345 ふと気になって
◆ バビロニクス・南南西エリア ◆
ローレイの魔神殿でとりあえず金庫にあった全額を寄付し終えた後、バビロンちゃんにガッチリと叱られた魔神兵の皆様から……要約すると『守りきれなくて申し訳なかった』とギルド全員に、特に私に謝罪されちゃった。アレは想定外も想定外、予想外過ぎる派手な歓迎だったから仕方ないと思うんだけどね。
とりあえず私は全然大丈夫だから、むしろ飛空艇の修理やらその他諸々の雑務を手伝ってもらうってことで謝罪は受け入れたよ。カヨコさんがあそこまで意気消沈して肩を落としてる姿は初めて見たね、初任務だった他の人達もすっごいガッカリしてた。今回は仕方ないよね、次回に向けて繋げていけばいいんだから!
『わふっ! (結構遠くまで来たよ!)』
「もうちょっと、まだまだ先です!」
「ゼオちゃん、デロナちゃん……疲れない? 大丈夫?」
「まだまだ平気です!」
「全然平気、お腹も減らない心配ない――あ! やっぱりお腹すきました!」
「ゼオお姉ちゃん、さっき食べたでしょ~!」
「走りっぱなし、お腹減ります!」
で、今何をしてんのって話だよね。そう、飛空艇で空中都市に向かう前――夜闇の中で遠くに薄ぼんやりと見えた光。ゼオちゃん達が生まれた故郷、生命研究所があるらしい方角に光が見えたってことで、バビロニクスから出発して、どん太に乗って夜のバビロニクスの砂漠を走り抜けたところなんだよね。そしたらビックリ、急に廃墟の建物がチラホラ現れるんだもん。ここらへんは天魔大戦とは別に、人間同士の戦争があって廃墟になった村や町があるんだって。
『わうぅぅ~~? (本当にこっちなの?)』
「こっち、間違いないです。昔見た記憶あります! ここらは戦争の爪痕、廃墟の街多いです! あ、いただきます!」
「はい、デロナちゃんもお腹すいたでしょ?」
「ちょこっとだけ……にひ~……ありがとうございますっ」
「どん太も食べようか」
『わうっ! (食べる! ステーキ!)』
「はいはい、さっき倒してきたばっかりのドラゴンね」
あ、ちなみにだけど。ここに来る前にレッドドラゴン各種をひき逃げしたり、ステラヴェルチェレギオンを爆速で終わらせたり、は~ども~どじゃない地獄パーティをとりあえず完走したり、うみのどーくつの日課を終わらせたりとやることはやってきた。これ全部やって1時間以内で終わるのは、全部全部ぜ~~んぶダンジョンエクスプレスチケットのおかげです。本当にありがとうございました……。現在22時ちょい、まだまだ時間はある!
「なんだかお化けでも出てきそうで怖いな~この辺りの廃墟は、早く移動したいね」
「はふひほふへふは!」
「わからない! 食べながら喋らないの! ちゃんと食べることに集中して!」
「………………」
「ゼオお姉ちゃん、おにぎりは逃げないよ……?」
「………………」
ゼオちゃんがおにぎりシュレッダーになってしまわれた……。一個食べ終わってから喋ればいいのに、とりあえず貰ったの全部食べてから喋る気だわ……。戦闘面では凄まじく頼りになるのに、なんだかこういうところが妙にポン、なんだよね。そこが可愛いんだけど。
さて他のメンバーは……今ローレイではマリちゃんが飛空艇に対して本気で改良案を出して、もっと凄まじい改造を施すって燃えてるからマリちゃんは暫くローレイかな。リアちゃんは同じく飛空艇で誰でも発動出来る防御魔術の開発のために、ミッチェルさん達と協力して魔術スクロールを本気で作成中。おにーちゃんはシンギュラリティ号に足りない機能に要望を出したり、試運転したり。あの鎧に繋いで操作っていう方法は結構いい方法だったみたいで、生身の人間でも出来るようにコントロールアーマーを改良してるみたい。最終的にはシステム毎に担当者を決めてそれぞれにアーマーを付けたいみたいだね。ティアちゃんはカヨコさんが滅茶苦茶元気ないから側に居てもらってる。ティアちゃんもそうしたいって言ってたしね……そうしてあげて……。
で! 千代ちゃんは死体安置所でおやすみモードに入ってる。目的地周辺になったら起こして欲しいって……『ゼオ殿とどん太殿だけでも消耗が激しいのに、此方も起きていたらひたすらご飯を食べるだけになりそうなので』って引っ込んじゃった。いやうん、多分さっきドラゴンステーキ死ぬほど食べて動きたくないんだろうなとは思う。
「むぐっ……!」
「はい水」
「んっ、ぐ……ぐっ……」
「急いで食べ過ぎなのよ。早く行きたいのはわかるけど」
「………………ふぁっ、あ、ありがとう! 命の恩人です!」
「どういたしまして……おにぎりに殺されかける死神とは」
「おにぎりは強い。少しずつ相手すべき思いました」
そうだね、おにぎりは強いからね。もち米多めにすると喉に詰まる率も上がるんだけど、ゼオちゃんはもちもちしたおにぎりが大好きなん
『――その通り。おにぎりは強いんだぞ、Z0』
『ガウゥゥウウウ!!!!!!』
――――なん……!!!?????
