319 深淵vs白銀
◆ ガトランタ・コロッセウム ◆
こちらからは仕掛けない。この後が確実に不利になるから受けに徹しないといけない。そしてゼルヴァさんは間違いなく神技まで使用してくる……アルティメットピアース、神速の一突きで範囲も広く、威力はあのゴテゴテと何重にもプロテクトが掛けられた結界の表層にヒビが入るレベル。まともに受けたら無事ではいられないだろうけど……さて、こっちもリアちゃんがアンチエア、アンチテレポート、猫猫超祭で猫50体の迎撃態勢が完了したけど、向こうも各自自己バフにナウダちゃんが攻撃魔術かな、準備し終わったみたいだね。
『行きますよ、リンネさんッ!!!!!』
『今度こそ負けないんだ!』
「やれ、どん太」
来た、じゃあひっくり返そう。ごめんね、どん太の魔狼咆哮撃は不思議なことに威力を一箇所に集中出来るようにパワーアップしたんだ。
『ワォォォオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!』
『威力を伴う咆哮ですか、でもこの程度では――――』
『どん太くんの凄まじい咆哮だーー!! しかしマスターゼルヴァは涼しい顔で突撃を緩めません!!』
『これは、どういうことでしょうか?! 後方で待機していたナウダ、シャースータ両選手が結界まで吹っ飛びましたよ!』
『えっ……!?』
狙いはリーリちゃんでもゼルヴァさんでもなく、後方支援組のナウダちゃんとシャースータちゃんの方。密着しててくれたから助かった、両方直撃してくれた。向こうからすれば運が悪かったとしか言えないけれどね。
そしてゼルヴァさん、後ろを振り向く余裕があるなんて……やっぱり思った通り、ゼルヴァさんは随分と戦闘感覚が鈍ってる。真覚醒前か直後の状態なら強くて勝てないって絶望してたかもしれないけど、今のステータスを落とされた状態で更に鈍ってるゼルヴァさんなら、勝機はいくらでもある。
「リアちゃん」
「いけ、いけいけ!! にゃんにゃんにゃーーー!!!」
『マスターゼルヴァ、後方の二人がノックダウンーーー!!! 更に突撃を緩めた隙を逃さず大量の猫が押し寄せてきます!!!』
『これが本物の猫で全員好意を持って突っ込んでくるならいいんですけどね、マナで作られた猫型の攻撃魔術ですよね?』
『っ!! っはぁあああ!!!!』
後方に気を取られて足を止める、前方から大量の攻撃が押し寄せる、判断できる時間は一瞬、とにかく攻撃を相殺すべしと範囲攻撃を選択する。
『しかし流石マスターゼルヴァ、この津波のような怒涛の攻撃を槍の大旋風で寄せ付けなーーーい!!!』
『せっかく用意した攻撃が通らないとなると、リンネ選手達にはやや不利な状況になったでしょうか? 近寄ってほしくなかったでしょうからね』
リーリちゃんは範囲攻撃を持っていないが故に手持ち無沙汰になる、範囲攻撃が直撃して視界がなくなる――――リーリちゃんが完全に立ち止まって、浮いた。ここだ。
「ピアリス・クルス・スペアル」
『あぁ!!? 土煙の向こう側では既に二の矢が用意されていたーー!!!! この土煙の向こう側から正確に、リーリ選手をターゲットにして地面から巨大な闇が槍のようになった術で、貫いたーーー!!!!』
『この土煙を見通す目でも持っているのでしょうか? たまらずリーリ選手がノックダウンです』
『おっとここで、シャースータ選手が起き上がりました!!! 自己再生能力でしょうかー!?』
『しかしこれで復活枠を使い切りました、マスターゼルヴァ側はもう復活出来ませんよ』
シャースータちゃんが仲間の窮地に反応して復活、不死身の火の鳥の力を持っているらしいから復活ぐらいあるだろうと思っていたけど、やっぱりあった。むしろこれでゼルヴァさんが復活するっていう最悪の現象だけは起きなくなったからこれは最高。さて、土煙の向こう側からの攻撃に驚き焦り向こう側のことしか頭にないはず。だから、この攻撃には気がつけないはず。
『見えた、そこ――――んがっ!?』
『フリオニール選手です!!! 土煙の中を回り込み、マスターゼルヴァの左側面方向から奇襲を仕掛けました!!!』
『しかし小盾を顔面にぶつけた程度、先程のような威力もありませんし、マスターゼルヴァには全く効いていないようですが……』
『m9(^Д^)9m』
『っく……!? なんで、視線が……顔が……無性に腹が立つ……!!!』
『あーっとマスターゼルヴァ、フリオニール選手に釘付けだぁーー!! もう目が離せないといったところでありましょうかーー!?』
フリスビー、プロヴォーク。この挑発系の2つのスキルは対人戦でも非常に有効で、プレイヤーであってもNPCであっても挑発効果の発動に成功すれば強制的に視線を固定する。顔がどうしてもおにーちゃんの方を向いてしまい、目を離すことが出来ない。どれだけマズイと思っていたとしても……私達が、完全に死角になる。
