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318 軽い気持ちだったのに

◆ ガトランタ・とある廃れた酒場 ◆


 全く、あんな芝居をしてまで大衆の面前であの王に殴られなければならなかったのは非常に小癪なことだったが、だがこれで儂の()をはっきりと覚えている者はいなくなった。簡単な話だ、儂は自分の顔を大勢の前で潰したかった。上手く行ってくれて本当に助かった、これは賭けだったからな……。


「アブラミ様、全て順調に進んでおります」

「逆だ。結局、儂は何もかもに失敗した。気がついた時にはもう遅かったのだ」

「まだチャンスはあるさ、今回はその時ではなかったのだ」

「…………すまんな、儂のために」

「気にするな。元よりあの時死んでいた命、何者にもなれなかったはずの影武者の儂が本物として死ぬ。それだけ生まれてきた意味を感じる。この時のために生まれてきたのだ、後悔はない」


 メルティシア法国は間違いなく今宵崩壊する。大教会も破壊されるだろう。しかしそれは天界の扉を開く方法も同時に失われるということだ。つまり天界で起きている異変を暴く方法を失うことを意味している……。儂は知りすぎた、知らなくて良いことを知ってしまった……。まさか、あのメルティスが――――


「ん? ここは今日は貸し切りだ、出て――――ぐぉ……」

「しゅ、襲撃!!!」

「アブラミ様、お逃げくだされ!」

「いや、待て。無理だ、逃げ切れん。全員抵抗するな、武器を捨てよ」

「くっ……!」


 ――――既に、儂の入れ替わりに勘付いていた者が居たか。この蜘蛛のような機械、動けば間違いなく射殺されるだろう……。無念だ、ここまでか……。


「お~……。ほ、ほほ、本当だ。二人、居る」

「動くな。手を頭の上に乗せて跪け。でなければ跪く脚がなくなるぞ」

「わかった。全員、抵抗するな……言う通りにしよう……」

「へえ~。法皇が他国で入れ替わって、影武者が本国に戻るつもりだったんですね~! さっき殴られて顔がメチャっとなったから、治療で多少顔の形が変わったって言い訳も利くわけか~。凄いな~良く考えたし、それを実行する勇気も凄いですけどね~」


 全部バレていたのか……。この者達は、ああ……観客席の中でも異彩を放っていたあの龍に囲まれていた者達か。上手く行かないものだな……。


「ちょ、ちょっと、全員、外してく、くれる、かな……? これと、お話したいから……」

「大丈夫ですか~? って、大丈夫か~つくねちゃんだもんなぁ~」

「我はそういうのが苦手だから、よろしく頼む。護衛、それと影武者のお前も出ろ……念のためにステルスモジュールを起動して隠すか」

「この後を考えるなら、それが良いかもしれないですね~」


 この小柄な龍の角に翼を生やした……龍人なのか? ツクネと呼ばれていたが……。


「…………おい。正直に話せば五体満足、思い通りになるように見逃してやる。正直に話さないなら足の先からサシミだ。サシミ、わかるか? 身を薄く切るんだよ、鮮度も大事だから当然生でな」

「っ……!」


 いかん、これは脅しではないぞ……! 裏社会の頭領もこの目をしていた、本気でやる者の顔だ!!! せめて死ぬにしても、その死に方だけはしたくない……!


「さっき言ってた天界のどうとかこうとか、どういうことか詳しくお話をしてもらおうか。わかりやすいように、簡潔にな」

「わ、わかった、話す……! とりあえずその斧を降ろしてく――――だ、ぁああああああああ!!!!!!!!!」

「話せって言ったこと以外はおしゃべり禁止だ。次は本当にサシミだ、右からだな」


 く、靴先……!! 正確に指は外して靴先だけ……!!! 


「メルティシアの大教会には、天界に通じる門があるのだ!!!」

「ほぉ~ん……?」

 

 興味を持ったか……? まだ、まだ、もしやほんの僅かだが、儂の助かる道が残されているかもしれない……! そして、この腐ったメルティス教を――――完膚無き迄に破壊する儂の野望も……!!! まだ、潰えていないかもしれない……!!




