311 それは突然に
◆ ローレイ・地下ドック ◆
んーペア準決勝からの中継を見ててビックリ。あふぅんウニさんってあんなに強かったんだ……。もってぃさんのギルドでサブマスターをしてるアイスソルトさんから聞いた話だけども、あふぅんウニさんのあの盾ってマル・デ・ウニに超改造に魔改造を重ねた『超機装備』なんだって。マル・デ・ウニをプラス20まで上げたら『限界精錬に達した』って言われて、そこから『コレ・ハ・ウニ』に限界突破アップグレードをして、それを更に強化した後に『機械化アップグレード』、シークレット装備化した『スゴ・イ・ウニ』を超機アップグレードキットで強化、更に超機ハイアップグレードで最終強化してたどり着いたのが『神・乃・雲丹』なんだって。作り方のチャートまで貰っちゃった。
実はあふぅんウニさんが本来発動してるスキルはもっと上位のものらしいんだけど、他の人のログには【マサ・ニ・ウニ】モードって表示されるらしいの。これは上位のスキルの正体がわからないと類似している下位スキルの名前が表示される現象と同じなんだとか。私が古代神術のピアリスを発動すると【カーススピア】って表示されるのと同じ現象だね。
「なるほど、一つの装備を極限まで改造することで、人知を超えた神域にまで到達することが可能ということか。面白いデータだ……」
「銃弾も光線も弾く、おかしい強すぎる、思いました! ウニの形なだけ、独自配合のヘルタイト超合金、出来てます!」
「んっ、んっ、難しい言葉、いっぱいっ!! 金属と金属を混ぜると、強くなるの??」
「ああ、強くなることもある。だが強い物同士をくっつけるだけでは逆に弱くなることもある。硬すぎるが遊びがないために簡単に折れるということもありえるからな」
「魔鉱石を使う金属、鋳造や錬金は、ここがとても難しいです。博士もこの、滅ぼすものを再現する研究、沢山しています、した。全部失敗でした……」
マリちゃん達はこのウニをそのまま作るってことはしないだろうけど、このウニの作り方はとっても参考になったみたい。ゼオちゃんの創造主が昔到達出来なかった域に踏み込める可能性を感じる資料だもんね、そりゃあ興奮するか~。
「マリアンヌさ~ん、試運転かけたんですが~エンジンルームからなんか嫌な音がするもんで、見て貰えないですか~?」
「それは怖いな。今行く」
「私も!」
「デロナはね、ちょっとあそこ狭いから行かない……」
「ああ、そういえば狭かったな……」
ありゃ、なんかトラブルかな? 大事じゃないと良いけど~…………デロナちゃん、ひとりぼっちになっちゃうのね。んじゃあ、丁度ゼオちゃんから離れるタイミングだし、親睦を深める時間にしちゃおっかな~~???
「デロナちゃん、私と一緒にちょっとおでかけしよっか? 街を見て回ろうよ」
「んっ!! いいのっ!? 行きたい!!! あっ……」
「ゼオちゃ~ん。デロナちゃんと一緒におでかけしてもいい~? 街を歩いてくる~」
「わかりました! 気をつけてー!」
「っ!!! ん~~♪」
「だって! いこっか!」
「はーいっ!」
また好感度不足とかになったら嫌だしね。好感度不足が嫌だから行くってよりは、純粋にデロナちゃんに興味があるからなんだけどね。ペアの順位はサリーちゃん達が一位、ウニさん二位、レーナちゃん達が三位で決まりだろうし、予想と違う展開だったり荒れてたら動画を見よう。今はデロナちゃんとデートチャンスが優先なので!
