304 ガトランタ王、大興奮
◆ コロッセウム・特別席・ガトランタ王 ◆
「まさかゼルヴァほどの実力者が負けるとは思いもしなかったな!」
「持っている手札を全て有効に使って勝ち取った勝利でございましたね」
「しかし神技まで使うとは、如何に本気だったか伝わってくる!」
「あれが神技、初めて見ましたが思い出すだけで鳥肌が……。自分に向けられたら何が出来るかと考えましたが、とてもではありませんが……」
「やはり上を知るということは恐怖でもあり、楽しくもある! 目指すものの先を知れるというのはいい機会だぞ!」
「確かに。しかし、ゼルヴァさんの神技よりも上を行く技がこの先見れるか、それも不安です」
「案ずるな、きっと現れる。期待して待っているのも楽しみの一つだ」
第100回を迎える今大会は、これまでの絶対的チャンピオンが優勝するだけの大会にはならない。一味違う大会になると『上位存在』から言われていたが、いやはや一味どころか二味も三味も違うではないか。正直俺も出たい、あの者達と一戦やってみたいというのが本音だ。
ここまで勝ち残った4名が全て異界人、そして全てがあの魔神バビロンの信徒達となった。聖メルティス教の連中からは『邪悪な存在だから出入りを禁ずるべき』と言われていたが、この大会ではっきりしたな! 聖メルティス教は自分たちが敵わない相手が参加して来てほしくないが為に、俺を利用してそもそも参加できないようにしようとしたわけだ! あの一撃で負けた聖天騎士の無様さを見れば一目瞭然だ。バビロンの信徒は驚くほどに、強いッ!!!!!
「次は、どちらが勝つでしょうか」
「女忍きぬと、人形師ゴリアテか。きぬに関してはあれが神技でも究極の技でもない通常の技だと言うのだから恐ろしい、ゴリアテは魔術師系でありながら攻撃を受けるもよし、接近戦もよし、当然遠距離に対する攻撃手段も持っている多才多芸だ。ゴリアテの対抗策が通じるかどうか、そこに全てが掛かっているな」
「一撃で決まらなければ、きぬの勝利は辛いというところでしょうか」
「あれで息切れを起こすかどうか、それが未だにわからないところだ。あれだけの大技の後にまだ余力があるのか、未だ底しれぬ」
女忍きぬ、たしか職の名は『朧』と言ったか。ソロに出てきた他の参加者にはない点として、彼女の装備にはパッチワークがされている。あれは間違いなく護符の一種、一部には何かしら有利な効果が働いている。攻撃面では物理的な攻撃、魔術的な攻撃の両方に優れ、これまで全ての対戦相手を一撃で葬っている。防御面では空中に僅かに浮いているらしく、地面を伝っての攻撃は効かない。恐らくこの浮遊効果があのパッチワークの効果と、俺は見ている!
人形師ゴリアテ、職の名は『真・人形師』とそのままだが、俺が知っている人形師とまるで戦術が違うぞ! 人形師は取り出した人形に攻撃をさせたり、防御をさせたり、補助をさせたり、複数体の人形を起動して共闘するタイプの魔術師というのが人形師のはずだった! いやしかし、だがしかし! 彼は面白い、人形に乗り込んで戦う魔術師というのは初めて見た! それもこの場で即座に作り出せると来ている! あれは発動する為に相当な訓練を積んでいる。即席であれ程のクオリティを出せるのだからな……。問題は、あのきぬの猛攻に耐えるだけの人形を作れるかという点だが……。
『皆様ーーー!!! お待たせ致しました! ガトランタ魔術師団による結界の修復が終了致しましたーー!! おお、ありがとうございます! 魔術師団への拍手が起きております!!』
『魔術師団のみなさん、ありがとうございましたー。数日はかかるんじゃないかって情報が入ってきた時はどうなることかと思いましたよー』
『今入ってきました情報によりますと、どうやら異界人の魔術師の方々にも協力して頂いたようです! バビロン陣営の冒険者ギルド、魔術図書館の皆様ー! ご協力ありがとうございましたー!』
『いやー助かりますねー。先程よりも強度が上がっているそうですから、選手たちには思う存分暴れて欲しいですね』
「おお、終わったか! 魔術師団とギルド魔術図書館には何か、褒美を与えるように!」
「100年前に作られた難解な術式と聞きました。この短時間でよく修復出来ましたね」
『ガトランタ王とアーシャ姫からも称賛の声が上がっております!』
『それでは、大会を進行させて頂きましょう。まず矛の扉より――――』
おお、修復が終わったか! でかしたぞ! 初代国王、曾祖父さんの時代に作られた術式だから修復は難しいかもしれないと言われていたが、よくこの短時間で修復した! 我らが魔術師団と異界人の冒険者ギルド魔術図書館には何か褒美を与えねば――――
「失礼します国王陛下! 異界人より、こちらの書を預かっております! 結界修復に大変役立ったようでして、ぜひ国王陛下にこれからも有効に使って欲しい、とのことで……」
「ほう? これは……? これは……これは!!!!!?????」
「父上、どうしたのですか?」
「アーシャよ、これを見ろ!!! 素晴らしいぞ、この書は!!!」
なんだこれは、こんなものを持っていた異界人が居たのか!!! これまで難航していた古代語がほぼ全て現代の言葉に翻訳されているではないか!!! なんという、『古代語翻訳辞典』など軽く書かれているが、これは国宝級の書物だぞ!!!
