りにイレギュラーは現れた。ただし人数は事前情報よりも多く22人、これにもまたモニターに齧り付いていた全員が驚くことになった。どうやら魔神バビロンが力を落としたことが原因で魔神兵が力を返納し、失った力を取り戻すべく修行をしなければ~とサブクエストが発注されたタイミングでちょうどこの大規模レベリングの話を聞いたらしい。挙げ句龍将ヴァルフリートもついていくとあって全員が『どうしてこうなってるんだ……?』と首を傾げている。
「そもそもヴァルフリート復活が予想より早すぎないか?」
「ゼオの辺りから全部狂ってますね。あのタイミングで古代語をマスターしてるプレイヤーを想定してなかったってのもありますけど」
「問題はゼオが懐いてることなんだよなあ」
「これなんで懐いてるんですか?」
「何百年と孤独、話の通じる相手もいない、極度の空腹、これら全てを一瞬で解決してくれる人が目の前に現れたら?」
「あ~」
「おまけに器がでかい。親代わりの人物と同様に可愛がってくれると来てる」
「懐きますね」
「だからってここからヴァルフリートに繋がるとか予測できなく無いですか?」
「まあ、無理だな」
『これらの一連の流れは予測不能でした』
「だとさ」
そもそも龍将ヴァルフリートに出会ったまでの流れの発端まで遡ると、イレギュラーが独学で古代語をマスターしてしまったことにある。挙げ句、開発陣が遊び半分で入れていた古代神術へのカウンターイベントを予期せぬ方法でゴリ押し突破してしまい、本来なら『なぜデロナを追っていたかわからない謎の少女』として終わるはずだったゼオが懐いてしまい、しかも開発陣が『絶対選ばれないから大丈夫大丈夫』と設定していたデロナの復活も選ばれてしまい、結果として生命研究所への到達が想定よりもかなり早くなってしまった。
そもそも生命研究所への到達は廃墟状態が前提であって、魔神や冥神の力を借りて研究所を復活させるイベント……の、はずだった。それが『この時点では生命研究所の存在を知る方法ないはずだし、フラグ立たないでしょ』と入れていた生命研究所復活の選択でイベントがスキップされ、しかもそれが原因でドクターベルルスが大規模テレポーターを使用して会いに行ってしまい、更にそれをヴァハールが感知して次に大規模テレポートを使用したらアブダクションするというフラグがオンになってしまい……。
結果として、原因は開発陣の遊び心で入れた選択肢が原因である。本来は『あれ~この開放されてない選択肢はなんだったんだろうね~』『まだやってないイベントあったか~』『あのデロナを執拗に狙う謎の少女がイベントだったんだろうね~』などと議論が起きる想定で入れた選択肢だった。まさか全てのフラグを立てて、更にこれら全てを選択するプレイヤーが現れるとは誰も思っていなかったのだ。
「あ、スペシャルジャンク拾ってますよ」
「イルとエルがトレハン持ちだから拾うわなぁ……」
「赤エリートは強くてウザくて嫌いって言ってたのに、今度は赤エリート探してますよ」
「デスエンカのはずなんだよなぁ……」
だからこのジャンクケイヴ・シャウタで狩りをするなど誰も想定していなかった。そもそも敵を大勢引き連れてのトレイン狩りは他のプレイヤーの迷惑になるので原則禁止としているのだが、現状このジャンクケイヴ・シャウタに到達可能なのはイレギュラーを含む華胥の夢と同盟ギルドのプレイヤーのみ。つまり利用規約で禁止している『第三者プレイヤーへ迷惑となるプレイ』に該当するプレイヤーがそもそも存在しないので違反にならない。これはよく考えたなと全員感心してしまっていた。
「後続班も上層に来ましたね。うわ~多いな~!」
「86人、ヤバいですね。滅茶苦茶人多いですよこれ」
「拠点を3箇所に構えるみたいだな」
