352 大事なお友達
◆ 生命研究所 ◆
ログインして早々、デロナちゃんと研究所内を回って歩くことになりました。昨日遊べなかったから、今日はいっぱい遊ぶのかな~と思ったら、お友達に私を紹介したいんだって。デロナちゃんはゼオちゃんと昨日と今日の昼間に研究所内の全員に直接謝ったり仲直りして回ってたみたい。そして皆が集まって何があったのか、どうして今ここが復活してるのかの話をしたら、皆が納得して許してくれたんだって。
「――でねっ! この炎の両剣を使うお姫様みたいな騎士さんが、S107!」
『昨日入り口で会ったわね。よしなに』
「よろしくね、エス――」
『イリーナでよくってよ。ちゃんが良いわ』
「イ、イリーナちゃん……」
『ふふん♪』
「門番なんだよっ!」
ストレートヘアのペルちゃんみたいな子がエスイリーナちゃん。イリーナちゃんで良いって……。炎の両剣ってデロナちゃんは言ってるけど、実は属性は自由に変更出来るみたい。いつも火属性なのは松明がわりに使ってるのと、単純に格好いいかららしい。聖属性は眩しいから嫌いなんだって。ちなみに巨大ステーキを賭けたフラッグレースではどん太より速く走ってたし、なんなら出遅れてもどん太を弾き飛ばして旗を先に取ってた。なかなかのフィジカルモンスターだよこの子。
「それで、もう一人の門番がG17!!」
『ジーナです……ガーディアン、です……』
「よろしく、ジーナちゃん」
『はい…………戻りたい、不安です…………』
「ど、どん太達が食べた分働いてるから、大丈夫だからきっと……」
『不安です…………』
ボサッとした紺色の髪に切れ長の耳、すっごくダークなオーラを纏って暗くてジメッとした感じのこの子がジーナちゃん。イリーナちゃんと2人で入り口で警備をしている子だね。人にジッと見られたり、こういった場に集まるのが苦手らしくって、逆に他人を観察したり、見つからずにじっと息を潜めているのが好きなんだって。ちなみに模擬戦で千代ちゃんの本気の斬撃をジャストガードで弾いた。おにーちゃんクラスの怪物だよこの子。
『改めて、I7と申す。バビロニクスへの同行もよろしく頼む』
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
「ちなみに昨日の子達はアイナの分身なの! それぞれ人格を持ってるんだよ!」
「ほええ……」
『此方が主人格、影達は別人格だ。多重人格のそれぞれが分身時に現れている』
「主人格を乗っ取ろうとしてくる子とか、いないんですか……?」
『前は居た。今は此方が主人格で全員納得している』
「ほえぇすごぉい……」
銀髪に獣の手足を持つ美少女がアイナちゃん。昨日会った忍者ガール達は全員アイナちゃんの分身に別人格が宿ったものなんだって。きぬちゃんとは正反対の、ガチガチに忍ぶ方の忍者だね。本気で気配を殺したら千代ちゃんでもどん太でも感知出来なかった。ヤバい。アイナちゃん、ヤバい。
『私の紹介が遅いの! Q10よ、Qはクイーンから来ているの! 貴方も特別に、ティーと呼んで構わないわよ!』
「ティーちゃん、よろしくね」
『……ほら、何をしているの! デロナにしたみたいに、私の頭を撫でなさい!』
「あ、え? え? し、失礼します……?」
『うんうん……うん、いいわね。いい感じだわ。ありがとう、もう良いわよ』
「え……? え?」
金髪にドヤっとした感じの顔のちっこい子が、キューティーンちゃん……。ティーちゃんは、女王を意味するクイーンのQが頭文字みたいなんだけど、なんだろう。女王っぽく振る舞おうとしてる根っこが良い子感が拭えない……!
