268 衝突前夜
◆ 神樹のコテージ ◆
『~~♡』
『~!! ~~!!』
『~♪』
「ん、ふっ……はへ……」
凄い、ギルドハウスに『ギルドメンバーのマイハウスへのペットお出かけ登録機能』が付いてたなんて……。神樹のコテージに、ちびバビロンちゃん、カレンちゃん、ティスティスちゃんが遊びに来てる……!! そして何よりも凄いのが、このコテージには大型のテラスがあるんだけど、そのテラスの範囲内までだったらギリギリお外で遊べる!!! バビロニクスの狭い室内では遊びきれなかった列車のオモチャと同じ奴とかも買ったし、さっき購入した中に入ってたペット用プールとか、もう用意したオモチャで元気いっぱい遊び回ってる!!
「……他の子は、来ないのかなぁ」
『『『!!!!』』』
「あれ?」
あ、あれ、他の子は来ないのかな~なんて呟いたら、ちびちゃん達が全員『あ!!!』って表情で固まってる……? わ、ちびティスちゃまが大慌てでゲート開いた! お出かけ機能で使ったポータルかな、これでこっちにお出かけしに来たんだよね…………わ!! 皆来たじゃん!!!
『~~!!』
え? カレンちゃんが口に人差し指を当てて『しーー』ってモーションしてる、呼ぶの遅れたのは内緒ってこと? ほほ~これは、遊ぶのに夢中になりすぎて他の子を呼ぶのを忘れてましたね~?? いけない子達だねえ~……。まあまあ、内緒にしてあげようっか。
ちびカムイちゃん、ちびコルダちゃん、ちびドレイクちゃん、ちびえきどにゃちゃん、うんうん全員――――ちびモッチリーヌちゃん居るんだけど? 絶対ちびモッチリーヌちゃんだよね。ねえ、増えてるよね!? うわあ、ちびグリムヒルデちゃんも居るじゃん!!! 増えてる!!!
「わ、わ、大変。いっぱいおやつ準備しないと……」
大変だ、ちびちゃん用の冷蔵庫は買ってあったけど、おやつはそこまでいっぱい用意してなかった! もうこうなったらオークションで手頃な料理を買い漁って、冷蔵庫の容量マックスまで詰め込んでおくしかないね! さっき雑多な装備を売って手に入ったお金で幾らか…………。よしよし、後は料理を冷蔵庫に――――
『『『…………!!』』』
「あ……」
凄い、ほぼ全員が料理に注目してる……。か、可愛い。料理の乗った皿を動かすと目で追いかけてる……。ミニチュアテーブルにお皿置いて、取り分けてあげようっか……?
「…………ふ、ふっ」
『~~♪』
『~!!』
全員勢いよく寄ってきて椅子に座って、バッチリとテーブル囲んでるじゃぁん……。ああああ~~これ、これは、もっと良いお皿を用意してきっちり並べたかった……!! スクショ映えが、しない!! このお皿じゃ!!! あ、今度食器もいいやつで揃えよ。そうしよ。
「さあ、皆で仲良く食べようっか~……」
『~~ッ!!!』
『きゃぅ♡』
「お、吠える。首輪……? やっぱりモッチリーヌちゃんだ! か、かわいい……子犬サイズ……!!」
『あぅ?』
首輪に【モッチリーヌ3世】って書いてある、やっぱりモッチリーヌちゃんだった! どん太もこのぐらい小さくなったら、もうそれはそれはとてつもなくキュートなんだけどなぁ~!! まあ大きくてもあいつは十分キュートだけど。う~~がぁ~~……ほんっっと、皿が安っぽくて映えない!! これは大失敗だった、もっと細部まで拘らねば……。
『ッ!』
「お? どうしたのかな~コルダちゃ……あ~!」
『ちびコルダちゃんから【◆たからのちず・なんばー22】を受け取りました』
お゛っ゛……! こ、これは、たからのちず……!! どうして毎回私に渡して来るんだい、コルダちゃ~ん? あ、そういえば私が引き当てたんだっけ。そうだったわ。なるほどね、ちびちゃん達との好感度を上げるとこういう嬉しい特典が存在するのかな~?