「リンネ~……さま! デロナのこと、嫌いじゃない……?」
「ん? どうして? ああ、元々敵だったから?」
「うん……。でも、何も覚えてないの。デロナがみんな滅茶苦茶にして、研究所を飛び出して、海を渡った先の島で虐殺してたって、聞いても……許されないことだと、思うの……」
「ん~。本当に許されないことなんだったら、デロナちゃんが生き返らせるような選択はなかっただろうし、それをデロナちゃんを生き返らせてくれた存在が許してるんだから、私は何も問題ないと思うの」
「でもねっ……でもねっ……」
「それに、デロナちゃんを生き返らせようって決めたのは私だから。誰かに恨まれたり、悪いことを言われたら私に言って。私の選択なんだから、私の選択に文句があるなら受けて立ってやる」
「……っ!」
デロナちゃんを生き返らせようと思った時、ここまで純粋でいい子だとは思わなかったから驚いたけど……でも、やっぱりどこかで陰口を言われたり恨まれたりしてたのかな、知らないところで傷ついてたみたい。ただデロナちゃんを生き返らせる選択をしたのは私だからね! 文句なら私に言えって話よ。私じゃなくて攻撃しやすそうで反撃して来ないデロナちゃんにチクチク攻撃するなんて卑怯者のすることよ。
「いきなりは難しいかもしれないけど、これからはデロナちゃんも私の家族のような存在なんだから。他の子達もいっぱい頼って、誰かに相談したりしていいのよ」
「うんっ……うんっ……!!!」
「どれ、まずはお洋服とか……あら。ほら、おいで~」
「んっ……!!!!」
「怖かったね、今までよく我慢してたね……」
よしよし、自分の知らない間に自分が自分じゃなくなって、記憶が残ってないのに大勢から恨まれてたら怖いよね。わかるわ~私もあったな~。
「そう、私もね~前に何か大きい事故があったみたいでね、気がついたら病院……うーん……怪我を治すところかな。そこで目が覚めたら記憶が無くて、私を心配そうに見てる人たちが誰なのか思い出せなかったら物凄く怒られてさー…………あー…………?」
「んぅ……っ!!!」
事故…………事故…………?
「事……故…………」
寒くて、誰か、天井が、落ちて…………。
『――――残念ながら娘さんは、記憶喪失のようです。いつ記憶が戻るか、現代の医療でもこればかりは……』
『どうして私の天使がこんな!! こんな酷いこと!!! ありえないわ!!!!!』
『それに俺達の血が輸血で使えないってどういうことだったんだ! 説明しろ!!!』
私……私は……。
『――――非常に言い難いことなのですが、このデータに間違いがなければ娘さんは…………』
『なによ!!! これは、こんな……嘘……嘘よ……』
『で、デタラメだ!! 俺たちに嘘を……嘘だろう……? そんな、だって……』
『ええ、ですから、その……』
あ……違う、私は、そうだ……。
『取り違いである可能性が、非常に高いです』
私は……。
『――――こんなの、私の娘じゃない!!!!! これは、悪魔の子よ!!!!!』
お前達の天使じゃ、なかった。
「――さま……。リンネ、さま、くるしい……っ」
「あ、ごめん……」
「でも、ぽかぽかしてた! どくんどくんって、心臓の音も聞こえたよっ!」
「ん……。泣くの我慢出来て、偉いね」
「うんっ!!!」
私は、誰だ……? じゃあいったい、私は……何者なんだろうか…………。
◆ ◆ ◆
「リンネさま、元気になった……?」
「うん、ごめんね。ちょっとだけ気分が悪くなっちゃって……。もう大丈夫、平気」
「よかった~♪」
あれから徐々に記憶を取り戻して、気分が悪くなって限界になって人の少ない公園まで出てきた。
全部は、思い出せなかった。思い出せたのは私が何かの事故に巻き込まれて記憶喪失になったことと、重症で輸血が大量に必要だったこと、両親の血が合わずに輸血が間に合わないと諦めかけていたのを真弓がヘリを飛ばして輸血パックを運んできてくれたこと、そして母親の理想の天使として育てられていた一部の嫌な記憶に――――私が両親と思っていた奴らの、実の娘ではなかったという情報。過去のすべてを思い出せたわけじゃない、どうして事故にあったのかとか。小学中学時代の思い出とか。
