321 団体戦、決勝
◆ コロッセウム ◆
決勝戦……。どん太には悪いけれど、獄卒メンバーで出場させて貰う。相手はどう考えても最低でもエンシェント抵抗、アーケイン抵抗まで持ってて不思議じゃない。そして間違いなく、前回はなしだった古代神術まで使ってくる。油断したら一撃で終わる……!
「行くよ、頼んだよ」
「はいっ!!」
『(`・ω・´)b』
「御意」
緊張はある、しないわけがない。でもそれ以上に――――興奮。皆から聞いた事前情報によれば、あの4人はバビロンちゃんの配下最古参。つまり、バビロンちゃんが誕生して魔界に廃棄されてすぐに出会った魔族ってことになる。実力は間違いなく魔界でも最上位、私が出来ることは全て出来てそれ以上に動いてくると仮定しなければならない。
『団体戦決勝! 盾の扉からも4人が姿を現しましたぁーーー!!!!』
『おや、今回はどん太くんが居ないようです。その代わりに補欠メンバーとして入っていた姫千代選手が入っているようですね』
『あ、ら。前に見た顔と、居なかった子が、半々……ね?』
『バランスとしてはどちらも前衛2人に中衛、後衛かしら。よろしくね、後輩ちゃん』
『あら~。よろしくおねがいしますね~。今度は一撃で終わらないと嬉しいのですが~』
『よろしく、良い決勝戦になるといいけど』
「対戦よろしくおねがいします。やれるだけ頑張ってみます」
今までもはるか格上との戦いは散々経験してきた。これが初めてのはるか格上との戦いなら萎縮したかもしれない、でも既に散々経験してきた。それに前回とは違ってこちらの手札も多い。深呼吸、落ち着いて、やることをしっかりとやる。
『Aブロックの覇者とBブロックの覇者、一体どちらのほうが上なのかーー!!! 遂に明かされる時がやって参りましたーー!!!』
『両者、所定の位置につきました。準備完了です』
『天下一団体、決勝戦!!! 泣いても笑ってもこれが最後です!! さあ、真剣勝負……ッ!!!』
極限まで集中する。歓声が聞こえなくなる程、相手の身動ぎ一つの音さえ聞き逃さない程に集中して……!!!
『始めッ!!!』
――――最速で、行動する!!!!!
『ッ!!!?』
「はぁああああーーーーーー!!!!!!!」
『ミ、ミーシャ!!!!』
『セーブ……!!!』
千代の神雷脚発動から繰り出す神速の一閃、牙突神雷はカーサさんの心の臓を穿つように真っ直ぐと到達した。しかし、ミーシャさんのセーブのほうが一瞬早かった。カーサさんを一撃で撃破することに成功したけれど、間違いなく……ロードされる。
『ロード!!!』
『い、いきなりの奇襲ーー!! これまで受けに徹してきたリンネチームから、まさかの開幕と同時の奇襲だーーー!! しかし一瞬セーブが早かったか、やられてしまったカーサがロードで復活してしまいましたーー!!!』
『油断……して、いたわ。ふぅ――』
この、この瞬間。この一瞬。
「――――貴方が狙いだった」
『ミーシャ!! 後ろ!!!』
「天破斬ッッッ!!!!!」
セーブに成功し、やられたカーサさんがロードで生き返り、全てが開始時の状態……元通りになった、危なかった。油断していた。ふぅ~と一息付くこの瞬間を、この一瞬が勝敗を分ける5秒!!!!!
『な、ぜ――――』
『あああああああああああ!!!! リーダーミーシャが、一撃でノックダウン!!! リンネ選手は時間巻き戻しの影響を受けなかったのかーー!!? 一瞬の油断を、一撃必殺で仕留められてしまいましたぁーーー!!!!』
『しかし、リンネ選手が相手チームのど真ん中で取り残される形になりましたよ! 両チームのリーダー落ちになるかもしれません!!!』
『ニンギリフ、復活を!』
『いと慈悲深き我ら――がっ……!?』
『m9(^Д^)9m』
『ここでニンギリフ選手に、フリオニールの小盾が直撃だーー!!! ニンギリフ選手が倒れたミーシャ選手の方向を見ることが出来ません!!!』
『調子に乗って……!!!』
ミーシャさんを大鎌の一撃で仕留めた、天破斬は使用すると暫く大鎌のモードにすることが出来なくなるかわりに超極大のダメージ、仕留めきれなかったら何としてでも倒すつもりだったけど、仕留めきれたのは僥倖! ニンギリフさんの復活詠唱を妨害出来たのも流れが良い!
『――いと慈悲深き、くっ!!!』
「惜しい、首を落とすつもりの一振りにございましたが」
『強い……!!!!!』
『リザ選手が目を、見開いたーー!!!!!』
「此方にはその目は、効きませぬ!!!」
『速い、重い……!!!』
『は、速い! 全く見えない、しかし確実にリザ選手に傷が増えているーー!!!!』
『達人の領域を軽く、遥かに超えています、もはや解説のしようがありません!』
さあ、これでリザさんは千代ちゃんに釘付けになった。残るはカーサさん……! 私とリアちゃんだけで、カーサさんを何としても落とす!!!