「どん太、あの子」
『ガゥァアアアアア!!!!!!!』
『シャースータ!! 空中に逃げなさい!!!』
『は、はい……っ!!』
視野外で何が起きているかわからない、どうして目が離せないのかわからない、パニック。ギリギリわかるのはどん太がシャースータに向かったということだけで、自分のことでいっぱいいっぱいだからメンバーの生存を優先する保留行動。私は地面から攻撃を出して、リアちゃんも地面を伝う猫猫突進攻撃、どん太は咆哮を使ったけれど仕掛けがわかったなら機動力を生かして回避出来るという算段で空中退避指示。でもそれは、初手で対策済み。
『シャースータ選手空に飛び上がりました!』
『が、ダメだーー!!! 対空罠の魔術が設置されていたか、体中に猫が纏わりついて落下だーーー!!!』
『ガァアアアアアアアア!!!!!!!!!!』
『どん太くんの巨体による突進!! 凄まじい衝突音と共に、シャースータ選手また大きくふっ飛ばされました!!! 立ち上がれない、ノックダウンです!!!』
『щ(゜д゜щ)カモーン』
『はぁあああああああああ!!!!!!!!!!!!!』
「(悪いけど、お願いね)」
目の前のおにーちゃんを何とかしない限り視野外からの攻撃を避けられない、切り札である神技アルティメットピアースの使用もやむなしと判断。これを発動してくれるのをね、待ってた。
『で、でるのかーー!? 昨日見せた、あの超大技がーーー!!!!』
『対するフリオニール選手は防御の構えを見せています! 受け止める気ですよ!』
『アルティメット、ピアーーーーーーーース!!!!!』
『うわあああ(’ω’)あああああ』
『あーー!!! しかし耐えきれず!!! アルティメットピアースの前にフリオニール選手ノックダウンです!!!』
『最強の矛の前に、生半可な盾では通用しないということでしょうか。しかしこれでマスターゼルヴァはフリオニールの束縛から逃れることに成功しました!』
最大のネックであるおにーちゃんを撃破、しかし切り札は使用済み。だけど残っているのは物理格闘職の大きい的、それに術師が2人ならなんとかなるはず。一回戦で見せた私の暗黒にゃおん球体はシンクロ状態で使ったものだから使えない、シンクロしてないなら勝機は残っている…………と、考えているはず。
『――――ニャァオ……』
『なん、しかし、だが、なんで……詠唱は……!!!』
それは大きな勘違い。リトルブラックニャホールはリアちゃんだけでも使える……そして発動に準備時間が非常に掛かるあの詠唱はただのブラフ。エフェクトが格好いいだけの無意味で長いだけの演出的な詠唱に過ぎない。
『あっ……!!!! あ、あの、あの黒猫はーーー!!!!!』
『し、シンクロ無しでも、使えるんですか!? そんな、じゃあ、最初のは!?』
「やって」
「ニャーリ、トゥム、ニャーリ、ニャッテ!!!!!」
虚無の黒子猫が内包する虚無を吐き出し虚無の空間が広がり、虚無を埋めようと周囲の空間をまるごと飲み込んで収縮する。エンシェントマナ耐性がなければダメージすら無く即死、ゼルヴァさんはそのぐらいの耐性があるはず……虚無の収縮に耐えて大ダメージで免れる。
『く……ぐっ……かはっ……!!!』
『な、なんとぉぉおおおーーー!!!! マスターゼルヴァが、あの不気味な暗黒球体の攻撃に耐えた、耐えましたァーーー!!!!』
『ガァアアアアアア!!!!!!!』
『くっ…………!!!』
『しかし、耐えたものの次の攻撃には耐えられませんでした……! どん太くんの凄まじい速度の突進攻撃により、無念にもノックダウンです! 復活枠はありません、戦闘可能なメンバーが存在しなくなってしまいました!!』
『勝負あり!!! 勝者、バビロン様の虜チームだーーー!!!! 初めての戦闘不能者が出る戦いとなってしまいましたが、それでも尚強い!!! 決勝は廃教会の慈母、そしてバビロン様の虜チームに決定致しましたーー!!!!!』
ああ……。狙い通りに進んだ、でもリラックスするのはまだ早い。次だ、問題は次なんだから。時空魔術師、暗殺者、剣神、執行者……そして全員のベースが、死霊術師。全員が私の上位互換版の存在と言っても過言じゃない。
『(;´∀`)b』
「ありがとうおにーちゃん。リアちゃんもあれを使うのまだ難しかったのに成功させて、偉いねっ! どん太~~後でワシャワシャして撫でてあげようっか~」
「私もワシャワシャして撫でて欲しいです!!」
『わうっ!? (僕が先だよ!?)』
『|д゜)』
「おにーちゃんはどこをワシャワシャ出来る要素があるのよ……」
次に備えよう。次は……ここまで積み上げてきたものを全て支払って、勝つ。完全に上位の相手に対して、私が考えてきた作戦がどこまで通用するか。それを証明して見せる。見ていてくださいね…………バビロン様!!! 私必ず、バビロン様に勝利を報告致します!!!