337 嵐を呼ぶ女
◆ バビロニクス・住居区 ◆
『リンネ様、こちらなどは如何でしょうか? 中央商業区より大きく離れていて、静かで見晴らしが良い物件でしたら、ここが宜しいかと思いまして~』
「ここは、将来的には異界人にもっと売り出して人が増える予定?」
『いえ~ここはステラヴェルチェの元国民の家が殆どでして、昼間も夜も誰かしら稼ぎに出ていますので、ほぼ埋まっている状態で御座います。ですから売りに出している物件は、こちらと先程の~』
「あっちはちょっと狭いですわね!」
「ね。まあ私とペルちゃんとたまに来る誰か用だから、そこまで大きくなくてもいいんだけどね」
ログインして早々に何をしているかっていうと、バビロニクス内に物件探し。ギルドホテルはハウジング制限があってリフォームとか出来ないし、真弓と二人っきりで過ごす静かな場所が欲しいな~と思ってのことだからね。わいわいがやがやしたい時はギルドホテルなり神樹の家に行けば良いし。本当にゆっくりしたい時専用。これはどん太達全員に理解して貰ったし、むしろ全員から『こっちに来ると働き過ぎだからゆっくりする時間を作った方がいい』と言われたから、新しく物件を買おうかと思って。
ちなみに金庫がね、パンクしてた。9999G貯まっちゃったみたいで……倉庫の999Gまでは貯まってなかったから大丈夫だったけど、このままでは本気でお金持てなくなっちゃうから消化しないと。ゴールドオークションへの出品もしてあるけど……減らないんだよね。
『まずお庭ですね~。ちょ~っと、手入れが行き届いて居なくてですね~』
「お~……庭もちょっとお手入れなり、誰かを雇うのもアリかもしれないね」
「そうですわね! 何かを育てても良いかも知れませんわ!」
『それでは中へどうぞ~』
カーミラさんの屋敷ほどじゃないけど、結構大人しめに見える砂漠のお屋敷って感じ……庭も池もあって、二階建てで周りに高い建物もなく密集してないから狭いって感じがしない。ちょっと古い感じのお屋敷感があって成金感もないしいやらしくもない。中も~…………ちょっと埃っぽいけどハウスクリーニングチケットとか課金アイテムだけどかなり安かったし、アレ系で掃除すれば一発だし問題ないね。家具はそれなりにおいてあるんだ。元々ステラヴェルチェだった頃の建物が修復されて~って感じかな? 金細工銀細工とかは流石に置いてないけど、並べたら映えそうな棚なりがあって……。
「ねえペル……」
「ねえリン……」
『…………?』
「「…………なあに?」」
『…………???』
どうして全く一緒のタイミングで反応するかな~ペルちゃんは。言いたいことはわかってるよ、ここが良いんでしょ? もじもじして照れっとした顔しないの。可愛い……。
「寝室を見てからにしようよ」
「そう、そうですわね!」
『あ、寝室ですね~。それでしたらお二階にありまして~』
寝室も広すぎず狭くない、全体的に落ち着いた内装……照明とかカーテンだとか鏡台とか、何か一部の家具が安っぽいのが残念だからそれは取り替えるとして、地下には倉庫もあったし、作業場にしてもくつろぐにしても、何をしても良さそうな広い部屋もあったし……ここが良いね。お風呂はまあこっちでは使わないだろうけど、どん太は入れないかな。そもそもどん太を洗うなら魔神殿のお風呂行きか、10Mで買えるチケットだもんね。ここにしよ~っ!!
「ここにしようよ。幾らで買い取れるのかな?」
『あ、えっ、貸し物件としての紹介だったのですが~えーっと、買い取りとなりますと、少々お値段が~……』
「大丈夫ですわ! さあさあ、幾らか仰ってくださいな」
『さ……さん……』
「「さん?」」
300Gシルバー? 3000Gシルバー? どっちかな、結構使いたいから3000Gぐらいでもいいんだけど……。
『全て、土地建物何から何まで全て込み込みで……300億シルバーは……如何でしょうか~…………?』
え、30G? 30Gなの? いや高い、高いよ? メッチャ高い、普通に手が出ない領域の値段だった、前なら……。ただ思ったよりも露店の稼ぎがヤバかったのと、あのくじの賞金がまだまだ余ってるのとで、困ったなぁ~……。部屋には余裕があるし、そうだなぁ~……。
「優秀なハウスキーパーとか紹介して貰えない? ハウスキーパーさんの紹介と雇用込みで330億でどう? ハウスキーパーに支払うお金は別で」
『ええ~~~!!?? ほ、本当ですか~!? 優秀なハウスキーパーでしたら、この方なら間違いないというお方がいらっしゃいます!』
「どうするペルちゃん? 想定より安かったけど」
『え゛』
「良いと思いますわ! バビロニクスの中心施設から離れているとは言え、これだけのお屋敷を330億なら大変お買い得ですわね!」
『う゛う゛~~……!!』
とりあえずここにしよう、ここでいいね。じゃあ予め欲しいな~と思ってた家具、オークションでお気に入り登録しておいたやつを、ぽいぽいぽいぽいーっと買ったりハウスクリーニングしたり、やっちゃおうっかな~~!! ほれ、来いっ!
