263 ご探索は計画的に……
◆ 神域樹海・入り口 ◆
ちょっと運動するつもりが熱が入っちゃって、ついつい満足するまでガッツリ運動しちゃった。今日リアルで動いてなかった分しっかり動いてきたら凄くスッキリしたね。でもやっぱり長く運動するならしっかりとしたスポーツウェアが欲しいなーって感じちゃって、ネットストアに接続してかなり評判のいいメーカーのスポブラとか諸々揃えちゃった。なんか最近出費が多いような気がするなぁ~……。節約しないと。
それで、バビオンに戻ってきたんだけどね? なんかお昼寝さん達が……迷い込んだらしいんだよね。神域樹海とやらに……。ターラッシュから北西に行って森と平原の境をずーっと進んでいくとエキドナ様が大昔に引いた大河があるんだけど、その大河を渡った向こうにある巨大樹に行きたかったらしいの。でも辿り着くことが未だに出来てないんだって。
「確かに、マナの流れが不思議。青色ドラゴン、空間ふにゃふにゃと似ています!」
「あー空間歪曲かー」
「あっ! 帰ってきちゃいました」
「ん~~~猫帰ってきたか~」
『わぅぅ~ん……』
「機械的なものではないな。神秘的な力によるもの、だろうか」
というわけで、私達も現地に来ちゃいました。今回は嗅覚代表でどん太、魔術感知方面でリアちゃん、古代のパワー感知担当でゼオちゃん、機械的なパワー感知担当でマリちゃんを選出。リアちゃんの放ったにゃんにゃんふぇすてぃばるも、みんな別々の方向に走らせたのに帰ってきちゃったし、マリちゃんの飛ばした探査型飛行ユニットもまっすぐ飛ばしてたはずなのに帰ってきた。ゼオちゃんは空間がふにゃふにゃしてるように見えるって言ってる、と。
「意外とこれ、ラージウスを連れてくれば解決するのでは?」
「確かに。似たような力であればその道のプロが良いだろうな」
「言う事聞く? 心配です!」
「絶対怒ってイヤダイヤダっていいますよっ!」
「…………つみれママのパワーを借りるかぁ」
「「「あ~」」」
『わう! (つみれちゃんなら聞く!)』
「到着までに別ルートがないか調べてくる」
「向こうから! 行ってみる、ましょう!」
「行きましょーっ!」
「うーん、おねがーい。とりあえずここで待ってるから~」
『わうっ! (僕は残るよ! 護衛!)』
「お~護衛なんて言葉いつの間に覚えたの? 偉いね~」
『わふっ♡』
困ったことに、お昼寝さん達が迷い込んだまま出てこられなくなっちゃってるんだよね。モンスターは出てこないらしいんだけど、ただひたすらに迷子らしくって。しかも他の人とちょっと離れるといつの間にか居なくなってたりするんだって。チャットは繋がるから生きてるのはわかるみたいなんだけど……。マリちゃん達が別ルートを探索している間に……頼んでみるか~プロに!
『ギルド・リンネ:つくねちゃ~ん、いらっしゃいますか~』
『ギルド・つくね:え、あ、あ、はい。居ます、けど……?』
『ギルド・リンネ:お昼寝さん達が帰って来られなくなっちゃって、その原因排除にラージウスの力を借りたいんですけど、指定座標まで連れてきて貰えませんか?』
『ギルド・つくね:あ~……。説得してみます』
『ギルド・お昼寝大好き:本当、すみませ~ん……』
『ギルド・ペルセウス:でもダンジョンを発見しましたのよ! ここですわ、大きな転移門のようなものがありますのよ! 【座標】 ダンジョン名は【古代の記憶】でしたわ~!』
あれ、なんか関係ないところで暴走お嬢様がまた暴走してる……。ギルド掲示板に張ってあったしっかりとした調査内容からは考えられない程に暴走してる。もしかしてペルちゃんって頭のいいセウスちゃんと頭のわるいペルちゃんで構成されてる? どうして迷子になったのにどんどん突き進んでるの? どうして雪山方面に突っ込んでるのに何の疑問も抱かずにひたすら北上したの? いやでもここにダンジョンがあるのを発見したの、偉いわ……。
『――――あの場所は時空が歪曲していて面倒だぞ』
「うわっ……!?」
『うわっとはなんだ。来てやったというのに』
「き、来たよ~リンネちゃん~……」
「つくねちゃん! は、早くない!?」
え、もう来た? もう来たの!? だって今さっきチャットして、何分か地図をぼーっと眺めてたぐらいだよ? そんなカップラーメンが出来るか出来ないかぐらいのスピードで来る?!
