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211 ログイン13日目 ~重大な問題~

◆ 竜胆天音、私立鹿鳴寺学園【1-1教室】 ◆


「はい、あ~んして。ログインしてこなかった真弓ちゃん」

「あ、あ~……むぐっ……」

「美味しいですか? ログインしてこなかった真弓ちゃん」

「おいひぃれしゅ……」

「もう一つ食べますよね? ログインしてこなかった真弓ちゃん」

「ひゃぃ……」


 そう、私は今朝になって思い出してしまったのだ。真弓が『バビロンオンラインで待ってる』とか言ってたくせにログインしてこなかったということを。きっと帰ってから忙しかったんでしょう、私に一言メッセージを入れられないぐらいに。帰ってから忙しく働いた真弓はきっと疲れているだろうと思って、体力が戻るように美味しいものを沢山作ってお弁当に詰め込んできました。ほら、真弓のへにょんとしたドリルも少し元気を取り戻したように見えるでしょう? 私にはそう見えますね。


「あ、あーちゃん、あのね、これには深い訳ぐぅ……むぐぉ……」

「どうして今日はお弁当作って持ってくるんですか? ログインしてこなかった真弓ちゃん。月曜日に一回も持ってきたことなかったよね? どうしてなんですか~?」

「んぐぐぐ……」


 月曜日は一回もお弁当持ってきたことなかったのに、今日に限ってなんで持ってきてるのかなこのお嬢様……『今日は作ってきましたのよ!』じゃないんだよ、作ってくんな。しかも自分で作ったならまだしも、作らせたやつだし。このっ……このっ……!!


「飲み込むのが遅くなってきましたね、ログインしてこなかった上にお弁当を作らせて持ってきた真弓ちゃん」

「あーひゃぁぁん……もう、許ひて欲ひいでしゅわ~……!! もう、食べられましぇんわぁ……!!」

「…………真弓が悪いんだよ」

「あ~~ひゃぁぁぁぁんぐっ…………」


 はぁ~……。しょうがない、食べれないっていうんじゃ残りは私が食べるかぁ……。真弓のお弁当は、なんか高そうなのばっかりだなぁ~。栄養バランスとかは考えられて作られてるんだろうけど、金銭的なバランスは全く考えてなさそうなお弁当だよね。真弓のリクエストで『普通の高校生のお弁当』を作らせてるみたいだけど、どう見ても庶民が食べる類いのものじゃないよ。庶民はね、お昼には自然解凍されて美味しく食べられる冷凍食品とか、冷めても美味しいシリーズとかをレンジでチンして詰め込むんだよ。なんでステーキとか入ってんの? うわ、めっちゃ柔らかいし。しかもなんか温かいし。この容器ってもしかしてアレか? お昼の時間になると中の食材を温めて美味しく食べれるお弁当箱か? 弁当箱すら庶民の使うやつじゃないんですけど。


「はぁ……。頂きます」

「あ~ひゃんっ!? そ、そのおはひ、か、かんしぇ――――むぐっ……」

「食べながら喋らない」


 物が口に入ってるのに喋らないの。ちゃんとお口を閉じて、もぐもぐ食べなさいもぐもぐと! まったくもう、机をバンバンもしない!!!


「机も叩かないの、ジッとして食べてよね。ゲーム内だけじゃなくてリアルでも落ち着きがなくなって来たね?」

「んひゅぅ……!」

「第一、おにーちゃんと特訓したんじゃなかったの? なんですかあの沼地での暴走っぷりは、考えなしに突っ込みすぎ。まっすぐ行って効かないってわかったらゴリ押しせずに攻撃を通す方法を考えるべきだし、誰かと連携を取るべきじゃない? ねえねえ~~」

「んぐぅぅ…………」


 へにょりドリルがへにょへにょドリルになったな……。いっそのこと、髪下ろした方がいいのに。真弓のプール上がりの姿とか、あまりにも美少女過ぎて誰この子状態だからね? 胸がきゅぅぅぅっとするよ? まあたまに見れる姿だからそうなのかもしれないけど。


「真弓もヘルホエール号ソロでやるべき。うちのどん太はソロで倒したからね?」

「ん、っぐ……! ほ、本当ですの!?」

「本当。しかも辛勝じゃなくて圧勝。私もやり方次第では多分勝てるかも」

「えっ」

「ところで、そのステーキちょうだい」

「!!! いいですわよっ!!! さあ、召し上がって!? はい、あ~~ん! あ~~~ん!!!」


 あ~…………ああ。なるほど、なるほどね。真弓、作ってきたお弁当を私に食べさせるっていう行為がしたかったのね。なんという喜び様よ……。まったくもう、しょうがないお嬢様だなぁ……。


「んっ…………」

「あーちゃん、美味しい? 美味しい??」

「んっ……美味しいよ」

「これも、昨晩食べて美味しかったのですわ! はい、はいっ!!」

「はいはい。あ~ん」

「ん~~~~~ッッ♡」


 私と一緒に居るの、そんなに楽しいのかな。私は楽しいけど……。でも私ってこのままじゃ将来的に真弓の足を引っ張る枷にしかならないわけで、こうやっていられるのも高校生の内だけだよね。今どき大学なんて行く人居ないだろうし、行っても『社会人になりたくない奴の苦肉の策』とか言われてるし……。何もかもがAIの超高度化によって昔と変わったもんね、農業も工業も商業も何もかも。昔と比べて人口も減ったしね、全世界で。


