225 外伝:調査報告書
◆ 自室 ◆
「今日も楽しかった……」
これはただの独り言、誰かに向かって言ったわけではない。向こう側と違って、此方側では誰かと楽しく過ごすということは殆どない。退屈で、窮屈で、つまらない毎日。VRダイブシステムから出て、いつもの寝間着に着替える。汚れ一つない、キレイにクリーニングされた寝間着……こういうのが、窮屈で仕方ない。
「…………明日は、火曜日か」
今日も学校はつまらなかった。そして明日もどうせつまらない。もはや行く意味などない気がするけど、面白いことだけをやり続けていたらいつしかそれが普通に変わって、何も感じなくなって、最後にはそれがつまらないものになってしまう。面白いものを面白いと感じるために、比較するために、つまらないことをするのも大事なことだろう……ん?
「調査、報告書……ああ、気になったから頼んでおいたアレか……」
調査報告書、村井に頼んでおいたヤツか。VRダイブ中だったから書き置きを残して黙っていったのか、アイツ。随分とスマートに仕事をするようになったじゃないか、前なんてダイブ中はずーーーっと待ってて起きるまで待ってて褒めて貰うのを楽しみにしている犬みたいなヤツだったんだけど。まあ30にもなれば落ち着くか。どれ、見てみるか……。
『調査報告:依頼にありました対象、全員の調査が完了致しましたことをご報告致します。以下が対象の情報になります。この報告書が原本であり、複製は御座いません。報告書は各担当者によって作成されましたので、多少様式のズレがあるかもしれませんが、いの一番での報告を命じられていたため――――』
ふぅん……最後の言い訳はどうでもいいとして。全員、全員か。よくこの短期間に揃えたな……。やるじゃない。さて、まずはこの人か…………。
・プレイヤーネーム【お昼寝大好き】
本名【小春猫里】、24歳女性。トゥイッター・Lunatubeでは【ねんねこ】の名前で活動している有名な配信者。北海道苫小牧――省略――在住で、都市開発計画の際に保有していた広大な土地を企業に買い取られ、その資金を元手にして機材を揃えて配信者になった。寝具メーカーや飲料メーカーなどの企業案件が多く、安眠グッズ紹介動画などの配信やASMR配信などで収益を上げている。同ギルドのプレイヤー【エリス・マーガレット】とは幼馴染で、最近エリスの本名が刻まれたエンゲージリングを購入した模様。更に今年の9月には結婚式を上げる予定を立てているようだ。
別のオンラインゲームでは――――
やっぱり、ねんねこがこの人か。予想通り、かな。要注意人物リストからは外しておこう。それと最後の方の……多分、上手くいくだろう。先にお祝いしとこうか、おめでとうございます。さて次は……。
・プレイヤーネーム【エリス・マーガレット】
本名【菊川ナンナ】、24歳女性。トゥイッター・Lunatubeでは【ノン】の名前で活動している有名な配信者。こちらが本業で、副業で美術モデルをしている。北海道苫小牧――省略――在住だが、亡き両親の借金が原因で非常に貧乏だった。死因は交通事故、その際に12歳の妹も亡くなってしまい、ナンナだけ生き残った。原因は父親の居眠りであるとされている。借金に関してはどうやら返済は完了したようだ。
最近は美術モデルで長時間同じ姿勢を保っているのが辛いらしく、小春猫里に連れられ病院のお世話になることも多いようだ。通っている病院の名前は――――
