327 ぶっちぎりでイカれた女・11
◆ 聖メルティシア法国・とある冒険者 ◆
「もう正門閉じちゃったよ~」
「まあ、まだ要塞の東側にハシゴ立ってるから……」
「後5分か、まだ魔族側は姿見せてないの?」
「遠くには集結してるらしいよ~? 一気に来るつもりなんじゃないかな~」
少しばかりのレベルを惜しんでメルティス側に残るんじゃなかった~……なんて後悔しても遅い。メルティスの本拠地である聖メルティシア法国に立ち入れるのは当初レベル75以上が原則だったから、腐ってるのはルナリエットの信徒の一部だけって情報を鵜呑みにしてしまって、腐敗が発覚した頃には上げたレベルが悼ましくて移らなかったのが良くなかった。今になってみれば75ぐらい、ポンと投げ捨ててバビロン側に移るべきだったな~……。真覚醒すると所属が変えられなくなるの、ほんとこれ詐欺でしょ……。一応運営からは『将来的に変更が出来るアップデートを予定している』っては返答があったけどさあ……。
「あ、来た!」
「お~い、向こうからしか入れないよ~~」
「こんな時まで採取クエやってるのアホでしょアイツ……」
「まあまあ、太陽花の種100個納品する毎に500万シルバーは美味しいから……」
「その日の買い取り上限あるけどな」
「20分もやれば1000溜まるしね~」
「あれチマチマやるの嫌いなんだわ」
「どう見てもひまわりの種なんよなぁ」
「アイツどこのギルドの誰?」
「メルエナ商会のドヴァンってプレイヤー」
「防衛戦開始3分前でひま種やってる奴いんのかよ……」
何でうちのギルマスは、はぁ~……。こんな時まで暇種回収しなくていいじゃん……。暇があったら種回収しとけって言われてる太陽花の種だけどさぁ……。今さ、暇じゃないでしょ。
『まもなく敵軍、愚かなる魔界の軍勢が我らの聖都へと土足で足を踏み入れようと侵略してくる!!! この聖都へ奴らを一歩たりとも入れてはならない!!!!!』
『最後の異界人が中へ入った! 完全封鎖、結界を起動せよ!!』
『女神メルティスよ、我らの聖都をお守りください!!!』
『聖メルティシア法国に【燦爛たる退魔の結界】が張られました。結界の残り強度【HP・5,000,000,000,000】』
『聖メルティシア法国に【燦爛たる対空迎撃方陣】が張られました。上空を飛翔する存在へ自動的に攻撃します』
『聖メルティシア法国が【オリハルコン守護者ゴーレム軍】を起動しました』
「だってさ」
「今回は上空への対策ガッチリしてるな~」
「前は、エキシビジョンで大暴れだったつくねってプレイヤーが初手蹂躙して来たんでしょ? 二の舞はちょっとね~」
「今回は対空防衛に結界も厳重、結界もこれすっげー勢いで回復するんでしょ? 5テラは凄いわ」
「すげー勢いって言っても、秒間500万ぐらいらしいけどね」
今回は~……前みたいな無様な終わり方は……まさかしないだろう。メルティスプレイヤーが今回は3万人も参加してるし、聖メルティシア兵も15万人、秘密兵器まであるって聞いたぞ。侵攻戦は22時まで、まあこれはゲームシステム上の都合ってのもあるけど、それ以降は更に強力な結界で魔族を根こそぎ追い出せるらしいから、そこまで耐えれば実質勝利ってわけだ。逆に大教会を制圧されたら負け、ただリポップ場所は大教会だし……。でも今回は復活待機時間が3分発生するらしいからな~。1回死ぬごとに1分伸びて最大10分まで伸びるみたいだけど、まさかそこまで死なないでしょ。
「うお~っと、すまんすまん! ふう~間に合ったわ~~」
「ドヴァンさん遅いですよ……」
「ひま種集めに本気出しすぎ。倉庫に入れた?」
「ああ、入れた入れた! いや~群生地見つけちゃって、夢中になったらギリギリだったわ~」
「まあ相手まだ向こうで作戦会議なんだか、華胥の夢のギルマスがあーだこーだ話してるっぽいな」
「内容リークないの?」
「あるみたいだけど、内容がさ~? 要約するとこのまま待機でそれぞれ戦闘準備を進めてろって説明が繰り返されてるだけっぽいんだよね」
「何か作戦でもあんのかね~。この前の火山、また噴火させるとか!」
「一応山の方は監視がガッチリついてるから、それはないっぽい」
「ん~そうなんだ」
『残り1分である!!!!!』
NPCの聖騎士団の団長、気合入ってるな~。コロッセウムでは散々だったけど、それはレベル制限が掛かって本領発揮出来なかったからっぽくて、本来はレベル300とからしいんだよね。だから制限掛かってないこっちだとまーじで強い。マスターゼルヴァとかも負けてたし、多分そういうことだって言ってたな。じゃあ廃教会は何なんだよって話なんだけどな。うーん……やっぱ弱いんじゃね?