『ぎゅぃぃ~~♡』
『……母上に、最大最速で行けと言われたのでな』
「ターラッシュから、全力で飛んできた……」
『わうっ! (つみれちゃんだ!)』
『ぎゃぅ~~♡』
ああ、つみれちゃんにぎゅあぎゅあ~~されたのか、確かにラージウスがほんのり疲れてるような顔してるわ。というかつくねちゃんがつみれちゃんとシンクロしてないってことは、ラージウスはつくねちゃんとつみれちゃんを抱えて飛んできたのか~…………あれ? ターラッシュから飛んできたってことは、もしかしてつくねちゃんって……?
「ところでつくねちゃん、ラージウスとガリャルド……従者になってる?」
『なったが?』
「な、なってます、ね。なんで、わかったの……?」
「いやほら、ギルドポータルくぐれてるし」
「あっ」
『あれは従者でなければ入れんのか。あれは便利だが、マナの状態が不安定では再使用に時間がかかりそうではあったな』
「……シンクロ、出来るの?」
「あっ」
『ぎゅぁ?』
『…………で、出来ると、思うが』
わ、わ、ヤバいね。つくねちゃんがシンクロ先3パターンに増えてるよ……? 絶対ガリャルドとシンクロとかしたらヤバいじゃん、だってガリャルドシンクロで後衛につみれちゃんとラージウスが入るんでしょ? 考えたくない。考えたくもないレベルのパーティ構成になってる。正直つくねちゃんと4対4で戦ったらどうなるかわからないね……?!
『それより、あの神樹ケイレに行くのだろう? アレは人間ならば方陣使いが居ればすんなりと通る事が出来るぞ。こうするのだ』
『星龍ミニラージウス(Lv,350)が【守護方陣】を展開しました』
『入れ。あっ……は、入るがよい。あまり離れると逸れるぞ』
「お~~……?」
神樹ケイレ……あの巨大樹の名前は、神樹ケイレっていうんだ~! え、なんかネタバレ食らったような気分だね? まあいいけど……。あ~マリちゃん達が別行動中だった、どうしよ? 呼び戻そうか――って、こっちに戻ってきてるっぽい?
「――凄い速い、何か来ましたか?! あ、美味しそう、います!」
『げっ……いい加減俺を食べ物と認識するのをやめてくれ』
「青色さんでしたか~。つくねさんも来たんですね! つみれちゃんもいる~!」
「や。どうやら、解決策は見つかったようだね」
『ぎゅぁ~~!』
戻ってきたわ。これで全員だね! じゃあ、ラージウスの守護結界から出ないように――どん太ははみ出してるけどまあ大丈夫でしょ――お昼寝さん達を拾いながら神樹ケイレに近寄ってみよっか~! あ、とりあえず貰った座標とダンジョン名が判明した分更新しておこ~っと。
『なんだ、随分と良いものを見ているな』
「え? 見れるの?」
あれ、ラージウスこれ見えるんだ。そういえばNPCでも見れる子と見れない子が居るよね。なんでだろう?
『普通は見ることは出来ないのか? マスター、これは普通見えないものなのか?』
「ん、眼に関するスキルがあると、見えるとか聞いたかも……?」
『なるほど、俺は千里眼があるからか? 面白いな……』
へえ~。眼に関するスキルがある子は見えるんだ! みんなはどうだろ? どん太は見える? 見えるみたい、見せたらうんうんって頷いてるわ。マリちゃんは前から見えてたよね。リアちゃんも見える、と。ゼオちゃんは? あれ、眼に関するスキルがないのに見えるみたい。ゼオちゃんはまた別の条件で見える見えないがアンロックされてるんだね~。
『ここは? ここは確か……』
「ああ、今日の昼に私が噴火させて来たとこ」
『お、お前か!!! あの山を噴火させたのは!? あの女神が管理している地で噴火が起きるはずがないとは思っていたが、やはり……それも、こんな身近に居たとはな……』
「え、あれ、リンネちゃんがやったの……!?」
「え? うん、イベント被ったから戦争延期しないかなーあわよくばメルティシア滅ばないかな~って思って」
『…………そんな軽い気持ちで、女神の地へ喧嘩を売ったのか。マスター、この女はイカれているのか?』
「…………ぶ、ぶっ飛んだ人、だよ。ちょっと」
『ちょっと?』
「……すごく」
酷いな~そんなにイカれてないって。しっかり『これをこうしたらこうなる』って理解して行動してるんだからね? 思いついたから後先考えずにやったわけじゃないんだよ? それに結局私がやらなかったら誰かしらがやったでしょ、火山あるってわかってるんだから。どーんと。
「あ、あ!! ここだよ~~!!」
「お、お、お昼寝さんが、い、居ますね……」
『結構近くに居たのだな。この距離でも迷うのだから、凄まじい歪曲具合だな』
「確かに、結界の外側の景色が正しい景色に直った瞬間のぐにゃぁっと曲がる感じ、かなり気持ち悪いね~」
「この距離でもそっちに行けないの~~? どうしてぇ~~……」
凄い、お昼寝さんが全然真っ直ぐ歩いて来ないわ、千鳥足で歩いてるみたい。本人は真っ直ぐ歩いてるつもりなんだろうなぁ~……いや~不思議な空間だわ~……。
「うわぁ!!?? 何今の、ぐにゃあってなった!!」
『騒がしいな。しかしこの空間でよくも生きていられたものだ。そこだけは褒めるべきだな』
「え? モンスター居ないんだもん、死ぬ要素なくない?」
『なんだと? 居ない?』
あれあれあれ……? なんか今雲行きが怪しくなりましたねえ……? お昼寝さん含め、ここに来た全員が『モンスターは居ないから~』って言ってるのに、ラージウスはそれが異常だみたいな反応してるね……?
