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229 撤退

 曰く、死霊術師とは死者を操り、支配し、傀儡とする悪しき存在であると。

 曰く、死霊術師とはアンデッドの陰に隠れ、自らの手を汚さず物陰から戦闘をひっそりと眺める陰湿な存在であると。

 曰く、死霊術師とは本体は脆弱で、戦術は卑劣極まりない最低最悪の存在である、と。


「この機会を逃すわけには行かない……」


 故に、舐めていた。我の相手にならぬ雑魚に過ぎないと。おまけでついてきた格闘職のピンク女も、銀髪の吸血鬼も、大した戦力ではないから問題ない。我に傷一つ付けられるはずがない、と。

 しかしその認識は間違っていた。こちらが名乗るや否や、あの死霊術師は悍ましい魔力を開放し、地獄を顕現したかのような槍を放ってきた。姿を見せてほんの数秒後、あまりの発生の速さと威力に対応出来ず、直撃した。神の術に見えた気がしたが……しかしダメージとしてはさほどでもない、その瞬間はそう感じていた。だが……どうだ。どうしたことだ。


「く……かぁ……! 何故だ、血が、止まらない……。何故、回復しないのだ……」


 すぐにこの程度のダメージは再生する、失った血は再び我が体へと戻り、肉体は修復され、活力が漲ってくる……はずだ。はずなのだ。


『どこだぁぁあああああクソ天使野郎!!! 殺す殺す殺す殺す殺す!!!!』


 ――――隠れなくては。既に一瞬だけ結界を緩め、外部に援軍の要請を送った。あのお方に命じられた死霊術師リンネとその従者、及び関係者の抹殺指令はなんとしても成し遂げなければならない。この際、ナインズの仲間に馬鹿にされても良い。任務の失敗だけは阻止しなければならないのだ。死霊術師が従者を一人だけ、そしておまけが更に一人だけ、こんな絶好の機会を逃したら、もう次のチャンスは訪れない。

 何故だ、奴らを閉じ込めるためにこの地獄の世界に潜入し、秘密裏に作ったこの結界が……奴らの為の檻だったはずなのに、今はここが逃げ場のないコロッセウムの中のように感じる。作り変えた環境の地形効果によって圧倒的に我が有利、奴らの回復は阻害され、我は回復力が極大に上昇……能力だって向こうは下がり、こちらは上がっているはずなのだ……!


『――――みぃつけたぁ。穿て!!!』

「くっ!!!?」


 壁の向こうだぞ!!! 何故バレた!!! く、ぁあああ!!! 先程当てた場所に、また……!!! 先程よりは遥かに弱い術だが、的確に出血箇所を狙われている!!!


『逃げても無駄だよ、死ぬまで追いかけて殺してやる。絶対に。必ず殺す』


 まだだ、まだ活路はある……! 出血が止まれば、傷が癒えれば、仲間が助けに来れば、我の一発逆転……!!! 今は耐えるのだ、今は――――!


『そこだ!!!』

「ど、どこから――――上ッッ!!!」


 槍の雨!! だが、一発一発はさほどでもない、舐めるなァ!!!


「悪を阻む盾となれ!」


 相手の姿は見えない、だが的確に攻撃される……。驚くほど正確に建物の向こう側から攻撃されるが、徐々に威力が落ちている。これなら到着まで耐えられるな。先程更に抉られた傷跡が痛むが、このペースなら回復も間に合う。勝てる見込みが出てきた……ふ、ふふ……なるほど? 少し、心に余裕が出てきたではないか。落ち着いて考えてみれば、相手は初手が必殺の一撃だったのだ。それを外して焦っているのを隠すために強い言葉を使い、逆に強気で出てきてこちらにプレッシャーを掛けている。つまり向こうは勝機を失った、それを隠したいがために敢えて強気で出てきているのだ。

 なんだ、わかってしまえばどうということはない。間抜けめ、このワルヘドを騙すには力不足だったようだな。さあ、傷も癒えてきた……返り討ちにしてくれる!! かなり法力を使うが、探知の術で正確に位置を炙り出してしまえば……壁の向こうから攻撃出来るのはお前だけではないというのを、思い知らせてやる!!