「湧き上限かな? エリアのモンスター数が300体になってるわ」
「じゃああんま効率変わらなそうやん」
「めっちゃ赤エリ警戒してるッスね~」
「イレギュラーちゃんに『ちょっと強いのが居る』って言われたら『死ぬほどヤバいのが居ると同義みたいなもんだ』ってグラサンスキンヘッドさん言ってたからね」
「グラサンスキンヘッド……頭にちょい乗りヤバイカ乗せてるこの人?」
「ぶっ……!」
「たまにプレイヤーのセンスがわからなくなる時があるよな……」
後続班も上層に来たらしく、狩りを開始している。後続班とイレギュラー班を比べると経験値入手量が天と地の差だが、それでも今までの入手量から比べれば途轍もない経験値入手量だろう。これを何時間と繰り返してレベリングするのか、ある程度力がついてきたら中層下層と進出するかは管理AIの予測でも不明だが、一般プレイヤーが入り込んでくる前に一気にレベルを上げたいという考えは全員同じようだ。その証拠に狩り始めてから数十分で86人からいつの間にか100人を突破し、最終的に126人まで人数が膨れ上がっていた。どうやらこうなる可能性も考えていたらしく、パーティを過剰に作って置いて各パーティには空きを作っていたようだ。特に支障なく淡々と狩りが続いている。
「あっ!」
「ん? どうしたんだ……あ~……」
「これは運が悪いッスね~……」
「強欲の王が出たか~」
「これはなんですか? 僕知らないんですけど」
「こいつは撃破された味方を集めてファクトリーに持ち帰って、アホみたいに強い赤エリートを量産する蜘蛛型の機械モンスターだよ」
「く……も……?」
「ゴキ……」
「それ以上言うな、気がついたらそうにしか見えない外見と動きになってたんだ」
イレギュラー班の方は狩り始めてから暫くして、隠しエリアボス【S-39強欲の王】が湧いてしまった。これを放置すると赤エリートが量産され、一定リズムで狩りを続けていた人には急に辛い環境に変えられてしまう。足音も臭いもなく光学迷彩で姿も見えない、しかも他のエリアボスが出てきた場合は更に強化する支援も行う最悪のエリアボスである。この最下層にはランダムでエリアボスが出現するが、誰もまさか最初に現れるのが強欲の王だとは思っていなかっただろう。
「これ、この状態でも次のエリボも湧くんですか?」
「湧く。最大2体まで出るようになってる」
「一番最悪なのがなんですっけ」
「憤怒の王、今作られてるS34戦闘兵B型の強化版がヤバい奴かな」
「場合によっては虚飾の王じゃない? あいつ頭良いし」
「あ~。力任せに来る憤怒か、頭脳プレーで連携攻撃を仕掛けてくる虚飾のどっちか……どっちだろうな」
「管理AIに聞けばどちらが危険か答えてくれるんじゃないんですか?」
「それもそうか。どっちが危険かね~っと……」
このエリアには八体のエリアボスが出現する。強欲の王以外はそれぞれ最初は◯◯の王として登場するのではなく、S-4▲◯◯兵◆型という名前で出てくるが、強欲の王に強化されると【暴食】、【色欲】、【憂鬱】、【憤怒】、【怠惰】、【虚飾】、【傲慢】の王として現れる。この中で特に危険なのが――
『現在最下層で戦闘中のパーティがそれぞれと戦闘した場合のシミュレーション結果を表示します』
「暴食、色欲、憂鬱、怠惰に勝てる可能性が99.9999999……パーセント!?」
「傲慢も95パーセントの確率で勝てるのか……」
「憤怒は42パーセントまで落ち込んでるが、それでも高いな」
「虚飾が3パーセントしかないんですけど」
「うわ、本当だ。これはどうしてこうなってるんだ?」
『憤怒はプレイヤーに対して直線的に攻撃を仕掛ける傾向があります。プレイヤー【リンネ】のこれまでの戦闘傾向を分析した結果、憤怒に勝てる可能性が42パーセントとなりました。逆に虚飾はプレイヤーに対して距離を保ち、一方的な戦術を好みます。レッドカラーエリートとの連携も考慮すると、勝率は3パーセントと非常に低いでしょう』