『……俺達に恐れ慄いて隠れているわけでは、ないようだな。本当に、一匹も見ていないのか?』
「居なかったよ~? むしろ居るの~?」
「確かに、外周を調べても一匹も居なかったな」
「本当、動物何もない! おかしい思いました!」
「ん~~なんででしょう、もしかして行き着く先が何処かに固まってしまってるとか!」
『ありえる、な……。吹き溜まりのような場所が出来ているか、あるいは――』
んん~~~~なんか全員難しいことを考えてるけど、面倒だしこの森と山あんまり大きくないんだし、まるごと消滅させちゃえばいいんじゃない? ダメ?
「この森と山をある程度破壊したら何か出てくるんじゃない? ほら、藪を突いて蛇を出すって言うでしょ?」
『…………マスター、こいつはイカれている。今確信した』
「うん……」
「お姉ちゃん……」
「でも手っ取り早いじゃん」
『あのなあ……。これだけの空間歪曲を抑えているのがなんだかわかるか? 恐らくこの山と森の力だ。特別な力を持つ土地というものが存在するのだ。この歪曲が世界全体に広がったら大変なことになるだろう? それを抑制している力を、この地からは感じる。無闇矢鱈に何もかも破壊しようとするな』
『わふっ…… (トカゲに怒られてる~)』
ド、ドラゴンに説教された……。ぐぬぬ、でも確かに考えてみればこの程度で歪曲が収まってるのは森と山のおかげ……なのかな。いやいや、もしかしたらこの森と山が原因で歪曲が発生してるって逆パターンもあるかもしれないじゃん?
『ぎゅあ!!』
『むう? 上空はダメだぞ母上。上下左右がわからなくなって墜落する。空間失調が起きるのだ』
『ぎゅぃ~~~……』
「あ~……。飛んでる内に、どっちが空でどっちが地面かわからなくなって落ちるんだ~……」
じゃあ地下は?
「地下はどうなの? 地下ならいいじゃん」
『…………』
「…………」
「え?」
え、なんで全員黙るの? どうして全員私の方を見るの!?
『それが、あったか……』
「あの神樹の近くまで、まーっすぐ地下トンネルを掘れば……行けるね?」
『方陣で方向を狂わされないようにしつつ……いや、地下には空間歪曲は発生するのか? 先程の地図を見ながら方向を確認しながら掘り進めば……』
「しかも安全な道だぁ~……」
『ガリャルドだな、奴は巣を掘るのが好きでな。掘るのは得意だぞ』
「トンネル? なんですか?」
「地面の下に、穴をほって道を作るんですよっ!」
「トンネルが崩れるかもしれない。補強するのにトンネル建造の人員が必要だろう。ちょうど飛空艇建造班が手が空く頃じゃないだろうか? こっちに回ってもらうのもいいかもしれない」
『わう~っ!! (僕も掘るの手伝うよっ!!)』
『お前も、掘るのが好きそうだな……』
「おお~。じゃあ皆に声を掛けて、神樹への道開拓班を集めようか~! その前に、あの川を渡る橋とかもあるといいな~」
「そうだな、では――――」
え、私が完全に置いてけぼりになってる……!! そしてあれよあれよと話がどんどん大きくなってる! でもこれで、神樹へ誰でも行けるルートが確立しそうじゃない?!
『ギルド・ペルセウス:大変ですわ~~!! 大きな湖と思ったら、大量のスライムの集合体ですわ~~!!! わたくしも飲み込まれて死んでしまいましたわ~~!!! 【座標】 ここですわ!』
「あ……。モンスターの居ない原因、これかもですね……」
「あ~~……」
暴走お嬢様……。さっきの座標でジッとしてればよかったのに……。哀れ、死に戻りになってしまったか~……。丁度ケイレと古代の記憶ってさっき見つかったダンジョンの中間ぐらいのところか、これは処理しておかないと後々面倒なことになるパターンかなあ? まあとりあえず、残りのメンバーを回収して一旦神樹ケイレまで行ってみようっか! トンネルの出口の正確な座標も欲しいしね!