「にゃうにゃうおーん、にゃううっうーー……」
『何の詠唱かわからないけれど、やらせてなるものですか!』
「ピアリス・クルス・スペアル!!!」
『ダーガ・シェルド・イーギス!!!』
『カーサ選手とリンネ選手の魔術での攻防です!!! 早々に倒れたミーシャ選手が抜けている分が、大きく響いているかーー!?』
「ねこねここねこね、デカいネコになーれー!!!」
『ね、猫の攻撃魔術が混ざりあって、突如巨大な猫が出現しましたぁーー!!!!』
『炎を纏う前足が、カーサ選手に振り下ろされます!!!』
猫猫超祭の最大召喚はCP10、MP22パーセントと消費が非常に大きい上、更にCPを支払ってにゃ術合成によって作り出される継続攻撃古代にゃ術【大親分猫大暴れ】、攻撃が完全にランダムなのがネックだけど、制圧力とインパクトに関してこれ以上のものはない! さあ、カーサさんには私がどこに居たのか見えていたし、何をしていたかわかっていたから、使うはず……使え、使って……!!!
『く~っ……! 先にあの騎士を仕留めないと……!!』
「むむむむっっ!! 獲物を逃がすにゃ!!!」
『――ぬぁぁぁぁごぉぉぉぉ……』
『ニンギリフ! 今そっちに――――…………』
『あーっとどうしたことだカーサ選手!!! 急にかなしばりにあったかのように、その場で立ち尽くしてしまったーー!!!』
『トラップに掛かった際の行動不能に似ています! 発動しようとしたのはダイブ系でしょうか、しかし先程まではリンネ選手が使えていたはずですが!』
捕まえた!!! 大親分猫に命令してしまうと拗ねちゃって、命令に従った後の行動で効果時間が強制終了する代わりに、狙った効果を即時に一つだけ発動出来る! 武装してきたからには通常のにゃ術程度のアンチダイブに凡そ抵抗があるであろうカーサさんに対して、攻撃を捨ててでも古代神術級の行動妨害をぶつけたかった!
『カーサ!!?? うぐっ!!?』
『(`・ω・´)』
『油断も隙もない騎士で、ぐぁっ……! つ、追撃……!!?』
ニンギリフさんも、リザさんもなんとか食い止めてる。ここで潰す……確実に……!!!
『させません……!!!』
「見えるッ!!!!!」
『ッ!!??』
『リザ選手、一瞬の隙を狙ってリンネ選手への攻撃も、リンネ選手に躱されてしまいましたーー!!』
『今の剣撃が、見えたんですか!? 何も見えませんでしたよ!!』
『リザ選手、今の一撃が仇となったか!! 姫千代選手の猛攻を受けています!!!』
危なかった。油断も隙もない。神速対応がなかったら一瞬の攻撃エフェクトさえ見えなかった……しかし、詠唱開始! 既に!!!
「ダーリ・トゥム・ダーリ……リッテ!!!!!」
『リンネ選手が追撃を仕掛けるようです! 難解かつ複雑な魔術陣を呼び出し、散らばったそれらを一瞬で正しく並べて行く!!!』
『正確に並べねば効果を発揮しない術でしょうか、それをこの速度で!』
受け取ってください、これが……あなた達を超えるために練りに練った、私の作戦です!!! バビロン様の一番になりたい、私の想いの集大成です!!!!!
『こ、これは、あの黒猫と同じ、不気味な!!!』
『カーサ選手が収縮する虚空に飲み込まれました!! 復活待ち状態のミーシャ選手と共に、暗黒空間に飲み込まれてしまいました!!! ノックダウンの判定が点灯しています!!!』
『このままではあのお方に合わせる顔がない!! かくなる上は!!!!!』
――……!! ニンギリフさんが、使うつもりだ……究極スキルか、更に上か……!
『щ(゜д゜щ)カモーン』
『望み通り、地獄に送ってやるわ!!!!! 葬終命断波ぁああ!!!!!!!!!』
『ニ、ニンギリフ選手の大斧が、漆黒のオーラを纏っているーー!!! これは、マスターゼルヴァのあの一撃よりも遥かに巨大な力を感じるぞーーーー!!!!』
『フリオニール選手、完全に受けて立つつもりですよ! しかしあれよりも威力が高いとなれば……!!!』
今こそアレを使う時よ、おにーちゃん!!!
『( ̄ー ̄)』
『喰らええええええええ!!!!!!!!!』
…………どう?! よしっ!!! 成功している!!
『あっ――――ああああ!!?? フリオニール選手、健在!! 健在です!!! あの攻撃を受けて尚、立っています!!!』
『なぜ、手応えが、全く……!! がはっ――――…………』
『逆に反撃の連続斬撃により、ニンギリフがノックダウンーー!!! 今の攻撃をどうやって回避したのか全くわかりませんが、フリオニール選手には通じない攻撃だったようです!』
ダークブレッシング。攻撃の属性を強制的に闇属性に変える補助魔術、おにーちゃんが使える防御の最終手段。おにーちゃんは闇属性、そしてニンギリフさんの攻撃属性を強制的に闇属性に変えることによる『属性一致はダメージ無効』のゲームシステムを利用した、ちょっとズルい気もする防御策。この方法はね、ミッチェルさんの闇付与闇吸収コンボやミーシャさんの相手にバフを掛けて詰ませる戦法から得た教訓よ!
