349 見学
◆ 生命研究所 ◆
『――ここが中央管理室、この研究所の周囲に仕掛けてある機械からの映像をここで確認できるんだ。脅威になりえる存在を検知した場合は自動で通報されるようにもなっているんだよ。アイナ達がさっき出動してきたのも、このシステムが正常に働いていた証拠なんだ』
私、ベルルスさんのことを甘く見てたどころか舐め腐ってたかもしれない。ベルルスさんが開発したものはまだ一部しか見せて貰ってないけど、その全てがハイスペックなんて言葉を軽く凌駕してる。ウルトラスペックだね、ウルトラ。これどこまで監視してるのかなーって思ったら、メギドとアグニが居た場所の近くまで監視してるわ。いやーえー……すっごい……。
『普段はセイヴァー・デリラとガーディアン・クレア、その娘たちがここを管理しているよ』
『デリラだ』
『クレアですわ。よしなに』
「あ、よ、よろしくお願いします……!」
『映像に映ってるこの子がエスイリーナ、何処かの国の姫騎士みたいで格好いいだろう? 私の自慢の娘だ。隣の漆黒の大きな盾の後ろからジッと動かず警戒し続けているのがジーナだ』
「さっき会いました! 門を守ってくれてる子ですよね! 凛々しくて格好良かったです! ジーナちゃんは、気が付かなかったです……」
『イリーナちゃん、凛々しいですって。きっと喜びますわね』
『ジーナも気が付かれなかったのであれば嬉しがるだろうな、その為に息を潜めているのだから。後で伝えておこう。ほかも回ってくるといい』
「あ、はい!」
門番の子が、エスイリーナちゃんとジーナちゃんね……。ジーナちゃんはさっき全然気が付かなかった、むしろ気が付かなかった方が嬉しがるんだ……。隠れて気配を殺すのが得意なのかな。
『次は、手術室にしようか。ゼオ達や我々全員がこの姿になった場所だね』
「あっ! ゼオちゃん達、置いてきてよかったんですか?」
『退屈だろうからね。さっきお気に入りの場所で遊んでいた様子が映っていたよ』
「え、気が付かなかった……」
『さて、ここが手術室だ』
どの機械がなんなのか全然わからないけど、私達の現代医療レベルに到達してるんじゃないかってぐらい進んでるように見えるんだけど……!
『医学的、魔術的手術によって人間種と魔物の完全な融合を行う。だが、今まで救えなかった命はとても多い……。何度も言うが、我々は天族から迫害を受けた魔族や魔物を保護し、助かる見込みのない者達同士を両者の承諾を得て融合手術を行っているんだ。決して、邪悪な好奇心や醜悪な探究心による手術ではないということだけは、どうか理解して欲しい』
「はい……っ」
『ありがとう』
今から500年前に起きたとされる天魔大戦、それよりも前からベルルスさん達は天魔大戦に備えて準備をしていた。天族に迫害された魔族や理性あるモンスターを保護しながら……。しかし中には回復の見込みがない人たちもいて……それでも、手を尽くしても助からなかった人たちが、D67やS107より前のナンバーになった人たちってことなんだね……。
「ん……。気になったことを聞いてもいいですか?」
『答えられることならなんでも』
「デロナちゃんはここを飛び出した後、加賀利に辿り着くまでに相当な時間差がありますよね? なぜなんでしょうか」
『それは先程、ゼオの状態をチェックして判明した。ゼオも一部記憶を失っている期間が存在し、その期間がデロナが加賀利に到達するまでの空白の時間とほぼ等しかった。ゼオはデロナと加賀利以前に一度対決し、相打ちになった可能性が高い。お互いに自己再生により復活するまで時間がかかったのだろうね。再度活動を休止したのは加賀利到達後と推測される、この活動休止はマナの欠乏によるものだったが……マナを吸い上げてしまう何かしらの存在の影響で復活出来なかったと思われるね』
「ほええ……っ!」
わ、凄い……。そんなところまでゼオちゃんの状態をスキャンしただけで予測できちゃうんだ……! 本当、こっち方面に関してこの人天才だぁ!!!
『それと、ゼオがあんなにも純粋な心であり続けたのは、自身の精神の保護機能が働いたからだと思われるよ。そうしなければ何百年間もデロナを追跡し続けるのは不可能だったんだろうね。でなければデロナを見つけるより、自身の精神が疲弊して擦り切れるほうが先だっただろう』
「なるほど……それで、ですか……」
『何百年もの間に、ゼオは全盛期の力を失っているようだった。しかし代わりに、当時は存在しなかった力を備えている。これはゼオに更なる成長、進化の可能性があるということでもあるね。デロナも暴走前の力が増幅する前の状態、これから幾らでも成長出来る。経過が楽しみだね。では、質問がなければ次にいこう』
「大丈夫です! ありがとうございます!」
ゼオちゃん、あれで全盛期のパワーじゃないんだ……!? そっか、2人とも加賀利に来るまでに衝突して、力を落とした状態で加賀利に辿り着いてたんだ……。なるほど、ね。
『ここは薬品やら機械やら何やら、まあ研究所のメイン施設なんだけど……ごちゃごちゃしていて、何がなんだかわからないね。片付いてなくてすまない』
「あ、いえ! うちのマリアンヌも大体こんな中で作業してますから、一緒ですね!」
『マリアンヌ? 今日は、そのマリアンヌなる方は居ないのかい?』
「今は、飛空艇の開発――」
『飛空艇!!! ほう、ほう! 飛空艇!』
『飛空艇だと? 詳しく聞きたいな』
『イガも聞いたね? 聞きたいだろう? ぜひその飛空艇とやらについて詳しく――――いや、案内が先だ。先だろう? 早く行こう』
『そうだな。案内が先だ、失礼した。ゆっくり素早く見て行ってくれ』
ひ、飛空艇に、物凄く食いつかれた……!! 余りの迫力に思わず引いちゃった……!! あ、後でこの話をするの、絶対大変だよ~……隅々まで聞かれそうだもん……。
『ゼオとデロナは……まだお気に入りの場所にいるようだね。最後にそこに行こう、きっと驚くぞ~』
「あ、は、はい!」
ゼオちゃんとデロナちゃんのお気に入りの場所……どんな場所なんだろう? あ、ベルルスさんが入っちゃダメって言ってた秘密の部屋だったりして! まさか、そんなことないっか。
『この部屋の中だよ。今は……夜の、23時だね。夜の』
「ん……? は、はい、そうですね?」
『では入ろう』
なんで今、夜のって部分強調したんですか? さっき間違えて飛び出してきたから、今度は間違ってませんよってアピール……? ベルルスさん、天才だけどどこか抜けてるとこ――――ろ……ぉ…………?