「す、凄い……。こ、このページ全てが、そうなのですか……?」
「衛兵、あーー今これを持ってきた、確か名前はロクンドだったか! 合っているか?」
「そ、そうであります! 国王陛下にお名前を覚えていて頂けるとは、身に余る光栄であります!」
「これを持ってきた異界人の名は! 誰から預かった? 礼をせねばならんぞ!!!」
「え、ええと、それが、いきなり押し付けられて、本人はそそくさと居なくなってしまいまして……」
「なんだとーー……!!!!! どのような、どのような異界人だった!」
っくぅぅぅ~~~~このような重大かつ貴重な書物を、ポンと押し付けて消えるとは! 名前ぐらい聞いておかないか!!!!
「み、見ただけで、本能的に死を連想させるような、そ、そう! 魔神バビロン様が着ていらっしゃるとされる、バビロン像にそっくりな服で…………とても、魅力的なスタイルの女性でした!!!」
「…………」
「す、すみませ、ん……。顔は、あまりはっきりと見ていなくて……ヴェールで、よく……」
あ、俺その娘、知ってるかもしれん……。なんかこう……東側の方、参加選手の為に広く取られた席に、居るんだな、これが。その特徴にピッタリ合ってる娘……。うむ、アーシャに聞こえんように、大事なところを聞いておこう。
「ちょい。ちょい」
「は、はっ……! 失礼致します!」
「……お前、その娘の胸ばっかり見てただろ」
「は、はっ!? いいいい、いえ、そんな」
「……あの、東側の席。大きな狼が見えるか? 隣のあの娘だろ」
「!!!!!!!!!! そ、そうです!!!」
よし、確定した。あれは明日団体戦で参加予定の異界人、リンネという名前の異界人で間違いない。通路を占拠している巨大な魔狼が目立つから、どうしても目が行っていた。従者も、うむ……美人が多い……。それに暫く直視していると本能が死を連想するという点も合っている。更にロクンド衛兵のこの反応、確定だ。
「よし、下がっていいぞスケベ」
「は、はっ! はっ!?」
「父上、この辞典を翻訳した者の名が書いてございます。著、オーレリア・ステラヴェルチェと」
「ステラヴェルチェ!!! あの砂漠の! なるほど、初代は途轍もない高位の魔術師だと聞く、その伝承者が訳したのだとすれば頷けるな!」
なるほど、あの砂漠の国の魔術師! その血を継ぐものがこれを書いたのか! 繋がりのない国ではあったが、これは一度……挨拶をしに出向かねばならんな!
「い、いえ、翻訳は別人です。翻訳したのは、リンネという人物だと書かれていますわ」
「…………」
あっ……。急に今……明日の団体戦が、なんだか俺……。嫌な予感がして来たな。嫌な予感と言いながら、顔面はとんでもない笑みになっている気がするがな……!
「父上、お顔が気持ち悪うございます。屈強な戦士を前にした歴戦のオークの顔です」
「例えが酷いな!!!」
『――――耐えた!!! 耐えた耐えたぞゴリアテーーー!!!! あの流星群の中どうやって生き延びたんだーーー!!!』
『忘れたんですかきぬさん。誰がギミック失敗のペナルティメテオを引き受けて、それを耐えたのかを』
『オーノーーーーーーーーー!!!!!!!!! パーフェクトわすれんぼ!!!!!』
『マナの刃よ、我が敵を切り裂け! マグヌスセイヴァー!!』
『ゴリアテ反撃だ! おおっときぬが増えた!? 分身だ分身だ! まだ諦めていないぞ!!!』
『ああーーーーでもこのマグヌスセイヴァーは範囲が広いですよ!!』
しまった、既に始まっているではないか! 結界内の出来事は特に大きな音は減音されるようになっているから、気がつくのが遅れてしまった! 既に流星群を放った後か、あれを耐えたというのか……。しかしまだ、勝負はついていないようだな!
