221 Welcome! HELL PARTY・17
◆ 第四階層・準備エリア ◆
『死亡していたパーティメンバーが全員復活しました』
『全ステータス異常が解除されました』
『報酬は次階層の結果で変動致します』
報酬は次階層の結果で変動、かあ……。これで魔王フリオニール戦に進もうものならごっそり減らされるんだろうなぁ、報酬……。いやでも勝てる気しないんだけど、本気のカヨコさん。
「……宝箱、ないんですか?」
「本気のカヨコさんの方に行かないと貰えないみたい」
『(;´∀`)!?』
「負けたのがよっぽど悔しかったのか、それともアレはそもそも……」
『くぅ~ん……』
「くぅ~ん……」
「ちよちよ様、どん太さん、元気だして……っ!」
「死んだ組がくぅんくぅん言ってますね~」
「おお、見事にイヌ科がやられたのか。まああれは初見で避けようがないし、完全にあのカヨコさんの作戦通りにやられたやつだから、仕方ないよ」
『くぅ~ん……』
「くぅ~~ん……」
すまないねイヌ科、今君たちを慰めるのになでなでは出来ないんだ。なんせ今私はティアちゃんを後ろからハグしてなでなでしているからね。今回の影のMVPだぞ。ちらっと後ろから横顔を覗き込むだけでもわかるぐらい、照れて顔真っ赤になってるのが可愛いわ。癒やし。
「間違いなく全て出しきってつかんだ勝利よ。むしろ勝ったほうが凄いことなんだし、全滅して当たり前ぐらいの差があったんだから。これでやられて落ち込んでる方が傲慢ってもんよ」
「確かに、そうですね! 私なんて迂闊に術を使ったら100倍になって返ってきそうで何も出来ませんでしたし!」
『(´・ω・`)』
『わぅぅ~~……』
「チームワークの良さに付け込んできたのは驚いたな。対応の幅が広い」
「そうで御座いますね……。勝ったことを、喜ぶべきで御座いますね」
「あっ」
「あ、まだ撫でてて欲しかった? しょうがないなぁ~~」
「えっへへ……」
撫でるのやめようとしたら『あっ』って言ってしょんぼりするの卑怯じゃない? 可愛すぎるが?
「とりあえず、本気のカヨコさんに挨拶しに行って死のうか~」
「えっ」
「そりゃそうでしょ。ここで魔おにーちゃんの方に行ったらカヨコさんガックリ来て、ため息を吐き続ける妖怪になっちゃうぞ」
『(;´∀`)』
「そうだな。ここまで来たら、行くべきだろう」
とりあえず準備とかは――――いいや。パーマネンス一時解除して色々バフが焚けるんだから、逆にデバフだって出来るだろうし。何をどれだけ準備していっても無駄よ。あの沼地でのカヨコさんが相手なんでしょ? 超越あり、神術ありの状態の。開幕5秒以内に全滅の未来しか見えないわ。
「ま、行こう行こう。上を見に来たつもりが、天井突き抜けて天辺に近いところをみることになったのは予想外だけど、本当に貴重な体験になるだろうから」
それじゃ、覚悟を決めて挨拶しに行きましょうか~。ガチ状態のカヨコさんの待つ、神々の戦場に……!
