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310 ガトランタ王、大困惑

◆ コロッセウム・特別席・ガトランタ王 ◆


 うぅむ。見事なまでに魔神バビロン陣営側の選手だけしか残っていないな! しかし何なのだ、あの聖天騎士団の不甲斐なさは。仮にもメルティシアで一二を争う騎士達が揃う騎士団ではなかったのか? 当たった相手が悪かったとは言うまい。いずれにせよ誰に当たっていてもあれでは勝てなかっただろう、実力が足りなかったとしか言えないな。

 残っているのは魔神バビロン直属の神兵である魔神兵、それに魔神バビロン陣営で最大最強規模の冒険者ギルドのマスターである……お、お昼寝大好きと、サブマスターのエリス・マーガレット……マーガレットか、花言葉は『私を忘れないで』だったか? とても本名とは思えん、何か所以がある名前なのだろうな。

 そしてソロ優勝者であるレーナと、その教官であるグリムヒルデ……グリムヒルデはマグナという技師に作られた機械生命体らしいが、いや比較対象者がレーナなのが悪いな。レーナと比べたら大概の者は表情豊かな人間になる。どちらも何を考えているのかわからないレベルで無表情だな。あの表情で無慈悲に銃弾を叩き込んでくるから尚恐ろしい。

 最後に、なぜ勝ち進んできたんだ……。絶対にふざけている、勝つつもりがないと思っていた巨大ウニと触手娘、あふぅんウニとスゴイカだったか……。なぜ、勝っているんだ……。ゼルヴァもゼルヴァで何負けてるんだ……。しかも負けて笑っている始末、完全に負けることを楽しんでいるぞアレは。


「お父様、改めてどこが優勝すると思いますか?」

「むぅ~……。子犬のワルツの2人か、弾の嵐だろうな……」

「ウニは……」

「ちょっと勝って欲しい気もするけど勝って欲しくない気もするなぁ……!!」

「同感です。なんでしょうか、この気持ち」

「うぅぅぅむ……」


 スゴイカによって投げられ、超高速回転で火花を散らしながら突っ込んでいくあの棘付き大玉は恐ろしいものがある。しかも恐らく奴自身は回転していない、内部は回転しない仕組みに改造が施されているようにもみえる。挙げ句、かなり正確に軌道をコントロール出来るようだ。あれが突如王宮に現れて突っ込んできたと考えたら対処が難しいだろうな。

 今思ったが、なるほど。ここまで勝ち進んできた4組は全て対処が困難な連中だ。一度暴れだすと手のつけようがない。手が出せないというのはやはり強いな。


『皆様ーーー!!! おまたせ致しましたァーーー!!! ただいまより準決勝を開始致しまーーす!!!』

『まずは矛の扉より入場致します、魔神兵のお二方です』

『美しい女性には棘がある! 更に美しい女性には毒もある! 小柄ながらも毒蠍のような鋭さと毒を持つ魔神兵サリーとー!! まさに超人!! 異常とも言えるほどに発達した筋力で全てを粉砕する怪力超人、魔神兵クーガーの登場です!!!』


 さて、始まるか……。ここまで予想の付かない大会は初めてだ。ゼルヴァの一強時代もそれはそれで面白かったが、強者乱立時代のほうが遥かに面白い。


『盾の扉からは子犬のワルツのお二方が入場です』

『もふもふとした狼の耳と尻尾が可愛いぞ! 踊り子さんも魅力的!! しかしてどちらもお触り厳禁、踊り子と狂犬には触らないでください!! 冒険者ギルド華胥の夢のマスター、お昼寝大好きと! サブマスターのエリス・マーガレットが入場であります!!!』


 あいつらも実況に熱が入っているな。例年はもっと淡々と実況と解説をしていたと思ったが、予想外の連発だからな……盛り上がらないほうがおかしいか。元々が戦闘狂だ、むしろ降りて『一戦よろしく』と言ってもおかしくはない。


『サリーちゃんねぇ~? カムイちゃんと違って『本気出しても良いわよ~』って許可貰っちゃったんだぁ~……わかるよねぇ?』

『全力を出させてもらうぞ!!! フルパワーだ!!!』

『あっ……う~ん、頑張るか~』

『ぎょえ~~~』

「むしろ今まで本気ではなかったと?」

「そのようですね……」


 今のがハッタリではないのならば、今の今まで本気ではなかったということか。これは急にわからなくなったな……。


『両者、位置についてください!!!』

『真剣勝負!!!』

『始めッ!!!』

『アッハッハハハハハハハハ!!!!!!!! アーーーーーーーッハハハハハハハ!!!!!』


 うっ……!? なんだ、この邪悪なオーラは……!? あの鎧、まさか防具というより……拘束具だったのか!? このドス黒い、異形の者のようなオーラを抑える為の……!!!