「なるほどね」
「あっ……」
「え、誰か操作してる?」
「いやしてない。操作したらログが残るようになってるから、それはない」
『不正な操作は感知されませんでした。ランダムに選ばれています』
イレギュラー達がどのボスが現れたら大変だろうかと論議していたところ、最も勝率の低い虚飾の王の原型が出現してしまった。タイミング的に誰かが操作したかと思ったが不正な操作はなく、まさに『運が悪かった』としか言えない出現だった。
「だが3パーセントなのは虚飾の王であって、この原型の方はまだ勝てるんじゃないか?」
『現状でS-40殲滅戦闘兵K型と交戦した場合、勝率は15パーセントです。S-34戦闘兵B型が非常に多く、不利な状況です』
「勝率5倍だと思ったけど大差ないな」
「これは全滅ッスかね~」
「あ、昼勤連中がやってた賭けやるッスか?」
「勝てるかどうかの?」
「賭けにならないでしょ。これまだ追加でS34のB型出てくるんでしょ?」
『出現します』
この時、イレギュラー組の戦闘をモニターしていた夜勤組14名の心が揺れた。もし、イレギュラーが勝率15パーセント、ないし勝率3パーセントを通したら……もしくは負けたら、昼勤組が自慢していた焼肉店に自分達も行けて、なおかつ他人の金で肉が食えるのではないか、と。来週は自分達が昼勤、夜に焼肉へ行く時間はたっぷりとある。
「行く店は当然今週の昼勤組と同じだよな」
「え? え?」
「まさか五代さん本気?」
「俺はイレギュラーちゃんが勝つのに賭ける」
「え、え、本気ッスか?! じゃあ負ける方に賭けるッス!」
「どうしよ、僕も参加して良い?」
「じゃあ私はイレギュラーちゃん勝つ方~おんなじ女の子だもん、頑張って欲しい~」
「流石に負ける……負けるよな……」
結果として、4名はイレギュラー組が勝てると予想した。残り10名は何度か心が揺れた者もいたものの、最終的に流石に負けるだろうと賭けた。その後の展開を見てもやはりイレギュラー組は苦しく防戦一方、遠距離攻撃もダメ、半端な中距離攻撃もダメ、超大激震でほぼ壊滅状態に陥り赤エリートに囲まれ絶体絶命、それでもギリギリで命を繋ぎなんとか耐えていた。
「いやいやいやいや、なんでさっきので全滅しないんッスかぁ!?」
「イレギュラーちゃんがイレギュラーだわ。なんせ自分の手の内は明かさずにここまでノーダメで生き残ってるし」
「頑張れ~!! イレギュラーちゃん頑張れ~~!!!」
「頼むからもう、もう負けて、もう負けて……!」
「うあああああ足一本もぎ取った!!!!」
「いや、足一本なら問題なくこいつは動く」
「むしろこれだけ時間掛かってたら、強欲来るでしょそろそろ」
「強欲今どこ?」
「あ、もう強化パック持ってる! 近い!」
「強化パック行け! 強化パック届けろ!!」
「これ虚飾の王になっても賭け継続だよな? な?!」
「…………そりゃ、そうだろ。勝つか負けるかなんだから」
14名全員、緊急対応信号が点灯しない限りという条件でモニターに齧り付いていた。宛らその様子はスポーツ観戦、日本代表選手を応援するかのような状況だった。K型の足を一本破壊したものの、強欲の王が遂に強化パックを届けてしまい虚飾の王へとアップグレードが完了してしまう。これにはイレギュラー組が勝てると予想した4名は意気消沈、流石にもう無理かと肩を落とした。対する10名はもはや勝ちムード、散々自慢された焼肉を頭に浮かべている。
「え、あ!?」
「強欲の王が捕まっ……え、こんな脆いの!?」
「スピードと集積運搬性能に特化してるからな。最低限の強度しかないんで脆い」
「というかなんでイレギュラーちゃん場所わかった?」