「ありがとね、また探してみるね」
『~♪』
なでなでしちゃろ……。んお? 凄い勢いでおやつ食べ終えて割り込んでくるじゃんバビロンちゃん。大丈夫よ、私にはこの……左手がある!! よしよしよしよし……っ!!
『~~!! ~~!!!』
『~~♡』
ちびカレンちゃんとちびティスちゃまからのなでなで欲求も感じる……。しかし、これはどのタイミングで撫でるのをやめれば……あっ、先客が自分から離れてったぁ……!
「…………ふ、ふふ……かわい~っ……」
い、いつの間にかなでなで行列が……。何秒か撫でられたら最後尾に行って次の子、また撫でられて最後尾回って……あれ? これいつ終わるの? 無限ループしてない?? ああっ……!! バビロンちゃんが満足してオモチャの方に行っちゃったぁ……! ループが、ループが崩壊してしまう!! みんな行っちゃった!! ぐぉぉぉぉぉおおお……!!!!!
『システムメッセージ:来客が大満足状態になりました。暫くした後、自動的に拠点に帰還します』
「あ……お出かけして来てるだけだから、帰っちゃうのか……」
もう、ずっとこのままこの楽園に入り浸って暮らしたい……。でも、この楽園が日常的になっちゃったら感覚が麻痺しちゃうし、結局これ以上の楽園を求めるようになってどんどんダメ人間になっていくのが目に見えてる……。こうやって一瞬、一瞬の楽園を大事にすることで、この瞬間を心の底から堪能出来るのよ。だから、耐えよう……! 戻ろう、悲しい悲しい金欠貧乏の現実に……!!! 金策しないと、お金がなーーーい!!! でも明日には加賀利に全員戻らないとあいつら攻め込んで来るし~……あ~~!! とりあえず地図、見るッ!!!
「ええ…………?」
で――――コルダちゃん、この宝の地図に描いてある大きなお屋敷みたいなの、どこなのよ…………。
◆ ◆ ◆
「――――今宵、デロナと共に出るのだな?」
「はい。死灰丸、ホウエンは共に傷が深く強襲には耐えきれないでしょうから。デロナと共に加賀利城の東門を攻め落とします」
どうしてだ、どうしてこんなに余裕がないんだ? 僕の考えは甘かったということか? 死灰丸とホウエンの傷を治すなど簡単なことだと思っていたのに、肝心の死体が一体もない。一体も、かけらも残ってない。
挙げ句、挙げ句だよ? あの天狗に僕の余裕の無さを何度も見られた。一度だけなら演技で誤魔化せたのに、二度三度と見られては演技と言い張るには苦しい。最悪だ、なんでここまで余裕がないんだ? いや、理由はわかってる……。わかっているんだよ。
――――あの女だ。
何らかの術であいつは死体を消すことが出来る。隠しているんじゃない、消してる。跡形もなく消してる。魂ごと持っていかれてカケラも残さず消し飛ばしてる。異常だ、異常過ぎる。このままではあの女が戦場にいる限り、衝突する度にこちらは消耗し続けあちらは強くなり続ける。この負の連鎖、断ち切らねばこちらに勝機がない。予定が狂いすぎる。
「あの女……。一対一か最低でも二か三……少数相手の状態であれば、確実に仕留められます。しかし異界人は仕留めても何十分か後には生き返るとか……。ですがそれだけあれば十分、その隙にデロナの十八番を……」
「用心しろ、奴はお前の存在を知ったからには策を用意しているはずだ。自分の得意とする領域に引き込め、決して向こうの領域に引きずり込まれるでないぞ」
「はっ」
…………ここが正念場。最後に笑うのは、僕だ。僕なんだ。必ず成功させて見せるよ…………必ず。