「我、神罰の代行者ワルヘドが求む。聖なる剣よ、顕現せよ。我らが宿敵を滅ぼす神の剣、降り注げ!! ホーリージャッジメント!!!」

『光――――あ』


 ははははは!!! 不死の体に聖なる剣の斬撃は良く効くであろう!!! この無数の聖剣により、もはや跡形も残らず消え去るしかあるまい!!! 


『――――ピアリス・クルス・スペアル』


 は――――? な、がぁっっっ!!!??? 地獄の槍が、まだ使えたのかぁああ……!!? どうしてだ、効いていないのか!? 何故だ、まだ聖剣は降り注いでいる!! 当たっているはずだ、確実に!!! あ、足が……足が、動かない……! ど、どうしたことだ、視界が、揺らぐ……。目眩が…………?! いかん、あの地獄の槍には毒が、あったのか……? 


『おいクソ野郎~? さっきは大したことないとかおまけとか、よくも散々言ってくれたなぁ~?? サリーちゃんす~~っごい傷ついた~~。あ、もう聞こえてないかっ!』


 ピンク、女ァ……! 一切攻撃してきていないくせに、ぬけぬけと、勝ち誇ったような面をしやがって……!! ごぁ……ぐぉ……!!?


「ぐぉぉおおおおお……!!!」

『これ、痛い? 血がドバドバ出てて痛そ~♡ お前、まだ気が付かないの?』

「な、ひが……な、ん、ぉ……」


 痛みで、意識が、飛ぶ――――傷を、あのデカい杭のようなもので、抉られ、て……意識が――――。




◆ バビロニクス・路地裏 ◆




 ――――お、元の路地裏に戻った。


『【アンデッド憑依】を解除しました。【始祖吸血姫】状態が解除されました』

「わぁ……倒せちゃいましたね!」

「ティアちゃんのおかげでね~。サリーちゃんもありがとう、貴重な毒薬を使ってもらっちゃって……」

『いいのいいの~♡ それより、下位っぽい奴とは言えどもちゃんと神にも効くってわかった方が収穫だし~♡』


 こいつが私達を『大したことない連中』と最初から慢心して姿を現してくれたのが良かった。正直、最初からさっきのホーリージャッジメントを撃ってくるような容赦のかけらもないクソ野郎だったら絶対に負けてた。

 まず初手でピアリス、これが通らなかったらもう全て諦めてたけど、見事に直撃した上に効いた瞬間から勝利に近づいたね。あいつが撤退した瞬間にダメ元アンデッド憑依を発動してみたら、ティアちゃんの好感度が足りてて憑依可能だったので憑依。絶対に聖属性攻撃をしてくるって張って、反属性化を発動して自分の属性を聖にして構えてたのが当たったのも大きいね。更にサリーちゃんをおまけと考えて脅威を私だけって絞ったのもラッキー。サリーちゃんが毒撒き放題だったもんね、腕輪のカード効果で私に毒は効かないからってバンバン撒いて貰った。これで出血が止まらない状態と、回復阻害が発生した。

 そして壁の向こうに行こうともどこに行こうとも、あいつは出血が止まらないのが原因で私に位置が完璧にバレてる状態になった。ティアちゃんの吸血姫としてのそもそもの能力で、血の痕跡を辿る、その血の持ち主を探り当てることが出来る効果があったから、これで簡単に追跡出来た。ティアちゃんのランサーレインとカーススピアを組み合わせるとカースランサーレインになるの、これも強かったわ~……。

 最後は防戦一方でしびれを切らしたのかな、あんな当てずっぽうな聖剣攻撃……。実体系の攻撃じゃなかったから斬撃効果なかったのもラッキー。しかも反属性化のおかげなのかわからないけど、聖属性攻撃を吸収出来ちゃったから、じゃあもうピアリス撃ってやろうと思って。最後はサリーちゃんの毒粉を吸いすぎて毒状態が進行して、今こうやって完全に伸びちゃってる状態だね。丈夫な隔離空間は作れるくせに、本体が脆弱とは。不甲斐ないやつ。