◆ 神々の戦場 ◆
――――見渡す限りの荒れ果てた荒野、一部がガラス化した大地に、空には不気味なほどに紅い満月。何もかもが死滅したようなそんな世界に、その人は居た。
『やはり、思った通り。私の分体を討ち破ったのは貴方達でしたか』
いつもとは、あまりにも違いすぎるその人の姿に、声が出なかった…………誰も。誰も声を出すことが出来なかった。
『とても素晴らしい、その一言に尽きますね。正直この分体であっても私は貴方達にはまだ負けないと思っていました。その予想は裏切られましたね、とてもいい意味で』
「ぇ……ぁ……」
『どうぞ、いつものようにリラックスなさってください。少しお話をしましょう、聞きたいことがあるのです』
「は、はっ、はい……!!!」
そんな何もない荒野で、その人は指をパチンと鳴らす。瞬き一つするかしないか、そんな一瞬の間に目の前には丸いテーブルと七つの椅子と大きな絨毯が並び、先に座って私達に対して『さあ、どうぞ』と座るように促し、ミステリアスな笑みを浮かべて手招きしている。
『どうぞ、お茶でも飲みながら…………。それでは、改めて自己紹介をしましょう。カーミラ・ヨハンナ・コーディリア、串刺し伯爵と呼ばれ恐れられた怪物である父を殺し、食らい、自らも吸血鬼となった魔術師。それが私です……話を聞く前に、少し私の話をさせてくださいね』
「あっ、ぇ……っと」
いきなり、私しか知らなかった話を全員に打ち明ける。大きく反応したのはリアちゃんとおにーちゃん。他の子達は特に反応しない、ティアちゃんは頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるような顔をしてる。
『暫くの間、私は絶大な力を得たことに浮かれていました。勝てない相手など存在しないと、あらゆるものを殺し、あらゆるものを食らいました。しかし当然、勝てない相手は存在しました……それが、双子の魔術師。名を、フォルトゥナとテュケー。ああ、勘違いしないでくださいね? 勝てもしませんでしたが、負けることもありませんでしたよ』
「フォル、トゥナ……テュケー……」
『…………!』
『毎日毎日、この荒野で彼女達と戦いました。腕を飛ばし足をもぎ取り、心の臓を貫いて頭を潰してもなお再生する。恥ずかしながら戦い続ける内に、お互いに人の領域から外れてしまって。そうしたらなんだか次第に楽しくなってしまって、気がつけば最終的にはここでこうしてテーブルを囲んでお茶をする間柄になっていましたよ。とても楽しい毎日でした……』
その、フォルトゥナとテュケーが、どうして今……剣と、盾の姿に……。
『――――その2人が、瀕死の状態でここに転がっているのを見つける日までは』
「……!!」
『…………』
そんな、カヨコさんでも倒しきれない2人を、誰が……。
『私と仲良くしているのを、気に入らない女神が居たのですよ。聞けば、これは天罰であると…………。色々な感情が膨れ上がって、気が狂いそうでした……。敵ではありましたがしかし、友でもありました。そんな2人の最期の願いは、継承と解放。私は2人の神性を受け継ぎ、体に合わず取り込めなかったものは器に収めました。それがフリオニール、あなたの持つ表裏一体の神器です』
なんて、そんな…………! ああ、あんまり過ぎる……そんなの……。
『…………』
『そして解放……解放とは、天からの解放のことです。あの2人の魂が天に再び繋ぎ止められるのを防ぐため、私は冥界の門を無理矢理こじ開けて2人を冥界へ送りました。その時の無理が原因で私は力を一時的に失い、再び力を取り戻す日を待ちながら魔術の知識も更に増やそうと思って、ルテオラの魔術師団に身を置くことにしたのです』
「そう、だったんですね……」
『力を失ったとは言え、普通の人間からすれば怪物並の力は持っていたようで、少し目立ってしまって副師団長になってしまったのは誤算でしたね』
「あ、ああ……なるほど、それで……」
副師団長になってたのは、それが原因だったんですね……。