『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――!!!!!!!!!!!』

『――――!!!! ――――!!!!!!!!!』

「――!!!」


 お、音が、聞こえん……!!! 何が起きた!? 超人クーガーが咆えたまでは理解できる、地面に両の拳を叩きつけたのも見えた、その先が全く! この凄まじい土埃と衝撃音で何もわからんぞ!!


『――――たぁーーー!!! お昼寝大好きが弾き飛ばされたーー!!! エリスが受け止めましたが、これで本体がどれかわかってしまったぞーー!!!!』

『凄まじい衝撃波です。超人波動砲を地面に向けて発射したようですね!!』

『覚悟してねぇええ♡ 一撃で終わらせたげるからぁああああ!!!!!!』

『土煙に紛れてサリーが近くに!!!!』

『あの圧倒的な存在感を放った後、瞬時に存在感を消していたようです! 急に現れたサリーにエリスがパニックになっていますよ!!』


 卓越した筋肉の瞬間的な爆発力によって生み出される波動を一極集中、地面に叩きつけフィールド全体が沈み、途轍もない衝撃波によって両者が弾き飛ばされた。そして序盤でアレだけのオーラを放ったサリーが突如として消え、巻き上がった土煙と共に現れた。凄まじい連携だ!!!


『お昼寝大好きが応戦だーー!!! サリーの剛拳が勝つのか!! お昼寝大好きの剛拳が勝つのかーーー!!!』

「勢いに乗っているサリーと、弾き飛ばされ勢いなく応戦のお昼寝、正面衝突は――――!!!」

『あああーーーっと!!!??? エリスの幻影がサリーを背後から襲撃しようとしています!!!』

『追い詰められたと見せかけた、サリーを確実に仕留める誘導ですよ!!!』

『エリスとお昼寝が分断して攻撃を仕掛けるようです!!』

「なんとっ!!!!」


 サリーが突撃してくることを完全に読み切った罠か!! お昼寝を抱きとめる為にエリス本体が動き、本体だと認識させることで誘き寄せた! そこを逆に――――!!??


『サ、サリーが、地面を舐めるように姿勢を低くして躱したーーー!!!!』

『地面スレスレを飛んでいると言っても過言ではないですよ!!』

『それは無理――ッ!!!』

『星になれぇぇえええええええ!!!!!!!!!!!』

『サリーの地面スレスレから天を穿つが如きアッパーが、エリスに炸裂したぁーーー!!!!!!』

『エリス選手、ノックダウンです!!!』


 完全に、身体能力の差で負けてしまったか……。読みも良かった、作戦も良かった、通常の人間と戦う場合は相手の姿勢というのは立っている状態を想定していることが多い。足元への攻撃となると、案外有効打がなかったり無駄に大振りになってしまったりと、意外と攻撃しにくい領域だ。サリーはその領域に避け、その領域から戦う手段も持っていた。これは戦闘経験の差だな……。