『読めない、見えない、速すぎる……!!』
「これまで全て一撃の元に斬り伏せてきたとお見受けする。さぞ戦う相手に苦労なさったでしょう。これより繰り出すこの技を見て、共に剣の道を極めたくば後に声を掛けて頂きたく」
『…………ッ』
あの時、絶対勝てないと思ったリザさんが押されている。神速対応があってもなお、避けられるかどうかという一瞬の斬撃波。これ以上があったら恐ろしいと思っていたけれど、実際戦ってみればリザさんにはこれしかなかった。いや、恐らく究極スキルか神技にこれ以上のものが存在するけれど、この後を考えて出せないんだろうね。でも、それは私も一緒だから……。今回の究極神技ほぼなしなしの勝負は、私達の勝ち。
『姫千代選手が、刀を鞘に収めたーー!?』
『しかしリザ選手、攻められません!! 一歩も動けず、剣を構えたまま動くことが出来ません! まるで蛇に睨まれた蛙の如く、ジッと動きを止めてしまいました!』
『リンネ選手達はこの両者に手を出すつもりはないのか、成り行きを見守っています!!!』
いや、一応万が一に備えて大鎌の準備とか、バフ回そうとはしてるんだけど。見守ってるってことにしとくかー……。この様子なら、本当に私が動かなきゃいけない確率は万に一つぐらいだろうけど。
「…………」
『ッ…………』
出すのね……。様々な経験を乗り越え、初代様が編み出した祓魔居合斬を超えて……。
『…………どちらが、動くのでしょうか』
『会場も、静まり返っています…………』
自ら編み出した奥義国落を凌駕し、遂に辿り着いた一つの極地……姫千代流の奥義を。
「――――奥義」
『ッ!!!!』
『リザ選手動いた、速い!!!』
『き、消えた!! 両選手の姿が目で確認出来ません!!!!』
「無双輪廻ッッッ!!!!!!!」
『…………ッ――――』
ダメージログ!!!!!
『剣神リザが【剣神襲斬】を発動』
『姫千代が【奥義・無双輪廻】を発動、特効! クリティカル! 剣神リザに115,901Kダメージ、121,443Kダメージを与えました。ノックダウン!!!』
後に発動して、先に斬った……!!! それも、一度じゃない。あの一瞬で二度!!! 突進と同時に右切上、追い抜いてから連続で袈裟斬り。最後の構えからして素人にはあたかも袈裟斬りだけ発動したように見える。でも実際は、連撃。そして本来これで終わりじゃない……ここから更に左切上、更に逆袈裟と続けざまの四連撃。この四連撃で最初の体勢に戻るが故に名付けた名前が『無双輪廻』。
『き……まった……決まったァーーー!!!!!! 勝者、バビロン様の虜!!!! 圧倒的な勝利で、まさかまさか、勝てないと思われていた廃教会の慈母チームに、全員生き残った状態での勝利となりましたーーーー!!!!!!』
『う、ぁああ……!!! 凄い、凄かった、これは来季自分たちもしっかり解説出来るように、実力をつけて来なければなりませんね。何が起きたんだー見えなかったーしか言ってなかった気がしますよ!』
「流石だね、千代ちゃん。リアちゃんもお疲れ様……わしゃわしゃわしゃわしゃわしゃ~~~~」
「ん~~~…………♡」
「勝ちましたね~~っ!! えへ~~……」
『(;´∀`)っ』
「おにーちゃんは撫でるの禁止です! 鎧の隙間に髪挟まるといたいいたいなんです!」
『(´;ω;`)』
ああ、勝てた……。勝ったんだ。どこかの試合で奇襲をかけていたら間違いなく警戒されてたし、どこかの試合でおにーちゃんが闇属性付与耐えが出来るのをバラしてたら負けてただろうし、さっきの試合でわざと神技を受けて『フリオニールは正々堂々勝負を受ける』って印象を与えてなかったら、まっすぐ突っ込んでくるってこともしなかったはず。どこかで間違っていれば、どこかで手札を多く切っていたらたどり着けなかった勝利……。全てはこの勝負に勝つために……!!! バビロン様に報告に行こう!!!!!
「バビロン様、やりました……! 皆と一緒に、辿り着きました……! 優勝できました……!!!」
「帰って、直接報告しませんと」
「そうですっ! まだ泣いちゃダメですよっ!」
『(*´∀`*)っ』
「うん、帰って報告しよう……!! 皆の所に行って、皆一緒に報告しに行こう!!」
「…………表彰式を、忘れてはいませぬか?」
「あっ」
あ、表彰式忘れてた。はーーーめんどくさ……。早くバビロン様に会いたい……バビロン様に褒めて貰いたい……。表彰式早く終われ、早く終われー……。