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◆ バビロニクス・魔神殿 ◆
『バビロン陣営アナウンス・冥府仮面:はいはい全員よく聞きなさ~い♡ バビロニクス内部にメルティスの特殊任務遂行組織【ナインズ】所属の神兵、【隔離と縛鎖のワルヘド】。その他に部下8匹が紛れ込んでいたのを退治したわよ~♡ 残存兵は居ないけど、今後紛れ込むかもしれないから注意してちょうだ~い♡』
『これでよし……っと♡』
「はぁぇええ……」
「わ……わ……」
夜着のティスティス様、雰囲気が変わってまたとてもお美しい~~……。というか、夜でも狙撃出来るの、ヤバくないですか……? しかも全箇所ほぼ同時に着弾するように時間差を考えての同時射殺。申し訳ないけどうちのマリにゃんヌと比べるとね、射撃スキルの差を感じちゃうね……。まあ、マリにゃんヌはまだまだ始めたばっかりのド素人だからしょうがないんだけど……。
『…………カヨコでも再生困難なんじゃないかしら、これ』
『どうかしら~♡』
それにしても、まさかこいつに部下が……。残存兵が居たとは思わなかったわ。こういうのって単独で来てると思ってたから、完全にノーマークだった。ナインズって組織は9つの頭と、それぞれに8匹ずつ眷属がくっついてる9かける9の大規模な暗躍組織なんだって。この羽毛目玉ぎょろぎょろがそう言ってた。通常の探知に引っかからない代わりに、こいつらは特殊なマナの識別信号みたいなのを発してるらしくって、それがわかっちゃえばティスティスお姉ちゃまには丸わかりだったみたい…………いや、私には何にもわからなかったんですけどね。
『――もう、もう喋った!! これ以上は嫌だ!!! 頼む、もうやめてくれえええ!!!!』
『あぁ~~?? 妾の子ども達がまだまだ腹をすかせているのだ、もっと気合を入れて再生しろ! 早く再生しないと……本当に死んでしまうぞ~??』
『うああああ!! あ、が――――ギャアアアアアアアアアアア!!!!!!!』
『GYAAAAAAAAA!!!!!!!!!』
あ……ワルヘド君? ワルヘド君はね、再生能力以外で持ってた力の殆どをバビロンちゃんに奪われた挙げ句、状態異常【死の恐怖】をカレンちゃんに植え付けられて死にたくないBOTになっちゃって、バビロンちゃんの元椅子とかいう羨ましすぎるポジションに居たドレイクって火竜のオモチャになってる……そうだね、あのドレイクだね。
今の状況を正確に言うと、一つ情報を喋る度にドレイクがしもべのドラゴンに『待て』をかけてくれるから、その間だけワルヘド君は命が繋がるってわけだね。そして喋らなくなったら『よし』。どん太だって目の前にご飯があってよしって言われたら飛びつくもん、ドラゴンだってそうなるのよ。そういえばどん太は千代ちゃん達を合流させるのに奔走中。街の中は安全が確保されたけど、外はまだだからね。
『は、話す!!! こ、今代の――』
『待て』
『GUUUUU……GAAAAA……!!!』
ほら、こんな感じ。
『まだまだ情報が出てきそうね~♡』
『ナインズは知らない組織。多分、天魔大戦の後? 新参組織かも』
『知らないだけってこともありえるわ』
『話してみろ』
『今代の、メ、メルティスは、先代の傀儡だ!! 愛して育てているフリをしているが、表面上だけだ! 今代は、騙されている!! 実際は都合の悪いことを全て押し付けて、先代復活の暁には、捨て駒にするつもりなのだ!!!』
『あっそ。ドレイク?』
『――よし』
『なんで!! 話した、話したのに――――ギャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!』
これ、私この場に残ってて良いのかなぁ……? うーん……。色々情報が出てくるけど『あ、やっぱりそうなんだ』ぐらいの情報しかなくってなぁ~……。内部の情報に詳しいと思いきや、実はそこまで詳しくないのかも? ア゛!!!! バビロンちゃんと目が合ったァ!!!! 不機嫌フェイス、スーパープリティーーー!!!! うっひょぉぉおおおおおーーーー!!!!! これは!! これで!!! レア!!!!!