『それから暫く、何百年か経って……懐かしい何かを感じたのです。一瞬だけ、気のせいかと思ったのですが、どうにも日に日にその気配は大きくなって……。居ても立っても居られなくなって飛び出した先で見つけたのが、寒空の下で倒れていた双子の姉妹でした。顔を見ただけでわかりましたよ、ああ……あの二人の生まれ変わりだ、と。しかし残念ながら、二人はすでに冷たくなってしまっていて……魂も既に肉体を離れた後で……。しかし、二人で大事そうに抱えていた籠の中の赤ん坊は無事だったのです。それが貴方…………フリオニール、貴方です』
『!!!!!』
え、じゃあ、おにーちゃんは、フォルトゥナとテュケーの生まれ変わりの、どっちかの子供って……こと?! いや、二人に抱えられていただけでそうとは限らないかもしれないけど……。
『あら、お茶が冷めてしまいましたね』
「う、え……あ、そう、ですね……あ! い、頂きます!」
『長話で冷めてしまって、ごめんなさいね』
「い、いえ! あ、美味し……!」
「いた、だきますっ」
「此方も……有り難く……」
重要なところ、聞きづらくなっちゃった!!! うーん、でも……これ以上は喋る気はないって感じ、だよね。おにーちゃんも色々聞きたいだろうに、う~~~~ん…………。
『では、今度はリンネさんからお話を聞かせて貰いましょうか』
「えっ!? え、げほっげほ!!!」
『あらあら、ごめんなさい。落ち着いたらで構いませんから、どうやって超越に辿り着いたか、古代神術を使えるようになったきっかけは? この前までリンネさんの全てが見えたのに、今は微かに見えるだけでハッキリとは見えない……超越、したでしょう?』
そ、そこまでバレてるんですかぁーーー!!!? ど、どうしよう……誠実に答えたほうがいいのかな……。カヨコさんに、嘘つきたくないし……いやでも……うぅ~~…………。
「カ、カヨコさんの、沼地で見せて貰った文字とか、色々なのをツギハギして翻訳して、使えるように……なっちゃいました……」
『ブラックホールは見せた覚えがありませんが?』
「バビロンちゃんのを、見様見真似で……」
『…………ふ、ふふっ……!!! 見様見真似で!!! 古代神術が!!! あっはははははは!!!!!』
う、うわ……すっごい、髪からマナが溢れてるっていうか、ぼわあああって広がって、こ、怖ぁ……!!
『はぁ~~…………。ずっと、この力に悩み続けていました。あまりにも強大で、あまりにも恐ろしい。人間の真似事をして過ごしている日々は楽しいものでしたよ、まるでおままごと遊びのようで。自分が化け物だということを忘れて過ごせて、とても楽しかった…………でも、ふとした瞬間に思い出すのです。自分はどうしようもなく化け物で、その気になれば国の一つや二つ簡単に消し去ることが出来る程の力を持っていることを…………リンネさん。最後に一つだけ、聞かせて貰えますか?』
なん、だろう……?
『貴方は周囲の誰よりも強くなるのが、怖くはありませんか?』
ん…………なんだ、それなら――。
「怖くありません。むしろ、力が足りずに大切なものを失うほうが、ずっと怖いです」
私の答えは、これしかないよ。
『…………ありがとう、リンネさん。それとこれは、私からのお願いなのですが……』
「はい……?」
お、今度は……お願い? なんでしょうか、私に出来ることなら、なんでも!
『私の、お友達になってくださいませんか?』
「はい!? え、はい!」
『……っ。ふふっ……ありがとう、リンネさん』
『【カーミラ・ヨハンナ・コーディリアとの契】を結びました』
「ど、どう、致しまして……? え、よろしくお願いします、じゃないですか?」
『あら、そうですね。よろしくお願いします、ですね……ふふふっ』
『(*´∀`*)』
お、お友達!! それぐらいなら、ええ! 是非!! おお、なんか契を結んだとかログも出た……。あ、おにーちゃんと騎士の誓いとかのときもこんなログが出たなぁ~そういえば……。
『極地獄パーティ第四階層を特殊クリアしました。おめでとうございます』
『極化地獄パーティをクリアしました!!! おめでとうございます!!! この栄光を称え、追加の報酬が発生します!!!』
『階層から退出時、報酬エリアに移動します』
え、ええええええ!!!?? これで、これでクリア!? これでクリアでいいの!? 嘘、戦闘しなくてもいいの!?
『では、お友達になったことですし……』
「は、はい……!」
お友達に、なったことですし…………?
『――――これからは遠慮なく、全力を出しても構いませんね』
「え?」
――――え゛???