そんな過去があったのね……。これまで不幸だった分、これからは幸せに暮らしてほしい。要注意人物リストからは当然除外、上手くいくといいな。さて次は……。
・プレイヤーネーム【ハッゲ】
本名【佐竹秀夫】、34歳男性。住所は京都府――省略――。株式会社ロリポップクラッシュの社長、インテリアデザイナー・フードコーディネーターとして第一線で活躍している。年中仕事の依頼が入っているようだが、秀夫が認めた相手の依頼しか受けていないので、常に忙しいということはないようだ。バビロンオンラインのインテリアデザインを担当したようだが、詳細は不明。
数々のオンラインゲームを点々とし、主に対人戦で活躍――――
見覚えがあると思った、ロリクラの佐竹さんだったか。案外向こうも気がついているかもしれないが、気がついていたとしてもその話をして来ないのだからお互いに知らぬ顔を続けるべきか。要注意、次……。
・プレイヤーネーム【07XB785Y】
本名【Sharonov・Yuria】、25歳女性。住所は京都府――省略――。株式会社ロリポップクラッシュの従業員、ファッションデザイナーとして第一線で活躍している。ロシア系の日本人。主にGothic & Lolita社の依頼を受けている。バビロンオンラインのファッションデザインを一部担当したようだが、詳細は不明。過去に大規模な手術したという記録が見つかったが、そちらも詳細不明。
数々のオンラインゲームを点々とし、主に対人戦で活躍――――
日本人離れした顔してるなーとは思ってたけど、なるほど。実際に会ったことはないけど、この人が作っていたのか。個人的に気になって知りたかった情報だったから、もやっとしたのが晴れた気分だ。一応注意人物っと、さて次……。
・プレイヤーネーム【レイジ】
本名は不明、名前が【翔吾】であることは突き止めた。年齢も不明、男性であることは間違いないようだ。大阪に住んでいるとされているが、実際の住所は空き地であった。各企業のデータベースで調べても何も出てこなかった。
調査中に何度も見失い、深追いした中野大悟と佐藤茂が消えた。これ以上の調査は危険であると判断し、調査を断念。
あ~…………こりゃあ、思わぬところからヤバイのが出てきたわ。興味本位で調査対象を増やすんじゃなかった。この報告書は今すぐ完全抹消だわ、知らぬが仏……。完全に焼けて灰になるまで燃やすのが一番。見なかったことにしよう……心の中で危険人物としてチェックしておこう……次。ん? これはだいぶ前に頼んでたやつじゃないか。
・プレイヤーネーム【ペルセウス】
本名【七瀬真弓】、16歳女性。お察しの通り、あの七瀬財閥の一人娘で間違いありません。住所は東京都――省略――。詳しい業務内容は公開資料の通りですが、我が組とも一部取引が御座います。概ね良好な関係を築いていますが、今ひとつ進展があれば更なる組の発展につながると思われます。こちらは、営業担当の者が数年前からアプローチを仕掛けております。
――数年前からアプローチ仕掛けてこのザマか。
驚くことに学校に通っていました。私立鹿鳴寺学園の1年1組、あのお坊ちゃまお嬢様学校で名高い場所です。
公開資料に関しましては、別紙を同封させて頂きました。ご興味がありましたら、ご確認ください。
公開資料なんて付けなくても何やってるかぐらい知ってんだよ、まあいい……。それにしても、私立鹿鳴寺学園か…………。ん? もう一人分あるな、頼んでない奴のまで入れやがって……誰のだ?