『あ、リンネ。ごめんね? ちょっと機嫌がそこまで良くなくって相手してあげられなさそうなの。今回の働き、実に見事だったわ。正直こいつらを見つけられなかったのはワタシ達の落ち度よ、本当に申し訳ないわ。お詫びにこれを受け取ってくれるかしら? 討伐報酬とお詫びってことで許して欲しいの』
『魔神バビロンから【神喰らいの証・ワルヘド】【◆◆不落不沈不滅の鎧】を受け取りました』
「不機嫌なバビロンちゃんも可愛いです!!!!! ムスッとしたお顔にチューしたいです!!」
ありがとうございます!!!
『リンネ、多分だけど……。口に出たのと心の声とが逆になってる』
『あら~~♡』
『…………チューは、今はダメ。また今度よ』
「はいっっっ!!!!! ありがとうございます!!!!! ひぃぃいいーーーっっ!!! 今度チュー出来る、今度チュー出来る、今度チュー出来る……!」
「リンネ様、リンネ様……」
『リンネちゃん心の声ダダ漏れなんですけど~~? もしも~~し??』
今度チュー出来る。今度、今度、今度っていつ? もしかして今振り向いたら今度って判定になる? じゃあ今? 今じゃない? 度って文字を抜いたら今だよ? やっぱり今だと思う。
『……やっぱり今してあげるわ――――んっ……どう? 嬉しい?』
「い゛ま゛ぁ゛あ゛!」
「え、あ! リンネ様が!!!」
『ちょっと、え、嘘でしょぉ~~?! ほっぺにチューで――――』
今度は、今。今幸せ。んひ……ほぁ……。
◆ ◆ ◆
「――それで、倒れて運ばれてきたというわけですのね……」
「そうなんです……。でも、幸せそうですよねっ!」
『バビロン様に激弱だってのは知ってたけどぉ~……。本当に、もうよわよわなのねぇ~……』
「撫でられてもビンタされても、もはや何をされても嬉しいぐらいだと思いますわ」
『ふへぇ~……本物だわぁ~』
「本物ですの」
リンネさんのバイタルに若干の異常が出たので急行してみれば、ええそれはもう幸せそうな顔でぶっ倒れていましたわ。それと、やっぱりと言ってはアレですけれど……先程のアナウンスの一件はやはりリンネさんが関与していた、いえ……完全に当事者ですわね。まさか敵地に潜り込んできてバレないような諜報員がいるとは、予想外ですわね。
「それで……ええと、ワルヘド。ナインズは残り8つの頭と64の眷属が居る、ということでしたわね」
『サリーちゃんからはどこまで話して良いかわかんないから、詳しくはリンネちゃんが起きたら聞くといいわよ♡』
真の目的、潜入ルート、他の仲間の能力、色々と気になりますけれど、今はそう……そうね。この幸せそうな顔で気絶してる親友が起きるのを待っていたいですわね。
「あ、マカロン……」
『そういえばマカロンの作り方聞いてな~い! しかももう30分以上経ってるし、どうしよ~♡』
「マカロン?」
マカロン……マカロンって、あのお菓子の?
『リンネちゃんにお菓子作るの教えてもらう予定だったんだけどぉ~……気絶しちゃってるし~……』
「また今度……? 残念です……」
「マカロンぐらいなら、わたくしも作れますわ。多分」
『え~!! 絶対お料理なんてしないお嬢様だと思ってた~意外~~♡』
「あら、ちょっとぐらいやりますのよ! ほら、プレゼントしたい子が、居ますし……?」
『あ? あ~~……♡ ふぅ~~~ん…………♡』
「ん、な、なんですの! ほら、作りますわよ!!!」
『はいはいは~い♡ ふぅぅ~~~ん♡』
もう、もう!! サリーちゃんったら、覗き込んでくる!!! 言わせないで下さいまし!!
「マカロン! 作るの手伝います!」
「おう。マカロンか、手伝うか?」
「つるつ……ハッゲさん!!」
「そこまで言ったらアウトだろ」
「あら、つるつるさん。ごきげんつるつる~」
「アウトだろ……ふっはは!!! そりゃ、アウトだろ!!! はっはっはっは!!!」
あ、ウケましたわ。前から何となくやりたかった挨拶。ハッゲさんが手伝ってくれるならしっかりとしたものが出来上がりますわね! リンネさんが目覚める前に、ちゃちゃっと作ってしまいましょう!