『どこでも倉庫エクスプレスが到着しました!』
「あ。ここでお金渡しても困っちゃうか。じゃあバビロニクスの商業ギルドに行こっか」
「行きますわよ~! ほら、戻りますわよ~!!」
『は゛あ゛い゛……! ありがとう、ございますぅ……』
まあそうションボリしないで。チップとして幾らか渡してあげるからさ……今日はまだ大丈夫かもしれないけど、このペースだと明日の朝には露店の収入が受け取りきれなくなっちゃう。露店の売り上げと無駄に使用された作成保護チケとかは金庫と倉庫に自動で入ってくるから、入らなくなると露店臨時休業になっちゃうんだよね。後500Gで完全に満タン状態になっちゃうから消費しないと~! 消費消費~~!! あ! シルバー販売はどうだろ。
『登録していた1Gシルバーが販売されました』
『登録していた500Mシルバーが販売されました』
『登録していた1Gシルバーが販売され――――』
うんうん、順調に売れてる! ゴールドも順調に溜まってる! いや~みんな課金しまくってるのが私とかダメぽさんとかペルちゃんに流れてくると、何かちょっと不安になってくるね! こんなに使って良いものなのかな~って。
「……ペルちゃん、10万ゴールドでちびケルちゃん出るかな」
「青天井の闇鍋ですわよ……? 底なし沼ですわよ……?」
「ちょっと、経験したい感が……」
「ちなみにわたくしは11万でちびケルちゃん出ましたわ」
「勝ちたい……ッッ!!!!」
――――この後15万ゴールド消えた。15万ちょいでちびケルちゃんが出た。ちびオル&トロスくんは2匹出ちゃった。
◆ ◆ ◆
「ん~~迷いますわね、この溶けない氷のバビロン像の配置……」
「これ絶対ブリザーマンさん辺りだよね」
「あの方、レイゾウ・コーとかも出していましたもの、絶対そうですわ」
「氷で出来たペンギン型の冷蔵庫、可愛かったなぁ~……あ、売ってる」
「もう冷蔵庫ありますわよ!? ありますのよ!?」
「ん~……寝室用?」
「…………アリですわね!」
オークションに並んでるセンス良さげな家具アイテムを片っ端から買って、買って、買って……やっぱ違うな~ってなったのは地下倉庫へ投入。後から見直して『あ、やっぱり合うかも』ってなるかもしれないからね。買った家具に永続の照明系家具多かったから地下倉庫明るいよ、ビックリよ。
「リンネさん……あの、相談がありますの」
「ん~?」
「リンネさんは、わたくしのこのぐるぐる……どう思いまして?」
「リアルまでは大変そう。ストレートにしたらそれはそれでアリだと思うし、イメージガラッと変わって美少女感激増しそう」
「び、びしょっ……!?」
「ゲームではぐるぐる、リアルではストレートでも良いんじゃない? ストレートでも手入れ時間はあるだろうけど、ぐるぐる~っとするのに結構掛かるでしょアレ」
「最長、2時間は……」
「2時間」
ん、ペルちゃんリアルであのぐるぐる止めちゃうのかな。なんだろう……あのぐるぐるは、はしゃぎ過ぎでキラッキラし過ぎてたから、ストレートにして落ち着いた女の子って感じになってくれたほうが、私はいいかな~。だって、ぐるぐるじゃなくなったら真弓の髪の毛弄れるようにもなるし? こっちの、ゲーム側はぐるぐるしてて欲しいけど! なんかわからないけど!
「明日、ストレートで行きますわ! 直球勝負ですわ~!!」
「楽しみに待ってるね」
「は、はいっ……ふふっ」
「ふふ~っ」
は~……。ゆったりした時間、たまには良いかも。いつもは『どん太~~!! 行くぞ~~~!!』『おにーちゃん行くよーーー!!』『千代ちゃ~~ん!! リアちゃ~ん!!』って感じだもんね。たまにはアリよ、たまには。
「そういえば……今日は、狩りに行きませんの?」
「ん、ゆっくりしようかな~と思ってたけど」
「確か、戦闘になると装備の呪力が消費されて下がる……だったかしら? 昨日の戦争で、減っていませんの?」
「あ」
あ。本当だ、101パーセント! ギリギリじゃん!!!
「わたくし、この屋敷の家具を納得行くまで配置換えしたいですわ! リンネさんに『お~~』と言わせて見せますから、補給に行ってきてはどうかしら!」
「ペルちゃんセンス良いもんね~。じゃあ、うーん……とりあえずマリちゃんの飛空艇の進捗を見て、うみのどーくつヘルと地獄ハードかな~。超地獄ハードは明日にするかなー今日は軽め!」
「軽めで地獄ハードは狂ってますわ! 激重な気がしますわ!!!」
「昨日の夜に千代ちゃんと私だけで行けたから、そこまででもないと思うんだけどね~」
「ほぼ最強格の2人という自覚を持ってくださいまし!?」
まあまあ、とりあえず軽めのダンジョンで今日は終わりにしよう。まずはマリちゃんのところに行って進捗見て、かな!