気分が悪かったのは最初だけで、思い出した内容を一つ一つ噛み砕いてみれば逆に気分が晴れる部分もあった。私が天使をここまで嫌う理由だとか、反発して悪魔や退廃的文化を好むようになったこととか、それにあいつらの娘じゃなかったって点もスカッとした。ざまあみろと、お前達の理想の天使は死んだんだ、と。
「その服、どう? 気に入った?」
「うんっ!!! えへ~……」
まあ気が滅入るようなのは置いておいて。デロナちゃんにアバターを一式買ってあげた。買ったのはゲーム内でしか購入出来ない超高級魔導具・衣装店の品物で、頭装備を透明化する指輪と、特殊種族でもオートで調整して着用出来るチャイナドレスセット。デロナちゃんにピッタリだなーと思って、衝動的に買っちゃったから値段までは見てなかったけど……ないね。私がさっきまで持ってたシルバーが。ほとんど。
「ふふ、可愛いね~。どう? 結構歩いたけど、お腹すいた?」
「うんっ! おなかすいちゃった……あ! ゼオおねえちゃんと、マリアンヌさんにも、買っていきたい! みんなで食べると美味しくなるから!」
「そうね、買っていこうっか。よい、しょ……」
『――――ダメよ! 買い食いなんてみっともない!!! 天使が人前で食事をみせるなんてありえないわ!!! 家に帰って部屋で食べなさい!!!』
「ッチ……」
これから、ことあるごとに思い出すかもしれないの、嫌だな。記憶喪失のままのほうが良かった。ううん、前向きに考えよう……早めに嫌な奴の嫌な育児法を思い出したことで、私は絶対にそれをやらないように出来る。私は、みんなに理想を押し付けたりしないようにしよう。だからマリちゃんが体の獄を突破出来なかったとしても、それは責めない。少しでもやる気があるならサポートしてあげて、やらせてあげる。達成する喜びを教えてあげよう。
「デロナちゃんは、皆みたいに戦ってみたい?」
「うんっ!!! 戦うよ、そのために生まれてきたんだもんっ!」
「それは、デロナちゃんがしたいからしてること? デロナちゃんの使命だからやりたくないけどやろうとしてること?」
「いつもゼオおねえちゃんに守って貰ってたから、デロナも戦えるようになって、皆を守りたいのっ! デロナはデロナが戦いたいから、戦うよ?」
「そっか。うん、いい子だね……皆には内緒で、いちごパフェ食べて帰っちゃおうっか?」
「えっ……! な、ないしょ? リンネさまと、デロナだけのないしょ?」
「うん。内緒」
「…………デロナ、今だけ、また悪い子に、なっちゃおうかな……♪」
「なっちゃえなっちゃえ~。ほら、あそこがいちごパフェが美味しいお店――――」
いや待って、なんか見覚えのある奴が居るなぁ……。
『(;´∀`)!!!!!??????』
「あ、どうぞそのまま座って……いちごパフェスペシャル2つ」
「畏まりました~」
「鎧さん!!」
「わかるよねおにーちゃん。今デロナちゃんと私、内緒のパフェタイムなの。ね?」
『(;´x`)』
「そうね。私も黙っててあげるわ」
「三人でないしょっ!!」
おにーちゃん、護衛費で貰ったお金からちょっとだけ欲しい~って言うから50M渡したけど、いや~まさかローレイで優雅にパフェタイムだったとは。しかも、一人で。一人で!
「これからはたまに、デロナちゃんも連れてってあげてよ」
『(;´∀`)b!』
「いいのっ!?」
「いいよ~。たまに、ね?」
「うんっ!!!」
今度はリアちゃんも連れてこようかな。もちろん内緒のデートってことで――――いや待てよ? リアちゃんはネコちゃんネットワークがあったよね? この情報、漏れている!!!
『(リアちゃんの分も買ってくから内緒ね)』
『(さすがですお姉ちゃん!! 信じてました! 内緒にしまーす!)』
ふっ……。我ながら、完璧な対応。自分の完璧さが恐ろしいね…………!!!
「お待たせしました~。いちごパフェスペシャル2つですね~」
――――この後、デロナちゃんのお口についてたクリームでゼオちゃんにバレた。結局全員連れてった。