表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

238/601

237 ゆっくり話を

◆ ゼルヴァのキャラバン ◆


 実質シルバーを1G支払うだけで3400円のパッケージが買えて、しかも中身には真覚醒の証5枚に希少素材が入手出来るダンジョン入場券が入っている。これは買い一択だ~と思って買った後に気が付いた『入場にはマスターゼルヴァに話しかけてください』の一文。知らない人に話しかけるのなんてただでさえ高難易度なのに、友好側の人じゃない中立の人に話しかけるなんて、うわぁ~~~面倒くさすぎるこれぇ~~~……ってがっかりしながらも『燃料になる鉱石とジェット機関稼働のためのコアになる魔宝石が欲しい』というマリちゃんの要望を叶えるためにキャラバンに来てみたら…………。


『――やはり、過激ないたずらは、咎めるべきでしょうか』

「ん~。誰かが嫌な思いをするようないたずらに関しては、きっちり叱らないとダメだと思います。最初はイラッとするぐらいで我慢できるかもしれないですけど、いつの日か爆発して大喧嘩になるかもしれないですから」

『そうですか、そうですよね……。はぁ~~、言わなければとは思うのですが、どうしても双方可愛くて、つい……』


 大勢の問題児に悩まされている保育士さんが居ました。なんでかわからないんですけど、いつの間にかこの保育士さんのカウンセリングイベントみたいなのが開始されちゃいましたね。多分この人が偉大なるマスターゼルヴァで合ってると思うんですけど……。名前が同じなだけの悩める保母ゼルヴァの間違いだったりしませんか?


「やっぱりそこは、上に立つ者としてキッチリしておかないと。ズルいかもしれないですけど、いつも優しいゼルヴァさんという顔と、偉大なるマスターゼルヴァという顔を使い分けるべきですね」

『怒る時に、仮面を被れということですか?』

「怒るんじゃなくって、叱るんですよ。相手に『あ、やっちゃいけないことをしたんだな』って思わせないと、反発されるだけですから。何が悪いのかを伝えて、理解させて、反省させるんです。頭ごなしに怒るべきなのはさっきのどん太みたいに考えなしにやらかした時ぐらいかな~って」

『はぁ~~……。私なんかよりも、リンネさんのほうが偉大なるマスターと呼ばれるべきなのでは?』

「私はそんな人間じゃないので」

『そうですか? あ、お茶が冷めてしまいましたね』


 やっぱりこの人が偉大なるマスターゼルヴァみたいです。指パッチン一発でお茶がまた湯気を出し始めましたよ? 偉大なる魔術の用途がお茶を温めるだけとは、豪華だぁ~~……。


「あ、すみませんありがとうございます……」

『いえいえ、そういえばリンネさんは……神は信仰なさってい』


 神? 神ですか? 当然――


「魔神バビロン様は素晴らしいお方です。魔神バビロン様は至高の存在です。艶やかな黒髪、蠱惑的な赤い瞳、完全で完璧で最高の美少女の姿をなさっています。慈愛に満ち、強い意思を持ち、我らを良き方向に導いてくださいます。魔神バビロン様は素晴らしいお方です。私は毎日バビロン様の祭壇に供物を奉納し、祈りを捧げております」

『あ、あっ、そ、そう、ですか』

「はい。魔神バビロン様は素晴らしいお方です」


 ――バビロン様を信仰しております。今日は秘蔵ブロマイドがリアルに届いたばっかりでして、もう最高に気分がいいです。最高で最高です。明日はバビロン様のあの服も来るんですよ? 最高に最高で最高です。


『――――狂信者過ぎる以外、素晴らしい子ですね……』

「え? 何か言いました?」


 ん、今何か言った気がするんだけど、バビロンちゃん様のことで頭がいっぱいで聞いてなかった。何言ったんだろ。


『あ、いえ、そんなに素晴らしい神様なら、今度お参りにでも行こうかなぁと……』


 なるほど。じゃあバビロニクスの方がいいかな。


「それならバビロニクス、バビロニクスですね。廃墟と化したステラヴェルチェが生まれ変わった国でして、ステラヴェルチェの国民と魔界の住人が仲良く暮らしております。大規模な市場に、遊園地にプールにカジノにと遊ぶ施設も沢山ありまして、月と星の綺麗な夜は宿泊施設の窓から煌めく星空と、眠らない都市バビロニクスの活気を眺める事もできますよ。是非いらっしゃってください」