「後で私もっ!!」
「あ、後でね? お友達が先、だからね?」
『H08。フレイヤは、フレイヤ』
「よ、よろしく……ね……?」
『よろしくした。お友達、フレイヤとお友達。よろしくした』
「う、うん……」
『…………眠い。夜は、眠る時間』
「フレイヤは植物系の子と融合した影響で、夜はおやすみモードになっちゃうんだよ。今は丁度眠くなる時間なの」
『ぐぅ……』
「寝ちゃった……。この子の親のハーベスターお爺ちゃんは、融合に耐えられる体じゃなくって……」
「あ……。そう、なんだ……」
緑髪の不思議ちゃんが、フレイヤちゃん……ハーベスターって研究者さんの子なんだね。残念ながら崩壊前の研究所に戻っただけだから、ハーベスターさんは生き返ってないんだ……。もしかしてあの会議室で座ってた私の席が、元々はハーベスターさんの席だったのかな? どうなんだろう。
うーん、それにしてもこの子の何が凄いって、後ろ髪に桃とかリンゴの髪飾りがあるなーと思ったら、まさかの本物だったっていうね。余剰マナがこうして果物に変換されて放出される体質なんだって。本人は収穫されても痛くも痒くもないし、むしろ気がつくと重くなってるからどんどん収穫して欲しいんだって。昨日千代ちゃんがあまりの美味しさに悟りの境地に達してたらしい。
『ん~ん~はじめまし~……って♪ M60ですわ♪ 狐ですけれども』
『A60、アルケミスト。メロウは、マーチャント。趣味は、ジャンク品漁り』
『宝探し! 宝探しですっ!!』
「2人ともよろしくね、宝探しって……?」
『研究所から出て山へ向かい、その奥の洞窟にっ!!! 古代人の遺したっ!!! お宝が眠っているのっ!!! ですっ!!!』
『ゴミ』
『ゴミじゃなーいーでーすーーー!!! 絶対お宝もあるんですぅぅーーー!!!』
「ま、まあ、喧嘩しないで……」
「大丈夫! いつものこと!」
「いつもならなおさらだから……」
赤黒い髪の子、イヤーカフを被せてリボンみたいに見えるように可愛くしてるけど、狐さんなんだ! メロウさんね、宝探しが趣味っと。
白い髪の子が、ほわ~~っとした感じなのに毒舌っ娘のアロウちゃん。ちょっと薬品臭がする狼少女。メロウさんと仲良し、仲良しでいいのかなぁこれは……。とりあえずいつものことなのね、これが……。
『最後になりましたね~。W12です、母のウェザーのWから来ている名前です。ウォーターではありませんから、間違えないでくださいね』
「ウェイブちゃんはウェザーさんの娘さんなのね、よろしくね!」
『担当は地殻変動や天候の観測、浄水業務等も行っています』
「…………間違えないように気をつけます」
『ウェザーです』
最後に、水色髪の人魚姫みたいな子がウェイブちゃん。ウェザーのWであって、ウォーターのWではないから間違えるなよってすっごい念を押された。これは、絶対何回も間違えてる子がいますね……。あ、メロウちゃんが目を逸らした!! この子かァ!!!