「じゃあ、行ってくるね。楽しみにしてるね~」
「あ! 拠点登録は――」
「自動登録みたいだよ。さっき確認した~」
「マイホーム帰還コマンドから帰れますのね! さあ、頑張りますわよ~!!」
「頑張ってね~」
どれどれ、元気いっぱい行ってみよ~!
◆ ◆ ◆
「――――ってことで、どこが悪いのかさっぱりなんですよ~」
「困ったな、全然進まないぞ……」
およ、ローレイの地下ドックに来たけど……なんかトラブってる? プレイヤーさん数人とマリちゃんが設計図囲んでうーんうーんって唸ってるわ。
「こんばんは~。やっ、マリちゃん」
「ん、リンネか。やあ」
「ああ! リンネさん、こんばんは! ようこそおいでくださいました~」
「リンネさんこんばんは~! いやー昨日の夜も投資、本当ありがとうございます~~!!」
「また足りなかったら言ってください。むしろ幾らか置いていきたいんですけど」
「あーーいやいやいや!! た、多分大丈夫だと思うんで~……」
「多分?」
あ、資金難を隠す時の感じだこれ。予想外のトラブルの連続で出費がかさんでるんじゃないかな、これは。
「た、多分大丈夫……です!」
「あの戦車からぶっこぬいたリアクターでも制御し切れない莫大なエネルギー、これをどうするかですよねえ……」
「絶えず発生し続けてしまうと行き場に困るからなあ~……。最後はどっかが、どっかーんよ」
「大丈夫じゃなさそうなんで、とりあえず100入れておきますね」
『飛空艇開発チームに【100Gシルバー】寄付しました。貴方の資金貢献度は90%です』
「うへっ!!?? ひゃ、ひゃく!?」
「昨日の露店、も、儲かったんで……?」
「結構~……ほら、機械装備作る露店のシェアを独占してるような状態なんで私、今だけですよ」
「今のうちにガッポリ、ですね!」
「うあーー資金余裕出ました本当! ありがとうございます~~~!!!」
「ああ神様~……!! そしてバビロン様にも圧倒的感謝……!」
やっぱり足りるか微妙だったのね。よし、ちょっと使えたね。それにしても、エネルギー調整に困ってるっぽいんだ。飛ばすには莫大なエネルギーが必要、でもそのエネルギーが一気に発生しすぎるとか、発生しすぎが原因で未だ試運転も出来てない、と。
「マリちゃんさ、コントロール系統を鎧に繋いでさ、おにーちゃんに鎧に憑依して貰ってとりあえず動かして貰ってみたら? 試運転もままならないと、そこでまたトラブルかもしれないでしょ? おにーちゃんあの暴走パワードアーマーもコントロール出来たし、船ぐらいならちょっと大きくなったな~ぐらいのノリで行けるでしょ」
「…………」
「…………?」
「…………????」
「え? 何?」
え、良い案だと思ったんだけどダメ? おにーちゃんなら喜んで協力してくれると思うんだけど。パワードアーマーちょっとデカいバージョンみたいな感じで、動かしてくれるでしょ。
「ほら、どこが悪いかメモってもらうのにディスプレイとかも繋いで、おにーちゃんに『ここが不調』って感じさせたほうが早くない?」
「…………」
「…………?!」
「…………???!!??」
「え、ダメ?」
え、皆メッチャ見てくる。なんで? そんなにダメ?
「どうして早く言ってくれなかったんだ……」
「そんなこと出来るんですかあの人……??!」
「え、行けるの?! 今の行けるんですか!?」
「多分行けるんじゃない? おにーちゃん呼ぼ、おにーちゃん!」
「フォーマルハウトMk-Ⅱを持ってきてくれ。アレの武装を解除して船のコントロールシステムに繋いでみよう」
「こけたりしないように固定したほうが良いですよね!?」
「そうだな、固定しよう。その方がいい」
あ、なんだ~思いついてなかっただけか~。これで出来たらラッキーって感じで、出来なかったらまあ……やっぱり根本から問題を解決しないとだめになっちゃうけど。
「上手く行けば、明日には飛べるかも知れないぞ、リンネ!」
「お~~! 楽しみ楽しみ~。じゃあ、私はおにーちゃんに声かけてくるから!」
「ああ、頼む。これから忙しくなるから助かる」
どれ、おにーちゃん呼んでこようっか! おにーちゃんどこかな~? あ、ローレイの魔神殿でお風呂タイムだ。リラックスしてるところ悪いねえ~!! ちょっとマリちゃんの仕事に付き合っておくれーい!
ブリザーマン「なんか家具全部売れた怖い」
夜家高菜「なんか家具全部売れた怖い」
ゴリアテ「なんか家具全部売れた怖い」
一般プレイヤー「なんか家具いっぱい売れてる怖い」
技師プレイヤー「なんかお金いっぱい入ってる怖い」
おにーちゃん「(っ’ヮ’c)~~♪」
ぺるっ「ぺるっるる~ん♪」