『は、い、わわ、わかり、ました』

「あ。大規模なキャラバンになりますと、砂上車が必要かもしれないですね。ターラッシュの西は砂漠なので。それか今度うちのマリアンヌに相談して、大規模なキャラバンでも移動出来るテレポーターか……もしくはアレですね、メルティシア法国の侵略を返り討ちにした後にターラッシュからバビロニクスまでの道を整備してもいいですね」

『侵略……?』


 あれ? メルティシア法国の侵攻の話は知らないんだ。重要NPCっぽいのに。


「どこから説明しましょうか……。メルティスとバビロン様の不仲といいますか、争っていることはご存知かと思うのですが、先日メルティス側から脅迫行為を受けまして、これまでの嫌がらせ行為や迷惑行為の積み重ねもあってか、世界の管理者から我々は『報復権』を頂いたのです」

『世界の管理者……エグジスターですか。私はその存在を上位存在、エグジスターと呼んでいます。リンネさんも……【超越者】でしょう?』

「え、あ……あ~~~……」

『大丈夫です。たった今エグジスターから聞きました。口にしなくても結構です』

「あ、そうですか」


 わぁ~……。ゼルヴァさんもやっぱり公式の説明文通りの『超越者』なんだ。ということは、古代神術とか色々使えるんだろうなぁ~……。お弟子さんはまだガッツリと強くないけど、多分この人だけはカヨコさんとかのレベルかそれ以上に強いんだろうね。


『それで、報復権で……どのように?』

「その日の内にルナリエット王国を壊滅させました。残念ながら住民や奴隷達は始末(・・)されていて、今は罪なき住民と奴隷達に第二の人生を歩むか否かをバビロン様の派遣したネクロマンサーが問いかけ、生き返らせるか埋葬するかを行っているところです」

『そうですか…………。法国側の国にはあまり行かないのですが、やはり奴隷の噂は本当だったのですね』

「奴隷どころか、メルティシア法国の北西の農作地では精神に異常を引き起こす芋を奴隷に作らせていますよ! 私の従者のティアラという子がその農作地で奴隷として働き続け、隙を見て逃げ出してきた子なんです」

『あの狂芋を……!! なんと……なんと…………!』

「それで、ルナリエット王国の件に関してメルティシア法国は報復を決定したようでして、明後日の夜8時にルナリエット奪還、更にここから南にある都市ローレイへの侵略をすると、宣戦布告して来たんです」

『そうでしたか……』


 流れ的には、こんな感じかなぁ……? まあ、そのルナリエットを壊滅させたのも私がキッカケだった~とか、都市の大半を壊滅させたのも私~とかいうのは、別に言わなくてもいっか。嘘は言ってないもんね。


『なるほど……。これは、いつまでも傍観者でいるわけにもいかないかもしれませんね……』

「私の話は、全部都合のいいデタラメかもしれませんよ?」

『嘘か真かは、ここに訪れる異界人や現地人に聞けばわかるでしょう。それにリンネさんは、嘘をついている顔はしていないですし。そうですか……。だからルナリエット側に続く街道が潰れて別の道が出来ていたり、川に新しい橋が掛けられていてルナリエットまで行く必要がなくなっていたりしたのですか……』

「あ~……」


 すみません……。確かにあの国の橋が落ちてたら、こっちに来られないですよね、すみません……。


『…………あ。こんなに長話をしていたのに、何も食べるものを出せなくて申し訳ない』

「あ、いえ! 私こそ話し込んじゃって……。あの、こんなので良ければ、食べ……ます?」

『……!? この、可愛らしい色の、丸いものは?』

「マカロンですね。結構簡単に作れるお菓子で、ちょっと……いや結構? 甘いんですけど……お口に合うかは……」

『一つ、失礼して――――』


 本当だ、もう30分近く話し込んでたんだ。時間的には、ゼルヴァさん達は夕飯の前ぐらいなのかな? こんなお菓子しかなくて申し訳ないけど、こういうの大丈夫かなぁ……?


