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301 黄金vs白銀

◆ コロッセウム・マスターゼルヴァ ◆


 割れんばかりの観客の歓声も、司会と実況の特徴的な喋り方も、弟子達に見送られ背中に受ける期待の視線も、その全てを気にするような余裕が、今はない。


「対戦よろしくお願い致しますわ!!!」

「あ、あ。よろしくね、お嬢さん」

 

 眼の前の派手な戦装束を身に纏った、どこぞの国の姫君のような冒険者……異界人、ペルセウス。あの戦姫と呼ばれた私の師匠、アイギス・ゼドラの放つプレッシャーに瓜二つとあっては、余裕もなくなる。

 思えばあの人も派手好きだった。魔金、魔銀、魔宝石の放つ妖艶な輝きを好み、巨大な魔剣と不可視の盾で戦う超人だった。天魔大戦を生き延びたと幼少の頃に聞いた時は嘘だと思っていたが、大魔術師殿と共に数々の化け物じみたモンスター達、『大戦の爪痕』と呼ばれる怪物達を葬った時の戦いを見てそれが本当のことだったんだと心の底から信じられた。信じられなかったのは――――あの戦いで師匠が死んでしまったことだ。あの怪物の呪い、師匠が大魔術師殿に向けられた呪いを庇ったばかりに。


『さあさあBブロックの一巡目最終戦はもちろんこの人だァ!! 矛の扉より現れました、偉大なる~~~マスターーーーーゼルヴァーーーーー!!!!!』

『対する盾の扉、異界人の冒険者ァ!!! ペルセウスーーーーー!!!!!』


 昔を思い出すのはこのぐらいにして、今は目の前の相手に集中しなければ。さて、相手の武器は…………武器は、なんだ? 武器が、ない? まさか素手だというのか?


『どちらが勝つのか!!! 第100回チャンピオンも偉大なるマスターゼルヴァが獲得するのかぁ!?』

『真剣勝負ッッッッ!!!!!』

『始めッッッ!!!!!』


 悩む必要はない。槍を構え、一振りすれば全て片付く。あの師匠と同じプレッシャーの姫君よ、すまないがこれで……終わらせる!!!


「はぁっっ!!!!!」

「ふぅんっ!!!!!」


 ――――あ、れ……は……!!!?


『いきなり仕掛けたのはマスターゼルヴァだぁ!!!』

『いやぁ、全く見えませんでしたが――――い、生きてます!』

「魔剣……!!!!!」

「その距離からでも届きますのね! ですがっ!!」


 魔剣、似ている……師匠と、同じ……!!! ならばマズい、変幻自在だ!!!


『ペルセウスが地面に剣を突き刺したぞー!!』

『これは、無数の剣が地面から突き出して来ます!!!』

『まるでこれまで葬ってきた相手の墓標を立てているかのように、無数の剣が飛び出してくるーーー!!!』

「はぁああああ!!!!!!」

「っく……!!」


 足元からのグレイヴセイバー、後退を狙った高速移動とアルティメットセイバー、これでこちらが体勢を崩すのは良くない、嫌な展開になる……!! 師匠なら次は――――!!!


「ハートブレイカーーー!!!!」

「速い、この密度……!」

『凄まじいラッシュだーーー!!!!』

『もう止まりません、マスターゼルヴァが防戦一方ですよ!』


 ハートブレイカー、剣撃だって言うのに打撃力に優れた衝撃波のような斬撃。師匠とは違う、なんでこんなに連発してくるんだ! この技は消耗が激しいから連発は厳禁なんだと、師匠は言っていたはずなのに……。重いッ!!


「潰れなさいっっ!!!!」

「――――!!!!」


 魔剣の巨大化、間違いない……あれは、師匠の――――魔剣の!!!!


『これは万事休すかマスターゼルヴァー!!!!』

『いえ、まだマスターゼルヴァには奥の手がありますよ!』

「チェック……」

「ペネウス、テトラ!!!」

「メイトッッッ!!!!」


 切りたくなかった、この防御術を……。まさか一回戦で既に一回吐き出させられることになるとは。出来る限り残さねば勝ち目が薄いような相手が3人は居たというのに、しかし出さねば負けてしまう!


『出たーーー!!!!!』

『何十何百の障壁を一瞬で作り出す、マスターゼルヴァの大防御技ですね。出すのは6年ぶりでしょうか?』


 凌ぎ切った、ここまで暴れたなら、もう残存しているマナも少ないはず。一転攻勢、ここから巻き返す!!!


「ふぅぅん!!!!」

「な――」

『あれだけの攻撃で尚、ペルセウスには余裕があるのかーー!!??』

『凄いですね。大技を出して尚余力があるように見えます』


 また、ハートブレイカー!? いけない、まともに防御して相手はしていられない! ここは大きく距離を取って、仕切り直さなくては……ペネウステトラは勿体ないけれども、離れるほうが先ね。


『マスターゼルヴァが障壁を捨てて大きく下がりました!!!』

『仕切り直したいようで――おっと?』

『あーーーっとペルセウスがなにかしているぞ! マスターゼルヴァの障壁に近づいて――――き、消えたーーーー!!!??』

『取り込んだようにも見えますね』

「アイギス!!!!!」

「アイ、ギス」


 ペネウステトラが、左腕に……飲み込まれた? これは、良くないことが起きている。それに今間違いなく、アイギスと……。彼女はもしや、戦姫アイギスの転生体なのでは……。いやそんなはずがない、だって異界人は異なる世界から来た、別世界の住人だと!!