『分身が次々と消えていくーーー!!! 万事休すかーー!?』
『ハァーーーーッ! フッッ!!!』
『巨大武器投擲です! フウマシュリケンでしたか、あれは強烈ですよ!』
『突き出せ、ストーングレイヴ!!』
『あああーーーーっっ!!? 飛来するフウマシュリケンを、下から岩の杭で突き上げ弾いたぞーーー!!?』
『正面からだと切断されるから、下から弾いて止める。あれに当てるなんて、凄い集中力ですよ!』
「いや、まだ何か持っているな」
「まだここから出来ることがある、ということですか?」
きぬの攻撃が通らない、防がれ弾かれ一見大惨事に見える……が、まだ何か隠し持っているな。ここからでもまだひっくり返せる、起死回生の何かを。
『マナの刃よ――――』
『ウツセミ、ピューン!!!!』
『消えたーー!!! きぬ選手が消えたぞーーー!!!』
『さっき投げつけたフウマシュリケンと入れ替わっていますよ!』
『後ろ……!? 我が敵を、切り裂け!!』
『お別れボンバー!!!!』
これが狙いか! さっき投げつけた風魔手裏剣は弾かれるとわかっていて投げた、狙いは風魔手裏剣と自分の場所の入れ替え! 踏み込んできたゴリアテの背後を取る為の攻撃だったのか! そしてこの捨て身の特攻、自爆か!!!
『きぬ選手捨て身の突進だーーー…………あ?』
『あ、あれ? 何もしないみたいですよ? ゴリアテ選手も盾を構えてキョトンとしてます!』
『…………?』
『……きぬさん。ポイント、足りてます?』
『オーーーーーーーーノーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!』
『マグヌスセイヴァー!!!!!!!!』
『なーーんとーーーー!! 最後はマナが切れたか?! 攻撃を発動するだけの力が残っていなかったーーー!!!』
『あちゃーーー。いやーーすっごく良かったんですけどねー! 惜しくも負けてしまいました』
…………自爆するためのパワーが、残っていなかったか。そうか。うん、俺も昔そんなことがあったなあ……。後一発、この一発! って時に気力が尽きた時が……。あれから考え無しに技を出さず、パワー管理をすることの重要性を覚えたもんだ。
『勝者、ゴリアテーーー!!! 快進撃、快進撃であります!!!』
『決勝進出決定ですね~。きぬ選手は三位決定戦となります』
『いや~しかし何と言ってもあの流星群! あれを落とし穴と、シェルターゴーレム作成でしたか? あれでやり過ごしたのは発想の勝利でした!』
『前回使用した時、小隕石の落下地点に大きなくぼみがなかったのを見逃さなかったんですね~。どちらかというとあれは、爆発力に特化している隕石なのでしょうか?』
『爆発力は上と横方向には優れていますが、下には弱いですからね~! それを見て、地下でやり過ごすことにしたのでしょうか!』
『最後は逆転勝ちかと思ったんですが、惜しかったですね~~。分身を出しすぎたのでしょうか?』
『恐らくそうでしょう! もう少しだけ抑えていれば、最後の力が足りていたのかもしれません!!』
やはり実況と解説は奴らで間違いないな。初代の時からずっと続けているだけはある……しかし、エルフとドワーフといえば水と油だというのに、よくもああして仲良く100年も続けているものだ。一般のエルフとドワーフからは彼らは変わり者だと言われているが、あれが理想なんじゃないだろうか。異なる種族の異性同士が関係を継続し続けているというのが。
「俺も、若い頃に後一撃という場面で力が出なかった苦い経験がある。これに滅気ずに精進して欲しい。惜しかったが、素晴らしい一手だった」
「人形師の更なる可能性を感じる一戦でございました」
『ガトランタ王とアーシャ姫からも一言を頂きました! 今一度両選手に拍手を!!』
さて、次は……おお。あの機械細工のドレスをまとった少女と、頭に何故か目玉焼きが乗っている信仰彫刻師の青年か。空中戦と射撃を得意そうにしていたが、信仰彫刻師は重力場が使えるようだ。どのような一戦になるか……かなり少女が不利に感じるな。何はともあれ、楽しみでしかないな!