「…………」

「あ、ら…………? あーちゃん……?」

「え? ああ、なんでもない。で? 真弓は昨日何してたの?」

「!! そう、聞いて欲しいのですわ! わたくしが昨日戻った時の話なのですけれど――――」


 AIは2020年代前半辺りから活性化したんだっけ、当初は質問に対してトンチンカンな内容の応答しか出来なかったけど、それでも物珍しさから莫大な利用者集まったお陰で年々改良が進みに進んで、徐々に人がやっていた大変な仕事を補助する道具になっていったんだったね。

 導入されて特に変わったのが飲食関係。入店退店の受付処理、注文処理、料理の配膳、食器類の洗浄、在庫管理、収支記録管理、清掃、その他…………。段々と人間のやる仕事が減っていって、2030年代には完全無人の飲食店が試験的に運営されたり、後々の無人飲食施設の形態に繋がる基礎が築かれていったとか。

 それが今では『機械が作る安定品質のいつもの簡単な食事』と『人間が作るから品質は安定しないものの、温かみのある味』とで、食事に何を求めるかで飲食店は傾向が分かれた。他の業種でも同じような事が起きて、結局人間が完全にやらなくなった仕事っていうのはほぼなかった。特に、昨日行ったアミューズメント施設がそう。人間独特の温かさを求める業種に関してはAIがあまり浸透しなかった。

 だからこそ、今の世の中では『何が出来る人間なのか』が求められる。無個性、平々凡々な能力ではAIに取って代わられる……AIにない力が求められる社会になった。昔に比べて生産関係も安定して、生活レベルも格段に向上した代わりに、より良い生活を望むと途端に立ち塞がる壁が高くなった。

 私は、真弓が居る世界に辿り着く為に、この壁を乗り越えられるだろうか。私は、リアルでは特別な能力なんて持ってない。真弓に飽きられたら、捨てられたら、どうにもならない。もしかしたら――――。


「…………天音さん?」

「あ……? あ、ごめん……」

「熱は、ないようですわね……」

「真弓じゃあるまいし、大丈夫だよ。ごめんね、ちょっと考え事してたの」

「そう、ですの? わたくしで良ければ、いつでも仰って? 何でも相談に乗りますわ!」

「ん、ありがと……。でも、これは私がどうにかしなきゃいけない問題だから。ありがとうね。それより、続き聞かせてよ」

「ん……。じゃあ、ええと……どこまで話したかしら?」

「人類開放団体とか言う連中が襲撃して来た辺り?」

「そんな団体居ませんわよ!? 絶対聞いてませんでしたわね!?」

「ごめんごめん。じゃあ、最初から!」

「んもうっ!!! じゃあ、最初からですわ! わたくしが昨日帰った後の話ですわね!!」


 おっとおっと、真弓の話を全然聞いてなかった。危ない危ない、ちゃんと聞いておかないとね! 




◆ 自宅・真弓視点 ◆




 天音さんの記憶が、朧気ながら戻っている気がする。


「黒田、天音さんの高精度スキャンのデータ」

「はい、お嬢様。こちらになります……それと、天音様はもうログインなさっているようです」

「は、早いですわね……」


 天音さんが使っているVRダイブシステムには、天音さんの状態をリアルタイムで検査出来るシステムが搭載してある。もちろん、天音さんには内緒で。天音さんに何か異常があれば、いつもと変わったデータが確認されたらすぐにわたくしに通知されるようになっている。

 最近、天音さんの脳波データは非常に活発。最も活発なタイミングとわたくしが一緒のタイミングを照らし合わせて検証した結果、天音さんが何かを考えてぼーっとして居る時が最も活発というデータが出た。そう、今日わたくしがお腹いっぱいになるまでお弁当を詰め込まれていた後の、あの時のような状態。


「…………あの雪山のことを、思い出しているのかもしれませんわ」

「あの雪山、ですか…………」

「自分で解決しなければならない問題、と言っていましたわ。わたくしには相談できないような、重大な問題」

「…………」


 天音さんは、わたくしを庇って記憶を失った。その時のことを思い出しているのかもしれない……。もしかしたら、完璧に思い出しているのかも……。最近、天音さんは見違えるほどに社交的になった。最初期なんて、知らない人に話しかけられたら最悪過呼吸、誰からか見られることを恐れ、目線が合ったら震える程だった。絶対にこの先、このままでは天音さんは生きていけないと思えるほど酷かった。それが、今ではある程度喋れる上に一言二言会話して害のない相手だとわかると、普通に喋れるようになっている。

 間違いなく、記憶が戻っている。一部か完全かはわからない、99パーセント以上の確率で一部だとは思うけれど、本当に極薄い確率だけれど……完全に戻っていて、隠しているかも。


「直接聞く以外、ないのでは……ないでしょうか」

「万が一に記憶が戻りかけ、まだ完全につながっていない状態だとして。急激に記憶を取り戻した時、ショック症状によって酷いパニック状態になるかもしれないと、あの医師は言っていましたわ。わたくしは、天音さんが打ち明けてくださるのを待つしか、ないの」

「それでは、お嬢様が……あまりにも……」

「これは、罰なのよ」

「お嬢様…………」

「その結果、行き着く先が例え天音さんからの拒絶という絶望だったとしても、わたくしは天音さんを生涯支援し続けますわ」

「…………お嬢様は、天音様を、その……」


 天音さんが打ち明けてくれるまで、わたくしは待ちたい。それまでは、今は、わたくしの一番大好きなあーちゃんとして、たった一人の大親友として、まだ一緒に居て欲しい……。この関係が壊れて欲しくない……――――ああ、わたくしって……そう、なのね……わたくし……。


「これからも、定期的にチェックを続けて頂戴。今日はもう、いいわ」

「……はい、お嬢様。失礼、致します」


 ――――このもやもやを、暴れて解決しませんと。どうにか、なってしまいそうですわ。



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