『◆◆◆◆◆・◆◆◆◆◆』
『フレンドメッセージ:吸血神姫カーミラ(Lv,999)が【専用古代神術:満月の女王】を発動、【全悪性状態異常無効】【自己再生・超極大】【魔力吸収・超極大】【ダメージ吸収:10M以下】【全攻撃力上昇+200%】【被ダメージ半減】【多重詠唱】【トラップスルー:∞】【ハイパーマネンス】【全ステータス+2,500】になりました』
あ、死んだ。
「戦闘態勢!!!!!」
「!!!」
『姫千代が【紫電脚】を発動、MISS……。対象が存在しません』
『姫千代さん、体にもっと靭やかさがあれば避けられる攻撃も多いはず。努力なさってください』
『吸血神姫カーミラ(Lv,999)が【デス・バイ・ドレイン】を発動、姫千代が生命力を奪われ死亡しました』
わ、え、そんな眠るように……ちょっと肩を触られただけでこれ? え、嘘でしょ――――!
「にゃ、にゃんだ――む、ぐっ!?」
『オーレリアさん、リンネさんは異常なので真似しろと言うのは酷ですが、超越を視野に入れねば壁に当たるでしょう』
『吸血神姫カーミラ(Lv,999)が【デス・バイ・ドレイン】を発動、オーレリアが生命力を奪われ死亡しました』
『どん太が【超究極魔狼拳】を発動、FAILED……。吸血神姫カーミラ(Lv,999)が9,750Kダメージを吸収しました』
『わ、わうっ……!?』
『素晴らしい威力ですどん太君。速度は十分、威力と精度を磨くことですね』
『吸血神姫カーミラ(Lv,999)が【シュート・ザ・ムーン・アッパー】を発動、どん太が??,???Kダメージを受け、死亡しました』
『おや、少し力を入れすぎました』
あぁ……。これ、あれだわ。お友達になったから遠慮なく、お友達の成長を応援してくれるようになったやつだわ……。
『ティア、槍を構えなさい』
「ぁ、ぁ……!」
『こんなに震えて怯えて……。貴方が今までして来たのは狩り、これからは戦闘をしなければなりません。一方的に命を奪う狩りではなく、命のやり取り……。死ぬのは怖いでしょう? ですが、吸血鬼が死を恐れてはいけませんよ。我々は死を超越した存在、乗り越えねばならないのです』
『吸血神姫カーミラ(Lv,999)が【デス・バイ・ドレイン】を発動、ティアラが生命力を奪われ死亡しました』
「……どう、する。さっきの宝箱の爆薬、爆弾にしたんだが」
『ん~……。これでは威力不足ですね。物体のみの破壊力の天井は知れています。昔会ったことのある――――いえ、ここからは貴方が自分で発見しなければなりませんね』
『吸血神姫カーミラ(Lv,999)が【デス・バイ・ドレイン】を発動、マリアンヌが生命力を奪われ死亡しました』
んんんんん~~~~皆次々と倒れていくんだけどね! 困った、何をどうするとかこうするとかないから、死ぬしかないわ!!
『(ヽ´ω`)』
『今の限界を見せてください、フリオニール』
『フリオニールがSPブレイク! 真覚醒スキル【魔光消滅波】を発動、滅びの魔剣が汎ゆる敵を討ち滅ぼします!!!』
『吸血神姫カーミラ(Lv,999)が5,280Kダメージを受けました。追加効果は無効化されました』
『指が二か三本程千切れましたね。後は、モンスターを倒して吸収して強くなることでしょうか、貴方は生前から言う事なしですから……。強いて言えば、盾はもう一枚あったほうが宜しいのでは?』
『(;´∀`)…………』
『吸血神姫カーミラ(Lv,999)が【デス・バイ・ドレイン】を発動、フリオニールが生命力を奪われ死亡しました』
すごい! おにーちゃんダメージ与えた! ひゃくてんまんてん!!!!! えらい!!! 今度もう一枚、強い盾作ってあげるからね……。
『リンネさん』
「ハイ」
『教えてあげません』
「はい!? え、嘘、私だけなんにもなしなんですか!?」
『秘密です。あ、そういえばこのクッキー、ローレイの魔神殿のギルドルームから持ってきてしまいました。美味しいですね、また焼いてください』
「え……はい……」
『では、お出口はあちらですから。私はここで一人でお茶をしてから帰ります…………さようなら』
「さ、よう、なら……」
私だけ、何もなし……。秘密……。クッキー、また焼いておこ……。え、ありがとうございました、さようなら……。えっ、また……。えっ……。
――――えっ。
『転送』