『あっ……!?』

『お昼寝大好きの足元が突如爆発したぞーーー!?』

『今回持ち込んでいたのは地雷だったようです! 地雷が爆発しました!』

『うおぉぉおおおおーーーーーりゃああああああああ!!!!!!!!』

『で、出たーーーー!!!!!! 卓越した筋肉から放たれる――』

「『『ビームだ!!!!』』」

「どうして筋肉から光線が発射されますの……?」


 昂ぶった筋肉の波動を右剛腕に収束し発射するビームは、まさに超人破壊光線。決まったか……。


『お昼寝大好きノックダウンーーー!!!! そこまで! 勝者、魔神兵ーー!!!!』

『……奇襲作戦、良かったわねぇ♡』

『俺はサリーが殺られたのかと思ってヒヤッとしたぜ!!!』

『ちょーっと、惜しかったわねぇ~♡ あっは……あっはは……っ♡』

『純粋に強い! 身体能力と戦闘経験の差が出た形の決着となりましたーー!!!』

『いやぁ~奇襲作戦は完全に上手く行ったと思ったんですが、勢いを落とすことなく地面スレスレを這うように走れるとは思わなかったですね~』

『あ、やだ~~♡ ちょっと~胸のところ地面に擦ってた~♡ ほら~~♡』

『おおう、見せるな見せるな!』


 …………す、擦ってたのか。どれ……ほう……。


「お父様?」

「んぉ、いや。見てない、見てないぞ」

「まだ何も言っていませんのに」

「…………あのな。男がマッチョだったらその魅力的な筋肉を見てしまうだろう? 女性が艶やかで豊満であったら、その魅力的なバストを見てしまうのも無理はないのだ」

「そういうことにしておきますわね……」

「うむ」

「スケベ国王陛下に申し上げます! 団体票の集計が完了しました!」

「お前今なんて言った?」

「はっ! ガトランタ国王陛下と!」

「でもお前も見ただろ? 今の」

「はっ! それはもう、ええ!」

「下がっていいぞスケベ衛兵」

「はいっ!!!」


 潔く認めやがる……。


『地雷撤去が完了致しましたので、続いては弾の嵐とうみのいきものの試合を行います!』

『あ~~~来ましたね~。期待の一戦です』

『それにしても彼女はあのトゲトゲを掴んで痛くないのでしょうか?』

『痛覚遮断をしているか、それらに極大な抵抗があるのかもしれないですね』

「……リンネさんに、どうやったら大きくなるか聞こうかしら」

「ん? 今何か言ったか、アーシャ?」

「いいえ~なんでもございませんわ~~」


 遂に来てしまったか、あいつが……。あの謎すぎる大快進撃を続ける、謎のウニが……。


「陛下、緊急事態につきこのような格好で申し訳ありません。どうかお時間を頂けないでしょうか」

「ん? どうした、魔術師団でなにかあったか?」

「はい、報告致します。我々魔術師団の者が数名、例の書(・・・)にかけられていたプロテクトを無許可に解除してしまい、内容を読み上げた数名がマナ欠乏症に陥りました」

「なんとっっっ!!!!!」


 マナ欠乏症だと!? あの、かかれば死ぬしかないと言われている、マナ欠乏症に……。


「マナ欠乏症になれば、二度と……」

「あ、い、いえ……。それが、魔神殿よりお越しくださっていた錬金術師アルス様より預かった新薬(・・)により、完治……致しました!」

神薬(・・)だと!?」

「はい、新薬(・・)にございます」


 なんと……。神々しか口にすることを許されぬと言われている、それはもう世界の遺産と言って過言でない貴重な神薬を……。


「その件で、アルス様より要望を預かっておりまして……」

「我らが誇る優秀な魔術師団の命を救ってくれたお方だ、どのような要望でも聞き入れよう」

「はっ……。それが、その新薬を作る為の素材が、このガトランタの王宮内にある秘密の庭園でのみ育てられている、ダイヤモンドリリーのようでして……。それを数株譲って欲しい、魔神殿で弟子達と栽培して使用することを認めてほしいとのことです」

「なんと、それだけか?! いや、作れるのか!?」

「はい? ええ、作れるそうです。どうやら弟子の方が毒を生み出すのに失敗して出来上がった偶然の産物のようでして……」


 確かに、ダイヤモンドリリーには悍ましい猛毒がある。しかし上手く扱えば薬にもなる……。なるほど、ダイヤモンドリリーを使って神毒を作り出そうとして失敗し、逆に神薬が出来上がったということか……。


「いや、直接会おう。その偶然生み出した弟子にも会いたい」

「あ、あ~……。それが、その弟子の方は三位決定戦を控えておりまして……」

「何? ん……? いや待て、三位決定戦となるとまだ相手が決まっていないということ、まさか! お昼寝大好きという名前か!?」

「あ! そうです、その方です! その方が新薬(・・)を作ってしまったようでして」


 素晴らしい! 武の面でも知の面でも優秀とは、素晴らしいな! マナ欠乏症はある日突然、何がきっかけかわからないが発症してしまう者が年に数十人は存在する。その全てが発症から一ヶ月以内に死んでしまう、この不治の病から国民を救えるというのだ。直接会わねばなるまい!