「あ! リンネさん! 見学終わりですか?」
「りんねーさま! 見回り終わり? あそぼーっ!!」
「夜、ですよね?」
『夜だね。私が間違えて出てきた理由がわかったかな?』
この柔らかい日差し、居心地のいい暖かさ、いや、これは間違いなく……昼の陽気……!!! 晴れた日の穏やかな昼の陽気……!!! まさかこれ、人工の太陽光……?! この庭園にあるもの全部、本物だ……。室内でこれだけの植物が、育ってる!!
「私はお昼寝がいい!」
「デロナは遊びたいっ!! ふわ……ぁ……。ん、あうっ……」
『おやおや、もう随分と眠そうに見えるがね。一度寝て、それからでも良いのではないかい?』
「ダメ! りんねーさまは、寝る時元の世界に帰っちゃうの! 次会えるのは夜なの! 夜だから、あ……ふぁぁ……!」
『元の、世界……?』
「じゃあ、ちょっとだけ遊ぼうっか。何をして遊ぶの?」
「わぁいやったぁ! えっとね、えっとね、こっち来て!」
こっち来て~って、池の方で何をするの~…………ええ! 魚が泳いでる! しかもこの池、物凄く深い!!! すっごい沢山の種類の魚がいるんですけどぉ!!!
「釣り竿で、お魚さん釣るの! ズルしちゃダメだよ!」
「おー釣り……!! やろっか、どうやるの?」
「んーっとね、えっとね…………あのね……っ…………」
「…………?」
「あ……しーー……っ」
『おやおや……』
釣り竿を取り出そうとマジックボックスらしき倉庫のところまで行って、釣り竿を取り出したなーって思ったら急に……デロナちゃんの電池が切れかけてる……!!! ぺたんって座って、釣り竿を持ったまま船を漕ぎ始めてる……!!!
「…………すぅぅ…………」
「今日は、頑張りましたから、疲れてる思います……」
「急に来ちゃったか~……ベルルスさん、ベッドって……」
『この庭園の隅に増設した部屋があるよ。ゼオとデロナが遊び疲れてよくここで寝ていたからね。そこに寝れる場所がある』
「あ……しょ……ぶ……ぅ……んっ……」
「よいしょっ」
抱っこしたら完全に寝ちゃった。これ、起きたら起きたで遊べなかったのが悔しくって拗ねるパターンのやつだ~……!! 明日は狩りとかしないで、デロナちゃんや皆と遊ぶ日にしようかなぁ? どれ、この部屋に寝れる場所が……おおう、かなり豪華な寝室……。デロナちゃん達の為にわざわざ増設したっていう……本当、溺愛してたんだなぁ~……。
「ふわっ……ぁぁぁ……」
「ゼオちゃんも眠いんじゃないの?」
「眠いです、なんだか懐かしい、安心感です……」
「じゃあ、今日は私も寝ちゃうね……どん太達に念話飛ばしとこ」
今日は私も寝ちゃおう。どん太達には先に寝ちゃうよって念話飛ばしておかないと、置き去りにされたーって機嫌悪くなっちゃうかもしれないから。
『(どん太~千代ちゃ~ん。ゼオちゃんとデロナちゃんが寝落ちしたので私も寝ま~す)』
『(美味しい! あ、違う、違うので御座います……)』
『(おやすみ! 僕もふわふわのベッドで寝ちゃう! ちよちゃん食べ過ぎ!)』
『(どん太殿!! ああ~~!! あああ~~~~!!!)』
なーに? 今の時間にまだご飯食べてるのあの子? これは、いけませんねえ~~……。あえてノーコメントにすることにより、千代ちゃんに罪悪感を植え付けておこう。そうしよう。
「じゃあ、今日は私も寝ます。お疲れ様でした、また明日来ます」
『え? ああ、ああ……?』
「博士には、後で教えます、今は眠いから後です……おやすみ、リンネさん」
「おやすみゼオちゃん~。デロナちゃんのことおねがいね~」
「後で大変思います……」
ごめんねーゼオちゃん、寝起きデロナちゃんを何とか宥める役、がんばって……! じゃあ、ごめん! おやすみ~~……!!
『ログアウト処理中……。お疲れ様でした』