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303 変な神官vs白銀

◆ コロッセウム・マスターゼルヴァ ◆


 いやはや、どうしたものだろう。この前会った時点で既にゾワリとする悍ましいプレッシャーを放つ少女だったというのに、先程黄金の継承者ペルセウスさんを介抱しに来た時に見せたあの…………何? なんと言えば良いのかわからない次元の、オーラ? 深淵の暗黒を集めて煮詰めて凝縮してみました、とでもいうかのような桁外れのオーラ。正直耐性がなければ見た瞬間に死を連想してしまうような、そうだな……『死の欲動(デストルドー)』とでも言うのだろうか。とても正気で居られないような異物感だった。

 それはそれとして、着ている服がそのオーラにとても合っていて可愛らしかった。リーリももう少し大人しい女の子になれば、あのような可愛らしい服を着ても似合いそうなものだが……。


「――――目の前の相手には興味ないって感じですねぇ~」


 これは失礼なことをしてしまった。既に戦闘開始秒読みだというのに、相手の様子や自分の心配よりも別のことに意識が向いていた。ヤケタカナ、という異界人だったか。神官系のように見受けられるが、恐ろしく打撃力の高い人物だった印象がある。油断は出来ないだろうが――――正直、ペルセウスさんよりは劣るようにも、見える……さっきよりは楽な戦いになるだろうとは思うが。


「これは失礼、対戦よろしく頼む」

「はい~よろしくお願いします~。それと、先に宣言しますけど……長くなりますよ~」

「……むっ」


 むっ……。失礼なことはしたが、ここまで見え見えの盤外戦術を仕掛けてくるとは――――。


「見え見えの盤外戦術、さっきより楽に勝てそうな相手からされて少しイラッとしますよね~。まあまあ、ゼルヴァさんはこの先もペアと団体も出なきゃいけないですし、考えなきゃならない相手が多いですもんね~」

「…………」

「リンネちゃん、かな~?」

「……っ!!!」


 こいつ……っ!!! まさか、心が読める能力が……!


「ああ、心が読めるわけじゃないですからね~。ただそういうのが得意ってだけですから」

「…………」


 これ以上何も反応しない方がいい、落ち着いてかつての戦い方を思い出し、確実に仕留めればそれでいい……。能力も経験もこちらが上回っているはず、勝敗を分けるのは――――冷静さ、だ。


『お待たせしましたァ! Bブロック二巡目の最終戦です!! 矛の扉からは恐るべき直感力の戦闘神官、夜家~~高菜ぁああああ~~~~!!!!!』

『対する盾の扉は、初戦から激戦を繰り広げましたァ!!! 偉大なるマスターーーーーゼルヴァーーーーーーーー!!!!!』

「長くなりますよ」


 得物は片手鈍器、大盾、重鎧。長くなるという発言の通り鈍重な守り重点の戦士のはず。思いもよらぬ一撃で、仕留める……!!!


『どちらが勝つのか!!! 全く予想がつきません!!』

『真剣勝負ッッッッ!!!!!』

『始めッッッ!!!!!』


 開始、それと同時に突撃! 直線で仕掛けると見せかけた……グレイヴピアース!!! 正面に気を取られていたところに、唐突な背後からの刺突攻撃。卑怯だと思ってくれるなよ!


『さあ飛び出したぞマスターゼルヴァ、素早い一撃で仕留めるのか!!!』

『先程の強烈な一撃なら、障壁もあの大盾も関係なく一撃でしょうねえ~』

「――なるほど。下か、後ろか」

「ッッッッッ!!!!!!!???????」


 バレている……!? そんなはず、まだ見せたことがない一撃必殺の奇襲攻撃の、はず……!!! だがこの落ち着き、出しても対抗策を持っている……? あの魔戦士の強烈な一撃を大盾一つで弾いた相手だ、ありえる……不可能では、ない!