◆ ◆ ◆




『――――強い、そして面白いですね~。しかし弱点は把握しました……ミーシャ、お願いします~』

『ロード』

『ああっとーー!!! また戦闘が最初からやり直しとなってしまいましたぁーーー!!! これで4度目、巻き戻る度に森がモリモリは弱点を突かれ、不利になっています!!!』

『や~これはキツイんですよね、巻き戻しでどんどん手札を潰されますから、選択肢が減り続けてしまう。突破方法が見出だせないですよね』

『逆に廃教会は選択肢が増える、ますます有利になっていきます!!!』


 今になって冷静に思ったが、さっき思いっきり顔面を殴った法皇……滅亡するだろうから良いかと思っていたが、滅亡する前に騒がれたら問題になるんじゃないか? しまったな、一時の感情に身を任せて顔面を粉砕したのは失敗だったか……。これで国際問題だ、国王はメルティシア法国へ出向き今すぐに謝罪せよってなったら巻き込まれるんじゃないか? まさか巻き込み狙いだったのか!? いや、まさかな……。


『ストーンウォール!!!』

『もう一度だ、マジン――――』

『あら、ご機嫌よう』


 おっ……?! カーサが遮蔽物に隠れたゴリアテ達の真ん中に突如現れたぞ! これはダイブ系の技か?! なかなか使い手が少ない技だが、いざ使われると咄嗟の対応が難しい。ゴリアテ達の緊急対応力が試される場面だが……。


『あーーーーゴリアテが首を切られたーー!!! 一撃死、ノックダウンです!!! 僕がすかさず復活を試みますがーーー!?』

『それは許しませんよ』

『崩れたところにニンギリフとリザが突入して来ました! あっ、あ~~……』

『今まで試行錯誤で受け気味だった廃教会が、急に攻撃に転向して来て対応出来なかったか、森がモリモリ全滅ーーー!!!!』


 うぅむ、全滅か……。突然パターンを変えた奇襲は対応が難しい、いい勝負だったが能力の差が顕著だったか。だがそれにしてもあのミーシャが使う時間記憶と時間呼び戻しの能力、恐ろしいな……。どこまで自由が利く能力なのか……彼女がリーダーである理由がわかった気がするな。リザ、ニンギリフ、カーサもとてつもなく強いが、ミーシャは特別能力が高いように思える。


『最初は良い展開かと思ったんですけどねーー!』

『まさか一番最初の状態に何度も戻されるとは思わなかったでしょうね』

『彼女たちを倒すには、まだ及ばなかったようです! しかし次回の武の祭典までにはどうでしょうね~!』

『異界人の成長速度は素晴らしいものがありますから、一部の方は相手が出来るかもしれませんよ。では次の試合に移ります』


 そうか、実況と解説のこの二人は初代からだから知っているのか! なるほどな、となると本来の実力を知っているわけか……。むっ、では次回の話をしているということは、そういうことになるのか? むぅ~……いやしかし、あれ程の者が控えているのだ、底が知れぬ強さを持つ異界人……リンネ! まだわかるまい。


『それでは矛の扉より――――』

「ん……? お父様、お目通り願いたいとおっしゃる冒険者……異界人の方が」

「これから良いところなんだがなあ……」

「先程の、法皇の件でとのことですわ」

「会うしかない――ん? 法皇の件で何故異界人が? ああ、もう会うしかないじゃないか」


 なんだその意味不明な組み合わせは、どうしたら法皇の件で異界人が出てくる? 気になって会うしか選択肢がなくなったぞ。


「仕方ない、会ってみるか……通してくれ」

「連れてきなさい」

「はっ」


 さて、更なる厄介事が舞い込んできたか、それとも災い転じて福となすとやらの方か、全く法国が絡むとどちらにせよ面倒だな……。


「連れてまいりました!」

「…………ああ! 俺が密かに楽しみにしていた異界人ではないか!!!」

「え? あ、お、お初、おおお、お目にかかります。つくね、と申します……」


 おお、こちらに渡る手段を一時的に失い、この天下一決定戦に惜しくも参加できなかった異界人の闘士ではないか!!! 凄まじい力強さを感じるな! そしてその、目のやり場に困る、格好でもあるな……!


「うむ。してつくねよ、法皇の件とは?」

「あ~……。まず、法皇の今の状態、なんですが……」

「むっ?」


 なんだこれは、魔導具か? 映像を収めるものか? ふむ…………法皇が二人いるが!!??


「こうなっている事情を、伝えなければなーとお、お思いまして……」

『さあどちらが勝ってもおかしくないこの一戦、どのような戦いになるのでしょうか!!!』

「あ、リンネちゃん……」

「……これを見てからでも、遅くない話か?」

「え、あ、あーー全然、はい。大丈夫……」

「そこで良ければ座って見るがよい! これを見てから、その話を聞こう!」


 いや法皇二人も大分気になるが、それよりこの一戦だ! リンネとゼルヴァ、一体どちらが上なのか……これを見ずには居られまい!


『リンネ選手はまたも攻撃を受ける構えのようです!』

『マスターゼルヴァに先手を譲る形となりましたが、果たして今まで通りの作戦が通用するのかーーー!!?』


 さあ、どうなるどうなる! 今度はどう出るのだ、早く次の一手を見せてくれ!!!



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本作をご覧頂き誠にありがとうございます
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