251 運命
◆ 加賀利・城下町 ◆
中央エリアの十字分岐路まで掃討が完了した辺りでもってぃさんともってぃさんのギルメンさん達のパーティと合流。この辺りで南側ルートに進行してたお昼寝さんパーティから『対応に困る相手が居るから、ちょっと来て欲しい』とヘルプが飛んできた。零姫おばあちゃまも居るはずなのにどういうことなのかなとか思いつつ南ルートの『久遠桜山』に向かうと、丁度スタート地点辺りですれ違ったのである程度情報交換。
『何を言っているのかわからない』
『正体がよくわからない、不定形な見た目』
『好戦的な雰囲気ではない』
『困ってるような表情で、ジェスチャーで『ちょっと待ってて』となんとか伝えたら、大人しくなった』
『暗い雰囲気の奴じゃった!』
困ったことに、情報を貰ったのにあんまりよくわからなかった。ただとりあえず全員無事でこっちに来た辺り『好戦的ではない』のは確かみたい。その後お昼寝さんパーティとは交代するように中央に行ってもらって、向こう側でもヘルプが入った『リビルドスカルドラゴン』なるボスモンスターへの対処に向かって貰った。
『同盟ギルドメッセージ:北側、敵の数多すぎてキツイです~』
「あ~……どうしよ、こっちのは全部倒して正体不明しか残ってないし、ペルちゃん達で北向かう?」
「大丈夫ですの? いくら好戦的でない相手とは言え、いつ襲ってくるかわかりませんわよ?」
「でも北側、ツラソーね……」
「リアちゃんが一緒に居ればいいかな。最悪、リアちゃんにテレポートして貰って飛んで逃げるから」
「こっちに残ってる加賀利の人達も連れていきますか? 10人ぐらい居るっすよね、再編成して2パーティにして行ったほうが良いかもしれないっすね」
「あ……かなり、押されてるみたいで、で、す、ね。先に、わっちだけ行きますか……?」
「それもアリかも。あ~~~凄い多いみたいこれ、ヤバそう」
『(*´ω`*)b』
更に北側からヘルプ、相手の数が尋常じゃないから手を貸して欲しいって。簡易マップを見たら最初に表示されてたアイコンの5倍以上の数に膨れ上がってた。多分これ、建物の中にいた相手とかは表示されてなかったんだろうね。機動力のある人だけで組んだパーティが先行、機動力がないおにーちゃんと高菜さんはこっちに残ってる加賀利の人達を連れて応援に行ってもらうことに。私の方はリアちゃんとペアになっちゃったけど、最悪どうやっても逃げられるだろうしなんとかなる……はず。会話がメインだろうと思――――うわっ!? 何今の暴風!?
「うわ、速いッ!!?」
「まあ! あっという間に飛んでいってしまいましたわ!?」
「ワーオ!!」
『Σ(´∀`;)』
つくねちゃんが高速飛行で吹っ飛んでった衝撃波かぁ……。なんっちゅう速さよ……。あっという間に点になって見えなくなっちゃったよ。あれで天下一のペア部門で暴れられたら、大概の人対応出来ないだろうなあ……。あ、ペルちゃんときぬちゃんも追いかけてったわ。あの人達も人外レベルで速いんだけど? 近接クラスの移動速度マジでバグってるよ。テレポート系のアドバンテージがないじゃ――――ああ、テレポート逃げで常に有利が取れないように、そのへんのバランスが取られてるのか……。なるほどね……? なるほどなのかな……。
「僕達も行きますか~」
『(*´ω`*)b』
「気をつけてね」
「いってらっしゃ~いっ!」
「そっちも、気をつけてくださいね!」
『(*´∀`*)ノ』
ん、とりあえずこっちはこっちでやることやりに行こうか。万が一どうにも意思疎通が取れない相手だったら、全力で逃げ出そう。そうしよう……。
「正体不明さんですか~。何を言ってるかわからないってところも気になりますねっ!」
「だね。戦うつもりはないみたいで良かったね。殺意全開だったらやられてたかもしれないもんね」
「確かに! それにしても、この改造されてしまった加賀利の人々は……可哀想です……」
「そう、だね……。せめて傷ついた霊魂が、バビロン様達のところへ行って穏やかに暮らせればいいけど……」
『――――リンネの悲痛な祈りを聞いて、既におねえちゃまに相談して冥界へと誘って貰っているわ。安心なさいな』
「バ、バビッ……!?」
「新しい鳴き声ですか?」
「いや、そうじゃなくって、その、あのね……」
バビロン様……!? ああ、おにーちゃんの影の中で口に出した祈りが、バビロン様に届いてたんだ……。そっかそっか、うん、良かった……。良かったぁ……。
「バビロン様が、ティス様に頼んで加賀利の人々の霊魂を冥界に運んでるんだって」
「そうなんですね! だからお姉ちゃんの顔が荒れ狂う鬼神のような顔から、いつもの表情に戻ったんですか!」
「え、え? そんなに凄い顔してた……?」
「それはもう! あ、丘の上……見えて来ましたよ。あれじゃないですか?」
「ん……」
おおっと、安心して気が抜けてた。丘の上……ああ、居るわ。なんか途轍も無い『別格』のオーラを放ってる奴が。正体不明って言ってたけど、人の形してるじゃん…………? ん……待った待った。お昼寝さん達は『正体不明のもやもや』って言ってたけど、おばあちゃまは『暗い雰囲気の奴だった』って言ってなかった? つまりおばあちゃまには暗い雰囲気と感じ取れるような判断材料があったってことだよね? 正体が、見えてた……ってこと?
