297 ログイン18日目
◆ 時は少し遡り、獄突入前・自室 ◆
『東京を中心に降り続いていた大雨が嘘だったかのように快晴で、夏の日差しを感じさせる――』
昨日までの雨が嘘だったかのような非常に清々しい朝、冷蔵庫にあるバランス保存食をテキトーに胃に流し込んで、トレーニングルームでトレーナーロボ (名前わすれた)の指導を受けながら汗を流して終わってみれば、なんだかいつもは使わないような筋肉まで動かしたからかほんのちょっぴり違和感。そこまでハードなトレーニングじゃなかったけど、しっかりと『ふぅ~やったやった~』感があってとりあえず満足。暫くは使ってみようかな。
さて! シャワーも浴び終わって、諸々落ち着いたことだし! じゃあ~~やろっかな!! 今はえ~っと、朝の7時、ちょい過ぎぐらいかな。とりあえず獄開放されてたし、行きたいな~。
『おはようございます竜胆天音様。本日は気温30度を超え、暑くなることが予想されます。快適なプレイの為に、当機は適宜温度調整を行うことが――――』
はいは~い。
『――――バビロンオンラインのプレイがリクエストされました。バビロンオンラインへアクセス中……リンク完了』
『おはよう、ね? これはプレゼント、ね?』
『バビロンちゃん (の、代理の葬儀屋ミーシャ)からの! デイリーログインボーナス17日目【病みつきキャンディ】』
『それはアルスが、売ってる、のよ? 気に入ったら、買って……ね? 私も、好きよ』
おお~ミーシャさんだ……。静かでミステリアスな未亡人感が凄まじい人だけど、レーナちゃん情報によると実は未婚なんだって。いつか従者アンデッド込みで戦ってみたいな~。
『ログイン前に注意事項が御座います。以下の文章を確認して下さい』
「およ?」
あれあれ、このパターンは初めてかも。どれ~? 何に注意しなきゃいけないのか、ちょ~っと見せてみ?
【注意:姫の間での一夜】
・特殊ログアウトの間に、新婚初夜を迎えたということになっています
・プレイヤーには存在しない記憶が結婚相手のNPCには存在しています
・ログインした瞬間から姫の間と周囲の時間がスタートします
・これらを強く否定する等の行為は、結婚相手との関係に重大な障害が発生する恐れがあります
・どうか姫千代に優しく接してあげてください
・【注意事項を確認した】に触れてログインしてください
・まだログインに相応しくない場合【心の準備が出来ていない】に触れて準備してください
お゛……。な、なるほどね。私がログインした瞬間に『お目覚めですか、リンネ殿』って始まるってことね……。ふ~~~う……! うん…………よしっ。
『ログイン致します。バビロンオンラインへようこそ!』
掛かってこ――――お゛ぉ゛……!!
「お目覚めですね、リンネ殿っ! さあ、朝ごはんの時間ですよっ!」
「そのはだけ具合で誘うのがご飯かぁ! おはよう千代ちゃぁん!!!」
「あっ……千代、千代でございますぅ……。千代でなければ嫌ですっ……」
「ご、ごめんね! ち、千代……。ご飯、行こうか……?」
「はいっ!!!」
この状態で誘ってくるのがご飯とは、うーん……!!! 千代ちゃ――――千代は、オンオフの切り替えがしっかりと出来るいい子だねぇ!
「…………その神羽織姿、何度見ても可愛いね」
「はぁぁぁぁぁぁ♡ いま、いまなんと?」
「か、可愛いよ、ち、千代……」
「~~~~~~…………♡♡」
いけない、スイッチが入ると隣にスッと来て、ふわふわもふもふの尻尾を腰とか脚に絡めてくるぞ、この狐娘!!! 迂闊にスイッチを入れた私が悪かったよ!!!
――――ぐぅぅぅぅぅぅぅうううぅぅぅぅ…………。
「あっっっっ……!!!」
「千代、ご飯……行こっか!!!」
「は、はい……はいっ!」
千代ちゃ……千代のお腹は空気が読めるお腹だ。このタイミングで鳴るとはね! さて、姫の間を出て……ご飯だご飯だ!! ちょっと歩くスピードがいつもより速い気がする? き、気のせいだよ。
「…………おや。おはよう、お二人さん」
「おはよう、マリちゃん! おはようティアちゃん!」
「おはようございま~~す! リンネ様、昨日は千代様と仲良しの時間だって聞きました! ティアともいつか、仲良しの時間をしてくれますかっ?」
「え゛っ゛」
誰だァ!!!!! ティアちゃんにこんなことを教えた悪い奴はァ!!!!! どうしよう、結構うるうるしてるこの瞳を拒否するわけにもいかない、千代っとした眼差しを後ろに感じている今……速攻で『次は君と結婚するよ』なんて遠回しに言ったら私死ぬのでは? いやでも、うん……気持ちに嘘はつけない。正直に答えてあげよう。
「いつかティアちゃんは、もっと違った大好きの気持ちがわかるようになると思うの。そうしたら、仲良しの時間をしようね」
「わぁぁぁぁ~~~……!! じゃあ、ティアも……けっこん? 出来るんですねっ!」
「そ、その時が来たら、必ずね!!」
「わぁぁ~!! うれしいですっ!!」
なんて返事をしてるんだよ私は……。
「…………全員……ティア、に、先を……? なんて、ことだ……」
『((((;゜Д゜))))』
「リンネさん、おはよう! ご飯、出来ている、下で!」
「ゼオちゃんおはよう~~後で行くよ~……おにーちゃん、よっ!」
『(・∀・)ノ』
よしよし、みんな元気だ……。千代っとした後ろからの視線は、気が付かないふりをすべきか――――
『どうか姫千代に優しく接してあげてください』
――――それはないな!!!