「いよいよだ~あ~~緊張する!」
「さっきまでひま種集めてた奴が緊張とか」
「おいひま種野郎! これ以上邪魔だけはすんなよ~!!!」
「そっちこそよそ見して死ぬなよ~」
「そろそろです、バフ使います!」
「おっしゃ、準備万端にしておこうぜ!」
「向こうも動きがあったらしいぞ!!」
「向こうと数が6倍も違うの、くぅ~~~都市としての規模の差を感じちゃう!」
『開戦の合図を!!!!』
『はっ!!!』
『ワールドアナウンス:聖メルティシア法国侵攻戦・防衛戦を開始致します』
『聖メルティシア法国の【オリハルコン守護者ゴーレム軍】が戦闘モードへ切り替わりました』
あ~遂に始まるんだなぁ~……。いざ始まってみると緊張するわ~……でもこれで防衛しきれば、今度はこっちに逆転の機会が転がり込んでくるわけだし、今までメルティスじゃなくて向こう行けばよかった~って思ってたけど、それも逆転するかもしれ――――ん? なんだ、ドヴァンの後ろからなんか…………鎌……? 首に、掛かって……。
「ドヴァンさん、それなん――」
「え、何――」
『【unknown】により、ドヴァンがキルされました』
なん、だ、こいつ……!? どっから、ドヴァンの後ろから急に!!!? 大鎌、このバチクソヤバいオーラ、コロッセウムで見た、まさか……!!!!!
「――――道案内……ご苦労様ぁ……!」
『死の恐怖リンネが【ワイドスラッシュ?】を発動、複数のプレイヤーが大ダメージを受けました』
『複数のプレイヤーがキルされました』
「来いッ!!!!!」
『て、敵襲!? ど、どうやって!! 何をしているんだ!! 殺……せ……』
「あ……あああ……!!」
『死の恐怖リンネが【召喚】を発動』
『従者:どん太が現れました』
『従者:オーレリアが現れました』
『従者:不死身の魔王フリオニールが現れました』
『従者:嫁狐姫千代が現れました』
『従者:マリアンヌが現れました』
『従者:ティアラが現れました』
『従者:ゼオが現れました』
『従者:デロナが現れました』
『同盟従者:八百姫が現れました』
『八百姫が【召喚】を発動』
『麒麟が現れました』
『怒りの激流・青龍が現れました』
『嘆きの業火・朱雀が現れました』
『哀しみの風・白虎が現れました』
『狂える大地・玄武が現れました』
なんだ、なんだよこれ、どうすれば良いんだよ……!!! どうしてこんなことに、なんで……!!
「ギリギリまで種を集めていた阿呆のおかげだな。作業を進める、守ってくれ」
「1人も生かして逃がすな!!! 全滅させろ!!!!!」
「勝ったら好きなだけお酒が飲めますよ麒麟~~!!! リンネさん、約束! 約束ですからね!」
く、くそ、こんな開戦早々にやられてたまるか!!! せめてあの、一番弱そうな和服の子だ!!!