『好き』

「え? あ、ダメでした?』

『これ、好きです。も、もう一つ……』

「え、あ、ど、どうぞ」

『すみません、すみません……んっ…………。あ、もう一つ……』


 うん、大丈夫みたい!!! むしろ止まらなくなってるわ、この人!!!


「こういうのは、バビロニクスで広めてるので……行けば、買えると――」

『絶対行きます。エグジスターからの願いを聞き遂げた後は絶対に行きます』


 さっきまで行けたら行く~ぐらいだったのに、もうすっかり絶対行くのレベルまで来ましたね……あ、なくなっちゃった。ゼルヴァさんの気まずそうな苦笑いよ……。そんなに欲しいなら、え~っと。まだ倉庫に作り置きがあったかな?

 

「ちょっと待っててくださいね~……。よいしょ、倉庫にまだあったかな……」

『リンネさん。リンネさん、それは? マジックバッグとは、また違うものですね?』

「え? あ~! テレポーターバッグです。私の魔法の巨大収納倉庫に繋がってて、そこから自由に物を取り出せるんです。あ、あったあった。はい、まだありましたよ~」

『…………』


 あれ? マカロンより、このバッグの方に目が釘付けになってますね……?


『それは、その、リンネさんの魔法の倉庫にしか、繋がっていない? 他には、繋げられない……?』

「うーん、このバッグは私のにしか繋がってないですね。あ、でも同じような巨大倉庫を作って新しいバッグを繋げれば、理論上は新しい倉庫から出し入れ可能かも? そういえば、おにーちゃんの装備に収納機能をつけたのカヨコさんだったっけ……頼めば出来るかもしれな――――ひゃぉおおお!!!??? 近い近い近いっっっ!!?」


 ゼルヴァさんが、ドドドド、ドアップだぁああ!!? 凄い真剣な顔で、大接近だぁ!!?


『つ、つまり、その巨大倉庫に、毎日できたてのご飯を入れて貰ったら、毎日できたての、ご飯が!!! 食べられると言うことだな!!??』

「は、はいぃ!! 多分、そうだと、思いますけどぉおお……!!!?」


 ご飯!? ご飯限定なの!? なんで!?


『…………それを作って貰うには、どれだけの対価を、支払えばいいだろう。いや待ってくれ、そんなに大量のご飯を作ってくれるような人と契約を結べるかどうか……』

「あ、クックさん達が多分、毎日余るほどの材料を持って来られて困ってるって言ってたはずなんで……」

『!!!!!?????』


 ど、土下座!? 土下座した!?


『お願いします……! どうか、私達にその、巨大倉庫と、テレポーターバッグと、毎日大量のご飯を提供してくれる人物を……!! どうか、どうか……!!!!』

「え、え、えっ……」

『もう、肉だけの生活は、辛いんだ……!!! 頼む、お願い、お願いしますリンネさん、いや! リンネ様ぁ……!!!!』


 さ、様ァ!!??


「や、や、待ってくだ、顔を、上げ――――」

「――――お姉ちゃんが、また新しい女の人を誑し込んでる……」

「え!? リアちゃん!? 違、違うよ!? まって、行かないで!? 話を聞いて!?」

『リンネ様!! 私! 私の話を先に聞いてくれ、ください! どうか、どうか!! 何でもする、します! させてください!!!』

「ゼルヴァさん!? 今ちょっと大変、後で! 後でゆっくり話をしましょうよ、お願いしますから!!」


 やだぁ……。どうしようこの状況~~…………。誰か、誰か助けて、誰かぁ……!!



皆様のおかげで、本作がVRゲーム部門で年間1位を達成致しました。本当に、本当にありがとうございます。

これからも執筆活動に励んでまいりますので、どうぞご支援のほど宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91yBAKrtvML._SL1500_.jpg
本作をご覧頂き誠にありがとうございます
 宜しくお願いします!
ガイド役の天使を殴り倒したら、死霊術師になりました ~裏イベントを最速で引き当てた結果、世界が終焉を迎えるそうです~Amazon版
アース・スターノベル様より出版させて頂いております!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