「改めて、リンネです。よろし」
「死んでいた私を生き返らせる、してくれた人です! デロナも悪い心、浄化して生まれ変わりしてくれました! ここも元通りしてくれました! 恩人より、もっともっと凄い人です!」
『ゼオとデロナが一緒に帰ってきた時は何が起きているのかとパニックになりかけましたわ。しかし一日過ごしてデロナが元に戻ったのは何一つ嘘偽りなく真実であると、わたくしは確信していますわ』
『あの時、驚きで動けなかった……。もう、あの怖いオーラないから、絶対大丈夫……』
『こっそり監視していたが、全く不審な点はなかった。むしろ過去を気に病み過ぎていて見ていて痛々しい。記憶がないのが余計に辛いだろう』
『アレは痛かったです、ねぇ~……!! でもっ!! 殆ど元通りです、からっ!! またやり直しましょうねえ~♪』
『デロナ様子おかしかった、怖いから皆で見て見ぬふり、私も見て見ぬふり、辛い時に一緒に居てあげなかった。悪いの、デロナだけじゃない』
『たまたまデロナだっただけ、我々の誰もがそうなる可能性があったわけですから~。過去を恐れ悔いるよりも、未来への明るい計画をしましょう~』
『……ぐっ……う……』
やっぱり、あの頭の良い研究者さん達の娘さんだけある。皆が皆、感情任せに喋らずに何が悪かったか、何をすべきかって話をしっかりしてる。これだけの良い子達に囲まれて暮らしていたから、デロナちゃんは純粋にまっすぐ育ったのかな……純粋で真っ白過ぎて、穢されて真っ黒になるのも一瞬の出来事だったのが、なんとも…………。
『仲直りに、お茶会が良いわ! ティーはお茶会がしたい! 仲直りパーティ!』
『ティーに賛成ね、デロナ? 仲直りパーティしましょうね?』
「うん、うんっ……! するっ!!! したい!!」
『で、し、た、ら! 私が昨日見つけた――』
『ガラクタ』
『ガーラークーターじゃーなーいーでーすーーっ!!!!!』
こうやって毎日楽しく、幸せな日々を過ごしているはずだったんだよね。白いふわふわこと、推定メルティスの使徒……。何百年も前の存在だけど、きっとまだ生きているはず。カーミラさん達にも協力をお願いして痕跡を探さないと。第二第三のデロナちゃんを、絶対に出さないようにね。
◆ ◆ ◆
【S107】(アークデーモン+魔剣の悪魔)
魔法の両剣を持つ女騎士。セイヴァー・デリラによって第二の人生を与えられた。上級悪魔であり、旧ゴルゴラ王国にて隠れ魔族として暮らしていた上級貴族の娘だったが、メルティス教の神聖法術によって正体を暴かれ迫害されていたところをドク達に保護され、使い手がおらず朽ちるのを待つだけだった魔剣の悪魔と生命の根幹から融合し、エスイリーナとして生まれ変わった。どん太より走るのが速く、食欲全開のどん太に押し負けない。
【G17】(アークデーモン+闇龍)
砕けぬ大盾を持つ女騎士。ガーディアン・ジョナによって第二の人生を与えられた。エスイリーナと同様に上級悪魔であったが、戦争孤児を保護する聖母として孤児院を営んでいた。迫害に至る経緯と保護されたタイミングはエスイリーナと全く同じである。鋼鉄よりも硬い鱗を求め、メルティス教団の狩猟者によって傷つけられた幼い闇龍と融合し、ジーナとして生まれ変わった。模擬戦にて姫千代の本気の一撃をジャストガードで弾いた。
【I7】(ダークエルフ+人狼)
闇に潜み、音を殺し、速やかに任務を遂行する忍び。イガミツヨシによって第二の人生を与えられた。経歴は全く不明、意識不明かつ記憶喪失の状態で倒れていたところを保護された。同じく生命の危機に瀕していた人狼族の少女の『このまま死にたくない』という願いにより融合手術が行われ、アイナとして生まれ変わった。多重人格だが主人格はアイナであり、他の人格は分身時に現れる。最大6人の人格が存在するらしい……。本気で隠れるとどん太や姫千代でも感知出来ない。
【Q10】(ハーフエルフ+バイコーン)