『【ハイパースラッシュ】を発動します』
「っらああああ!!!!」
『MISS……。麒麟にダメージを与えられません』
「んゆ? なんじゃ、若いのに腰が入っとらんのう~。ほれっ」
『麒麟が【蹴り上げ】を発動、クリティカル! 2,400,550ダメージを受け、食いしばり状態になりました』
「あぐっぉ……!! おっ……!!!」
そこ、は……!! 蹴っちゃ、ダメだろ、こい、つ……!!!!!
「蹴り足らんかったの。もう一発じゃな」
『麒麟が【蹴り上げ】を発動、クリティカル! 2,499,102ダメージを受け、死亡しました』
ふざけんなよ、ふざけんなよ……。なんであんな雑な蹴りで、こんなダメージでけえんだよぉぉ……!!! 魔族軍、まだ進撃開始前だったんじゃないのかよ…………。ふっざけんな、ふっざけんなぁぁ……!! あああああ魔族側にあの時転生してれば、こんなことにはならなかったんだぁあああああああ!!!!!
◆ ◆ ◆
いや~レーナちゃんが早く出撃したい~ってウズウズして、僕をゆっさゆっさ揺らしてくるんだけど、ま~だ開戦から1分も経ってないからね~? まだだって、まだ早いって~。
「ど? お昼寝、ど?」
「派手にやってるみたいだねぇ~……あ、突撃の合図は出たよ~」
いや~~……正門はもう、制圧したみたいだねこれ……。あは、やば~……。マヌケストーキング作戦、大成功じゃん……。
「魔界超合金グレートマジンダーダブルエックス、起動準備完了ッス!」
「魔術図書館のパイロットは全員搭乗~!! リンネちゃんが道を開けて待ってるぞ~!!」
「今回責任を取って切り込み隊長に任命されました、もってぃです!! それでは、行ってまいります!!! 僕に続け~~~突撃~~~! え~~~誰も来ないんだけどぉお~~~~~!!!!!」
「ギルマスに続け~~~!!!」
「うわ~~時間差で来ないでよ、酷いよ~~~!!!!!」
もってぃも難儀な子だなぁ~……。そもそも『ポーカーで負けた人がリンネちゃんにギリギリ怒られそうで怒られないプレゼント送ろう!』ってもってぃが言い出して、結局言い出しっぺのもってぃが負けたんだよね~……。しかもリンネちゃんが怒っちゃったから土下座して謝る羽目になって、許すからその代わりに突撃時の先頭になれって……難儀だなぁ~……。
『リンネちゃん体張ってるぅ~♡ すっご~い、成功しちゃったんだぁ~??』
『そのようですね。都市内部は大混乱、我々は余裕を持って攻め込める訳です。感謝しかありませんね』
『ワールドアナウンス:死の恐怖リンネが千人斬りを達成!!!』
「うわ~……」
「やっば」
「は、早く、あ、ああ、暴れたい……」
『あいつらには俺達も恨みがある。暴れさせてもらうぞ』
『暴れてええ!!! マスター、早く行こうぜ!!!!!』
「まあまあ、徒歩組はもうちょっと待って。その時が来るからさ」
さて、そろそろ3分になるけど……どうかな? 練習した時と同じならそろそろ出来る頃合いだけど、やっぱり邪魔されて上手く行かないか――
『エリアメッセージ:大型テレポータルがオンラインになりました』
「来た!!!」
『始めましょう。私達がマナを提供します、さあ行ってください』
設置に成功した!!! マリちゃんが都市内部にテレポータルを設置して、制圧力高い組が先行して内部に侵入する作戦、開始だ!!!
