282 夢なら覚めて
◆ 加賀利城・内部 ◆
『――おやおや、目が覚めたかい? 気持ちよさそうにねんねしておったのう~』
お……? 零姫おばあちゃまのおはようボイス。ちょっとそのまま太ももを貸して欲しいかも……。あ、逃げられた。
「む~……」
『これこれ、膝枕をしようとするでない。それよりお主、そんなに寝ておってよいのか?』
「むっ……?」
いや、自分でもダメ人間の生活をしているな~とは思いますよ? ねんねことして配信者をやっていけるのもいつまでかわからないですし~……。お金は、困らないぐらいあるけど……。大きな使い道もないし、はぁ~まだ現実逃避してたい。寝てたい。膝枕~~……。
『これ、たわけっ! ふとももに飛びつくでないっ!!』
「だって~~~」
『だってではないっ! それよりも、じゃ! あやつらを放って置いてよいのかと言っておるのじゃ!』
「あやつら……?」
おばあちゃま、何の話してる~? ん~……。あ、メッセージ入ってる。メールも来てる。オークションのアイテムも売れてる~! おお~ハッゲにお金返せるよ~~!! で、メッセージの方は――――
『ちょっと龍骨平原行ってきます――リンネ』
『リンネといっしょ、行ってくる――レーナ』
――――ア゛……。
『こ、これ!! たわけ、ガッチリと掴むでないっ!! は~~こやつめ~……。しょうがない、少しだけじゃぞっ』
「ん……! ありがと~おばあちゃ~ん」
『これではでっかい子供が出来たようじゃのう~子守唄も要るかのう?』
「要る~」
もう、これ結構前のメッセージだよ。14時にはこのメッセージ入ってたから、今15時30分過ぎでしょ? あ~~もう、絶対とんでもないことになってるよ~。好きなだけ、暴れておくれ~……。
『エリアメッセージ:リンネが【超硬魔牛骨鬼】を撃破! 邪龍軍の拠点・ハの一を制圧しました』
『エリアメッセージ:もってぃが邪龍軍の拠点・ハの一を【もふもふランド】と命名、兵糧ゲージ増加率が上昇しました』
『エリアメッセージ:白銀のレーナが【怪力魔牛骨鬼】を撃破! 邪龍軍の拠点・ハの二を制圧しました』
『エリアメッセージ:ハッゲが邪龍軍の拠点・ハの二を【漢の煌】と命名、兵糧ゲージ増加率が上昇しました』
『エリアメッセージ:ゼオが【猛進魔牛骨鬼】を撃破! 邪龍軍の拠点・ハの三を制圧しました』
『エリアメッセージ:つくねが邪龍軍の拠点・ハの三を【加賀利軍拠点・ハの三】と命名、兵糧ゲージ増加率が上昇しました』
「あ、やっぱ起きる。ごめんおばあちゃま、これ絶対行かないとダメだわ」
『およ? なんじゃ~やはり気になってしもうたか~♪』
気になるとかいうレベルじゃないよね。このメール入ってるの全部エリアメッセージでしょ? うーわ、やっぱりそうだわ。どんだけ拠点潰して回ってんのよ。いやいや、あっちが仕掛けてくるの夜8時って言ってたじゃん――――こっちが仕掛けないとは言ってないわ。ああああ~~~今まで後手後手だったもんねえ…………。先手必勝、しちゃったかぁ~~……!!!
「これ、百姫さんたちも出てます?」
『出ておるのう~』
「はい……行きます……」
なんで誰も起こしてくれないんだよ~~!!! こんなビッグイベント、僕抜きでやるのずーるーいー!!! がお~~!!! あ? まだメールあるじゃん。ハッゲからだ~添付ファイル付き?
『はよ起きろ【音声データ】』
『音声データの再生を開始します』
『――――おーい、お昼寝。これで10回目だぞ。起きろ~』
『起きて下さ~いっ!! お昼寝さ~~んっ!!』
『わう~~!! わおぉぉ~~ん!!!』
『先、行ってて~~……』
『だとよ。先に行ってるからな。絶対来いよ』
『きゅぅ~ん……』
『わ、ぺろっと、されひゃ……へふぇふぇ……』
『儂が起きるまで待っててやるかのう~』
『再生を終了します』
おーん……。おおぉぉぉおおおーーーーん……!! なんか、浮かび上がってくる、そんな微かな記憶が……!!! 僕、返事した!! 返事、した気がする!!!