『どうするぅ~?』

「魔神殿に突き出します。今、どん太達を呼びつけてるところです」

『さっきまですっごい殺意だったのにぃ、殺さないんだぁ~??』

「ここで殺すよりも更に壮絶な仕打ちが待ってると思って。楽しみです」

『うっわぁ~……♡ リンネちゃん、そんな顔しちゃうんだぁ~……素敵~……恋しちゃうかも♡』

「え、なんか凄い表情してました……? はずかし……」

「満面の笑みでした!」

「そ、そうなんだ」

『かなりオリジナリティ強めの満面の笑みだったわよ~♡』


 とりあえず、こいつは路地裏から引っ張り出すか。下手なことをしたら即殺で。あ、敵地に飛び込んできたんだから、もとから死ぬ覚悟はして来たんだろうし……一応、最悪の事態は想定して自爆装置とか自殺道具とか隠し持ってるかも。こいつの鎧引っ剥がすか。


「あ、あの。それよりサリーちゃん、こいつの鎧引っ剥がしましょう。自爆とか、自殺とかされたらつまらないんで」

『なるほど~?? 確かにこいつの鎧はかなり頑丈そうだし、研究材料になるかも~♡ おら、脱げ』

『蠍のサリーが【フルストリップ】を発動、ワルヘド(Lv,????)の装備が全て解除されました』

「あっ……そういえばそんなスキルが……」

『抵抗力の弱い相手にしか効かないけど。こんな感じで意識がないなら余裕~♡ うわ、何こいつ……キッショ』

「うわ……」


 うわぁ……脱がしたら脱がしたで、気持ち悪っ……。肩とか腹とかに目、目、目……。白い羽毛に包まれた肉塊に目がついてるだけみたいな、本物の天使じゃんこれ……。この天使、この全身鎧に体を押し込んで無理やり人の形をしてたのか。うわぁあああ気持ち悪いなぁ~…………。


『本物のバケモンだわ、これ。ナインズって言ったっけ? 後8匹は居るんじゃない、この化け物』

「これがまだいるんですか……。滅ぼさないと……」

『わうぅぅ~~ん!! ぎゃうぅぅうん!!? (来たよ~~!! わぁああなにそれ気持ち悪い!!?)』

「あ、どん太来た。これ、魔神殿までよろしく」


 どん太来たわ。持ってって貰お、触りたくないし……。


『ギャゥゥウウウウウウーーーーーー (やだよーーー気持ち悪いよーーーー)』

「今日のおやつ1.5倍」

『ガゥゥウウ!!! (2倍!!!)』

「1.75」

『ガゥゥウウ!!! (2倍!!!)』

「しょうがない……それで手を打とうじゃないのどん太くん。じゃ、よろしく」


 ふ、どん太め。甘いね……元々3倍で考えてたのを2倍で折れるとは、まだまだだね。じゃ、魔神殿までこれを連れて行こうっか、いやぁ~気持ち悪い~やばぁ~これ……。本来の見え方はこうだけど、他の人にはどう見えてんのこれ?


「結構、普通の男の人に見えますけど、気持ち悪いんですか?」

「あ、なるほど……」


 ティアちゃんには普通の男性に見えるのね。なるほど、これがフィルタリング無しの効果か……。確かに、運営に直訴すればフィルタリング直せる選択も出来るの、これなら頷けるわ……。あ~あ、早く引き渡してマカロン焼こっ! う~ん、相変わらず天使だのなんだのは、気分悪いわ~!!




『――――ワルヘドが負けるとは……』

『あれ程の実力者を、我らが来るまでに生け捕りに……』

『既に戦力が再集結している。奪還は不可能だ』

『この作戦は失敗だ』

『撤退しよう』

『撤退すべきだ』

『どう報告すべきなのだ……』

『戻るまでに考えねばならぬぞ』


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本作をご覧頂き誠にありがとうございます
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