『ああっと止まってしまったぞ! 大きく後退した!』

『相手に攻撃が読まれていると警戒したのでしょうか』

「お、止まった止まった。当てずっぽうだったのに、ラッキーですね~。顕現せよ、ストーンウォール」

「しっ……!!」

「それは驟雨の如く、ヘーラギガドン」

『おおっと岩の障壁を立てられてしまったぞー!!』

 

 しまった、手の内がバレたと思って焦ってやめたのは失敗だ! これでは『その攻撃で合っている』と教えたようなもの、後退したのは失敗!!! こちらの攻撃を言葉だけで止められた、そして向こうは着々と何かを用意している……これは、マズい……正面突破あるのみか……!!!


「がっっっっ……!!!??????」

「とんとんは効く、と」

『出たーーーー!!! 夜家高菜の地面を強打する衝撃攻撃だーーー!!!』

『どうやら衝撃を伝える地点を一極集中出来るようです。周りの岩が壊れていませんよ』


 地面を伝う衝撃波が、全身に響く!!! 心臓に、脳に、臓器に強烈な打撃を受けたようなこの、痛み……!!! 主導権を握られている! 制圧しなければ、主導権を取り返す!


『たまらず飛び上がりましたマスターゼルヴァ! 空中から仕掛けるようです!』

「そうですよね、飛びますよね」

「重いッ……!?」

「でも飛ばれると厄介なんで、対策済みなんですね~」

『しかしすぐに落下してしまいましたよ? どうやらフィールドの重み(・・)が増しているようです』


 重い、空高く上がるつもりが4メートルも……マズい、全く何も出来ていない! 完全に向こうがしたいことを押し付けられている!


「よし、この壁はもう要らないですね。偶像作成、麗しのバビロン像」

『おおーーー!!? 夜家高菜選手、自ら作り出した岩の障壁を石像に変えたぞーーー!!? これはなんだーーー!?』

「取り壊し、破壊されよ!! マギタ・ディスペル!!」

『たまらずマスターゼルヴァが状態破壊魔術を発動しましたね。高位のものですよ』

『ああ!? しかし全く発動した様子が見られません!!!』

「ヴェレス・ヘーラゴッディス」


 どういうことだ、なぜ相手の補助状態を破壊する魔術が発動しない? あの像か?! 魔神バビロンの石像が何かを阻害しているのか!!? っぐぁああああ……!!!!


「顕現せよ、ストーンウォール。偶像作成、追撃するカレン像」

『今度は死神カレン様の石像だーー!!』

『地獄の三女神の祝福を受ける事が出来る、彼はとても高位の神官のようですね』

「はぁああああああああ!!!!!!!」

「どうしようもなくなって正面突破のゴリ押し、いよいよ詰まって来ましたね~。顕現せよ、ストーンウォール」


 あのとんとん(・・・・)と言う技はマズい、高頻度では使えないようだけれど、このペースで打たれれば数度やられれば危険だ、これ以上受けるわけには行かない! あの岩の障壁の向こうの奴を攻撃する……と、見せかけて! あの石像だ、放置するわけにはいかない!


『おおおお!!? マスターゼルヴァの狙いは夜家高菜選手ではなかったぞー!!』

『石像狙いでしたね。あの石像に何か秘密があると踏んだようです』

「――――ああ、壊しちゃったんですね~」


 これでディスペルは通る、神官の祝福効果も――――


「ご……っ……はっ……――――」

「そりゃあバチが当たりますよね。悪い行いは自分に跳ね返ってくるものです。かの者の傷を癒やし給う、マスヒーリング」

『壊された石像が再生されたーーー!!! しかしこれはどういうことだーー!!?』

『石像への攻撃は攻撃した相手へ跳ね返るようです。反射というよりは、罰による攻撃のようですね』

「じゃ、追撃で……」

「ぐ、ぁ……っっっ……!!!」


 なんだ、どうしてだ、じゃあどうしてディスペルが効かない? 神官は祝福効果を受けねばまともに戦えないはず、非力なはず、ありえない……こんなこと……!!!