・プレイヤーネーム【リンネ】
こちらはリストにはありませんでしたが、七瀬真弓の調査中に非常に気になった人物の資料です。本名は【竜胆天音】、16歳女性。私立鹿鳴寺学園に通っている七瀬真弓のクラスメイトで、非常に仲がよろしいようです。
――お、リンネちゃんのだ……。ギルドに入ってから存在を知った上、一般人だと思ってたから調べる必要もないと思ってリストに入れてなかったな。気になってたけど、お昼寝さん達やハッゲさん達みたいな『見覚えのある人物』じゃなかったから、あいつらを動かしてまで調べるものじゃないと思って止めておいたんだった……へえ、気が利くじゃない。
住所は東京都――省略――。配達業者に扮装して小型ドローンを室内に忍び込ませて内部を調査しましたが、最新鋭のVRダイブマシンを保有しており、調査の結果Gothic & Lolita社の懸賞の品であることがわかりました。高校生の一人暮らしにしては非常に豪華、最新鋭の家電に高級な家具が多く並んでおり、それらを用意したのは七瀬真弓だと判明しました。非常に可愛がられているのは明白です。現在ドローンは回収済みです。
その後、どのような人物なのかと過去の追跡調査を行いましたが、何一つ正確な情報が得られませんでした。過去に関する情報が巧妙に隠蔽されている箇所もありました。レイジこと翔吾に次ぐ謎な人物です。七瀬真弓の固執具合からして相当な重要人物であり、思わぬ爆弾である可能性があります。接近の際は十分に注意してください。
「全然一般人じゃなかった、リンネちゃん……ふ、ふふ……」
――決めた。来週、来週までに行動しよう。先程、面白いものを楽しむ為につまらないものも必要だと言ったが前言撤回、四六時中面白い生活のほうがいいに決まってる…………いるな、アイツ。
「……おい、村井。来たならさっさと入れ」
「は、はい!! 申し訳ありません、お嬢様! 失礼しま、あっっっ……!!?」
ったく、書き置きしたからもう帰ったのかと思ったら、結局VRダイブシステムから出てくるのを待ってたのかこいつ。30になっても落ち着きのない犬っころで困る。
「報告書、早かったな。よく調べた、褒めてやる」
「ありがとうございますっ!!! ありがとうございますっ!!!」
「それでだが、来週までに東京に越す。こちらの荷物は万が一があってはことだ、持っていかない。向こうで新調するからいいのを揃えろ」
「は、はっ!! あの、ど、どちらに……?」
「この報告書、お前も目を通してるだろ? じゃあ決まってるだろ」
「と、と……言いますと……!?」
まあまあ優秀なヤツだが、今ひとつ察しが悪いなあ村井は……。緊張で頭が回らないってのもあるか? 仕方ないやつだ。
「私立鹿鳴寺学園、七瀬の一人娘のところに行くんだよ。それに、向こうに行けば親父の気味の悪い猫なで声を聞かなくて済むようになるだろ? 嫌なんだよ『かわいいでちゅね~~』とか『パパがお土産を買ってきまちたよ~~』とか、あれキツイ」
「は、はぁ……!」
「転校の手続きの方はなんとかする。お前はとりあえずこの部屋にあるのと同じもの、または同等のを揃えろ。引越し先はこの竜胆天音の住んでいる場所の近くがいい」
「わかりました! た、直ちに買い揃えに行って――」
「アホか? 今何時だと思ってんだ? それに来週までにって言っただろ? 今日は帰って寝ろ」
「は、はい! ありがとうございました! 失礼します!」
何に対するありがとうなんだよ。はあ……。
「…………一般人のフリをすると吃る癖、治るかな……」
さて、どう接触するべきか……。あの二人は仲が良い、それも多分七瀬の娘のほうはガチだ。将来リンネちゃんとくっつく、いや今すぐにでもくっつくことを毎日考えてるレベルだ。あれの邪魔をした途端、破滅しかない。間に入らないように、上手いことお友達として落ち着くポジションに…………入れるか? 心配だな……。
「寝るか……あ?」
あ……? しまった、寝間着姿のままだった!! 村井のやつ、だから『ありがとうございました』だったのか、かああああああ~~~!!! わっちのこんな姿を、見せることになるなんてぇえええ……!!! 仕方ない、わっちのミスだ!! 幸い、まだ恥ずかしくない格好だった! 言っても、ナイトブラを見られた程度だろ――――ヤバイ、恥ずかしくなってきた。
「寝れるかな……」
おのれ~村井め……。今度、何気なく恥ずかしい感じのポカを誘発させて恥をかかせてやる……!!! くぅぅっ……!!
21件目のレビューを頂きました。本当にありがとうございます。これからのどうぞ宜しくお願い致します。