『虚飾の王へのアップグレード中、パーツを取り付けている位置から予測したと思われます』
「はあ?」
「これでG型全滅か、でも追加投入されてるB型が残ってる」
「かなりの速度で振り切ってこの広場に来たけど、コーリングシグナル出してるな。この広場に集結させる気だ」
「今の勝率は? ねえ今の勝率は?」
『現在の勝率0パーセント、3分以内に全滅します』
「いやったぁあああ!!!! 焼肉ゥーーーーー!!!」
勝率0パーセントの文字を見た瞬間、4名が崩れ落ちる。逆に10名は席を立ち上がってお互いに勝利を喜びあい、もはやこのままの勢いでどこかへ飲みに繰り出しそうな程の勢い。
「…………ん?」
だが、予想外の拮抗状態に陥る。
『虚飾の王が完全勝利を望み、挑発行動を行っています。万が一の事態にならないよう、援軍を待つようです。圧倒出来る力を相手に見せつけ、戦意を折る目的のようです』
「こんな行動もするのか……」
『虚飾ですので。ブラフは十八番です』
誰もがすぐに強化された力で敵を粉砕すると思っていたが、虚飾の王は援軍の到着を待つために時間稼ぎを始めてしまった。この隙を逃すまいと行動を起こしたイレギュラー組の作戦会議が始まるが、外部に音が漏れないように対策をされてしまって虚飾の王は情報が掴めない。一度待つと決めた虚飾の王からは攻撃を仕掛けない、不気味な拮抗状態が続いている。
「中の音は拾えないのか?」
『もう話は終わったようです』
「いや、もう、だって0パーセントッスよ?!」
「え、おっ!」
「デカくなった!」
先に動き出したのはイレギュラー組、音漏れ防止のバリアが破壊されたと同時にフリオニールの巨大化、急に行動されたことに焦った虚飾の王は巨大フリオニールへ攻撃せんと武装を構える――――が。
「これは!?」
『魔神兵、魚座のルゥによる隔離系スキルです。発動者が倒れない限りこの広場は外界と隔離されます』
「え、じゃあ援軍は!? どのぐらい続くんッスか!?」
『虚飾の王の援軍は参戦出来ません。この隔離は3分継続します』
「きょ、虚飾の王って3分以内に倒せる……?」
『HPは500ギガ、十分可能なラインと思われます』
突如として状況が一変する。フリオニールが巨大化して対抗、ルゥが広場を隔離、虚飾の王が待ち望んでいた援軍は参戦不能、イレギュラー組が一転して攻勢に出た。
『虚飾の王が【3分】という言葉に反応しました。隔離の効力が3分と判断し、3分間逃げ回ることを選択しました』
「素早いな……」
「ああーーーー卑怯者! 正々堂々戦いなさいよ! 金ピカボディのくせにダサーい!!」
「だがイレギュラーちゃんが最も嫌がる行動じゃないか?」
「確かに。真っ直ぐ来てたら速攻で袋叩きにしてたろうね」
「え、これヤバくないッスか? ヤバいッスよね!?」
『現在の勝率は――――』
「あ、言わないで。後で教えて」
『後ほど表示致します』
「え、うそ、知りたいんッスけど!?」
『後ほど表示致します』
だが虚飾の王、逃げる。あの手この手で攻撃を躱し、遠距離攻撃組には持っている武装で牽制し、巨大フリオニールには攻撃タイミングをずらすなどテクニックを使っての近接攻撃のヒットアンドアウェイ。これだけの巨体に決定的なダメージを与えることが出来ない。作り出された障壁も軽々と避けて、捕まえることが出来ない。
「ん……! イレギュラーが何か指示を出している。動くぞ」
「本当よく次から次へと作戦出てくるよね~イレギュラーちゃん!」
そんな状況が続いたのもすぐに破られる。いつの間にか隔離方陣の壁際に追い込まれ、行く手を阻むように分厚い障壁を出される。これを破壊するには持っている武装全てを叩き込んでようやく壊せるかというところ。当然破壊よりも迂回を選択しようと速度を緩めた、その時だった。
