343 現実は非情である
◆ ローレイ・南東の砂浜 ◆
空中都市メルティナ、機神トロイの力によって空へと飛び立った……神の国と呼ばれた場所。メルティス教が機械を表向き禁止にする理由となった汚点であり、古き魔界の技術が盗まれ奪われ使われていた場所。ローラちゃんの歌声によって機械が狂い、ドゲルを除くメルティナの民は全滅した。無人となった今、空中都市メルティナの位置を知ることが出来るのは、機神トロイを生み出した張本人……そして、その子孫だけ。つまりアルスちゃんと、マグナさんということになる。
マグナさんは予てから空中都市メルティナに――厳密には機神トロイに――興味を持っていた。しかし長時間の飛行や高高度への飛行は難しく、物資も潤沢でないとあって……いつからか、メルティナに行って機神トロイに会ってみたいという夢は片隅に追いやられ、その夢の存在すら忘れられかけていた。
『なんという…………』
「あれが…………」
その夢を叶える日は突然やって来ることになり、まさにそれは今日になる――――はずだった。アルスちゃんとマグナさんが身につけていたペンダントを合わせ、その光が指し示す方向にそれは存在した。
「これがフリオニールさんに憑依して貰ってなかったら海の藻屑ですよ!!」
「はーー……はあーーー…………!」
『なんという、破壊力だ…………』
「あれがトロイの力、か……!」
「マグナさんもマリちゃんも~! トロイに撃墜されたのにニコニコしてないで、修復手伝って~!!」
『「ああ、わかった」』
「絶対わかってない! 交戦映像見てニコニコしてるもん!!!」
機神、トロイ…………機械の神はメルティナを支配し、都市全体を兵器へと改造していた。そう、マグナさんのおじいちゃんが最後に与えた命令『天魔大戦に備え、牙を研げ』という大雑把な命令のおかげで! さっき!!! 全員死にかけました!!!
「いや~~~これ絶対まだ行くの早いやつだよリンネちゃ~ん」
「私もそう思いますけど、滅茶苦茶行きたいです」
「わかる~~」
「あの鋼鉄の牙城に何があるんか、見てみたいわ~~!!」
「上陸どころか、接近すら出来なかった」
「やばやばだ~。本当生きてるだけ良かった~~」
「プロテクションにリペア、そして全力逃走のおかげで生きてるようなもんだな!」
『(´;ω;`)』
いやあ、行こうって言ったの私だけど! まさかここまで猛烈熱烈大歓迎されると思わなかったし、シンギュラリティ号の1.5テラもあるHPがものの数秒でレッドアラートまで行くと思わないじゃん!! ビーム砲にミサイルランチャーの嵐! しかも超巨大な砲台まで最後出てきてた! あれはギリギリ射程外に逃げたから発射してこなかっただけで、もうちょっと退避が遅れたら海の藻屑だったね! はぁ~~!! 怖かった~~!!
「さすがに、リンネちゃんでも手も足も出ないか~」
「いや攻撃が遠すぎるし激しすぎます! 無理です!」
「アレは無理ですわ~……戦う以前の問題ですわ~……」
「でも、行った皆イベントクエスト発生した。大収穫」
「空の要塞への挑戦、ここから開始のクエストなんやなぁ~ビッグイベント開始フラグだったっちゅうわけやな」
「…………なあ、インフォメーション、見たか?」
え? 推奨レベル? ハッゲさんが何かインフォメーション開いて見てる……。さっきの【空の要塞への挑戦】ってクエストのインフォメーション……あ、推奨レベル? 推奨レベルとかあるんですね……えええええぇぇええええええ!!!!!?????
「て、て……!」
「転生2回目3次職以上、総合レベル500以上推奨……あっははははは!!!!!」
「無理~~!!」
「いや転生2回目とかあるんかいな!!! バチクソなネタバレ食らってもうたやんけ!!!」
「1回目って書いてるダンジョンもあるぐらいだ、2回目もあるわな」
「ぎょ、ぎょええええですわ~~~……!!!」
な、なにこれぇえええ!!!??? 転生2回目、3次職以上!? 総合レベル500って、ぽひゃ……。
「むしろ生きて帰ってきたのが奇跡だろ」
「あ、でも良く見て? 討伐推奨レベルが総合500であって、攻略推奨レベルは250だ」
「おお? 討伐と攻略は、別ってこと?」
「なんやこれは別ルートありそうやな、手がかりを見つければ攻略楽になるかもしれんで」
「もっと情報を集めて、ビーム砲にミサイルランチャーに、あの大口径ビーム砲の対策も積んでからもう一回じゃないかなー?」
「そうですわね! 別に討伐しなくてもいいなら、そうすべきですわ!」
あ、本当だ! 攻略推奨は転生1回目1次職以上、総合レベル250って書いてある! なるほどね、そのレベルになる前に情報収集しておけば良いのね!
「お? そこそこ、ちょっと巻き戻して見せて~」
「ダメぽさんか。どこが見たいんだ?」
『お前か。見たいところがあるのか?』
「そう~あ、ちょっと行き過ぎ、そこそこそこ! ちょい戻して、ほら! そこ!」
「…………?」
『ん……?』
ん、もうダメぽさんが居る。今日も男装がバシッと決まってて格好いいですね~……何見てるんだろ?
「これだよこれ、ほら!」
「あああ!!」
『これは……』
「何見てるの~?」
「ああ、リンネ! これを見てくれ」
ん~? どれ、どれを言ってるの? さっきの交戦映像だよね、皆が配信してたからそれを映像保存の水晶球に移してマリちゃん達でも見れるようにって与えたら、ずーっと見てるから――――あ。
『トロイだ、間違いない! だが後ろの獣型の機械は、いったい……』
「機械獣とでも呼ぶべきだろうか。あのままビーム砲を避けていたとしても、推定トロイが出てきていたか、この機械獣が暴れていただろうな」
「やー絶対勝てなさそうだね! 逃げて正解だ!」
「わあ……」
これが、この子が……トロイ。いつか対峙する日が来るかな……。来るよね? その時はこう、わかりあえると、いいなぁ……。
「――――みーなーさーんー!!! フリオニールさんのリペアだけじゃ限度があるんですからーー!! 手伝ってくださいよーーー!!!!」
「あっ!」
「よし、手伝いに行こう」
『ほら、リンネも行くぞ。何をサボってるんだ』
「え、今の今まで……!! んもぉぉーーー!!!」
『(´;ω;`)』
私までサボってる扱いになったぁ! うう、汚名返上名誉挽回の為に、シンギュラリティ号の修理を手伝わないと……! はぁ……空中都市に行くって言ったのは良かったのか悪かったのか、悪かったのかなぁ……。
「リンネさん、がっかりしないでください! 初陣は負けたほうが長生きする……らしいですから!」
「そうそう、生きて帰ってきた! それだけで大金星ですよ!」
「また飛ばす楽しみが増えたってもんです!」
「皆さん……ありがとうございます……!」
ん、皆に気を使わせちゃったかな。でもこんなに笑顔で温かい言葉、嬉しい! やっぱり、今回の失敗は……良い失敗だったと思う! 次につなげる為に、必要な経験だったってことで。さあ、まずは――――。
『( ´ ; ω ; ` )』
「はいはい、今皆が直してくれるから。泣かないのおにーちゃん!」
『( * ´ ∀ ` * )』
直そうかあ、いつまでもこの砂浜に不時着したままにしておけないからね! よーし、何から手伝えばいいのかなーっと!
魔神兵……反省会決定……ッ!