「アルス殿は貴賓室に案内せよ。まずは私が挨拶に行こう。その後そちらで広々と観戦して頂き、表彰後に改めて交渉するとしよう」

「はっ! そのように手配致します!」


 これでよい。これで後は――――いや、待て。


「……待て、それで。プロテクトが掛かっていたと言ってたが、そのプロテクトを解除する為のワードがあっただろう。私も知っておく必要があるだろう」

「あ……え、っと~……」

「なんだ。言い難い言葉か? ほれ、近くに来い」

「は、ははっ! 失礼します……」


 なんだ、プロテクトワードはそんなに言いにくい言葉だったのか? なんだその苦笑いは……?


「…………ば、バビロンちゃん、サイコ~…………」

「…………は???????」

「バビロンちゃん、サイコ~……です……」

「ひょっとしてお前達、俺をバカにするのちょっと流行ってたりするか?」

「いえ!! いえ、本当なんです!!! 持ってきてここで解除しますか!? 書を閉じれば1分で自動ロックされますから、この場でお見せすることが可能ですよ!!!」

「はぁ~~~~~~~…………」


 ――――なんでそんなワードなんだよ。ちょっと、言い難いじゃないか……。


『――――弾いたァーーー!!! あふぅんウニの超高速回転が更に超高速化し、ビーム砲すら弾いているぞーー!!!!!』

『四方八方滅茶苦茶に反射してますよ! 結界にバチバチ当たってます!』

『弾切れェーーー!!! 更にレーナがオーバーヒートだーーー!!! 銃弾全てを弾いてしまった、がーー!! あふぅんウニもその場で回転し続け熱くなり過ぎたかー!? 一旦ウニ化を解除して放熱しているぞー!!』

『あっ!! スゴイカが問答無用であふぅんウニを投げつけましたよ! これはもう無理にでも丸まって突撃しかないです!』

『ここまで主人を酷使する従者は見たことがないぞー!! でもなんだかスゴイカも申し訳無さそうな顔だーーー!!!』


 なんであいつら善戦してるんだよ……。


『うああああーーーまた高速回転だー! ライトニング、いや! ライトウニングスピンだーっ!! レーナが轢かれたーー!! だが耐えた!? 耐えたかー!? あーーっと倒れたーー!!!!』

『グリムヒルデが空中に逃げましたね。空中でリロードして再度攻撃の機会を――――あーーーー!!!??』

『スゴイカが超高速回転中のウニを、空中に蹴り上げました!!! 空中のグリムヒルデを逃すまいと狙っているぞ!!!』

『あ、流石に避け――――結界に弾かれて戻ってきてます!』

『ドーム型の結界の天井を利用して、弾かれて帰ってきた!! グリムヒルデ油断していたか、避けられなーい!!!!!』

『『あああーーーーー!!!!!』』

「え~~~……!!」

「なんで勝ってるんだ、あのウニ……」

「奇天烈過ぎる戦い方ですが、強いですね……」


 勝っちゃったよ、あのウニ……。銃弾を弾くほどに高速回転するウニなんて見たことないよ……。本当、あれが王宮に突撃してきたらどうするべきなんだ。ビーム効かないよ……。


『決勝進出者が決まりました!! 決勝戦は魔神兵とうみのいきものに決定でーーす!!!』

『その前に三位決定戦となります。まさかのほぼ身内同士の三位決定戦となりましたね。子犬のワルツ対弾の嵐となります』


 どうしてここまで奮闘しちゃったんだ、あのウニは……。団体ではまさか出てこないだろうな? あ、居ない。うん、なんだろうか……この安心したような、残念なような感覚は……。はぁ~……。


『あっぢぃぃぃ……ぢぬぅぅ……じょうおうへいか~~……』

『ほわ~。暑そう~。わらわのアイスブロックで冷えろ冷えろ~……あ! のじゃ~』

『ひょぉぉぇええ……きもちぃぃぃ…………』

『湯気でとる~…………のじゃ!』

『やはりあの超高速回転は凄まじい熱を発するようですね』

『多分あれが限界だったんじゃないでしょうかね。棘の先とかも溶けてたり折れてるところもありますよ』


 

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