「あ!」
「前に作った障壁に隠れていたのか、あの巨体で隠れるとは」
「弾いた!! 止まった!!!」
巨大フリオニールが突如障壁の影から現れる。この事態を打開するためにギガデスビームソードを抜き放つも、何度も攻撃される内にパターンを覚えられたらしく巨大フリオニールにジャストガードを決められてしまった。そしてこの瞬間――――虚飾の王は足を止めた。
「どん太君が居る~!! ほら、壁の上!」
「この瞬間を狙ってたのか……!」
「え、え、え、負けないッスよね!? 負けないッスよね!?」
10名の願い虚しく、虚飾の王に初のダメージが入る。一撃での腕部武装破壊、だがすかさず反撃に出てどん太ヘ強烈なアッパーが繰り出される。これで倒れるかと思いきや、倒れなかった。どん太に与えられたダメージは51M、しかしどん太の現在のHPはこれまでの成長と、更にスキル倍率や装備効果倍率も含めて60Mもあったのである。とても1撃で沈められるようなHPではなかったのだ。
「何やってんだ早く逃げろ!」
『足場が悪く脚力のみで逃げるのには不向きな地形のようです』
「どうする、どうなる!」
「マナバースト! マナバーストで仕切り直しッスよ! ほら!!」
「マナバーストしかないだろ!」
「四方八方から攻撃が来るぞ、ほら早くなんとかしろ!!」
虚飾の王に負けてほしくない10名の中では、ここで取るべき行動はマナバーストが正解だと確信していた。そして虚飾の王は10名の願いに応えるように【ウルトラマナアサルトバースト】を選択する。それが、最も悪手であることも知らずに。
「あ……」
「あああぁぁ……!!!」
「あっ……」
「あああああああああああああああ!!!!!」
それは居た。いつの間にか後衛から抜け出し、どん太の影から這い出し、この瞬間を虎視眈々と狙っていた。この瞬間、虚飾の王もまた感じていたであろう。彼女の二つ名である――――死の恐怖を。
『バビロンパンチの威力が勝っています。直撃です』
「やったか……!?」
「いっけーー畳みかけろーー!!!」
「いや、まだ、まだ補助システムが残ってる。まだ倒れない!」
姿勢維持装置を破壊されて尚、補助システムを使用して立ち上がり逃げようとする。だがもはやそれは赦されない。この場所に追い込まれた瞬間、ギガデスビームソードを弾かれた瞬間、どん太を仕留め損ねた瞬間、虚飾の王の死は確定していたのだ。
『姫千代が神技を発動、無双国守で1/3半分を切りました』
「今ので200ギガ以上も出したのか……」
『後続5名、全員が切り札となるスキルを発動』
「あっ、あっ、あっ、あっ……」
「ぁ~~~~…………」
「やだ、やだ、まけないで、やだぁ……」
『虚飾の王、残りHP40ギガ弱。プレイヤー【リンネ】が再度バビロンパンチを発動』
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛……!!!!!」
「どうして……どうして……」
虚飾の王のHPが怒涛の勢いで削れていく。最後に残る心臓部と制御装置がイレギュラーによって粉砕され、無慈悲にもジャンクケイヴに新しいスクラップが誕生した。そしてこの瞬間、4名の脳内に駆け抜ける快楽物質。未来に待っている高級焼肉。勝利の喜び――――10名の悲鳴が勝利のファンファーレに聞こえていた。
『隔離後の勝率は10パーセントでした』
「よし、じゃあ来週の水曜メンテ後で」
「おかしいッスよ、絶対おかしいッスよ、なんでこれで勝つんッスかぁ……!!!」
なぜ、どうして、余りの出来事に脳が理解を拒む。だが誰もがこれに対する答えを既に知っていた。
「知らんのか、イレギュラーはイレギュラーだからイレギュラーなんだ」
今日もイレギュラーはイレギュラーである。