「あ、がぁっっ……かはっ……――ッ!!!」

「カレン様を壊さないんで、追撃が入りましたね~。偶像作成、慈愛のティスティス像」

『なんということでしょうー!! あのマスターゼルヴァが、手も足も出ません!!!!』

『いやぁ、カレン様の像は壊さないとならないようですね。初見では全く対策出来ませんよこれは』

「まあ厳密にはちょっと違うんですけどね~。か弱き我らを守り給え、ハイペネ」


 どうすればいい? どうすれば有効打を与えられる? 何を、どうして、どうすれば攻撃出来る……? この重力空間ではスナイパーランスもダメだ、届く前に落ちてしまう。ここで負けてしまうのか? しかし、だが……無様な姿を見せる訳には……。そうだ、連戦出場者はペア戦の前に力を取り戻せると、王が言っていたではないか!! かくなる上は…………!!!!


『マスターゼルヴァが、凄まじい波動を放っているぞーーー!!! これは、途轍もない大技の予感だーーー!!!!』

『これは強烈ですよ、実況席まで衝撃が伝わってくるようです』

「はぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

「これが、神技か……。なるほど……使おう」

『夜家高菜選手、何かアイテムを取り出したぞ!!!』

『アレは……木で出来た像でしょうか?』


 今度は木の像、しかし!!! 神技ッッ!!!!!


「深淵よりも深き処、地獄の業火よりも熱き愛……」

「殲滅する白銀よ――――!!!!」

「我らが偉大なる地獄の三女神よ。我に耐えるだけの力を与え給え。ディヴァイス・ヘーラ・ゴッディス!!!」

「――――今こそ覚醒せよ!!! 殲滅銀穿衝!!!!!」

『アッッ――――!!!!』

『大丈夫なんでしょうか、これ!!』


 これで貫けなかった相手はいない、手応えがある! 間違いなく貫いた!!!


「真覚醒、覚醒スキルは使えないってルールでしたけど、神技と究極スキルは行けるんですよね。いや~今の威力、怖いな~」

「…………な、ぜ」

『い、生きている……生きています!!! 夜家高菜選手が、あの雷のような閃光に撃たれて、生きています!!!!』

『会場の結界にヒビが入ってますよ! あの威力で生きてるんですか!?』

「あ、バビロン様壊したんでバチが当たりますよ」


 間違いなく、貫いた、貫いたんだ……。この手に感じた、一撃で……。


「ぐっ……ぁ……ぁ……っ……なん、で……――」

「残念ながら答えられない質問です」

『ここで、負けてしまうのか!!! 10連覇の夢は途絶えてしまうのかーーー!!?』

『マスターゼルヴァ、もう立ち上がることも出来ません!』


 これでは、弟子達に笑われる……。リンネさんにも笑われる……。偉大なるマスターなどと、笑える二つ名ではないか…………。


「…………降参、する」

『こ、降参……』

『降参、降参です!!! マスターゼルヴァがサレンダーを選択しました!!! 勝者、夜家高菜選手です!!!!!』

「あ゛あ゛あ゛あ゛~~~……!! 怖かった~~~~~…………!!!」

「……え?」


 なん、だって? 怖かっ……た……?


「対戦、ありがとうございましたっ!!!」

「師匠~~~!!!!!」

『夜家高菜選手、深々と頭を下げて退場していきます! マスターゼルヴァもお弟子さん達に連れられ退場です!』

『終わった後のあの表情、まるで余裕という仮面がスポッと脱げたみたいでしたね~』

『仮面の下では何を思っていたのでありましょうか! 偉大なるマスターゼルヴァという恐怖に耐えきった、彼のメンタルの勝利ということなのでしょうか~~!!』

『ここで会場修復までの間、ハイライトを御覧ください』


 なんだ……って……?


