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336 ログイン20日目

◆ 自室 ◆


 真弓は私が記憶を取り戻した時のことを考え、重要なデータを保存したペンダントをいつも持っていてくれていたらしい。そのデータを今確認し終えたけれど……なかなかにショックな内容だった。これを記憶を取り戻す前の私が見てたら精神的ショックで塞ぎ込んでた……かもしれない。


「Project名【Artificial Goddess】……人造女神計画、かあ~……」


 世界的経済危機による大恐慌時代、政権崩壊による日本企業化、飢饉による合成食品の開発、連続した異常気象、温暖化と真逆の寒冷化への突入、周辺各国での戦争、日本の階級社会化、太陽光エネルギーの革命による石油崩壊、私達が生まれる前の時代にはありとあらゆる問題や変動が次々と起こっていた。未来への不安からか結婚をする人が激減し、孤独死や血筋が途絶える問題も起き、挙げ句不能男性の増加と不妊女性の増加という最悪の現象も起きて子供の出生率が年々減少していった。

 その問題を解決すべく立ち上がったのがこの、【Artificial Goddess】……人造女神計画。この存在を知っている人物は非常に少なく、真弓みたいな超お嬢様でもやっと調べられたというような内容。この計画自体は既に終了し、今は禁忌とされているけれど……一部の人はこうしてデータを持っている。レポートを手にしている。


『――――当計画の目標は男性、女性の生殖機能の低下に伴う出生率低下に左右されずに、人工的に子供を作り出すことである。従来の人工妊娠とは異なり、先天的に遺伝子操作を行うことで非常に能力の高い子供を作り出すことが出来る。最終目標は今後の日本を引率し、更に子孫を残すベースとなる女性。人造女神と呼べる程の能力の高い女性を作り出すことである』

「…………七瀬、014……成功。非常に順調。不安の残る女性同士の配合であったが、全く問題なく成長し続けている…………」


 驚くことに、見覚えのある名前が非常に多い。頑張って思い出してみたら、この最終ページに掲載されている子供の名前は私の中学時代や現在の高校に通っている子供の名前ばっかりだった。ただし、私の名前はこの中に存在していない。正確に言うと存在しているが、存在しているはずがないというのが正しい。


『竜胆001から050、全て失敗。ベースとなる顧客女性との良相性個体が見つからず、顧客の資金難により生産中止。最長個体が12ヶ月を迎え、天音と名前を付けて喜んでいた姿を思い出すと心が痛む。大きな手荷物(・・・・・・)と共に研究所を去っていった』

「…………」


 これが原因であいつらは壊れたのかもしれない。そこだけは同情する。そして大きな手荷物(・・・・・・)、この時に私をその手荷物に隠して出ていった。そして自分の子供として育てたんだ。最初っから壊れてて、子供を授かれなかった現実逃避で私を育ててたんだ。元から知ってて育ててたんだ、記憶に蓋をして。そしてあの日私が理想の子供じゃなくなった瞬間、現実を突きつけられた瞬間、完全に崩壊した…………悲しいモンスター。


『研究所閉鎖。所長の職権乱用という理由だが、詳しい理由が一切わからない。各々大手企業に引き取られる形となったが、優秀な子供を思い通りに作れるこの仕事にやり甲斐を感じていた私としては非常に残念極まりない。裏取りが出来ていない風のうわさではあるが、どうやら所長は優秀な顧客同士を掛け合わせて秘密裏に子供を作っていたとか、その子供を裏組織に流していたとか……。どこまで本当かは知らないが…………――――』


 更に、これだ。この所長が本当に裏で子供を作って居たとしたら、あいつらが子供を奪い去っても問題になっていない(・・・・・・・・・)のに説明がつく。秘密裏に誰かと誰かをかけ合わせ、上手く子供が作れなかった顧客が満足するように代替品(・・・)を与えた。それが私。だってその他のリストと引き渡し内容を見ても、全く問題になっていないんだから。あいつらが本当に子供を奪って逃げたなら、一人足りなくて大問題になっているはずなのだから。それを裏付ける内容も、真弓は探し出してくれていた。


『――――使用履歴と在庫が合っていないトラブルが発覚した。これは後からわかったことだが、不正利用が無いように使用した記録が自動で取られていたらしい。使用された顧客データは【Sharonov(シャルノフ)Anastasia(アナスタシア)】の物であるが、もう片方のデータが出てこなかった。単為生殖は不可能とされていた為、恐らく自分自身を使用したのではないかと思われる。なお、この使用で生まれたはずの子供は行方不明であり、恐らく失敗により処分したのではないかと思われる。以降、二度と不正利用がないよう厳重に管理する必要性がある』


 真弓が何万を超える報告書の中から見つけ出してくれていたのが、これ。ここから私のDNAとこの【Sharonov(シャルノフ)Anastasia(アナスタシア)】のDNAが一致しているというところまで、真弓は辿り着いていた。この人はもう亡くなってしまったらしいけれど、今年25になる子供が居るんだって。ぜひ会ってみたい気もするけど、会いたくないような……なんだか複雑な気分。

 そしてもう一人、この時は片方が不明とされていたけれど、さっきの風のうわさ(・・・・・)に辿り着く。そう、もう一人は……所長。及川望(おいかわ のぞみ)という人らしい。この人は完全に行方不明、本来なら逮捕されてるんだからまだ檻の中のはずなのに、居なかった。やったことは最低最悪だけど、能力だけは非常に高いから、誰かが裏から出して極秘で雇っているんじゃないかって。はぁ~……。