「よぉし! 全員火炎瓶は持ったな!! いくぞォ!!!」
『突撃だぁあああ!!! うぉっしゃーーー!!!』
『行くぞ、サリー!!!』
『こんな時ばっかりかっこいい顔しないで~♡』
テレポータルの起動に必要なマナは、カヨコさんや魔術図書館のパイロット以外のメンバーが提供してくれる。機械の負荷的に全員は無理だけど、それでも500人ぐらいは耐久度的に行けるはず。大パニックが起きている内にもってぃ達やグレートマジンダーダブルエックス、集まったバビロンプレイヤーと魔族NPC……それに、加賀利から応援で駆けつけてくれた皆であの大結界を破壊して内部へ侵入する二面作戦。
「僕たちも行くよ~! ペルちゃん突撃しすぎない、仲間を巻き込まないように気をつけてよ~……え!? 居ない!?」
「ぺるぺる、真っ先に行った~」
「きぬちゃんも行ったぜ」
「嘘でしょ……」
もうペルちゃん居ないんだけど。嘘でしょ……? 行きますわ~! とか突撃ですわ~~!! 無しで、無言で突撃してったってこと!? きぬちゃんも!? くぇ~~~ぴょわ~~~……いつかあの暴走癖、リンネちゃんに叩き直して貰わなきゃ……。
『さあ、気を引き締めて。一歩先は敵地です』
「ん、お願いします!」
『転送』
よーっし、先行部隊行くぞ~……敵を更なる大混乱に陥れてやる~~!!! さあ、敵は――――!!!??
「――貰っ」
『死の恐怖リンネが【魔神真空波】を発動、ペルーナが死亡。ミダナが死亡。ゴレーヌが死亡』
「隠れても無駄ァ!」
『死の恐怖リンネが【カーススピア】を発動、聖騎士ゴゴンが死亡』
『死の恐怖リンネが聖騎士ゴゴンを【死体安置所】へ納棺。【unknown】を発動、MPが完全に回復しました』
し、死屍累々とは、これまさに、だわ……。
『ガァァァァアアアアアアアオオオオオーーーーーーーーーーーン!!!!!!』
『どん太が【一極・魔狼咆哮連撃】を発動、複数の対象が死亡』
『オーレリアが【unknown】を発動、大量の猫が押し寄せる!』
『デロナが【ドラゴニックヒール】を発動、ゼオが完全に回復しました』
「お昼寝さん達は対空装置破壊して来てください!! レーナちゃんやつくねちゃん達が飛べない!!」
「あ、う、うん!!!」
あれだけ暴れてて僕が来たのわかったの!? え、どうなってるのリンネちゃん……頭の後ろに目とかつけてる……? いや、それにしてもこの惨状よ。元々従者だった八百ちゃんを再度臨時従者にして来た辺りからなんかやらかす気だなとは思ったけど……これは酷い。だって召喚士が召喚士を喚んで、更にその召喚士が召喚獣を出してるんだもん、ヤバいわ……。いや~いや~~~……。
「お昼寝~~~高く飛べないと不利~~~」
「さ、探しに行こう、対空装置……」
「わっちは一緒に暴れててもいい、いいい、ですかぁ!?」
「つくねちゃん数が多いから手伝って!!! ラージウスとガリャルドもこっち来て!!!」
『よし、行くか。行こう』
『おっしゃァーー!!! どん太ァーーー!!! 俺とどっちがいっぱい殺せるか競争しようぜェーーー!!!!』
『アォォォオオオーーーーン!!!!』
『おう、今からなーー!!!』
こ、こんな所に居たら僕まで巻き添え食らって死にそうだ。ささっと対空装置を見つけ出して壊しに行こ――――
「オーーーーッホッホッホッホ!!!! さあさあ、掛かってこいですわ~~~~!!!」
「道を開けるッッッッデーーーーーッス!!!!!」
「こっちやめよう。あっち行こ」
「さんせい。ころされる。ひとごろし」
「あ~エリスちゃんも賛成~~」
「あれには近寄りとうないわ」
「俺も行きたくねえ」
お嬢様組は迂回。無理。リンネちゃん達と違って本気で見境がないバーサーカー。路地裏を縫うようにして探しに行こう…………。あ、あれ、僕たち……制圧部隊じゃなかったっけ……? う、う~~ん……!?
「これより、我々は、特殊工作員?」
「せやな……」
「仕方ねえだろ。味方の攻撃に注意しなきゃいけねえ戦場は荷が重い」
そう、僕たちは特殊工作員! これより僕たちは僕たちに向いた作戦を遂行する!!! うん、だって……あっち怖いんだもん。