『こちらが、マスターゼルヴァの殲滅銀穿衝を受けるシーンですね。スローで再生されます!』

『いや~~~~凄い表情、泣きそうになりながら笑って絶望してますよ。途轍もない変顔状態です』

『この後彼は死なずに、攻撃が当たっていないカレン様とティスティス様の石像が壊れた! これはどういうことでしょうか??』

『恐らくダメージのすり替えでしょうかね~? バビロン様の像は余波で破壊されてしまったように見えます。他の二つの像が身代わりになった、という感じでしょうか?』

『信仰系職業の中でも珍しい彫刻スキル、それを十二分に発揮した形になりましたか~!!』

『自分に補助魔術をかけずに、石像越しに祝福を受ける方法も驚きましたね~~』

『夜家高菜選手を対象にしても彼には掛かっていないわけですから、石像に掛かっている祝福を解除しなければならなかったんですね!! だから不発と!』

『あの緊迫した戦闘の中、それを悟られずに通しきった彼の演技、作戦、強靭なメンタルが呼び込んだ勝利になりましたね』

『そうですね! では次に最初の――――』


 は、はは、はははは……!!!! 


「あっははははは……!!!!!」


 自分で言っておいて!!! 勝敗を分けるのは、冷静さだと!!! どちらも内心焦っていたのに、私は表に出して彼は表に出さなかった。この差だ……。表面上だけでも冷静を装った彼が勝つのは、当然のことじゃないか……。


「リーリ。修行を、し直そう。まずはペア、明日の団体。私達の遥か上を行く発想と戦術を持つ彼らの胸を借りて、一度砕けよう」

「し、しょー……?」

「凝り固まった"偉大なるマスター"などという名前は木っ端微塵にして、更なる高みを目指す修行者ゼルヴァとして、再出発しよう」

「師匠~~っ!!!」

「よし! お前達も負け(・・)に行くぞ!! 全力を出して、私達の全力の更に上を行く彼らの戦術を吸収するのだ。私達はまだまだ、強くなれる!!!」


 この敗北で色々と失った。だが、前向きに考えればこれは新たなるスタートでもある! 偉大なるマスターゼルヴァはここで終わり、ここからは修行者ゼルヴァとしてスタート出来るということだ。


「はい、師匠~~!!! でも出来れば勝ちたいです!」

「そうだ、それはそうだ……。じゃあ、できるだけ勝ちに行くかね。まずは観戦だ、私の席はあるだろうね?」

「あっっ」


 あっ? その顔は? まさか、私の席がない!? ないなんてことはないだろう!!! 代表だぞ?!


「師匠は、負けないと思ってたから、観客席はない、かもっ!」

「じゃあリーリの席を私の席にしよう。リーリは私の膝の上に乗りなさい」

「わああ~~~~~~~!!! そうしますっ!!!」


 そうか、負けないと思われてたんだから席はないか。それもそうだ……。まあまあ、ここで腐ったり折れたりしていてはダメだ。上を目指すには、多くを吸収しなければ……。どれ、リーリの席に行って――――ん? ナウダ?


「師匠、リーリの席は食べ物が散らかってます。きちゃないですから、私の席へどうぞ」

「……リーリ、私はナウダの席に座る。ナウダを乗せる」

「え~~~~~~!!!!!」


 そうか、リーリの席はきちゃないか……。ちょっとそれは、叱らないといけないかもしれないな……。


※覚醒・真覚醒スキルは使用できないぞ!

※究極スキル・神技はルールで規制されてないぞ!

※他の部門に連続で出場する人は特例で『究極スキル・神技』の再使用が出来るようになるぞ! ただしソロ部門の時はこの措置がないから、事前管理はしっかりしよう!

※今回だとペア部門で『レーナ』『ゼルヴァ』は再使用可能になる!

※『お昼寝大好き』は究極スキル・神技がない。対象外!


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