「アイギスパワーーーーー!!!!! メイクアーーーーーップ!!!!」

『何の光だーーーッッッ!!!!』

『ペルセウスが凄まじい光を放っていますよ、これは……変身ですか?!』

「し、しょう……」

「全力でダメなら、これで押し切りますわッッッ!!!!」


 ああ、間違いない。そうだ、そうだったのか。彼女が師匠……あなたの、後継者なのですね。魔槍は私が継ぎました、魔剣は……彼女なのですね。

 なら…………ここで終わりでもいい。今年は決勝よりも、優勝よりも大事なものがここにある。ここで出す、出さなければならない。


「――――殲滅する白銀よ」

『マ、マスターゼルヴァの、右腕が……!』

『これ、は……初めて見ますね……』

「処刑する黄金を継ぎし者よ、勝負ッッッ!!!!」

「望むところですわッッッ!!!!!」


 突進、振りかぶった、なら振り下ろししかない。それよりも速く――――穿つッ!!! 一点集中、一点突破!


『凄まじい、ここまで熱気が伝わってきます……!』

『心臓が押し潰されそうなほどのプレッシャーです!』

「「アルティメット……!!!」」


 これまでの全てを、今この瞬間の右足に込めて。この一撃に、全てを乗せて…………受け取れ、黄金の継承者よ!!!!!


「セイバーーーー!!!!!」

「ピアーーーーーーーース!!!!!!!!」

『ああッ……!!!!!』

『――――ッッッ!!!!』


 …………久し、く。この感覚を、忘れて、いた。痛い、な。血だ……私のか、生暖かい……この、焼けるような鋭い痛み……。


「無、念……」

『き、決まった!! き、決まりました!!!!』

『――あっ!! 呼吸を忘れていましたよ!!!』


 長く本気を出す機会もなかった、戦い方を忘れていたのかも、しれない。


「いずれ、また……やりましょう」

「え、え……」


 思い出させてくれた。ありがとう、心の底から……感謝しかない。私に戦うという行為を思い出させてくれた彼女に、もう一人の継承者ペルセウスに。ああ、彼女がもっともっと強くなったら、またやりたい……。その時は今回のような腑抜けた戦いはしないと約束しよう。


『勝者、偉大なるマスターゼルヴァーーーー!!!!!!!』

『ああっと、マスターゼルヴァも倒れてしまいましたよ!!!』

『え? 勝利宣言と同時に両者ノックダウン判定は想定外? 魔導機にエラーが出てる?』

『し、審議! 審議です!!! 現在審議中です!!!』


 勝ったと決まった瞬間、力が抜けてしまった。地面に倒れ込むなんて、本当に何十年ぶりだろう。ああ、冷たいな……こんなにも冷たかったか、地面は。


『ただいま審議中です。選手はそれぞれの控え側に、ええと誰が運べばいいんですか?!』

『こんな事なかったですからね~。大会運営側は現在コロッセウムのシステムトラブル対応中ですので、親しい方が運んで頂けないでしょうか』

『お二人と親しい方~~!!』

「し、師匠~~~っっ!!!」

「師匠~~!!!!」

「だい、じょうぶ、生きて、いる……終われ、ば、戻るんだ、から……」


 リーリ達は、こんなに……温かかったのか。思えばこの子たちを抱きしめたのもいつ以来だろうか……。ああ、もっと大事にしよう。これからはもっと、抱きしめてあげよう……。


「――ペルちゃ~ん? 負けたからご褒美、なし!」

「ひどい、でちゅわ……がんばりまちたのに……」

「じゃあ頑張ったご褒美は、あり?」

「!!!!! 後で遊びに行きますわっ!!!」

「はいはい、何かお菓子買ってきてね」


 あれ、は……リンネ、さん……? そう、黄金の継承者とお友達……より、もう少し仲良しの関係だ――――前にあった時よりも、まるで……!!!!!


「師匠? お顔、青いよ……?」

「大丈夫ですか、師匠! どうしてコロッセウムの回復機能が作動しないんですか!」

『戦闘終了判定にトラブルが、あーーー……今! 今正常化しました!』


 うっ……!? 急に、な、治った……。ああ、コロッセウムには戦闘後に状態が復旧される途轍もない高度な魔術が組み込まれているのだった。怪我をしたことも記憶にないから忘れていた。


『宣言がありました通り、勝者は偉大なるマスターゼルヴァ!!! 判定勝ちとなります!』

『判定基準と致しましては、戦闘終了前に倒れたペルセウス選手と、戦闘終了後に倒れた偉大なるマスターゼルヴァの一瞬の差となります』

「異論ありませんわ! 負けましたわ!!! 次は絶対に、勝ってみせます!!! 来季の武闘祭も出ますわよね!?」

「…………ええ、出ますよ」

「師匠、武闘祭は出ないんじゃ……」

「出ることにしました。必ず、必ず出ます」

「その時こそ、今度はわたくしが勝ってみせますわ!!!」


 ただただ憂鬱で面倒だと思っていた出場必須の天下一決定戦に、任意で顔を出せば良い年3度行われる武闘祭……。どうしよう、どうしましょう。まだまだ先の話だと言うのに、楽しみになってしまいました。


「わっ? 師匠??」

「リーリは、温かいわね」

「え、ずるいです! 私もぎゅーってしてください!」


 また三ヶ月後……。次は武闘祭で――――


『では、二巡目の第一回戦の準備に移ります!』


 あ。忘れてた……そう、まだこれ一回戦だった。どうしようかしら、この後の戦い……。一日一度しか使えない殲滅する白銀を起動してしまったのだけれど。もう……なんとかするしかないわね。なんとかしないと……!!



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