『どれ、行くなら一緒に行くのじゃ』
「わ、ぁああ……。オネガイ、シマス……」
『遅れた分きっちり働かねばならんのう~?』
「ハタラキマス」
やっば~い……。遅れた分働かなきゃ、これってもしかして拠点の名前ってイロハ順? まだイとロが残ってる?? 残ってておねが~~い!!! 僕も頑張るからぁ~~!! なんでこんなに僕は寝起きが悪いんだよう~……。そう、そうだね。まずは生活リズムを改善するところからだね。ちゃんと夜寝て昼――あ、朝に起きよう。朝に。
◆ ◆ ◆
――――僕はもう、ヤバいと思う。
「アッハハハハハハ!!!!! アハハハハハハハハ!!!!!」
『リンネが【魔神無双斬】を発動、周囲のモンスターに合計125,550Kダメージを与えました』
『リンネに幸運な出来事が起きました! リンネのMPが完全に回復しました』
「捧げろ、捧げろ!!! 魔神様の供物になれ!!!」
『リンネが【カースド・アニメイト・フェティッシュ】を発動、狼骨兵(Lv,200)が呪物化しました』
僕はもう、ヤバいと思う。あの人と明後日、一回戦で戦うの? 僕はもう、ヤバいと思う。一思いに殺して貰おう。せめて何か一矢報いたいけど、一矢どころか……お米一粒ぐらいしか奮戦出来ないと思う。多分リンネちゃんだけで僕達全滅する気がする。うん、そう思う。
『きゅぅぅ~ん……? (怖いです~、本当に明後日やるの~……?)』
『ガァァァーーー……! (今からでもごめんなさい、しようよ!)』
「既に弱気でどうする! 今からでも特訓だ! 何、威力だけはあるのだ! 当たれば勝てるさ!」
「ソウダネ、ソウダネ、ソウダネ」
僕さ、もふもふキングダムのギルドマスターじゃん? リンネちゃんに何も出来ずに負けちゃったら流石に『弱いマスターのところに居るのはちょっと~……』とか『雑魚すぎ!! ギルド抜けるわ!!』って人が出てきたりしない? するよね。せめて『あそこまで頑張ったのに残念だったね~』ぐらいのところまでは、行きたい! 行きたい…………生きたい。生き残りたい。
「あああああ前!! 前!!」
『グァワワワワ!!! (わ~~いつの間にか来た!!)』
『ワゥゥーン!! (王! 何とかしてー!!)』
『突然言うな! 我が筋肉は飾りだ!!』
この対応力で? リンネちゃんに? いやいやいやいや、無理――――生きたい……。生き残りたい……死にたくない!!!
「崩れ行く砂上の楼閣! お、音もなく!! フォーリングホール!!」
『【フォーリングホール】を発動しました』
『トラップ発動! 【フォーリングホール】に血狼鬼(Lv,200)が落下しました!』
ほら! 必死にやれば意外となんとかなるって!! よし、こうなりゃ死にもの狂いでやるしかない! リンネちゃんから教わったコンビネーションにアレンジを加えて、徹底的に。頑張るしかないよ、あの人と張り合うなら!!
『おお、やるではな――』
「ぼーっとしてないで、焼いたり閉じ込めたりするの!!」
『グ、グワ!! (そうだ、教わったやつ!!)』
『ワウーン!!』
『あ、ああ!!』
僕は、リンネちゃんに勝ちたいとは言わない。せめて『戦った』と言えるぐらいにしたい! だからリンネちゃん……待っててね。僕、強くなるから!!! だから本当にお願い……!!!
「――消し飛べぇ!!! アッハ! アッハハハハハハ!!!!!」
『リンネが【魔神消滅波】を発動、周囲のモンスターに合計222,233Kダメージを与えました』
――――どうかそれ以上、強くならないで欲しいなぁ~~~~って……!!!!!