「待った、リアちゃん丘の上の相手が何に見える?」
「え? 黒いもやもやです!」
「あ~~…………」
これ、私達にしか見えてないタイプだわ。間違いなく。カヨコさんとゼルヴァさん、ぽこんこと私にしか見えないような相手だわ。
「私にはしっかり人の形に見えるんだよね」
「えええ?? じゃあえっと、相手によって見え方が違うってことですか?」
「リアちゃんしか居ないから言うけど、前に世界の管理者って存在に言われた『フィルタリング』の影響だと思う。その正体を見れるのは、私達みたいな――」
『超越者か! 待ってた!』
『◆◆◆◆◆・◆◆の【◆◆◆◆◆】が展開されています』
あ~~~~ガッツリ古代語だぁ~~~…………。勉強しててよかったぁ~~……! そしてこの伏せ字の山、完全にこの空間が原因よね。近くに行ったら一面の星の海、超綺麗な夜桜空間に引きずり込まれたもん。
「ごめんね、待たせて、古代語、少ししか出来ない」
『気にしないで、十分理解出来る。上手だ、名前は? 私はゼオ』
「ありがとう、私はリンネ。会えて嬉しいです」
と、とりあえず当たり障りのない言葉を並べたら、グッドコミュニケーションだったっぽいね……? うん、しっかり握手も出来たし。あ、ニコッと笑った。オリジナリティ強めな笑顔だけど……。結構可愛いかもこの人。
「えええ~……。お姉ちゃん、もうお話出来るレベルになってるんですかぁ……!?」
「うん、ある程度だけど」
『知らない言葉、私も使いたい』
「あ~~~…………。少し待ってください……。リアちゃん、一度作った魔導書ってポンッと作れる?」
「え? 作れますよ、魔術的に記録してありますから! 何か作って欲しいって言ってるんですか?」
これは、前にリアちゃんと一緒に翻訳して作って貰った古代語辞典の出番ですわ。まさか古代語を学ぶためじゃなくって、逆に現代語を学ぶために使うとは思わなかったけどね!!!
『オーレリアが【魔導書作成】を発動…………失敗しました』
「あ、あれ?」
『すまない、今解除するから』
『ゼオが【◆◆◆◆◆】の一部を解除しました』
「感謝します、ゼオさん」
『~~♪』
ああ、この空間内でスキル使えないようになってたか、何かされてましたねこれは……。とんでもない化け物感ありますよ、これは……。でも私は使える感覚があったから、多分超越者には効かない類の封印スキルか何かかな。
「使えるようになったみたい。作ったら渡してあげて?」
「あっ! 使えないようにされてたんですか、なるほど! じゃあ作ります!」
『オーレリアが【魔導書作成】を発動。【白紙の書】を消費し、【古代語辞典】の作成に成功しました!』
「はい、どうぞ! え~っと、手はどこですか……?」
『おお~~』
「わ、浮いた!?」
本当に見えてないんだな~リアちゃんには……。私にはただ、人懐っこそうなクール美人さんが手を伸ばして受け取ったようにしか見えなかったもんね……。
『ゼオが【◆◆◆◆】を発動、【古代語辞典】を◆◆しています……』
「ふむふむ……。あ、あ、あ~~……。い、う、え、お……?」
「あ、い、う、え、お、ですね」
「あ、い、う、え、お!」
まずは基本の母音から入ってますね~。古代語辞典に齧り付いて一生懸命お口をパクパクさせてるの、なかなか可愛らしいような、あれ……。私、まだ安全かどうか確定してない相手に勝手に現代語教えて大丈夫? 今実はヤバいことしてない??
「こんにち、は? かわいい、ねこのこ、。わたし、は、ゼオ。わかりますか?」
「わ!! もう出来るようになったんですか!? わかります、ゼオさん! 私はオーレリアです」
「オーレ、リア。さん、わからない?」
「敬称と同じです」
「あああ~~。たいせつ、とても。理解……」
ところどころ古代語混ざるの可愛いか?? なんだろう、この……。未知との遭遇感……。さっきまでどん底みたいな気分だったけど、霊魂の救済の辺りから色々と上向きになってきた気がするわ。
「わたし、は、あ~~……。魔力が切れて、このばしょ、たおれた。おなかも、なくなった」
「あ~……。魔力切れでお腹も減った、と……」
「そう、そう、特異生命体D67を、たおす、できなかった」
「特異生命体、デロナ…………?」
え、デロナって……。あの、九尾デロナ……?