「…………ふぅ~~…………」


 結局私はなんというか、何者でもないのかもしれない。何者か知りたいから勇気を出して知ってみたのに、何者でもないみたいなオチだった。でも逆に、私の中で色々吹っ切れた。

 


 ――――何者でもないなら、これから好きな私になれるということ。


 

 そう前向きに考えた瞬間、胸の中でモヤモヤとしてた何かが一気に晴れた。バンジージャンプは怖いから無理~ってやってたけど、いざやってみたら滅茶苦茶楽しかった~みたいな爽快感。私は私、これから自由に誰にでもなれる。そしてそのうち、真弓に手続きしてもらって名前も名字も変えるつもりでいる。名前はバビロン様に付けてもらった【燐音(リンネ)】、燐は昔は国の都合で使えない字だったけど今は全然オッケーだから付けちゃう。そして名字はね、うん……七瀬だね。そういうこと。


「あだっ……背中、痛~っ……」


 真弓を黒田さんに持って帰って貰って暫くこれを見てたけど、集中力が途切れてみればあちこちなんか、痛いなぁ……。お姫様抱っこから起きてすぐ暴れたもんねあの子。部屋に入ってから持ち帰られるさっきまでは大人しかったけど。


「…………なんか、なんだろ…………」


 なんかこう、私の部屋で真弓の匂いがするの、違和感というか落ち着かないなぁ……。シャワーはさっき浴びたし、うーん……。ベッドとか完全に真弓~~って感じになってるわ。これ今日ベッドで眠れないわ、無理。ダイブマシンで寝よう……。


『バイタルチェックスキャン開始……やや脈拍が早いようです。息を整えてリラックスしてください』

『東京都の明日の天気は晴れです。降水確率は午前午後共に0%、最高気温は24度と涼しい一日になりますが、夕方にはやや冷え込む予想です。お出かけの際は寒暖差に注意してください』

『背中の切り傷、擦り傷以外問題がないと回答を頂きました。傷部に注意し、定期的に姿勢を変えるよう促します。バーチャルダイブシステムを起動します』

『バーチャルダイブシステム起動……ゆっくりと、目を閉じてください』

『バーチャルシンクロ開始……完了』

『ようこそ、仮想現実空間へ。バビロンオンラインのプレイがリクエストされました』

『バビロンオンラインへアクセス中……リンク完了』


 もう19時ぐらいか~……。あ、真弓のログインと同じぐらいの時刻になるかな? 真弓今日来るかな……。




◆ ◆ ◆




「――――ねえねえ~エリスちゃんお腹空いたな~お昼寝ちゃんはいつご飯連れてってくれるのかな~」

「あ~そうだ、ご飯まだだったね~いこいこ~」

「わ~い! ね、ね、どこ行く~?」

『リンネがログインしました』


 およ、リンネちゃん今か。昨日夜更かししたから遅くなったのかな~? あ、この時間だとペルちゃんもそのうち来るかな~??? 挨拶したらエリスを拾って、どっかご飯食べに行くか~。


「こんばんはエリスさんにお昼寝さん……ペルちゃん、まだなんですね」

「こんば~。まだ来てないよ~」

「こんば~んわ~」


 ん~? いつもならどん太君達のところに一直線なのに、ペルちゃん探しから始めるのは珍しいような~……?? ん? なんかいつもと様子が違うね~……?


『ペルセウスがログインしました』


 お? 噂をしてたら来たじゃ~ん。いいね~通じ合ってるね~相思相愛だね~あはは、なんちゃって。いい感じに通じ合ってるお友達感あっていいよね~。


「あっ……! リンネ(・・・)さん、こ、こっ……」

「来たんだ、ペルちゃん! ん…………」

「えっと……」

「…………大丈夫?」

「大丈夫! です、のよ!」

「そう、よかった」


 え? え? え?? え???? え?????? え????????? エッッッッッッ…………!? 


「ねえ、あのさ――――」

「はわぁぁわっ!! へ、ひょふ……ほへ……っ♡」

「どう?」

「ぜ、ぜひっ!! ぜひっ!!!」


 あのペルちゃんが、女の子の顔をしている!!!!! あのペルセウスが、乙女の顔をしている!!!!! あのぺるっぺるぺるが、ぺるっとしていない!!!!!


「…………よし。どん太達には今伝えたよ、じゃあ行こっか」

「はいぃっ……!」

「お昼寝さん、ちょっとお出かけして来ます。1時間ぐらいで戻れると思います……多分?」

「行ってきますわ!」

「あ、うん~……てら~……?」

「いってらっしゃ~い……?」


 リンネちゃん何その、ドヤっとしたようなニヤッとしたような良いお顔!? わ、ええ? ええ??? あれは、お友達同士でする表情じゃないねえ!? お友達じゃないねえ!?!? お友達以上だねえあの関係ねえ!??!


「どうしよう、晩ごはんいる……?」

「おかずだけ出てきた~……感じ……? エリスちゃんの目の前には~……主食がいる感じ?」

「何いってんの、エリスのほうが主食のくせに~……今日、諸事情でログインしない宣言掲示板に書いとこ」

「う、うん……そだね。そだね~っ」


 僕もご飯行こ……わ~……! わ~~……! いいねえ……いいねえ!? いい!!! うんっ!!!


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