291 決戦の地・4
◆ 加賀利城・広場 ◆
『お、おい、あんた! いつまでやってんだ! お仲間が窮地なんじゃないのか!?』
お? ああ、前線の話か。なるほど確かにな、式神が全部召喚されて大乱闘だって話だな。だがわかってない、わかってないな若い狐のにーちゃん。
「問題ねえ。むしろ今は足りるかどうかの心配だけだ」
『そういう問題じゃねえだろ! メシ作るより重要なことがあるだろって言ってんだぜ!!』
「まあ慌てなさんな。そうだ、ちょっと味見してくれや。味見のし過ぎで舌がおかしくなりそうだぜ」
『慌てんなって……いや、おい、なんだってまあ――――ちょっと、しょっぱいかも』
「あ、やっぱり? 醤油入れすぎたな」
『うん……いやそうじゃねえ!! あんたも戦えるんだろ!?』
無事な醤油があったもんで使ってみたが、やっぱりしょっぱかったか。後で何かに混ぜればいいか……。で? 俺が戦えるのになんで戦わねえでここでメシ作り続けてんだって話だっけか?
「うちの最強の戦闘員が全員揃ったんだ、じゃあ俺が出る必要はねえだろ。こうなりゃ勝ったも同然、後は腹ペコになった大食らい達が帰ってくるのを待ってりゃ良い。俺の戦場はあそこじゃねえ、ここだ」
『…………そんなに、強えのかよ。あんたのとこの、連中は』
「ああ、強えぞ。想像もつかねえ程に強えのも居る」
『そう、かい……』
人手が足りねえなら俺も出るべきだろう。だがレイジが来た、ペルセウスも来た、お昼寝が大好きな睡眠時間を削ってまで本気でやってて、エリスも絶好調、レーナも暴れ回ってる。ギルメンの誰も彼もが本気を出してて、同盟ギルドまで勢ぞろい。そして極めつけにあの、イカれてるって言葉が最高にピッタリなお嬢ちゃん……リンネちゃんが居るんだ。負ける気がしねえ。
となれば、だ。俺の戦場はあっちじゃねえ。ここだ。たぬきの大将をぶちのめして大盛り上がりの連中が帰ってきて、夜通し騒ぎ続ける会場になるだろうここが戦場だ。
「せっかくだから手伝えや」
『は!? お、俺、料理なんてしたこと……』
「今どき料理の出来ねえ男は、モテねえぜ?」
『ばっ、えっ……!? なんで俺に嫁が居ないの知ってんだよ!!』
「居ねえのか! ハハハハハハ!!!」
『て、てんめぇええ~~……!!!』
「その怒りはこのじゃがいもの皮と芽に向けるんだな。ほれ、ここを取っておいてくれ。そしてこのピーラーでひたすら皮を剥き続けるんだ」
『はぁ!? やらねえ――――や、やる』
「ほ~う……」
まあここまで絡んできたのもなんかの縁だ。この狐のにーちゃんにはじゃがいもマスターになって貰うか。それに見た感じがもう、非戦闘員っぽいしな。
『師匠、ニンジン皮むき出来ました』
「早くなったな。よし、紹介するぜ、新入りだ。こいつとじゃがいも処理で競争してくれ」
『はいっ!!!』
『…………え!? やったことねえって言ってんのに!?』
「なんだ、やる前から弱音か? そんなんだからモテねえんだぞ」
『うるせえ!!! ん……? ん?! なあ、おい、あの子……これで勝ったら、お近づきになれっかな……?』
「はぁ~~~~…………」
そのぐらいじゃがいも処理勝負で勝った負けたとか関係なしに、酒の席で隣に座るとか、何気なく優しくしてあげるとか、はぁ~~~…………。
「その発想から既に負けてるよ、お前は……」
『はぁ?! ま、まだ負けてねえし!』
『すみませーん、早く手伝って下さ~い!』
『あ、す、すません……』
こりゃ多分、相当努力しないと無理だな……。
『私、ハッゲ師匠に五番目に弟子入りした瑠璃音です! あなたは?』
『お、おれ、ぼ、僕は、あの、恵太……っす……はい……』
『恵太さん! よろしくおねがいしますね! 皆様の勝利を信じて、ひたすらにじゃがいもと戦いますよっ!』
『あ、え、うっす!!』
こりゃ間違いなく、途轍もなく努力しないと無理だな……。
◆ ◆ ◆
もう、10分が近い。式神は多分、ギリギリ押し切れる。守りきれる……。でも、リンネがぽこんこを倒せてない。苦戦してる? かなり、押してたように見えたのに。
「レーナちゃん、余裕出来たからぽこんこ――――」
『エリアメッセージ:【メイナの千里眼】発動! リビルドスカルドラゴン・コア(Lv,????)が死者を取り込み出現したことを確認しました!』
「あ~~~……」
「余裕、なくなった」
あ~……。これがお昼寝が言ってたやつ、死体を取り込んで無限に回復する面倒なやつ。でもこれは式神って付いてない、ぽこんこの手駒じゃなくて関係なく乱入して来たってこと?
『もってぃがTPブレイク! 真覚醒スキル【軍団強化】を発動、3分間周囲のギルドメンバーのスキルの効果と効果範囲が強化されます! 同盟ギルドは75%の効果を受けます!』
「なんとか守りきらないと~! ここが踏ん張りどころだよ~~!!」
「まーたあのほねっこドラゴンかよ! あいつの相手は任せるぜ、弾の無駄だ!」
「わたくしが相手をして差し上げますわ~~~!!!!」
「イッキマース!」
考えてるうちに、脳筋ゴリラ暴走プリンセスと脳筋ゴリラ暴走くノ一が……大丈夫かな……。でも、なんだかんだペルちゃんが式神の撃破数1位だし、僅差できぬちゃんだし……頼れる火力なのは間違いないんだけど……。
『(ヽ´ω`)』
「連れてく、掴まっておにーちゃん」
『ヾ(*´∀`*)ノ』
う~ん……あの2人がこれまで生きてた理由、なんかわかった気がする。絶対おにーちゃんがヤバい攻撃からあの2人を守ってた、間違いなく。強敵相手にタンカーを置いていくお馬鹿なディーラーのフォローをするディーラー。これを専門用語で『無駄』って言う。後で教えてあげよ。
『(((((((((((っ・ω・)っ ブーン』
「そのエモーションかわいい。バリエーション増えた?」
『( ̄ー ̄)b』
「いいね」
この人も重い過去がある割に、かなりお茶目な人だな~って。まあ重いのは過去だけじゃなくって、物理的にも重い、ん……だけど……。
『(; ・`д・´)!』
「そう、重い、ヤバい」
『(´;ω;`)』
「落ちそう……後、頑張って……」
ごめんおにーちゃん、もう重くて無理……。貧弱な私を許して。この飛行装備は一人用なのよ。
『フリオニールが100Kの落下ダメージを受けました』
「あ~……痛そう。でも近くまでは来たから……」
『シルダ・ゲグ・ナウダス!!』
「ぎゃーぎゃーうるさい、ほねトカゲ」
『【空中射撃型プロップドローン】を3体召喚しました』
もうハチちゃん3匹しかないけど、出し惜しみする場面じゃないし……。負けて使っておけば良かったとか言いたくないから。
「要するに、再生しなくなるまでぶちのめせば良いのですわ~~!!!」
「何度でもボコボコデース!!!」
『ヽ(`Д´)ノ』
「「あっ」」
完全に忘れてたって反応してるし……。後で謝るべき……。それより本当に、リンネ大丈夫かな。もうそろそろ……時間が……来ちゃう気がするんだけど……。