「D67、こう、書く。名前」
「D……6……7……! もしかして、龍の尾が、9本ある……」
「知っている、リンネ! アレは、あぶない! たおす、ぜったい!」
ああ、やっぱり……。あのデロナで合ってるんだ……。
「わたしの、名前は。こう」
「Z……0……? これで、ゼオ……ですか?」
「そう。特異生命体・Z0、特異生命体研究所で、うまれた。D67も、うまれた。特異生命体研究所をこわして、みんな、ころした! 博士は、D67をぜったいたおせ、わたしに言った。でも、ゼオは、うごけない、なった……」
「なるほど……。わかりました……」
「ありがとう!」
「いえいえ、こちらこそ。どういたしまして」
「~~♪」
その最後の『ふふ~ん♪』可愛いですね……。事情は、全然可愛くないんですけど……。特異生命体研究所かぁ~……。なんかキナ臭い場所の生まれだけど、デロナを撃退する命令を受けてここに来たのは本当みたい。となると、ゼオさんがここで倒れてたのって随分昔からのこと?
「ゼオさんは、いつからここに?」
「すこし、まえ。D67のはんのう、もっとまえ、きえた。でもまた、強くなった。これ」
「お……? おっ!?」
これって、探知機……? ああ、この方角と距離にぴこんぴこんって出てる反応がデロナか!! なるほど、ゼオさん自体に何かを感知するパワーがあるわけじゃないのね。
「うみ、およいだ。でも、魔力が切れた……。おなか、すいた」
「とりあえず、これ食べます? あ、木の部分は食べちゃ駄目ですよ」
「…………? いい、ですか?」
「ええ、いっぱいありますから」
「あ、串かつ……」
こんなにお腹減ったお腹減ったって言われたらもう、ローレイで買ってきた串かつを供給するしかないよね。ほれ、食べなさい……。これで敵対されたらもう、私は泣くよ。
「ん……ん……? んっ!!! んっっっっっ!!!!!」
あ、食いついた。すごい勢いで2本目に行った。うんうん、ずーっと魔力使い続けて泳いできて、飲まず食わずだったらこうなるよね……。飲み物もどうぞ? ハッゲさんが作ったサイダーがあるよ、いつのだか忘れたけど。
「は、はっ!! ふっ……!! 幸せ、幸せ!!」
「幸せそうに食べてますね……っ!」
「淡々と満足そうに食べるぱくぱくモンスター姫千代とは、また別方面の食べっぷり……」
「んんん~~~~~っっっ♪」
幸せそうでなによりです……。ゼオさん……。
「ひんね、外は、戦い? なぜ、戦う?」
「メルティス教の連中に洗脳されて、強制的に戦わせられている、元この島の……この国の民と、民同士で、戦ってます……。戦うしか、なくて……」
「メルティス……!!! かなしい……。ゼオも、手伝おう。博士は、メルティスに立ち向かう、わたしをつくったと、聞いた。きっと、リンネに会えたは、運命。わたしも、戦おう……(ぐぅぅぅ……)……あっ!」
「…………その前に、お腹を満たしてからですね。腹が減っては戦は出来ぬって言葉がありますからね」
「素晴らしい言葉! 博士に言ってやりたい! 博士は、食べ物ない、食べ物ない、がまん、がまんばっかり!」
ゼオさんは、メルティスに対抗するために博士に作られた特異生命体……。いずれその破壊された研究所とかに確認しに行きたい気もするけど、今はとりあえずこの城下町に、加賀利の戦を終わらせるほうが先だよね。
「どうしましょう、黒いもやもやが、可愛く見えてきました……」
「あ!」
『ゼオが【メタモルフォーゼ】を解除しました』
「あ!! 私にも見えるようになりました!」
「忘れていた、姿を隠すは、大事だったから」
「ああ、それでリアちゃんには見えないようになってたんですか」
「…………? リンネ、あ! さん。さん……大事……。リンネさん、見えていた?」
「あ~~……。そういう能力があって、見えてました」
「凄い。だったらリンネ、さんはとても強い。あ……食べます。ありがとう!」
「いえいえ……」
そしてその前にまず、ゼオさんの腹ペコが満たされる方が先かな~~……。魔力切れで倒れてたのは、多分マナの嵐が原因で動けるまでに回復したんだろうなぁ、これは。それにしても、なんだろう……。串かつを手に持ってると、目をキラキラさせてパクパク食いついてくる……。雛鳥に餌やりをしてる親鳥って、こんな気分なのかも。
「…………また、お姉ちゃんに新しい女が…………」
「え? なんか言った?」
「なんでもないで~~す!! ぶぅ~~」
「そう? あ、ゼオさんこれも食べてみる? おにぎりって言って、一緒に食べると多分美味しいと思いますけど」
「……? 見たこと、ない。あ……んっ!!!? んっ……!!! んっ……幸せ、幸せ……」
おにぎりも気に入りましたか、幸せそうでなによりです……。どうしよう、かなり失礼なのはわかってるけど、今すっごく……頭を、撫でたい気分です……。