『あんたってそのツルツル頭、おしゃれでやってるのぉ~??』
「そうだぜ。いいだろ? イカちゃん乗せ忘れてたぜ、落ち着くな」
『…………イカしてるわね』
「イカしてるだろ?」
『(ガッツポーズ)』
『前から聞きたかったのよね。それ、生きてるの?』
「いや、ランダムに動くか、特定の言葉に反応してポーズを取るだけみたいだ。オモチャみたいなもんだぜ」
やっぱりある程度ポージング操れますのね!? そのイカ!!! なんというか、ちょこーんと乗っかってるのが可愛らしくって、どうしても頭に目が行ってしまいますわ……。そして更にその下のツルツル頭に目が行って……。視線誘導がズルいですわ!
「あ? リンネちゃんも居たのか~~……って、随分幸せそうな……」
「バビロンちゃんに」
「あ、それだけでわかったわ。ほんじゃ、起きるまでに作れるような時短マカロンで行くか。手はよく洗ってくれ~」
そういえば、ハッゲさんが実際に料理をするところを見るのって何気に初めてですわね……? 料理系のスキルって、どんな感じなのかしら。やってるフリをしたら出来上がるとか、そんなレベルだったりして。キッチンに入るのも初めてですわね、お邪魔いたしますわ~……あら、なんだか頭がグラッとしますわ……?
『超上位スキルの影響により、進行がポーズされました』
「まあとりあえず材料だな。スタンダードに――」
「まずアーモンドパウダーを篩にかけるんだが、ああそうだココアパウダーは、やめておくか――」
「オーブンは180度、先に温めておかないと――」
「魔道具で泡立て器とかねえもんなのかねえ――」
「湯煎しながら卵白と砂糖を混ぜる――」
「メレンゲを準備するわけだな――」
「まあこんな感じで篩に掛けたアーモンドパウダーをちょっとずつ――」
ちょ、ちょ、ちょっと、あの、ハッゲさんがどんどん増えますわ!? バグ!? バグですの!? 凄いスピードで作業が進んでいくのですけれど!!??
「つるつるさんが、いっぱいです……」
『どーなってんの、これ』
『時間が正常な時間に追いつきました』
時間が――!!? このキッチンに入った時よりも、時間が1分以上進んでいますわ!? まさか、ハッゲさんが料理を作っている最中は周囲のプレイヤーの意識が飛びますの!? もしかして……やっぱりそうですわ! VRダイブシステムのシンクロ周りの応用で、一時的に強制的な仮眠状態になることで『時間が飛んだように錯覚する』のですわ!! え、なにこれすご~~い!! 新技術ではなくって!?
「お、ゆっくりやらないとついて来られなさそうだな。色とかどうするんだ?」
『あ、これ……。サリーちゃん特製の、ピンクエキス……』
「ピンクのマカロンか。可愛いよな、桜色――――よりドギツイな、でもこれはこれでいいな。それじゃあこいつを絞って丸形を作るんだが――」
ちょっとこれ、本社に問い合わせようかしら……。1分に満たない時間ですけれど、意識を飛ばすような技術は危ないのではなくって? あ、リンネさんがもっと長い時間飛んでますわね……。じゃあ大丈夫なのかしら……。バイタルにも何も影響出ていませんでしたし、脳波も正常の範囲内ですし。どうしましょう、マカロンに全然集中出来ませんわ!!! 気になるから、問い合わせですわ!!
「んで、焼く。大体200度前後で1分ぐらいか? 砂糖の量によって前後するか、とりあえず最初はサクッと焼いてだな、その後は――――じゃあクリームを作っちまおうか」
「あ、ティアも、お手伝い……したい」
「せっかくだから、ティアちゃんとサリーちゃんも生地からやってみようぜ」
『全然分かんなかったから、もっとゆっくりやりなさいよ~』
「おう、わかった。お嬢様の方は別ので忙しいか~?」
「ごめんなさい! ちょっと……!」
「そんじゃ、最初から行くぜ――――」
ハッゲさんが全然気がついていない謎技術、これの正体がわからない内には今晩眠れませんのよ!! ごめんなさい、お二人がマカロンの作り方を勉強している間、わたくしは今の謎技術に関して問い合わせて来ますわね!! あ、リンネさんを見ながらやりましょ……。