だ……!!?!?? なんだ、こいつ……!!!?????????
「博士!!!!!」
「あ!!!! ドク!!!!! どうしてここにいるのっ!?」
『ん……? おや、おや? 新しい文明の言葉も、出来るようになったのかい? ゼオ、それに……デロナ? いや、しかしデロナは……』
「ドク!!!?????? どん太、攻撃するな!」
『わうっ!! (怪しい人! ドク? ゼオちゃん達を、育てた人?)』
この人が、ええ!? この人がドク!? ゼオちゃんとデロナちゃんを作り出した、天魔大戦に備えて対抗策を用意したものの、デロナちゃんの発狂によって全ての計画が水泡に帰した……あの!?
『驚いた。近くの廃墟に強い反応があったから転移してきてみれば、まさかゼオとデロナが居るとは……これは一体、どういうことなんだい? それに、そちらのお嬢さんは? そちらの大きな狼さんは?』
「博士、先に自己紹介は、礼儀! 大事なこと、とってもです!」
『…………し、失礼。初めまして、私はドクター・ベルルス。通称、博士と呼ばれている者だ。ちなみにこのカラス顔はマスクじゃない、本物だ。外せと言わないでくれよ?』
ドクター、ベルルス……! そうか、そりゃそうか! ゼオちゃんやデロナちゃんを別の生命体と合わせてるぐらいだもん、自分自身にそれをしてておかしくないのか! はぁ~えぇ~……!!
「え、っと……。リンネと言います。倒れていたゼオちゃんを」
「多分、死んでました! 生き返らせてもらった、思います!」
『なんと……!?』
「…………すみません、今は勝手に、私の従者ということに……」
「毎日、幸せ幸せ、です!」
『なんと!?』
「それでええっと、デロナちゃんは……浄化されて、生まれ直したといいますか……」
「深い訳、あります! 今はとてもいい子、昔のデロナです! ねっ!」
「は~いっ!」
『なんと!!???』
ベルルスさん、大丈夫? そのくちばしそのうちカコッて外れない!? すっごい開いてるよ!?
「この子は、どんちゃっちゃ! とても強い、魔狼の子!」
『魔狼!』
『わうっ! (どん太!)』
「どんちゃ!」
「どんちゃ~~!!」
「どんちゃです。すっごく大きいけど、優しくて賢くて食いしん坊です」
『初めましてどんちゃ君……いや、君は失礼かな? どんちゃ殿? さん? よろしくね』
『わんっ!!!』
カラスの見た目をしてて狡猾で悪そうな人に見えちゃったけど、外見に反してかなり、こう……いい人っぽい? どん太にもきっちり頭を下げて挨拶するし、嫌だなって感じは全くないね。
『そう、それで早速本題なのだがね』
「ドク、どうしたの~?」
「どうしましたか? 研究所、皆居ますか? 会いたいです!」
『ああ、多分もう来るな。すまない、本当に申し訳ないのだがね』
『ガウゥ……!!?』
ん? どうしたんですかベルルスさ…………ん? んっ??!
『――――実は、追われているんだ。モンスターの大群に』
「全員戦闘準備!! 千代ーー! 千代助けてーー!!!」
『【死体安置所・ちよちよ】から【姫千代】を召喚します』
「む……? 目的地――」
「敵です!」
「わ、わああ!! いっぱい!! ゾンビ!? ドラゴン!? ほねほねいっぱい!!!」
『すまない!! 助けてくれ!!!』
なんてものを一緒に連れてきてるんですかぁベルルスさぁん!!! やっぱり悪い人、悪い人だよこの人!! ええい、戦闘準備! 戦闘準備だよぉ!!!