派手な術を好む、女王を頑張って演じているちびっ子。クイーン・マゼルタによって第二の人生を与えられた。エルフと人間の間に生まれた忌み子と発覚して追放され、モンスターに襲われ瀕死の重傷を負っていたところ保護された。エルフの母親が隠れて世話をしていたバイコーンが彼女を守っていたが激闘の末倒れてしまい、お互いの命を一つにすることで助かるという可能性に賭けて融合し、キューティーンとして生まれ変わった。高位の魔術、古代の魔術にも非常に詳しい。
【H08】(????+ドリアード)
密猟者に襲われ、瀕死のドリアードが覆いかぶさるように守っていた少女、もはや種族を判別出来ない程に損傷が激しく、融合は絶望的と思われたが、今は亡き研究員ハーベスター・ゾッドの手により奇跡的に手術に成功した。しかし少女の記憶もドリアードの記憶も存在せず、何もかもが不明な少女。基本的には非常に温厚であり、温かな日差しを好む。自身の体に蓄えたマナが許容を超過すると髪から果実が現れる。本人的には重いし邪魔なのでサッサと収穫して誰かに食べて貰いたいらしい。この果実に有害性などは全く無く、むしろ途轍もなく美味しい。ゼオの好物は桃。
【M60】(妖狐族+魔猫)
自称、世界を股にかける大怪盗。トラップ解除はお手の物、誰にも気づかれずにお宝を運搬する能力も最高峰。しかし美的センスがなかなかに壊滅しており、ガラクタばかり収集している。同期のアロウからは毎度の如く馬鹿にされているが、極稀に大珍品を拾ってきて度肝を抜いている。なお、拾った本人が一番驚いているのは言うまでもない。融合相手は同じく自称大怪盗の魔法生物で『我が奥義をこの娘に伝授したい』というなんとも言えない理由で融合を果たした。ここだけの話、マーチャント・マーケが聞いた本当の理由は、魔猫側がかなり老いており『自身の寿命を悟ったため』という理由の融合なのだが、本人はそれを知らず『二代目大怪盗を継いだ!』と意気揚々と今日もガラクタを集めに行っている。
【A60】(狼獣人+精霊王ハディン)
誰からも精霊王と認められ崇められていたとんでもない大物と融合した少女。少女は目が見えず、鼻も利かず、左腕もない元奴隷であった。飼い主から『もう使い物にならない』と処分されそうになったところを偶然にも通りかかった精霊王ハディンに救出され、『俺様を心の底から崇めれば助けてやる』と言われたが、『二度と誰にも従う必要のない世界に今から逝くのに、誰がお前なんか崇めるか』と断り死を選んだ。ハディンは生涯で初めて自身を崇めない、強く否定してきた彼女を逆に気に入ってしまい、何としてでもこの少女の命を救い、感謝されなければ生涯初の敗北、汚点になると考えた彼は少女を抱えて研究所に飛び込んできた。そしてアルケミスト・ファマシーに詰め寄り、半ば強制で融合手術をしろと要求し、彼女はアロウとして第二の人生を歩むこととなった。そのことについてアロウは『非常に不本意ながら、楽しい第二の人生を得られたことには感謝している』とコメントしている。なお、感謝の言葉を聞いて満足したのかハディンは消滅したらしい。
【W12】(セイレーン+水龍)
大昔に滅びた海底王国の末姫。国がモンスターに襲われ滅びを迎える際、彼女に恋していた水龍が彼女を守ろうとしたが力及ばず、共に海岸に打ち上げられた。共に死を待つばかりの状態であったが、偶然にも研究所を抜け出して海岸に遊びに来ていたゼオとデロナに発見されて保護された。お互いに『どうか助かって欲しい』と願っていた為にどちらをベースに融合するのかで魔術式が反発していたが、最後には水龍の強い願いが勝ってウェイブが誕生した。ウェイブとして生まれ変わって最初の一言が『私も愛している』だったが、この一言を発した瞬間に水龍の思念が体から抜けて行くのを感じたという。
なお、担当業務は天候観察・地殻変動観察・研究所の浄水なのだが、浄水業務ばかり目撃されているせいで『ウェイブのWはウォーターのW』だと間違えられることが多い。ウェザーのWなので間違ってはいけない。『特にメロウ何度言ったら覚えるのでしょうか』。