「ねえ、ティアちゃんが千代みたいに好き、じゃなくて愛してるって気持ちに目覚めるのは、いつになるだろうね」
「……!! そう、で、ございますね……ん、きっといつか。ええ、いつかきっと。此方達はその時が来たら、温かく迎え入れるだけです」
「お~。千代っとした正妻の余裕みたいなのを感じる答えだ」
「……ふふっ……♡」
ゾワッとしたオーラから、急に朗らかふわふわで大らかなオーラになったわ。ふぅ~~…………。いや~これ、バビロン教が多重婚認められてるのが、逆に……!!! 今後はこういった高難易度なコミュニケーションも必要になってくるんだろうねえ~……。
『わうっ!! わふっわふっ? (おはようご主人~!! 千代ちゃんの匂いがする~)』
「こらこら、そういうのは私以外には失礼だからしちゃだめだよ?」
『わんっ!! (わかった!)』
「んにゃぇ……? ぁ、おねー……ひゃん……」
「ほっぺぶに~~」
「むにゃぁ…………すぅぅぅ…………すぅぅぅ…………」
犬猫組は、うん。いつも通りっちゃいつも通りだわ。あれだけどうしようどうしようって言ってたリアちゃんも、結局寝ちゃえば幸せそうな顔でどん太に埋もれてるよ。
「うにゃあ……」
『わふ? (あれ、居たの?)』
「もふ、もふ、べっど……」
『おい、おい。なんで――――はぁ~~~…………』
『ぐがぁぁぁぁ…………』
「にゃぁぁぁぁ…………」
『きゅぴぃぃぃ…………』
『腹が減った……動きたい……』
どん太っていうベッドがなくなった途端、今度はラージウスを抱きまくらにしちゃったわ。ガリャルドにもつみれちゃんにも抱きつかれてるし。ああ、苦労人だ……。苦労龍だ。
「ほれ、ラージウス……。昨日なぜかもってぃに押し付けられた特大骨付き肉があるぞ~……」
『…………か、感謝する。本当に、感謝する』
「起こしちゃえば動けるだろうに……」
『寝てるのを邪魔するのは、可哀想だろう』
「なんともドラゴンらしからぬ……というか、ラージウスは寝ないの?」
『我は寝れんのだ。修行の弊害と言うべきか、不要となってしまった。休息は必要だがな』
「ほえ~…………」
寝ないでゲームしたい! って思う時は最近結構あるけど、いざとなっても眠れないってなると……うーん、辛いね。絶対辛い。三大欲求の一つが永遠に満たせないって、相当に苦しいと思う。その分ラージウスは食欲の方に向いてて、ガリャルドはどっちかって言うと睡眠欲に向いてるのかな? や~……細かいなあ~。
「リンネ殿? 今日は朝食の後は……」
「あ、獄に行ってみようと思って。千代は、行ったことあるんでしょ? 案内して欲しいな~」
「~~っ!!!! お任せ下さいっ!!! この姫千代、必ずやリンネ殿を満足させて見せまする!」
「…………案内に満足とかあるのかな」
やーやー朝から移動と挨拶と朝ごはんだけで……どったんばったん、どったんばったん、なんとも忙しいねえ~……。まあ相手がいつ攻めてくるかわからないでピリピリしてた状態から解放されて、平和を堪能してるって感じがするわ~。
まっ……明日の夜こそ、あいつら滅ぼしてやるんですけどね。
「明日の夜はメルティシア侵攻だ~……。ついにあの憎たらしい天使を駆逐する日が来るんだ~」
「その前に大会がございますよっ!」
「あ、そうだったわ」
あ~大会、すっかり忘れてた。そんなのあったな~…………。
「――――ところで、リンネ殿は何故にそこまで天使を憎んでおられるのですか?」
「え?」
何で天使が憎いって、それはお母さんが――――? なんだっけ、でもすっごく嫌い。そう呼ばれるのも、その名前を聞くのも、天使が嫌い。天使が憎い。
「なんでだろ、覚えてないや。でも心の底から天使は、天使が憎い。この世から居なくなれって思ってるよ」
「そう、で、ございます、か……あ、この匂いはハッゲ殿の――」
なんだろう。引っかかる、引っかかる…………わぁ!?
『わうぅぅん? (どこ見て歩いてるの? 危ないよ?)』
「お、壁……ありがとうどん太」
『わんっ! (あ、特大ソーセージだ!!!)』
嫌いなやつのことを考えるより、大好物のことを考えよっか!! これはハッゲさん達が昨日作り続けてたあらびきソーセージじゃない?! ソーセージが焼ける匂いって本当、良いよねぇ~……!!
『瑠璃音ちゃーん!! 皆起きてきたよ~間に合わないよ~~!!』
『泣き言は後にして下さい恵太さん!!!』
『わうーん!! わうーーん!! (ちょうだいちょうだい!)』
「どん太くん、おねだりの仕草が上手になりましたね」
『わうっ!! (うん! いつも皆に――――)』
「皆に。何?」
『ぴぃぃーーーぴぃぃーーー………… (じょ、じょうずだねって、いいいい、いわれる、れんしゅう、して、あの……)』
「ほう……」
なるほどね、どん太君。ちょっとその話は、ご飯を食べながら聞かせて貰おうじゃないの。うん、詳しく。ゆっくり。じっくりと…………ソーセージを焼きすぎて皮がパリパリになるぐらい、じっくりと……ね?